だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   「姫様!!」

   リリーは、常識では計り知れない事をする。

   それは通常行われるのではなく、どの機会に訪れるのかもわからない。

   護衛である者達を労い、気遣い、完璧な令嬢の姿を披露する。だがその完璧な令嬢が、なんの前触れもなく、突然回廊を全力で走り出した姿に、それを止める事が出来なかった者達は、目撃者の口を封じる為に周囲を見回した。

   幸い辺りに人影はなく、大股で走り出したダナーの大公令嬢を見た者は居なかった。

   「ナイトグランドか……」

   笑うセセンテァに、頭を抱えて呟いたメイヴァーの目線の先、中庭の手前で立ち止まる二人の姿。だが挨拶のみでその場を去ったアーナスターに、リリーは不自然に身を固めて、見るからに力なく落ち込んでいった。


 **


   「アーナスターさんなら、…フェアリーンさんの事を、ご存知かと思ったのよ」

   成人令嬢としての行動をセセンテァとメイヴァーに窘められ、言い訳に横を向いたリリー。

   「確かに、いつも中庭にいましたからね」

   セセンテァも確認していたアーナスターとフェアリーンの姿。だがフェアリーエル同様、フェアリーンも全く姿を見せなくなった。

   教師であるセオルにも消息は分からない。境会の祭司に訊ねても、個人の自由を尊重していると回答されるだけ。

   「そもそも境会アンセーマの聖女って、何をする人なの?」

   境会そこに関する情報を、故意に与えられていないリリーの問いかけ。メイヴァーは口を噤み、セセンテァは少し考え、そして口を開いた。

   「今からおよそ二百年前、初代王に助言をし、スクラローサ王国の建国に貢献した者だと境会アンセーマでは言い伝え、その後継となる者を聖女と崇めているそうです」

   「……後継」

   「聖女の基準は分かりません。境会かれらが選出しているだけなので」

   『異世界召喚か…』

   「?」

   久しぶりに聞いた、リリーの聞こえない独り言。だがセセンテァは、それを不満に思い問いかけた。

   「リリー様、今なんと言われたのですか?」

   「聞こえなかったのね? なら、いつもの独り言よ」

   「繰り返してもらっても聞き取れないのならば、内容を、ご説明してみて下さい」

   食い下がるセセンテァを前に、ぼんやりと宙を見つめるリリー。そして瞳を閉じて数秒後、紙に丸を描いてセセンテァに翳すと、裏側からグサッと丸の真ん中を筆で突き刺した。

   「こんな感じよ」

   「……? ……っ!! ……っっ!!??」

   「……………………」

   右側ダナーの処刑人、断頭官として数々の敵や囚人の頭を落とし恐れられるノース家。狙った者を、必ず罪人として仕留める監視官パイオド家。

   その跡取りであるメイヴァーは、突き刺された用紙を何の事かと眺めた後、内容に気付いて顔を赤く腕で口元を隠すと素早く周囲を確認する。セセンテァは、妹の挙動に困惑し、頭を抱える上官のメルヴィウスの気持ちが初めて分かった。

   酒場で酔っ払った兵士達が、艶笑話でする下品な仕草。

   人気の無い教室で、円に筆を突き刺した令嬢の姿を見た者は自分達しか居ない。それを確認すると、二人はそっと、リリーから用紙と筆を取り上げた。

   「全く理解出来ませんが、これ、メルヴィウス様の前では、絶対にやらないで下さいね」

   「そんな事よりも、セセンテァ様とメイヴァー様。王都の奴隷って、何人居るかご存知かしら?」

   「!」

   ダナー領で護られていたリリーには無関係の情報。それに関わり合わせたくない十枝として、セセンテァは困った顔をした。

   (グラエンスラー・ナイトグランドめ。余計な事を)

   リリーは幼少期から、人の生き方に口をはさみ、それを否定する事がある。

   このよくない癖が、王が許可する奴隷制度に向かった事に、その知識を与えた者をセセンテァは内心で唾棄した。


 **


   左側アトワのフィエルは、王宮の謁見の間に呼び出された。そして王より軽く言い渡され、それに深々と頭を下げると、退出した後、気だるく首を一つ回す。

   (慣れない事をすると、肩がこるな…)

   「フィエル様!」

   王宮前で待ち構えていたラエルが走り寄り、主の無事に安堵する。

   「私のせいで、申し訳ありません。まさか境会やつらが、この様に出るとは」

   「大したことではない。…少し、右側ダナーの情報を得ただけだ」

   「え? 右側ダナーですか?」

   ーー「右側かれら境会アンセーマを静観しているのだ」

   たった一言だけ。王の言葉を思い出し、フィエルはそれを鼻で笑った。

   「左右の均衡を保てと、そう言われただけだ。それ以外は無い」


  
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