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第三十一話 帰って来ない梅男
しおりを挟む美留來は父が帰って来ない事が心配でびす子の部屋に来ていた。
美留來:お父さん帰って来るの遅くない?
びす子:うん、さすがに笑い事じゃ済まされない。ユイに聞いてみるか。
美留來:うん。
二人がユイに聞きに行こうと部屋を出ようとした時だった、コンコンとドアをノックする音か聞こえた。
ユイ:びす子様、美留來様はこちらにいらっしゃいますでしょうか?
びす子:うん。美留來がおじさんが帰って来ないから今そっちに聞きに行こうとしてたとこだった。
びす子がドアを開けると部屋の前にいるユイは少し焦ってる表情だった。
ユイ:実は先程やっとカイから連絡が来まして・・。
ユイの言い方からするとあまり良い知らせではないと感じたのか、隣にいた美留來が唾をゴクリと飲み込む音が聞こえるように見えた。
びす子:それでおじさんは無事なんだよな?
ユイ:それが・・少し目を離した隙に梅男様がどこかへ消えてしまったようで、今までカイが探していたようですが見つからないと。
美留來:うそ!?ちゃんと探してくれたんですか?
ユイ:レース場は商業施設に隣接してまして、もしそちらに梅男様が向かったら人が多くて探すのは困難だそうです。
びす子:おじさんが見つかるまで探してくれるんだよね?
ユイ:勿論です。
美留來:お父さん何やってんのよ。もう・・。
美留來はため息をつきながら地団駄を踏んでいた。
びす子:この国はそんなに広くないからすぐ見つかるよ。な?
びす子は美留來を励ますように言うとユイに早く見つけるようにと目で合図をした。
ユイ:美留來様、ご心配でしょうがパヨペウン軍が総力をあげて必ずお探しします。
美留來:お願いします。
美留來はユイに大きく頭を下げた。
ユイ:頭を上げて下さい。こちらの不手際なのですから。それとお夕食のお時間となりましたので三階の食堂にいらして下さい。
びす子:分かった。
ユイは軽く会釈をして階下へと降りて行った。
びす子:とりあえず飯でも食おうぜ。大丈夫おじさんすぐ帰って来るって。
美留來:うん、そうだね・・。どんなご飯が出るのかなあ。楽しみ。
美留來はびす子に気を使っているのか元気なふりをして階段を降り始めた。
食堂に入ると右手に暖炉があり中央には長い横長のテーブルがあり、給仕の男性が「こちらにどうぞ」と椅子を引いていた。
びす子と美留來は中央の席に相向かいに座りナプキンを膝に乗せた。
美留來は少し緊張しているようだったが何度かびす子の家で食事をした事もあり作法には問題ないようだった。
給仕:今日はお疲れのようですので、ビスケット様と美留來様には普段食べられてるお食事をご用意しております。
びす子:ありがと。
美留來:あれ、てっきりパヨペウン料理が出ると思ってたのに。
給仕:明日は朝からパヨペウン料理を堪能して貰うよう料理長に伝えております。
それを聞いてびす子と美留來は楽しみとばかりに頷いた。
そこへマツダが若いスーツ姿の男性を連れて食堂に入って来た。
美留來:あれ、私たち以外にもここに宿泊してる人がいるの?
給仕:はい。お一人だけ。
給仕がそう言うとマツダが男性を連れ添ってびす子のところにやって来た。
マツダ:びす子様、お食事前にご紹介したい方がいるのですが宜しいでしょうか?
びす子:うん。
マツダ:こちらは円城寺グループのご子息の荒正様で御座います。
荒正:初めまして、円城寺荒正です。少し前に父とはお会いした事があると聞いております。滞在期間中はよろしくお願いします。
荒正は軽く会釈すると名刺を差し出して来たので慌ててびす子は立ち上がり同じく軽く会釈をして名刺を受け取った。
びす子:初めまして、私はビスケット・ココ・勅使河原です。わざわざ名刺までありがとうございます。いつこちらに?
荒正がビジネスライクな会話をしていたせいかびす子もそれに合わせるように返した。
荒正:私は三日前から。父の代わりに来賓客として四階で滞在させて頂いております。第二王女様と一緒の館に過ごさせて貰えてとても光栄です。
荒正は大仰に腰の前に右手を前に出し、片膝を床につけてパヨペウン国式の男性がする挨拶をして来た。
びす子は事前にマツダからパヨペウン国の男女の挨拶を教えて貰っていたのもあり、すぐさまスカートの両端を軽くつまみ膝を少し曲げペコリと頭を下げた。
びす子:では、食事にしましょうか。
この国に来てからというもの第二王女という肩書きに慣れず滞在期間は肩が凝りそうだなとびす子は少し腕を回した。
つづく
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