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グランディア編
97 (重複のみ)
しおりを挟む境会を発信源に、王都の住民が謎の異変に包まれた。何かの力により動けなくなった人々だったが、空の魔法紋の消滅と共に立ち上がる。
不審に思った人々が、一人二人と王城の門前に集う中、人波を駆け抜けた左右の伝令が戦況報告を手に入城した。
**
いつもの様に戸口に立っていた護衛騎士、椅子に腰かけていたダナーの大公は、軽くなった身体に気付いて杯を置くと窓の外に目をやる。
すると瓦解してバラバラと森に崩れ落ちていた魔法紋が、綺麗に消えて無くなっていた。
因果律の支配から解放された王城内は、慌ただしく動き始める。各地の伝達が行き交い城内が落ち着きを取り戻した頃、左の棟と右の棟の貴賓室からそれぞれ玉座の間に向かった二人の大公は、大扉の前で鉢合わせると目を合わせた。
互いに言葉は無い。開かれた大扉の直線上、二人は玉座に座る壮年の男の前に立った。
控える廷臣が伝令書を広げると、それを高らかに読み上げる。
「西、バックス国、東、トイ国、両軍の撤退の確認をご報告致します! ステイ、ハーツ、両大公閣下にお祝いを申し上げます!」
力強くそれは玉座の間に響いたが続く沈黙のまま、読み上げた廷臣は気まずく数歩後ろに下がった。冷たい蒼の瞳は玉座を見つめ、間を空けて、ようやく薄い唇が開かれる。
「陛下、何をされたか分かっているのですか? 王太子殿下の機転がなければ、この場は無かった」
ダナーの大公の問いかけに、国王は軽く目を伏せた。
「左側に来た国王軍エルドラード侯爵家、これが駆け付けなければ、我が軍は、今頃王都に向かっていたかもしれません」
グランディアが左右に向かわせたエルドラード家とメーベルライト家の国王軍の援軍。それは戦況に大きく貢献はしなかったが、向かったという事実が重要だった。
閉じられたままの瞳。重い沈黙に時が経つと、王警務隊の隊長の入室が告げられる。二人の大公に責められた国王は、それに目を開けた。
「首謀者、境会主祭司オーカン、その他数名の関係者を捕らえました」
「「!?」」
報告の内容に大公二人は眉をひそめ、国王は軽く頷く。
「よくやった」
長い年月、空に突き刺さる魔法紋は国を護る結界とされるが、その実は境会が使用する魔法を増幅維持させるものだった。
境会は未知なる知識を持つ聖女を使い、貴族、庶民、国全体に少しずつ信仰心を植え付ける。
人々の小さな不安につけこみ、少しだけ解決し、気づけば境会を崇高なものと位置付けて、祭司を崇め、言葉に従う事を疑わない様になっていく。
この歪な干渉は国全体を薄く広く包み込み、旧王国や幻獣から無理矢理引き出した魔力は、自然災害の兆しを見せ始めた。
「見えないところから、じわじわと侵食して全身に行き渡り、もう切り離せない事になる。それが境会のやり方なのだ」
まずは貴族に、そして王族に取り付き、最後に王家を侵食した。
「国を危機に陥れた彼らの罪は、白日の下に晒される。……多少の誤算はあったが、左右の均衡が保たれて何よりだ」
全ては境会を排除する作戦だったと国王は説明したが、アトワの大公は厳しく玉座を見上げた。
「多少の誤算?」
王の真意、境会を捕らえることは出来たが、左右の戦力を削ぎ落とす事は出来なかった。それを知っているダナーの大公は目を眇め、アトワの大公は国王を赤い瞳で怒りを顕に睨み付ける。
「国難を乗り越えた。両大公領地には、望む報奨を与えよう」
追及から逃れる様に話を逸らし、朗らかに笑う玉座の王。それを見つめていた蒼の瞳は「ならば」と口を開いた。
「我が娘リリエルの罪の取り消しを」
「それはもちろん。それにそなたたちの更迭も、境会に対する策によるもの。それは望みの内には入らない」
「では、グランディア王太子殿下と、リリエルとの婚約を、正式に破棄させて頂きます」
「右大臣!?」
思ってもいなかった内容に国王は腰を浮かせたが、蒼の瞳はそれを封殺した。
**
あれから一月が経ち国内が落ち着きを取り戻すと、王都のダナーの屋敷に報せが届いた。
「学院の再開か」
執務室でそれを受け取ったメルヴィウスはルールを振り返る。
「リリーは、少し落ち着いたようだけど。俺としては、あんな所行かせなくてもいいけどな」
「…ですが、気は紛れるかもしれません」
「ふむ」
護衛の中でエレクトとナーラは特に重症で療養していたが、最近ようやく活動出来るようになってきた。そしてリリーは、セオルが居なくなってから元気をなくした。
「セオルか……。あいつ、一体何者だったんだろうな…」
呟いたメルヴィウスに、ルールは手元の報告書から顔を上げた。
「気になる事は、あの場で、エンヴィーも居なくなっていたということです」
光が満ちた祭壇の上。目を開くと二人の姿が消えていたと、その場に居た者は口を揃えて言った。
「ファン殿に確認して頂いたのですが、異界と繋がっていたという祭壇の魔方陣、その横に、別の魔方陣があったそうなのです」
「別の?」
「それはファン殿も使用する、転移魔方陣と似ているのだとか」
「それって……」
眼鏡を押し上げたルールは、メルヴィウスの疑問にこくりと頷いた。
「考えられる事としては、セオル、エンヴィー両方が異界に行ったか、セオルだけ異界に行きエンヴィーが転移魔方陣を使用したか、もしくは…」
「二人とも異界へは行かずに転移したか」
「……フレビア卿とアストラ卿の報告を聞く限り、二人の消失と共に因果律の支配が解かれていることから、それは無いとは思いますが……。あくまでも可能性の一つとしてですね」
「……ふむ」
腕を組んだメルヴィウスは窓の外、ファンと庭を歩くリリーを目にする。
「今のリリーに、その曖昧な観測を言ってもいいものか、悩むな」
「……はい」
周囲を気遣い無理やり笑ってはいるが、リリーは、以前とは比べようもなく精彩を欠きやつれてしまった。
「晴れて王太子との婚約という枷も無くなったし、学院に行くか行かないかは、リリー本人の希望に任せよう。それにそろそろ、ステイ領から兄上も戻って来る頃だからな」
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