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先任者の記憶
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そう長々と嘆いても仕方がない。気を取り直して頭の中に現れた大量の情報を見て、そのあまりの膨大さに驚いた。
この身体はもう、元の『小沼敦』ではなく、『アーサー』という少年であることは既にわかっていた。今度はその『アーサー少年の記憶』を大雑把に見る。
この世界は魔法ありきな世界で、』アーサー』はどうやら貴族の子息で20歳。それなりに幸せな日々を過ごしていたが、二日前に旅行の途中で意味不明にこの場所に転送されてしまった。
その後に『コスプレイヤー』アルダスの実験室に送られ、凄惨な実験台生涯を始めた。
アーサーが生活している世界には人族、エルフ族、ドワーフ族などの種族が存在し、今いるこの場所は伝説に書かれいる魔界の可能性が高い。
(ていうか、それ以外に考えられないし)
魔族は強い力をもった種族、大昔の戦争で人族の連合軍に負けて劣悪な環境の『深淵世界』に追い込まれた。その入り口も強大な力で作られた結界に封印された。
それでも、魔族は一度たりとも『主世界』を奪い返すことを諦めてはいなかった。差異はあれど、約500年ごとに入り口の結界が弱まることはわかった。それは即ち双方の大戦の合図でもある。
しかし、魔族も小沼と同じくらい凄惨な結果にしか至っていなかった。歴史上では一度たりとも人族に勝利したことはない。
アーサーの記憶の中にある魔族についての知識はここまでである。実は人族側も剣で河川を断ち、拳で山脈を穿つ今日もそう乏しくはない。少なくとも魔族の攻勢を押し返すことはできたのだから。
但し、このアーサーって奴は標準的なニートなのだ。剣術も格闘術も、魔術も召喚術も何一つできはしない。最大の特技は食っちゃ寝である。
もし『アーサーの魂』がまだこの身体に存在しているのなら、小沼は首根っこを掴んでこう叫んだのだろう。
(テメェはなんてクソ特技を持っとるんじゃ!!)
現状、こいつはもうアルダスのポーションから解放され、これからの全てに向き合わなければならないのは後任者である小沼だ。
なんの力もない人族、悪魔がそこら中にワサワサ歩いている世界でどうなるか?実験台になるのか?それとも食い物になるのか?
小沼は考えれば考える程怖くなった。あの時の『はい』を押してしまった自分を、可能ならケツを蹴り飛ばしてから海に沈めたかった。
心の中ではそのクソッタレのスマホに向かって自分のボキャブラリーが許す限りの罵詈雑言を浴びせた。ここに辞書があれば血眼になってめくっていただろう。
しかし、残念ながら今更どんなに後悔したって小沼は時間遡行ができるようになる訳ではない。
それでも気が済まないのだろう。スマホを罵り続けた。
そこで彼は急に自分の右手にある見覚えのある『モノ』を目にした。その衝撃に暫く茫然自失としていたものの、我にかえった瞬間にそれを地下牢の壁に力一杯振り絞って投げつけた。
そう、彼の右手にあったのは『クソッタレのスマホ』である。
それは壁に衝突して砕け散っ………
……てはいなかった。
壁にぶつかる寸前、に急に姿を消した。そして再び小沼の右手の中に現れた。今回の茫然自失の時間はさっきよりも短かった。2回目だから耐性がついたのだろう。
そのお陰か、小沼は直ぐに冷静になった。
彼はこの世界では凄まじい程に弱い。
ラノベ、ネトゲ、ソシャゲ、掲示板なら手練れているけど、前世の彼は別に武術を嗜んでいた訳でも無ければ、何かの道で天才と呼ばれていた訳でもない。
こんな世界ではどうやって生きていけば良いのだろうか?
