だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   学院までの長い廊下。一人で戻ろうと思っていたが、フィエルは、とぼとぼと歩き肩を落とすリリーを見る。

   「……」

   家と家との婚約結婚は当たり前の話なのだが、当事者たちは、それをいちいち言葉に出したりはしない。

   (…………)

   それをあえてグランディアに口に出された憐れなリリー。その覇気の無い姿に苛立ち、フィエルは声をかけた。  

   「おい、目障り「やっぱりおかしいわ」

   「?」

   「国王様は善良な方だと言われるのに、なんで奴隷を許すのか」

   「??」

   「やっぱり、国王様一人の負担が大きすぎて、他に目が届いていないのではないかしら?」

   「なんの話をしている?」

   「隅々まで『サービス』が行き届かないっていうか、国王様一人では、限界があるのよ」

   「意味のわからない、右側いなかの方言を止めろ。お前、今、王政への不満を口にしたのか?」

   「不満というか、右側うちにも左側そちらにも奴隷はいないでしょ? それが王都に居ることが、おかしいと貴方も思わないの?」

   「……」

   危険な思想だが、面白い話を始めた。リリーはグランディアの言葉に傷つき落ち込んでいるかと思っていたが、そうではないらしい。

   「王政を廃止したいのか? それともスクラローサを侵略したいのか?」

   「何を言っているの? 王政…、というか国民が皆で国の事を考えた方が、良い発想が多いでしょう?」

   「民の声を聞く事は当たり前だが、お前の言い方では、国王は仕事が出来ないから、王政を廃止して、国民主導で動けばいいと、そう言ったとも取れるのだぞ? 過激派の言い訳だ」

   「王政の廃止? 国民主導?」

   「そんな幻想に意味はない。王と名乗る支配者に代わり、新たに民衆を纏める指導者、その周りの組織が王の代わりに利益を得るだけだ」

   「違うわよ、そうではなくて、ステイ領うちもお父様や周りの人達が、領民の代表者とよくお話してるという話なのよ。……まあでも、上に立つ者を国民皆が決めるという、民主主導は先進的よね」

   「国民が上に立つ者を決める民主主導? ……それは支配者は民意によって選出され、民意が決めたのだからと責任を民意に押し付ける事が出来るな」

   「あー言えばこう言うのね」

   蒼い瞳は、いつもの目付きでフンッと横を向いた。それにフィエルは口元を少し緩ませる。しばらく無言で歩いたが、まだ着かない学院入り口。ふと、最近ハーツ領内での気になる話題を思い出した。

   「……そう言えば、右側そちらは、春になると山大鹿ヘンムが増えるな?」

   「召し上がったこと、ありますの?」

   「食べるわけがない。臭みが強くて不味いと聞いた。ハーツ領では上品な大山羊ソワス肉しか頂かないのだよ」

   「残念ね。大山鹿ヘンムのお肉はぶ厚くて、脂がジュワって出てきてとっても美味しいのに。左側そちらには、腕の良い調理人が居ないみたい」

   「君こそ大山羊ソワスを食べたことはあるのか?」

   「……ないわね」

   「信じられないね。あの素晴らしい肉を食したことが無いなんて」

   「うちの大山鹿ヘンムだって、春に狩るお肉は柔らかくって、臭みもなくて、領内でお祭りするくらい沢山食べて人気なの!」

   ムキになったリリーだが、そうだと思い出してフィエルを見て憐れんだ。

   「残念ね。大山鹿ヘンム、今年は少なめだから、食べたいって言っても貴方の分は無いかも」

   「……」

   ハーツ領では、国境付近で不自然に大山羊などの野生動物が減少した事から、隣国バックスの行動を注視している。右側ダナーでも同じ様に動物が減少した事に、フィエルはあることを考えた。


 **


   苛立ちにエンヴィーを暴行した。ラエルは、未だに怒りが腹の中に燻っている。

   (境会アンセーマごときのせいで、フィエル様が私たちを疑う事になるとは)

   ようやく見えてきた主の姿、だがそこに、信じられないものを見た。

   「なぜ」

   同じことを思った、右側ダナーのエレクトが呟いた。目の前の長い廊下、フィエルの横にはリリー。二人は和やかに会話をしながらこちらに向かって歩いてくる。

   たどり着いた学院通路。

   「どうされたのですか?」

   ラエルは、衝撃が強すぎてリリーに駆け寄るエレクトより出遅れた。そして振り返った令嬢は、なぜか腕を組んでフィエルを見上げる。

   「そうね、味見をしたいのならば、仲良くしてあげましょうか?」

   「?」

   既に忘れていた内容。なんの事だとリリーの顔を見つめたフィエル。だが呆れて口を開く前に、間に割り込んだラエルが命を懸けてはっきりと断った。
  
  
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