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グランディア編
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しおりを挟む「セオ?」
ーーガラアァァアアン……。
セオルが歩き出したと同時に、頭上で割れんばかりの音が鳴り響いた。
「きゃあっ!」
「リリー!?」
ーーガラアァァアアン……。
何も聞こえない。両耳を塞いだリリーを見て、ナーラは召喚の魔方陣が開くと、旧エルローサの国民には聞こえるという鐘の音の事を思い出した。空を見上げていたエンヴィーは、祭壇に画かれた魔方陣から光が溢れ出し、そこにたどり着いたセオルに目を向ける。
光る円の中、幾重にも呪文が画かれその一つ一つがバラバラに明滅していた。
「この場に、入ればいいのですか?」
ーーガラアァァアアン……。
「リリー!? どうしたんだ!」
リリーを抱き締めるグランディアには聞こえない。何かの音に耳を塞ぐリリーは、セオルを指差し「なんで、セオルが、あそこに、」と呟いた。祭壇ではエンヴィーとセオル、二人が何かを話している。
そのセオルが、笑顔でリリーに振り返った。
「……、……、…………」
ーーガラアァァアアン……。
「え、セオ、何? 聞こえないわ」
それは鐘の音にかき消され、そしてエンヴィーが魔方陣を指差すと、そこから再び光が溢れ出し、辺りは徐々に、目を開けていられないほどに目映い光で満たされた。
「…………」
「……音が、止んだ」
静まり返った森の中。薄く瞳を開いたリリーは、一変した風景に蒼の瞳を瞬いた。
曇天から落ちてくる赤の破片は完全に消え、雲が去り青空が広がっている。遠く木漏れ日から、軽やかな鳥の囀りが聞こえてきた。
「……セオ?」
グランディアが抱え込むリリーの視線の先、数段の階段上に設置された崩れた祭壇には、誰一人居なかった。
「セオが居ない」
「リリー」
「セオルが居ないわ」
「姫様…」
祭壇に駆け寄った青いドレスは、魔方陣の周りをぐるぐる歩く。思い切って円に足を踏み入れても、周辺に散らばるくすんだ石の破片、霞んだ文字の画かれた石畳には何の反応もなかった。
「リリー」
「聞こえなかった」
振り返ったリリーは佇む三人を見回す。
「セオルは何て言っていたの?」
「……」
いつの間にか身体は軽く、動ける様になっている。だが無理をして傷付けた身体は疲弊し、顔を見合わせたナーラとエレクトは口ごもる。そしてグランディアは口を開きかけたが躊躇い、それを閉じた。
「教えて」
真摯な蒼い瞳は三人を見つめ、唇は不満に固く結ばれている。グランディアは、袖で拭った口周りの血を見つめ、軽く息を吐くと身を正してリリーに向き合った。
「僕はあなたに、どうしても、もう一度会いたかったんだ」
「……」
「兄上は、そう言っていた」
「…………」
祭壇の上、薄れた魔方陣、それを見つめると、居なくなったセオルの姿をリリーは探す。
蒼い瞳からは涙がぽろぽろと零れ出し、鼻をすすって俯いたリリーをグランディアは優しく抱き締めた。
**
因果律の暴走により、身動き出来ずにいた赤外套の者たち。為す術なく床に張り付いていたオーカンは、支配からの解放にようやく立ち上がった。
「至急、祭司クラウンを呼べ。おそらく、魔方陣に不備があったのだ」
湯浴みをし、少年たちに衣服を整えさせて主祭司室の豪華な椅子に深く腰かける。茶で寛ぐひと時、そこにバタバタと足音が響いた。
「主祭司オーカン! 大変です!」
飛び込んで来た灰色の外套の一人。老人は不機嫌にそれを見る。
「三叉の矛が、魔法紋が完全に消失しました!」
「何だと!?」
驚き外に飛び出ると、空に浮かんでいるはずの赤色の矛が何処にも見当たらない。
「馬鹿な! あれほど力を蓄えた矛があったからこそ、因果律の支配を行使出来るはずが…」
真っ赤に染まった三叉の矛の魔法紋の力を、今回限定的にダナーの騎士で試してみるとクラウンが言っていた。
しかもクラウンは、美しく力ある奴隷の少年を手土産にすると言っていたのだが、屈辱的に床に張り付けにされた後には魔法紋が消えてしまった。
「領地戦が始まり、これからが本番であったのに」
ステイ大公領に埋められた触媒が破壊され、右側領地を因果律の支配により操作出来なくなったが、それでも大公を更迭し、戦争を利用して徐々に左右の戦力を削っていくはずだった。
聖堂の一室に入ったオーカンは、力を失った魔方陣を見る。それに舌打ちしたところで、おずおずと背後から声がした。
「主祭司様、王宮より、遣いが来たのですが」
歯切れの悪い報せに、それを苛立ちに見た。だが睨み付けた若い祭司の背後、通路の奥からやってくるのは武装した王警務部隊。
「スペース卿、今は非常事態で忙しい」
先頭の男が顎を上げると、二人がオーカンの真横に回り込む。そして捕まれた両腕に激昂したオーカンだが、それにアエルは無表情で告げた。
「我ら王警務部隊、更には国王陛下をも行動不能にし国家に危機を与えた罪で、境会主祭司オーカン、お前を捕らえる」
「何? 今、何と言った?」
「甘言により国王陛下を欺き、左右の領地戦の有事に、王太子殿下と右側大公令嬢を暗殺しようとした罪、その他、余罪は数限りない」
「何か誤解があるようだ。国の護り、三叉の矛の暴走は私の所為ではない。エンヴィーという祭司が取り扱いに失敗したのだ。暗殺も、全て其奴の仕業だ」
悪びれる事はない。他の祭司の失敗だと言ってのけたオーカンを、アエルの涼しい目が見つめる。
「天秤を支える支柱、それを手にしているものは自分だと考えていたのか?」
アエルの言葉にオーカンは、自分の置かれた立場に気付いて青ざめた。
「…………これは、全て、国王陛下のお考えだ! 国王陛下のお考えのもと、全ては行われている!!」
「そもそも、天秤ですらない。秤に乗ることも出来ない者が玉座の隣に立つということは、こうなる事を予想くらいはしていただろう?」
「馬鹿な、馬鹿な、放せ!!」
「連行しろ」
これ以上のやり取りはない。連れ去られた老人を見送ったアエルは窓の外、リリーが襲われたという森を眺めてみた。
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