だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   「そういえば、この時期だよね。あの行事があるのって」

   王族貴族の子供達は、家によっては庶民との関り合いがなく一生を終える者もいる。時代が流れて、現在のスクラローサの王はそれを憂慮し、学院内である行事を行っていた。

   王都城下街の公園と周辺の一角を貸し切り、生徒達に庶民の暮らしを体験させるという課題。

   「はい。ステイ大公令嬢は、警備の面を考えて次でしょう」

   サイの言葉にグランディアは「そうだよね」と呟いた。

   数人の生徒が選ばれて、家格によって警備の段階が強化され。右側ダナー左側アトワはこの行事に否定的で、彼らが参加する回は特に厳重な警備態勢が敷かれた。  

   「大抵の者は庶民との交流に興味が無いから、オーサのテラスに行くけど、あの娘は、そんな事しないだろうね」

   王の企画に逆らわないが、子供を心配する貴族が手を回し、公園内にその為の喫茶店を用意した。多くの生徒はこれを利用し時をつぶす。

   「公園の外れの競売場は、まだあるの?」

   王都郊外にある大会場よりも小さな会場は、気軽に誰でも参加できる様になっている。

   「はい。国王陛下の指示により、奴隷以外は許可されています」

   人の奴隷は郊外のみで、物や動物だけを扱う競売場。

   「右側ダナー左側アトワも領地で禁じているのに、王都は、とても寛容だよね」

   書類に目を落とし記入する。次の書類に手を伸ばし、そこに記されたナイトグランドの家名に、グランディアは眉をひそめた。


 **


   「いいですか? 姫様、これは形だけの行事なので、何もしなくても、参加だけで充分です。くれぐれも、我らが傍に居ないことをお忘れなく」

   表立って警護にはつけない。それは国王の警護守備隊を疑うものと捉えられる。生徒を護る使命により、街中の至るところに守備隊は配置されているが、それが無能で邪魔だと、各家の者たちは思っていた。

   「そうよ。ついて来ないでね。お家の者たちに頼ったら、私が減点されるのよ。そんな恥ずかしいところ、国王陛下にも左側アトワにも見せられないわ」

   「公園を進むと左手に、オーサという宿泊施設があります。二階が喫茶店となり、絶対に、そこから時間まで出ないで下さい。店主は心得ていますから」

   「わかっているわ。だってお金も無いのに、お買い物なんて出来ないじゃない」

   日にちが近づくにつれ、警護人が代わる度に何度も何度も同じことを言い続けられている。それにリリーは、だんだんと目を座らせて口を不満に尖らせていた。

   「オーサ内ではお好きな物をお求め下さい。店主は…」

   背後から語られる文句。それにくるりと振り返ると、素早く片手を口元に翳して封じた。

   「わかっているわメイヴァー。貴方で十人目、そしてお兄さま二人分に、会うたびに屋敷の皆がおんなじ事を言ってくるっ! お父様とお母様のお手紙にも、おんなじ事が書いてあるっ!」


 **


   学院から見送る者たちを置き去りに、内心でわくわくと馬車に乗り込んだリリーは、到着した公園で深呼吸した。

   (新鮮……)

   選ばれた生徒は十人。引率の教師の説明が終わり、各々不安げに公園内を歩く者、直ぐに公園から出ていく者、言い付け通りに指定のオーサに行く者を、リリーは見渡し、そして周辺をしっかり観察する。

   「あった」

   公園内に点在する出店の一つ。不衛生だと貴族の者は買わないが、近寄ったリリーは並べられる色とりどりの飴細工を厳選すると、その一つを指差した。   
   
   「これ、いただくわ」

   特別授業の生徒が居るのは心得ていたが、過去に出店で買った者はほとんど居ない。だがやって来た見たこともない美しい令嬢の姿に、飴屋の少年も頬を赤らめる。

   「ど、どうぞ、」

   ほっそりとした人形の様な手は、小銭を数枚取り出すと、直に店番の手の平に乗せた。それは、少年の一生の思い出となった。

   「ありがとう」

   子供に人気の果実と木の実の飴の棒。それを手にしたリリーは、人目も憚らずその場で口に入れる。

   「…………やっぱりね。うちの姫様なら、やると思ったよ…」

   片眼の遠距離眼鏡で確認した。指定範囲外の屋舎の一室からリリーを監視していたセセンテァは、貴族の令嬢ではあり得ない慎みのない行動に、苦笑いでため息した。

   「それより、なんで金持ってんの?」

   ここ数日、リリーは大人しく十枝の注意に頷き、珍しく買い食いの許可をグレインフェルドにしつこく強請らなかった。

   その答えとして現れたのは、得意気に懐から出した小銭入れ。それに銀色の瞳を鋭く光らせたが、飴を舐めながら楽しげに歩くリリーの姿に、どうしたものかとそれを見守る。

   ダナーもアトワも、王族貴族も、そこここに子供を護る護衛は潜ませているが、それが動く事は緊急事態以外にありえない。

   なのでセセンテァも、胸の内の蟠りは横に置き、警戒だけに集中した。

   公園内の出店を一通り見て回ると、リリーは外周の商店街に踏み込む。観光に路面を通り過ぎると、公園の外れで足を止めた。

   (姫様、そこはお勧め出来ないな)

   セセンテァは、興味津々に天幕に近付いたリリーを見て、近くの部下に反射光で合図する。だが直ぐに出てきたリリーは、今度は天幕の裏側に回り込んだ。


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