この身が朽ち果てる前に

レン太郎

文字の大きさ
5 / 45

子供のブルース

しおりを挟む

 私は子供が好きだ。
 いや、やっぱ嫌いだ。
 うん、やっぱどっちでもいいや。

 子供というのは、非常に無邪気な生き物だ。
 つい先日、私の家の近くのマンションの駐車場で、キャッチボールやサッカーに興じる無邪気な子供を、私は目撃した。
 明るく元気に、時には人間から出たものとは思えない奇声を発しながら、玉遊びに没頭している。
 そんな子供の姿を見て、私は心癒された。
 と、同時に、よく考えてみると「この状況は非常にヤバイのではないか?」と、私は思った。

 なぜなら、子供達が遊んでいる場所はマンションの駐車場であるからだ。そのマンションはまだ新築で、駐車場には、高級車といかないまでも、新車に近い状態のピカピカと光り輝く車が、ズラリと並んでいる。
 もし、子供の蹴ったサッカーボールが、そのピカピカの車に当たったりしたら、その車の持ち主は怒り狂い、この無邪気な子供達を、八つ裂きにしてしまうのではないか。
 私は、心配になった。

「このままではいけない。玉遊びを止めさせなければ……」

 と、思った私は、子供達に声を掛けることにした。

「ヘイ! そこのボーイ達! よく聞きな!」

「んー、なあに?」

「ここは、玉遊びする場所じゃないぜ! 危ないからよそに行きな!」

「はーい」

 よしよし、なかなか聞き分けがいい、ボーイ達で良かったぜ。
 次の日の新聞に《マンションの駐車場で、少年が八つ裂きに!》という記事が載るのを未然に防いだ私は、その駐車場を後にした。

 だが、しばらくすると、また私の耳に、人間から出たものとは思えない奇声が、マンションの駐車場の方から聞こえてきた。
 私は「まさか」と思い、マンションの駐車場へと足を向け、そっと陰から覗き込んでみた。
 すると、どうだろう。さっき私が注意したボーイ達が、またマンションの駐車場で、玉遊びに興じているではないか。
 私は思わず、そのボーイ達に、叫びそうになる衝動に駆られた。

「お前らに、本当の血の色ってやつを教えてやろうか?」と。

 だが、止めた。アホらしいからである。そのマンションの車がどうなろうが、子供がどうなろうが、知ったこっちゃない。私は、痛くも痒くもないのだから。

 ただひとつ、気になることがあるとすれば、あのマンションの住人は、なぜ、あのボーイ達を注意しないのだろうか。ということである。
 買ったばかりの自分のピカピカの車が、今にも無邪気な小悪魔の毒牙にかかろうとしているのに、なぜ、阻止しようとしないのだ。
 もし私が、そのマンションの住人だったら、全力で阻止するだろう。そして、私の車にキズの一つでもつけようものなら、ブッ殺すとはいかないまでも、

「三途の川の辺(ほとり)くらいは散歩させてやろうか? グハハハハ!」と思うのである。

 こんな私は、間違っているだろうか。

 私は、ふと思う。
「自分の子供の頃はどうだったのだろうか?」と。
 つい先日、我が母校の小学校へ、仕事で行く機会があったので、懐かしさも感じながらも、私は母校の校門をくぐった。
 調度、昼休みの時間だったようで、グラウンドからは、子供達のはしゃぐ声が聞こえる。
 と思いきや、私はそのグラウンドを見た時に、ガク然としてしまった。
 確かに、子供達がはしゃいでいる。それは何の問題もない。問題があるとすれば、そのはしゃぎかたであろうか。
 まるで、猿山のサル。いや、もっと言うならば、私は『猿の惑星』に降り立った、一人の宇宙飛行士の気分だった。アドレナリンの大安売りとも言える、異常なまでの人間離れしたハイテンションに、度肝を抜かれたのだ。
 私は思った。「着陸する星を間違えてしまったのでは?」と。

 でも、よくよく考えてみると、自分が子供の頃も、そうだったように思える。子供達が変わったのではなく、私が大人になっただけなのだ。なので、いちいち子供のすることに驚く必要もない。
 だって、私が子供の頃の大人も、私と同じ考えをしていたはずだから。

 余談だが、日曜日の昼下がりに、例のマンションの駐車場を通りかかった私は、ある光景を目にする。
 相変わらず、キャッチボールやサッカーに興じるボーイ達に紛れて、そのボーイ達の父親らしき人が、一緒になって玉遊びに夢中になっていた。

 私は、この時思った。

「ああ、このマンションの人々は、車のことよりも、子供の無邪気な笑顔が好きなんだな」と。

 おそらく、この駐車場の車が、子供の玉遊びによって傷つけられても、笑って許せる、寛大な精神の持ち主なのだ。
 残念ながら私は、その精神は持ち合わせていない。

 どうやら私は、人としてまだまだ修業が足りないようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...