だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   受け付けから、学生が入り込んだと知らせが入った。

   競売を身近なものにしようと、小規模で開催している中央公園の外れ。合法的ではあるのだが、子供と特別授業の生徒は出入り禁止にしている。

   何か問題となれば、後で面倒事になるからだ。

   既に外に出たそうだが、グラエンスラーは念のため、裏手の保管場所を覗いて見た。
   
   「?」

   今回の目玉となる幻獣の幼獣。その籠の前に、黒色の制服ステディアの生徒が屈みこむ。

  「うーーん…」

    (あれは、この前の)

   弟のアーナスターが初めて自室に客を招待した。それが右側ダナーであった事に、ギルド内は異様な盛り上がりを見せていた。

   遠目に見ただけのステイ大公令嬢。ダナーを護る十枝の貴族に護られて、作り物の様な異様な美しさを放っていた。

   今日はドレスではなく、黒騎士の様な出で立ちに違う雰囲気を見せている。だがその令嬢は、懐から小銭袋を取り出すと中を確認し始めた。

   (…………)

   子供が菓子を買う前によく目にする姿。

   「……」

   小銭袋に入る程度の枚数では、とても手に入れる事は出来ない幻獣。何を思っているのか、両者はじっと見つめ合っていた。

  「これはこれはお嬢様、そちらをお買い上げくださるのですか?」

  「…………」

   見かねて声をかけると、蒼い瞳を驚きに見開いて、令嬢はグラエンスラーを振り返り見上げた。

   「見たところ、良家の方のようですね。なんなら、競りには出さず、この場で交渉致しますか?」

   弟の友人なので、やんわりとこの場から追い出そうとした。だがそれを、リリーは素直に受け取った。

   「じゃあ、そうしてくださる?」

   「……」

   グラエンスラーは、世間知らずなリリーを改めて確認する。そしてこれを面白がった。

   「印章をお持ちでしょうか?」

   大きな売買や貴族の買い物には必要な印章。大抵は指輪に彫られているが、リリーの真白い指に指輪は一つも見当たらない。

   「お供の者が持ってるわ」

   「そんなわけありませんよね」

   特別授業の学生に付き人などいない。悪びれなく素早く嘘をついたリリーに、グラエンスラーはますます笑う。

   「………ならば、お客様が身に付けている宝飾品。それを一つ、お譲り下さい」

   「宝飾品?」

   耳元のピアスに触れると、男は横に首をふる。そうだと紙留めにふれてもまた横に。しばらく考えたリリーは、胸元のブローチに手を当てる。

   するとグラエンスラーは、満面の笑顔で頷いた。

   リリーと同じ瞳の色のブローチには、ダナー家の紋章が透かし彫りされている。

   学生服のリボンを留める為の宝飾ブローチは、同じ物が何個も用意されている。なのでリリーは、まあ良いかと頷いた。

   「これでいいのなら、いただくわ」

   「こちらこそ、良い取り引きに感謝致します」

   グラエンスラーが上質な布で籠を覆うと、それをリリーは抱えあげる。

   「ご自宅に、お送り致しますか?」

   「いいえ、このまま持ち帰る。ありがとう」

   天幕を出たリリーに、グラエンスラーは深く礼をする。そして手にした蒼い宝に笑顔で口付けた。


 **


   「お嬢様が、何かを購入されました!」

   ほどなく天幕から出てきたリリーは、短時間で何かを手に入れ抱えていた。それを確認した隠密の護衛とセセンテァは頭を抱える。

   「あんな所で買うなんて、」

   荷物を抱えた生徒を見かけた教師が声をかけると、そのままリリーは馬車に乗り込み、学院に戻って行った。


 **


   「おや、お早いお戻りですね」

   廊下で出会ったセオルは、両手に籠を抱える生徒に声をかける。

   高価な布に覆われた鳥籠を抱えるリリー。だがその顔に笑顔はなく、なんとも言えない様子で「そうね。少し早かったのよね」と頷いた。

   「何を買われたのですか?」

   自分の渡した小銭では、とても買えそうにない高級な鳥籠。布で覆われるその中身が、セオルはとても気になった。

   「猫なのよ。きっと」

   購入者は嬉しそうではなく、買ったものが何かを分かっていない。それに不穏を感じたセオルは、「失礼します」と許可なく布を捲った。

   「…これは、」

   幻獣の中でも希少な小型の幼獣は、小さな屋敷が一棟買えるほどの金額で取り引きされる。

   「リリー様、こちらはどうされたのですか? これを買えるほどの手持ち金はありませんでしたよね?」

   「…………これはね、貰ったのよね?」

   「誰に」

   「お店の人がね、親切に、」

   「知らない人から物を貰ってはいけないと、言ってたでしょう!?」

   思わず出た大きな声に、言った本人もリリーも驚いた。だがそれに、すかさず言い訳を始める。

   「ただでは無いのよ。ほら、ここにあったブローチ。それと交換したの」

   見ると襟元のブローチが外されている。それに再び目を瞑ったセオルは、沈痛な面持ちで鼻から長いため息を吐いた。

  
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