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しおりを挟む「我らは国の法を重んじ、高潔な一族なのです。彼らと均衡を保っていると、思う世間がおかしいのです!」
「それにアトワ家のサーエル様を暖かい光の使いとするならば、あちらの令嬢は見た目に冷血で、闇の嫌悪を纏っている」
「国民は、真実を知る必要がない」
左側でアトワ大公家を支える三公、その中のフライツフェイス家の公子ラエルは、長い足を組んで優雅にお茶に口付ける。
「定期的に、報道を通じて誰かの断罪を与えれば満足し、次の余興を待つだけの単純なものだからな」
男子生徒女子生徒、それぞれが大きな声で意見を交わす中、ラエルは秘密事の様に人差し指を口に当てて笑った。
「だから我々が同じ事をしていても、色が黒くて陰鬱だという理由で、右側を無闇に恐れ嫌い、今回も、あちらの令嬢がグランディアに付きまとったと信じて疑わない」
「右側はそういう役割なのです。それは王もよくご存知でいらっしゃる」
笑い合う白制服の生徒たち。
彼らは家で学んだ授業には出ない。学院の教師は庶民の生徒の為のもので、貴族の生徒の一部はこうしてサロンで暇をもて余す。
フィエルが復学してから、彼を取り囲む左側の一族は、常に貴族専用室内の一角を占めていた。
「それはそうと今回の最新情報です。可哀想な王家のエルストラが異国の狂公爵に近々売られるらしいのですが、それは右側のリリエル令嬢のせいだと教えてやったら、民草は喜んで語り始めましたよ」
白色制服の生徒たちが、敵対する派閥を笑う声が響く中、気だるげに窓を眺めていたフィエルが、スッと立ち上がった。
「光は左手に、闇は右手に。間違えてはいけない。善悪に意味など無いのだ。光と正義は、常に左側にあるからな」
自分を崇める者たちに言うと、フィエルはその場を立ち去った。眺めていた景色の中、二階の回廊に見知った姿を見つけたから。
冬季学期が始まっても学院棟に顔を出さないグランディアが、足早に回廊を歩き去る。いつになく浮き足立った王太子の姿に、フィエルはある懸念にその後を追った。
**
「もうお身体は大丈夫ですか?」
学生食堂に続く渡り廊下で、黒色の制服に身を包んだ生徒達を発見する。近寄るグランディアに黙礼し、その場を離れたダナーの家臣。
それに満足しリリーに向き合うと、やはり蒼い瞳はグランディアよりも先に周囲を漂う。いつものその姿に内心では笑ったが、自分を真っ先に見てほしいと、少しだけ強めに声をかけた。
「何処を見ているんですか?」
ハッとグランディアの空色の瞳と目が合ったリリーは、その場を取り繕う様に挨拶を述べた。
「ごきげんよう」
(怪我が治って、久しぶりに会った第一声が、それ?)
想いを募らせて、そしてようやく会えたのに、リリーはいつもの様にただの挨拶を口にする。胸に沸き起こるもやもやを、どうしようかと考えてしまったグランディアだったが、そんな彼に、更にリリーは軽く足を引いて会釈した。
「王太子殿下に、黒の安息を」
典型的な社交の挨拶。貴族では当たり前のこれに、何故かグランディアは、酷く傷ついた。
王太子就任式の場で公然と発表しようとした婚約は、エルストラの起こした事件でリリーが怪我をした事により、グランディアは披露宴を取り止めた。
そして急激に増えた王太子としての仕事と学業に追われ、思うように子飼いの間者をダナー家に送る事も出来ずにいた。
ただリリーの無事を祈り、手紙を書き、彼女が好きな花を送る。
何度もダナー家にリリーの容態を問い合わせたが、未だ王座に座らないグランディアには、公子からの儀礼的な返答しか来なかったのだ。
その想いが、ただの儀礼的な挨拶で、これほど傷つけられるとは思っていなかった。
「ぐ、王太子殿下こそ、お変わりない様で何よりですね」
「……」
「…そういえば、私がお休み中に、何か楽しい行事はありました?」
「特にありませんよ」
「……」
「……」
「王太子殿下って、仲の良いお友達はいらっしゃるの?」
「それなりには」
「……」
「……」
思ってもいない話しをしてくるのがいつものリリーだが、自分の名も呼ばず、明らかにグランディアを通して他人を探ろうとした問いかけに、想いが徐々に苛立ちに変わっていく。
だが限られた時間を無駄にしたくはない。グランディアは、昼食に向かうリリーを引き留めたのだ。気まずく見つめ会ったままではなく、二人だけで昼食に行こうと口を開いた。
「これから昼「グランディア殿下、王宮から使いが来ていますよ」
「!」
振り返ると、廊下の奥からアトワ家のフィエルがやって来る。
グランディアよりも一つ年下のフィエルはリリーと同じ歳。アトワ家の直系であり、とても有能だと称される。
そんなフィエルは、いつもの様にグランディアの邪魔をした。
「王太子殿下に、白の清廉を」
慇懃に軽く下げられた頭。その向こう、少し離れた回廊には、護衛のサイと侍従の姿が見える。
「呼び止めてすまないね。行っていいよ」
リリーをフィエルから遠ざけたくて、余りにも素っ気ない言葉になった。
立ち去るグランディアの背に軽く礼をする。その場に残された敵対する二人は、剣呑と目線を合わせた。
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