だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   王宮から少し外れた森の中。整えられた広い庭園を進むと大きな聖堂が見えてくる。

   石の回廊を過ぎて祭壇の間に踏み込むと、激しく教壇を叩き付ける音が天井高く鳴り響いた。

   「どういうことだ! 何故こんな事が続けて起こるのだ!」

   赤い長外套に金の帯。怒りに震える老人に怯え、灰色の祭司は後退る。

   「二度の召喚異物の損失、更にエヌまで消息不明だと!?」

   「落ち着いて下さい主祭司様。過去にも、何度も繰り返し召喚した事例もあります」

   「それは初期段階での話だろう! あれから二百年経っているのだぞ!」

   苛立ちに薙ぎ払われた燭台が、甲高い音を立てて灰色祭司達の足下に飛び散った。

   ここまで主祭司が苛立つのは、今まで干渉の無かった左側アトワによる干渉が始まったからだ。まるで王警務騎士団の様に許可無く聖堂に乗り込んで来たアトワ大公領の一門、フライツフェイ家の公子ラエルは驚く赤外套の祭司を呼びつけて言い放った。

   ーー「境会そちらした、とやらに、なぜ簡単には面会出来ないのです。何か、後ろ暗いところがおありですか?」

   公明正大を掲げる左側は、不遜な態度の者が多い。だが王が支持する境会に、今までは何の干渉もしなかった。それが突然、言い掛かりをつけ牙を剥いた。

   「国王はなんと仰っているのだ?」

   「それが、何も」

   「くそ、無能者め。天秤の左右を維持することしか頭に無いのだ。……ようやく話の分かる異物が来たというのに。我が境会アンセーマの悲願。兵器の召喚がうまくいかず、ようやく、開発の兆しが見えたのに」

   震える老人の握りこぶし。それを見て、同じく赤い外套を纏う壮年の祭司は灰色祭司に目配せした。

   「核爆弾という兵器が、一体何で出来ているのかも分からなければ、作りようがないのだぞ! これからだというのに!」

   怒りの収まらない老人主祭司。まだ戻らない灰色の祭司。壮年の祭司は、ふとある事を思い出し口にした。

   「もしやアイの呪いでは?」

   「……フェアリーアイ」

   九番目の召喚異物アイ。兵器こそ作れなかったが、幻獣の核を見つけ出し、それを王家への献上品とすることで境会の大きな力となった。

   アイを召喚してから境会は力を持ち、そしてその頃から、先代の教えに従いダナー家に生まれる女児を、十六の年に密かに葬ってきた。

   アイが、それを強く望んでいたから。

   「国王への献上品、兵器開発、そして組織の拡充。それが全て上手くいきません。やはり文献にあるように、ダナー家の娘に不幸を授けないと、フェアリーは上手く機能しないのでは?」

   「確かに、召喚に成功しても、これでは意味がない。もう後がない、我々の代では、もう蝕も訪れない。……ネルは、あとどれほど残っているのだ?」

   ダナー領への侵入が難しくなり、新しい核は手に入らない。

   「召喚の量としては二回、出来るかと…」
   
   ここでようやく戻って来た灰色祭司に、壮年の祭司は安堵する。

   「こうなったら、早くダナーの娘を消せ!」

   まあまあと老人を宥めると、赤い外套の祭司は、老人を用意された奥の部屋に案内した。


 **


   リリーによく似たフェアリーンは、いつもグラエンスラーの事を探っている。

   グラエンスラーが常日頃出入りしていたのは、品のよくない酒場や破落戸達の溜まり場。他国の放浪騎士や傭兵を抱える商家ナイトグランドとしては、彼らとの繋がりも重要だった。

   その兄が相手にしていたのは、見るからに妖艶な女達ばかり。美しい容姿を持つとはいえ、とてもフェアリーンの様な庶民の学院生と、関わり合うとは思えない。

   そして何故か、あれだけの大きな事件の後に、グラエンスラーが王都を追われた事を知らないらしい。

   (フェアリーン・クロス。なんか、すごく年上の人みたい)

   親戚の叔母の様に、敬語で気を遣ったり不意に砕けた口調で話しかけてくるちぐはぐな様子。そしてアーナスターは、あることを考えていた。

   よくある境会名クロス。フェアリーンと、それに消えたフェアリーエル・クロスを重ねて見る。

   右側ダナーが境会を嫌悪している事は分かっている。そしてリリーの事故現場に居合わせて、不自然に姿を消したフェアリーエル・クロス。

   その後に現れた似たような名のフェアリーン・クロスは、絶対にフェアリーエルの情報を持っている。

   だが配下からの急報にグラエンスラーを追いかけて、兄を取り逃したあの日以降、学院でフェアリーンの姿を全く見かけなくなった。

   (……そろそろ、境会アンセーマに入り込みたかったんだけどな…)

   王太子暗殺にも失敗し、兄の勢力も思ったよりも頑強で、簡単には全てを取り込む事が出来ない。

   突然自分を拒絶したダナーに渡す手土産を得る為に、アーナスターは焦っていた。

   「兄として、弟の成長は嬉しいよ」

   「!!」

   学院帰り、家の仕事を一つ片付けて寄り道した。日が暮れ始め、雑然とした商店街。人の波に乗った声に振り向いたアーナスターは、笑うグラエンスラーを目に止めた。

   
 
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