42 / 211
21
しおりを挟むダナー家の公女の編入により、学院内の右側と左側との派閥の対立は、この日を境に悪化した。
今まではお互い触れないように過ごしてきた彼らだが、リリーの存在により右側と呼ばれるダナー・ステイ一族は臨戦態勢となり、特に左側に強い警戒を放っている。
少し何かが触れあえば、殺傷沙汰に転じる緊張感。
それを察した力の無い者たちは、常に距離を保ち恐怖に怯えている。
その中で黒の氷姫と称されたリリーだけは、異様な落ち着きを払い、女王の様に君臨していた。
「姫様、何かお探しですか?」
通学が始まって暫くすると、リリーは常に何かを探し始めた。
それは王族の女子生徒かと思えば、体格の大きい剣士の集団を目で追う。その二点に注目していた護衛のエレクトは、リリーの目的を確かめたかった。
『番長……』
「??」
何度聞いても聞き取れない。靄のかかるリリーの独り言。だが直ぐに、リリーは「大丈夫よ」と答えをはぐらかした。
**
「聞こえなーい!」
「?」
教室の移動でエントランスに差し掛かると、螺旋階段の下で大きな声がした。
「はっきり言いなさいよ」
王族の制服に取り囲まれるのは、庶民を表す深緑色の制服。長い黒髪に褐色の肌の生徒は、逃れられず背を丸めてその場に立ち竦んでいた。
「……ぃてもらえ………か」
「聞こえないって、言ってんだよ!!」
王族の血筋が遠くても、王族と婚姻関係にある親族の子供でも、王族と関わりがあって認められれば紺色の制服を着用出来る。
中には質の悪い者も居て、彼らはたびたび庶民の証である深緑色の制服の者たちを、無作為に選んではからかうのだ。
その場に初めて遭遇したリリーは、スッと蒼色の瞳を微笑みに歪めた。
「このこを見て笑っているの?」
螺旋階段から降ってきた声に、何者かと取り囲む生徒たちは仰ぎ見る。
彼らは、黒色の制服の生徒、見た目に畏怖を与える者達の先頭に立つ少女に、あっと、出た声を気まずく飲み込んだ。
「どの辺が面白いのかしら?」
からかわれていた生徒と、それを笑っていた女子生徒の間に、微笑むリリーが進み出る。
深緑色の制服を上から下まで観察する。その様子を見た女子生徒は、リリーが自分と同じ様に、庶民に嫌悪を示したと思った。
「ステイ公女様も思いませんか? なぜこの様なもの達が、我々と同じ学院に通う事が出来るのかと」
「そうですよ。そもそも、貴族と同じ様に学べると思うことがおかしいのだ」
無学無知、更に生まれた血筋を笑う。取り囲む者たちを見回したリリーは、皆と同じ様に笑い出すと貴族の生徒を指差した。
「ふふ、フフフフフッ、あはははは! 面白いわね、貴方たちのお顔!」
「!?」
指を差された者は、何の事かと徐々に笑いが失せていく。漸く自分たちがリリーに笑われていると知って困惑し始めた。
「鏡をご覧になったこと、ありますの? 貴方たちのお顔の方が、私は面白いわ。フフッ」
「何を言うんですか!」
「ふふ、集団で一人を取り囲み、人を虐めて笑う顔。…なんて醜くて面白いのかしら。…不細工ね」
「!!」
非の打ち所がない。美しいリリーに顔貌を貶されて、言い返せない者は怒りと恥ずかしさに顔を赤らめていく。それを見たリリーは、更にフフフッと吹き出した。
「ああその顔、容姿を私に貶されて、今度は自分が被害者って顔なのかしら? でもね皆さま、よく考えてみて。複数で一人を取り囲み笑う。卑怯で哀れな加害者は、一体誰なのか」
自分は王族の親戚だと言い返そうとしても、それが通用しない右側という大きな権力。更に背後に無言で控える黒制服の者たちに、誰一人反論出来る者は出ない。
先頭で悪口を言っていた女子生徒に近づくと、リリーは顔を覗き込んで美しく笑った。
「良かったわね、加害者になれて。うらやましいわ」
蒼白になった女子生徒はその場から後退る。逃げる様に紺色の制服が離れて居なくなると、残された深緑色の生徒を、リリーはくるりと振り返った。
背の高い生徒だが、それを丸めて俯いている。
「あなたにも原因があるのだわ。下を向いて笑われたのならば、もっと背筋を伸ばして、前を向いて歩いてみなさい」
「!」
ポンと背中を軽く叩かれた。それに金色の瞳は見開かれる。
「そうすれば、私と朝の挨拶が出来るのよ。下を向いていては、気づかないでしょ?」
覗き込んで来た大きな蒼い瞳。「しっかりね!」と、にっこり笑った美しい顔に赤面するが、今度は俯かず、黒制服に囲まれて歩き去ったリリーの背をじっと見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる