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しおりを挟む六人の王子の中で一番美しい第四王子グランディアだが、その立場は常に宙に浮いていた。
母親の血筋であるアトワでは、王家の血を引く王子として一族に距離を置かれ、王族に屈しない左大臣大公家アトワの強い権力を持つ血筋でもあるために、常に王太子や他の王子から警戒されている。
学院では一切隙を見せない第四王子。そのグランディアが、彼の汚点と噂されるダナー家の婚約者を、直々に迎え出た事に驚きの声が上がった。
黒制服の公女を二階広場から見下ろしていたのは、王家の一族と左側の貴族たち。
「右側が領地から出さずに隠し続けているから、どんな醜女かと思っていたが、あれなら悪くないな」
「グレインフェルド殿とメルヴィウス殿、あの二人の妹君なのだぞ。そもそも、美しくないはずがないのだ」
「それより見たか、ノースの断頭官、プランの尋問官、更にパイオドの監視官まで居たぞ」
「彼らが集うなど、今まで無かった。これは大変な事だぞ。見ろよ左側の連中、まるで戦争でも始めそうな雰囲気だ」
紺色制服がひしめく対岸には、白制服が集っている。階上から眺める彼らの姿に、王族貴族生徒は、ふと首を傾げた。
「フィエル殿が居ないな」
右側の迎えの生徒を置き去りに、グランディアがリリーを奪い去った事に、それを勝利だと誉めてはいたが、そこには上に立つものが居ない。
アトワ家直系であるフィエルは、今年リリーと同じ十六になる。昨年編入してきたフィエルだったが、今はここには無かった。
「先週から仕事で領地に戻られたそうだぞ。暫くは通学されないだろう」
「良かったのか、悪かったのか。彼がこの場にいたなら、左側はどうしていただろうな。国王に命じられた学院内での不戦を破っていたかもな」
今はまだ、静観しているだけ。それを面白がる者たちと、怯える者たちと、噂は漣のように広がる。
「ふーん。ダナー家の公女か。悪くないね」
各々が遠巻きにエントランスを見つめる中で、第三王子フロランスもダナー家の公女を見物にやって来た一人だったが、そこに妹のエルストラが近寄ってきた。
「兄上様、なんでかしら、グランディア様が、ダナー家のリリエル公女を迎えに来たの」
「婚約者としての体面を保つために、ダナー側からグランディアに頼んだのだろう」
「でも、個人的に案内までするなんて! 必要あるの!?」
学院内では、ダナー家の公女が第四王子を好きになり求婚したが、それを断りきれないグランディアが保留にしていると噂が回っていた。
それはリリーが編入する事が開示されてから、直ぐに広まり始めた。その後は逆に右側(ダナー)が拒絶したとの噂も出たが、それを王族側は信じていない。
「きっと公女は、グランディア様を追って来たのよ」
第三后の王女エルストラは、幼い頃よりグランディアを想い慕っていた。右側との婚約話に憔悴していたが破談の噂が広まり、安心していた矢先の出来事だった。
「心配するな。お前の方が美しいよ」
**
第四王子であるグランディアが特別に出迎え、更に教員が行うはずの学院内の案内を申し出た。
グランディアに好意を持つ者たちが羨望に見つめる中、手を引かれる当の本人は、上の空に何かを考え込んでいる。
特別に、校内で唯一気の休まる貴族専用の展望室を見せても、リリーは何の反応も見せなかった。
(やっぱり変わってる娘だと思ったけど…)
二年近く会わなかっただけで、リリーは美しく大人びて見えた。いつもと違う髪型に、初めて見た制服姿。それを見て跳ねた鼓動を隠し、明らかに敵意を見せた護衛たちから、急いで引き離してここまで来た。
グランディアは、自分を見ない少女にだんだんと腹が立ってきた。
「…………」
「!?」
だが振り返ると、リリーはグランディアの顔を見つめている。真摯に、全身をくまなく蒼の瞳は追ってきた。
「なんですか?」
それにどぎまぎと身体は固くなったが、なんとか平静を装った。
自分を律する為に、問いかけは素っ気なく吐き捨てる。内心ではやり過ぎかとも思ったが、リリーの質問はグランディアが想像もしていないものだった。
「そういえば私は以前グランディア様に、グーさんと口に出した事があるかしら?」
「ありますよ」
反射的に即答したが、内容に内心では困惑する。
(それが久しぶりの僕に対する質問なの?)
よく考えればリリーらしくはあったのだが、グランディアは、この奇妙な問いかけにいつもの自分を漸く取り戻せた。
「初めはまさか、それが自分だとは思いませんでしたが、貴女は私を見て、たびたびそう呼び掛けられていましたよ」
ダナーに訪問していた期間。リリーは会話の合間に、グランディアに対して「グーサン」と何度か呼び掛けていた。
聞き慣れない呼び方。
調べさせるとダナー城内でこの事は広まっておらず、左側を母に持つグランディアへの嘲りではない様だった。
なのでグランディアは、それはリリーが自分に付けた特別な愛称なのだと、そう思うことにしていた。
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