だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   数ヶ月かけて準備したのは、リリーの十七歳のドレス。これを絶対に着せるのだと、エルロギア神に祈り続けた大公婦人は、背中に抱き付いた命の温もりを振り返って微笑んだ。

   「お母様、ありがとう」
   
   言って少し離れると、クルリと回って全身を披露する。

   リリーの身体の採寸に、一ミリもずれることなく合わせた蒼のドレス。襟元からスカート裾にかけて小さな宝石が縫い込まれ、大きく開いた背中一面には、ダナーの紋章のモチーフと共に透かし刺繍が施されている。

   「……とても美しい」

   返るのは嬉しそうな笑顔。この世でただ一人だけ、自分に素直な喜怒哀楽を見せる娘。この笑顔が自分より先に失われる事を、考えられなかった大公婦人はリリーの姿を見て涙ぐんだ。

   その姿に、長年婦人を支え、共にリリーの成長を願ってきた侍女頭も涙する。

   黒の長手袋の指で目尻を押さえた。珍しい母親の姿を見て、娘は再び近寄ると、軽く包んで母の背中を優しくなでる。

   「大丈夫です。私、しっかり生きています」
   
   「……リリー、お前……!」

   一族で、本人には隠し続けた不吉な呪い。誰に聞いたのだと婦人は目を見開いた。

   「これからも、しっかり生きて行きます。心配はしないでね、お母様」

   顔を覗き込んできた娘は、母親に屈託のない笑顔を見せた。そして入室してきた父親を笑顔で振り返り、タタッと離れると二人の間に立ち止まる。

   「お母様もお父様も、末長くお幸せにね! 健康第一なのよ!」

   言って両手を広げると、グッと力こぶの真似をした。

   一族が願った十七歳。美しいドレス姿で頼もしく騎士の様に両のこぶしを披露しようとした娘を見て、母親の涙は止まり、父親は指で頭を支えた。


 **


   ーー春。

   全ての枝葉が揃い、それを支える家門が勢揃いした。今までにない大きな披露宴が開かれ、ステイ一族が集結する。

   その場に相応しく、他では見たこともない大きなケーキが会場に飾り付けられ、現れた美しいリリーの姿に、人々は顔をほころばせた。

   「皆様、本日はお集まり頂き、感謝します」

   何を考えたのか、目線を下に落としたリリー。だが蒼い瞳は、再び上を向きにこりと微笑む。

   「皆様のお陰でつつがなく過ごせた毎日。そして生まれて初めての十七年目の年月を、大切に過ごしたいと思います」

   言ったリリーは、集った一族の者たちを見渡すと、王に向ける為の深く正式な礼を披露した。

   仕える主の娘が目下の者に頭を下げた。その行為に息をのみ静まり返る場内。だが非難する者は誰一人居らず、何処からともなく拍手が沸き起こり、大きな祝福と歓声が満ちる。

   死神と呼ばれる者たちが、一様にリリーの生を讃え涙する光景。

   百年の時を経て、大勢の前で凛々しく挨拶をするのは、ダナー家の十七歳の長女。それを幕間から見ていたセオルに、横から声がかかった。

   「会わないの? 祝ってやれば?」  

   意外な人物、メルヴィウスにセオルは笑って首を振る。

   「私は王の目と、今も一部の方に警戒されています。あの方の晴れの日は、目にするだけで十分です」

   一方的に敵と認識していた。会えば苛立ちに目を眇め、舌打ちは当たり前。それを率先して行っていたメルヴィウスは、単純に納得を頷いた。

   「まあ、境会アンセーマを抱える王家には、そうなるな」

   「はい」

   珍しく穏やかに語り合う二人の姿。それから目線をずらしたグレインフェルドは、ざわめいた会場に入り口を見た。

   (来たか…)

   内心の大きなため息。いつも招待状もなく現れる、王の血を引く四番目の王子。

   こちらから破り棄てる事が出来ない求婚書類。それを預かる期間は婚約中と見なされるが、皮肉にもアトワの工作も手伝って、世間では破談が囁かれている。

  目の前にたどり着いたグランディア。

   「王太子殿下に、黒の安息を」

   「……」

    王子は、リリーの挨拶に表情を曇らせた。

    表面的には人柄が良い。だが兄弟血族を、末端まで切り捨てる冷酷さも兼ね備えている。そして更に、国内最大商会、ナイトグランドギルドにも干渉を始めていた。

   狡猾な左側アトワの血と、温厚な現スクラローサ王の血を引くグランディア。

   リリーを使い、右側ダナーに手を伸ばそうとする第四王子を、一族は常に警戒して見ている。

   「十七歳おめでとう。偉大なるスクラローサ王国、右大臣ステイ大公家、長女リリー」

   差し出した手は、リリーの誕生を祝うこの場で、婚約者としてのダンスを申し出た。

   「……」

   頬を染めるでもなく、誰が見てもしぶしぶと社交的に手を乗せたリリーを見て、大公は苛立ちに蒼い瞳を伏せる。

   「私も初めは同じ気持ちでしたが」

   「?」

   隣に寄り添う婦人は踊る二人を目で追って、そして夫を見上げた。

   「貴方と第四王子あれは違います」

   「もちろん、一緒にされては困るな」

   「絶対に、二人を認めません」

   ーー右大臣ステイ大公家、長女リリー。

   王に近い者たちは、右大臣大公家と強調して声をかける。一国の大公国として、今は王に従っている右側ダナーだが、無事に成長した娘を王家に手放す気はなかった。

   「右側こちらへの干渉、左側あちらへの干渉、右と左、天秤を手にする王は、自分の役割を勘違いしていると思いませんか?」

   同意を無言で返した夫を確認すると、碧の瞳は娘を追う。その両親と同じ気持ちの長男は、曲の終わりに王子の元にやって来た、代々王宮護衛のラフェル家のサイが手にする箱に目を留めた。

   
   
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