だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
84 / 211

43

しおりを挟む

   
   ーードンッ。

  「いった……」

  「……」


   おかしな女がいた。

   前も見ずに廊下の真ん中を歩き、白の制服ハーティアのフィエルにぶつかって来た深緑色の制服スクラディアの生徒。

  「申し訳ありません」

   アトワの華と謳われるフィエルの母エイリーン。その面影を持つ美しい容姿に目を奪われたが、謝罪後に顔を上げると姿が揺らいだ。

   「?」

   エイリーン似の美しい絹の様な白髪が、毛先から徐々に黒ずんでいく。

   闇に飲み込まれる様に失われた白の美しい髪は、波打つ黒髪に変容した。そしてフィエルの返事も聞かず、無礼な女は背を向ける。

  「おい、待て」

  「……」

    振り向いた顔にエイリーンの面影はなく、瞳の色も金色から真っ青に染まっていた。

  「お前、名はなんという」

  「……フェアリーン・クロスです」

    (これは変容の魔法か?)
   
   「ぶつかって申し訳ありません。私、急いでますので、失礼致します」

   「…………」

   言い放って足早に立ち去る黒髪の女。それはやましく一度振り返った。

   「どうされましたか?」

   珍しく庶民の生徒スクラディアを見送るフィエルに、友人であり護衛のフライツフェイス家のラエルが問いかける。

   「先ほどの者を見たか?」

   「はい。庶民スクラディアにしては、整った顔をしていましたね」

   「……他に特徴は?」

   「え? ……そうですね、サーエル様の瞳に似ているから、呼び止めたのでは?」

   この言葉に、フィエルは確信を持った。

   「魔法の干渉だ」

   「え?」

   「フェアリーン・クロス、今の者を調べ上げろ」

   「魔法の干渉とは、何の事ですか?」

   「あの者は姿隠しの魔法を使用している。お前が見た姿と、私が見たあの者の容姿は異なっていた」
   
   「!!」

   「授業以外での武器の使用、魔法、魔術の使用は一切禁じられている。これは本来、庶民の生徒スクラディアを護るために設けられた決まりだが、それをあの者スクラディアが犯してしまった」

   「…信じられません。学院の護りの結界は、国を護るものと同じくらいに強いと聞いていましたが、まさか庶民の生徒スクラディアごときがすり抜けるとは」

   「何処かに結界の綻びが発生したのか、もしくは初めから脆弱だったということだ。この事は、証拠をもって学院の管理部に厳重に抗議する」


 **
    

   姿隠しの魔術は、逃走を考える者が使う簡単なもの。術式と魔力が封じられた石を使えば誰にでも使用出来るが、問題は持久力の低さにある。

   長く持って半時、そしてそれを跳ね返す結界の中では魔法が干渉しあって直ぐに見破られてしまう。

   スクラローサ王国は国全体に国民を護る結界が施され、目眩ましの術の効き目は更に短いが、それでも裏道を歩く逃走者にとっては便利な物であった。

   (問題はこの便利な魔石、ここ数年、スクラローサでは極端に手に入れにくくなったな)

   鳩尾に届く長い鎖を首から下げ、それを革手袋で握る。学院を出てから見た目の色素を反転させていたグラエンスラーは、商店街の入り組んだ路地を曲がると、鋭い風切り音に身を翻した。

   ーードスドスドス!!!

   古びた外壁に次々に短い矢が突き刺さる。それを巧みに躱して走り抜け、階段の塀を飛び越えて着地すると、宙に浮いた長い鎖、魔石を鋭い一矢が打ち砕いた。

   「ご存命でしたか、グラエンスラー兄さん」

   階段上に立ちはだかるのは、翻った短外套の下に深緑色の学生服。両手首にボーガンを仕込ませ、陽光を背に影を纏うアーナスターを、グラエンスラーは笑って見上げた。

   「お前も元気そうで何よりだよ。可愛い弟よ」

   再び上げられたアーナスターの腕、間を置かずに発射された無数の矢を足下に転がる廃材を蹴り上げて走り抜ける。

   粉砕し散り散りに舞う廃材の粉塵。それを目掛けて追い撃ちしたが、過ぎ去った騒音の後、入り組んだ薄暗い路地裏に、アーナスターは標的の姿を見失った。


 **


   「次代、どうなさったんですか? 息きらして」

   久しぶりの全力疾走にたどり着いた街角。そこに現れた部下の一人は、汗を拭うグラエンスラーにきょとんと目を丸くする。

   「女にでも追いかけられましたか?」

   「女……?」

   ーー「妹さんの件で、私に伝えたいことがあるそうね?」

   思い出したのは世間知らずの美しい娘の台詞。執着するリリーに、女だと間違えられている間抜けな弟の顔を思い出した。

   「そうだね、女に追いかけられたんだよ。フフ、あのお嬢様、箱入りは充分わかっているけれど、いつも想像を超えてくるよね……フッ、ハハッ」

   突然、腹を抱えて笑いだしたグラエンスラーに、部下の男は困惑する。ひとしきり笑った後、そういえばと、ようやく用件に向き合った。

   「、街に出ました」

   「そうか」

   境会に保護される不審な女。ダナーを詳しく探ってみると、不自然に一族が護る大公令嬢。そして歴代の令嬢の不審な死。それにところどころ関与するのは、ナイトグランドにとっても目障りな組織境会だった。

   同時に入手した右側ダナー一門の境会に対する疑念。

   これを紐付けたグラエンスラーは、弟に近寄る不審な女を利用する事にした。


   「境会アンセーマ、フェアリーン・クロス」


   「え?」

   呼び掛けに立ち止まる、日の当たる路地に所在無さげな女が一人。

   「……ふむ、成る程。これは美しい」

   今まで見てきた各国の美男美女。それに見劣りする事のない申し分ない容姿。

   「オルガン・ナイトグランド?」

   グラエンスラーの境会名を知っていた。その事に首を傾げたが、リリーに妹だと間違われた弟に聞いたのかと、思い出し再び笑う。

   「連れていけ」

   待機していた部下達が速やかに女を袋に入れる。不思議な事に、拐われる女は騒ぎも怯えもせずに、そのまま大人しく運ばれていった。

   
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...