だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
45 / 211

24

しおりを挟む



    (面倒事がやって来た…)

   自分より少しでも弱そうに見えるものを探し、攻撃し、支配下に置いた気分に浸りたい者たち。

   それの対処法は知ってはいたが、口を開くことさえ億劫だった。

   家業が楽しく、直ぐにでも他国に取引に行きたかった。嫌々と通っていた学院では、王族にも貴族にも、一般生徒にも全てに興味が無い。

   ただ日々をやり過ごし、お決まりの幼稚な貴族の嫌がらせに、今日は自分が当たってしまったのだと、過ぎ去る時を待っていた。

   だが、

   「このこを見て笑っているの?」

   天上から降ってきた神託かと思える美しい声。アーナスターの瞳は、初めて見た黒の氷姫に釘付けになった。

   しかも公女は面倒事を全て引き受けて、更にそれを放棄した自分を叱りにやって来る。

   「しっかりね!」

   そう言って笑った顔。軽く背中に触れた華奢な手。アーナスターは、その日から、ダナー家の公女が忘れられなくなった。

   自分の配下を全て動員し、数日でリリーに関わる事を調べ上げた。ナイトグランドの情報網をもってすれば、右側ダナー左側アトワへの侵入も造作もない。

   (リリエル・ダナー・ステイ大公令嬢十六歳。……彼女の右側みうちには優しくしてあげよう)

   そこで手に入れた気になる情報は二つ。アーナスターは第四王子グランディアが、リリーにしつこく付きまとっている真実を手に入れた。

   (グランディア第四王子殿下…。王族か、面倒くさ。…あと、ダナー家の公女に纏わる呪いだけど…)

   呪いに関しては、専門外のアーナスターもどうしたものかと眉をひそめた。


 **


   リリーは連休になると領地に戻り、孤児院を視察する。いつもはそのままダナーの城に立ち寄るのだが、今回は、早めに王都に戻ってきた。

   男子学生への訪問など、本来であれば絶対に許可しなかった。だがナイトグランド商会との繋がりは、一族に有利となる大きな手柄という事もあり、グレインフェルドはリリーの外出を渋々許可した。

   流行に敏感な商家への訪問に、リリーは念入りにお洒落をする。

   薄灰色のドレスは、若草色と黄色の花が繊細に刺繍されている。落ち着いた色のドレスだが、リリーはそれを品良く着こなした。

   髪は括らずに背に広げる。ドレスとお揃いの髪飾りに、背の高いアーナスターに対抗して少しヒールのある黄色の靴を選んだ。

   「行ってきます」

   懐に秘密の巾着を潜ませて、嬉しそうに馬車に乗り込むリリーの背後には、騎乗した五人の護衛が後を追う。

   王都には左側アトワの者も多く出入りするため、馬車は万全の警護でナイトグランドへ向かった。
   

   
 **



   初対面に近い異性の家に招待しても、本来ならば断られる事が当たり前だ。だが今回は、右側ダナーはこれを機会とし、絶対に来るという自信があった。

   アーナスターは、欲しい物は必ず手に入れる生き方をしている。

   今回、初めて人に対して執着したことに、自分でも驚いていた。

   「お客様が入門されます」

   声かけに出迎えると、防犯用の重く堅牢な鉄の門が開き、先頭に騎乗した五人の黒の騎士が現れた。

   それに続く漆黒の馬車には、出軍かと見間違える様な、物々しく武装した護衛がついている。

   (先頭の騎士五人。確か十枝って言ってたよね。学院でも怖かったけど、この人たちの方が、第四王子様より面倒かも…。それに、あの人が居ないな…)

   アーナスターは、ふと周囲を見上げてみた。学院食堂で初めてまともに見たリリーの護衛。その内、銀色の瞳、墨灰色の長い頭髪を編み込んだセセンテァ・オウロは監視官の異名を持つパイオド家の者であり、アーナスターの部下同様に、情報の収集能力に長けている。
   
   更にナイトグランドよりも厄介なところは、パイオドは監視や情報収集だけでなく、遠方からの殺傷技術が極めて高い事で有名だ。

   今やその部隊の上に立つセセンテァは、ダナー家の次男であるメルヴィウスとも近しく、首から手の甲の中指先にかけて、凶悪な入れ墨が施されていた。

   (あの時の彼のこちらを見る目つき、怖かったよね…)

   今は目の前の護衛の中にはいないが、周囲からアーナスターを狙っているかもしれない。

   首筋に何かを感じ戦慄したが、現れたリリーの姿に、それどころではなくなった。

   「……ーーっ!!」

   闇色の馬車の扉が開き、護衛の手を取り降りてくる。暗闇から羽化したような淡く落ち着いた色のドレスに身を包み、年齢よりも大人びて見えるリリーの姿に、アーナスターは開いた口が塞がらず、喉が渇き、再び声が出なくなった。

   
   
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...