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子供のブルース
しおりを挟む私は子供が好きだ。
いや、やっぱ嫌いだ。
うん、やっぱどっちでもいいや。
子供というのは、非常に無邪気な生き物だ。
つい先日、私の家の近くのマンションの駐車場で、キャッチボールやサッカーに興じる無邪気な子供を、私は目撃した。
明るく元気に、時には人間から出たものとは思えない奇声を発しながら、玉遊びに没頭している。
そんな子供の姿を見て、私は心癒された。
と、同時に、よく考えてみると「この状況は非常にヤバイのではないか?」と、私は思った。
なぜなら、子供達が遊んでいる場所はマンションの駐車場であるからだ。そのマンションはまだ新築で、駐車場には、高級車といかないまでも、新車に近い状態のピカピカと光り輝く車が、ズラリと並んでいる。
もし、子供の蹴ったサッカーボールが、そのピカピカの車に当たったりしたら、その車の持ち主は怒り狂い、この無邪気な子供達を、八つ裂きにしてしまうのではないか。
私は、心配になった。
「このままではいけない。玉遊びを止めさせなければ……」
と、思った私は、子供達に声を掛けることにした。
「ヘイ! そこのボーイ達! よく聞きな!」
「んー、なあに?」
「ここは、玉遊びする場所じゃないぜ! 危ないからよそに行きな!」
「はーい」
よしよし、なかなか聞き分けがいい、ボーイ達で良かったぜ。
次の日の新聞に《マンションの駐車場で、少年が八つ裂きに!》という記事が載るのを未然に防いだ私は、その駐車場を後にした。
だが、しばらくすると、また私の耳に、人間から出たものとは思えない奇声が、マンションの駐車場の方から聞こえてきた。
私は「まさか」と思い、マンションの駐車場へと足を向け、そっと陰から覗き込んでみた。
すると、どうだろう。さっき私が注意したボーイ達が、またマンションの駐車場で、玉遊びに興じているではないか。
私は思わず、そのボーイ達に、叫びそうになる衝動に駆られた。
「お前らに、本当の血の色ってやつを教えてやろうか?」と。
だが、止めた。アホらしいからである。そのマンションの車がどうなろうが、子供がどうなろうが、知ったこっちゃない。私は、痛くも痒くもないのだから。
ただひとつ、気になることがあるとすれば、あのマンションの住人は、なぜ、あのボーイ達を注意しないのだろうか。ということである。
買ったばかりの自分のピカピカの車が、今にも無邪気な小悪魔の毒牙にかかろうとしているのに、なぜ、阻止しようとしないのだ。
もし私が、そのマンションの住人だったら、全力で阻止するだろう。そして、私の車にキズの一つでもつけようものなら、ブッ殺すとはいかないまでも、
「三途の川の辺(ほとり)くらいは散歩させてやろうか? グハハハハ!」と思うのである。
こんな私は、間違っているだろうか。
私は、ふと思う。
「自分の子供の頃はどうだったのだろうか?」と。
つい先日、我が母校の小学校へ、仕事で行く機会があったので、懐かしさも感じながらも、私は母校の校門をくぐった。
調度、昼休みの時間だったようで、グラウンドからは、子供達のはしゃぐ声が聞こえる。
と思いきや、私はそのグラウンドを見た時に、ガク然としてしまった。
確かに、子供達がはしゃいでいる。それは何の問題もない。問題があるとすれば、そのはしゃぎかたであろうか。
まるで、猿山のサル。いや、もっと言うならば、私は『猿の惑星』に降り立った、一人の宇宙飛行士の気分だった。アドレナリンの大安売りとも言える、異常なまでの人間離れしたハイテンションに、度肝を抜かれたのだ。
私は思った。「着陸する星を間違えてしまったのでは?」と。
でも、よくよく考えてみると、自分が子供の頃も、そうだったように思える。子供達が変わったのではなく、私が大人になっただけなのだ。なので、いちいち子供のすることに驚く必要もない。
だって、私が子供の頃の大人も、私と同じ考えをしていたはずだから。
余談だが、日曜日の昼下がりに、例のマンションの駐車場を通りかかった私は、ある光景を目にする。
相変わらず、キャッチボールやサッカーに興じるボーイ達に紛れて、そのボーイ達の父親らしき人が、一緒になって玉遊びに夢中になっていた。
私は、この時思った。
「ああ、このマンションの人々は、車のことよりも、子供の無邪気な笑顔が好きなんだな」と。
おそらく、この駐車場の車が、子供の玉遊びによって傷つけられても、笑って許せる、寛大な精神の持ち主なのだ。
残念ながら私は、その精神は持ち合わせていない。
どうやら私は、人としてまだまだ修業が足りないようだ。
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