だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
67 / 211

35

しおりを挟む


   グランディアを見送って、立ち去るわけでもなく、フィエルはリリーに歩み寄る。そして赤い瞳を冷ややかに、廊下の先を見た。

   ロビーから、右側の十枝の者達がこちらを見ている。今にも襲い掛かって来そうな殺気だが、主の少女の出方を見て、堪えている姿に笑いがこぼれた。
   
   「……フッ」

   「??」

   鼻から抜けた笑いに、リリーは驚いた顔をした。そして蒼の瞳はスッと侮蔑に眇られる。

   「ごきげんよう。お名前は、なんだったかしら?」

   アトワの跡取りを知らない者などいない。明らかに嫌味を言った右側ダナーの末子。馬鹿馬鹿しいとは思ったが、フィエルはそれに付き合ってやることにした。

   「名乗るほどの者ではない。覚えられぬ者に、与える物は何もない」

   「確かに。印象に残らない者ほど、聞いても覚えられないものよね」

    (印象に、残らない者…?)

    フィエルの見た目に、今まで一度もそんな事を言われた事も、考えた事もない。

     あくまでも知らないと、あり得ない挑発を令嬢は繰り返す。

    (おかしな奴だな)

   思ったフィエルはリリーの黒髪を見て、神殿に飾られた神獣の大きな絵を思い出した。

    エルロギア神に遣える第二の神獣フロートの、漆黒の鬣の様に波打つ黒髪。そして蒼と碧が入り交じる強い色の瞳。

   生意気そうな大きなつり目は睫毛に縁取られ、さらにきつい印象が強くなる。そして日に当たらない真白い肌に、化粧気の無い唇は、薄く赤く色付くのみ。

   フィエルの妹のサーエルとは全く真逆の印象に、敵とはこうも分かりやすく違うものかと観察していると、同じくフィエルを見つめていた令嬢は、瞳を嫌悪にグッと歪めた。

   「……」

   過去に一度、中身を見たことがある。

   突然ダナーに乗り込んだ第四王子を訝しみ、一族内がざわめいた。何かの策略だと思ったフィエルは、王宮から運ばれる手紙を横取りし、中を確認してみたのだ。

   それはただ、グランディアがダナーの令嬢に会いたいという恋い焦がれる内容だった事に、フィエルは酷く失望した。

   あろうことか右側ダナーに、長く長く手紙を送り続けていたグランディアは、未だに令嬢を想っている。左側アトワに繋がる者として、それは恥ずべき行為だと、フィエルはとても呆れていた。
   
  「シベルを知っているか?」

   「…シベル、左側そちらの三伯爵家の一つだわ。なら十枝うちの「ならばの母方の家という事も知っているか?」

   「あれ?」

   「我がアトワを支える三公、三侯、三伯は、ステイ大公領の十枝と同じく、遡ればどこかで血の繋がりがあり、その中で、シベル家は全てにおいて常に末席を担ってきた」

   「だから、何が言いたいのかしら?」

   「たとえ王太子に選ばれたところで、末席は末席という事だ。お陰で今回、あれの浅慮を片付けるという面倒事を、我らが押し付けられた」

   「浅慮」
   
   「格好悪いだろう? 仮にも、左側アトワの血を引く王子が、ダナーなんかに振られたなんて」

   「振った? 私が、ぐ、王太子殿下を? えーと、……なんの事かしら?」

   リリーのきょとんと間抜けな顔に、フィエルはそれを下手な演技だと苛立つ。グランディアの愚行にも問題があるのだが、第四王子を誑かした者がそもそも悪いのだ。

   「君はダナーで隠されて育てられたそうだが、異性の扱いは上手なようだ」

   「……それは、それ程でもないわよ」

   「だがに取り入ろうと、そちらに得になる事は何も無い。しかも女というものを使うしかないとは、とても残念だ。君は一番、兄弟の中でも、大したことがないんだな」

   性別しか取り柄がないと馬鹿にした。フィエルの言葉に言い返せず、ダナー家の令嬢は羞恥に震えるだろう。

   「……」

   だがリリーは、小首を傾げた後に、フィエルを肯定して深く二度頷く。

   「当たり前じゃない。うちの兄たちをご存じならば、そんな当たり前の感想面白くないわよね?」

   「!?」

   「他には無いの?」

   「??」

   「無ければ教えて差し上げましょうか? 兄たちの優秀さは、短い時間では語りきれないのだけれど。今回は特別よ」

   思ってもいなかった答えに、逆にフィエルが内心でたじろいだ。


   
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...