少しでも生存の可能性を高めるしかない。千分の一だろうと、万分の一だろうと、果ては億分の一だろうと掴めるものは命をかけて見つけ出して掴めなくてはいけない。
今できるそれとしては、目の前のこのスマホを解明すること以外にない。小沼はそう考えてホームボタンを押した。
スマホのホーム画面にあるアイコンは相変わらず寂しいものだった。画面の左上にポツンと一つのアイコンだけが存在し、なんとも異質である。
それなのに彼は驚いた。アイコン数は変わっていない、その絵柄が変わったのだ。
『解毒』と書かれているアイコンになっている。小沼はさっきポーションの効果によって苦しみ曖昧になっていた記憶を整理した。
確かにこれを『ダウンロード』するみたいなことをいう声を聞いたのだ。
(ならばこれがさっきの苦痛から自分を解き放ったのか?これによって悶え苦しみ、これによって解放されるとはなんともなぁ……)
ホッとしたって瞬間、彼に疲労が一気に押し寄せて、彼もまたそれに身を任せて眠りについた。
この身体はもう、元の『小沼敦』ではなく、『アーサー』という少年であることは既にわかっていた。今度はその『アーサー少年の記憶』を大雑把に見る。
この世界は魔法ありきな世界で、』アーサー』はどうやら貴族の子息で20歳。それなりに幸せな日々を過ごしていたが、二日前に旅行の途中で意味不明にこの場所に転送されてしまった。
その後に『コスプレイヤー』アルダスの実験室に送られ、凄惨な実験台生涯を始めた。
アーサーが生活している世界には人族、エルフ族、ドワーフ族などの種族が存在し、今いるこの場所は伝説に書かれいる魔界の可能性が高い。
(ていうか、それ以外に考えられないし)
魔族は強い力をもった種族、大昔の戦争で人族の連合軍に負けて劣悪な環境の『深淵世界』に追い込まれた。その入り口も強大な力で作られた結界に封印された。
それでも、魔族は一度たりとも『主世界』を奪い返すことを諦めてはいなかった。差異はあれど、約500年ごとに入り口の結界が弱まることはわかった。それは即ち双方の大戦の合図でもある。
しかし、魔族も小沼と同じくらい凄惨な結果にしか至っていなかった。歴史上では一度たりとも人族に勝利したことはない。
アーサーの記憶の中にある魔族についての知識はここまでである。実は人族側も剣で河川を断ち、拳で山脈を穿つ今日もそう乏しくはない。少なくとも魔族の攻勢を押し返すことはできたのだから。
但し、このアーサーって奴は標準的なニートなのだ。剣術も格闘術も、魔術も召喚術も何一つできはしない。最大の特技は食っちゃ寝である。
もし『アーサーの魂』がまだこの身体に存在しているのなら、小沼は首根っこを掴んでこう叫んだのだろう。
(テメェはなんてクソ特技を持っとるんじゃ!!)
現状、こいつはもうアルダスのポーションから解放され、これからの全てに向き合わなければならないのは後任者である小沼だ。
なんの力もない人族、悪魔がそこら中にワサワサ歩いている世界でどうなるか?実験台になるのか?それとも食い物になるのか?
小沼は考えれば考える程怖くなった。あの時の『はい』を押してしまった自分を、可能ならケツを蹴り飛ばしてから海に沈めたかった。
心の中ではそのクソッタレのスマホに向かって自分のボキャブラリーが許す限りの罵詈雑言を浴びせた。ここに辞書があれば血眼になってめくっていただろう。
しかし、残念ながら今更どんなに後悔したって小沼は時間遡行ができるようになる訳ではない。
それでも気が済まないのだろう。スマホを罵り続けた。
そこで彼は急に自分の右手にある見覚えのある『モノ』を目にした。その衝撃に暫く茫然自失としていたものの、我にかえった瞬間にそれを地下牢の壁に力一杯振り絞って投げつけた。
そう、彼の右手にあったのは『クソッタレのスマホ』である。
それは壁に衝突して砕け散っ………
……てはいなかった。
壁にぶつかる寸前、に急に姿を消した。そして再び小沼の右手の中に現れた。今回の茫然自失の時間はさっきよりも短かった。2回目だから耐性がついたのだろう。
そのお陰か、小沼は直ぐに冷静になった。
彼はこの世界では凄まじい程に弱い。
ラノベ、ネトゲ、ソシャゲ、掲示板なら手練れているけど、前世の彼は別に武術を嗜んでいた訳でも無ければ、何かの道で天才と呼ばれていた訳でもない。
こんな世界ではどうやって生きていけば良いのだろうか?
少しでも生存の可能性を高めるしかない。千分の一だろうと、万分の一だろうと、果ては億分の一だろうと掴めるものは命をかけて見つけ出して掴めなくてはいけない。
今できるそれとしては、目の前のこのスマホを解明すること以外にない。小沼はそう考えてホームボタンを押した。
スマホのホーム画面にあるアイコンは相変わらず寂しいものだった。画面の左上にポツンと一つのアイコンだけが存在し、なんとも異質である。
それなのに彼は驚いた。アイコン数は変わっていない、その絵柄が変わったのだ。
『解毒』と書かれているアイコンになっている。小沼はさっきポーションの効果によって苦しみ曖昧になっていた記憶を整理した。
確かにこれを『ダウンロード』するみたいなことをいう声を聞いたのだ。
(ならばこれがさっきの苦痛から自分を解き放ったのか?これによって悶え苦しみ、これによって解放されるとはなんともなぁ……)
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