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怪盗ギン次郎参上
しおりを挟むとあるDVDショップに、「プレミア物のDVDを盗む」という、犯行の予告状が送り付けられた。
通報したのは、DVDショップの店長で、はじめは警察もイタズラだと思い、まともに対応しなかった。
だが、店長がどうしてもと言うので、刑事を一人、DVDショップへと向かわせることとなった。
刑事の名は、黒川ヒデキ。
「ったく、なんで俺が、こんなくだらん事件に……」
と、嫌々ながらも黒川は、予告状が送られたDVDショップへと向かったのであった。
DVDショップにて──。
黒川は早速、店長に詳しい話を聞くことにした。
「こちらに、犯行の予告状が送り付けられたという話ですが」
「ええ、これです。見て下さい」
そう言うと店長は、黒川に予告状を手渡した。
【予告状】
今夜0時
『江口スケベ子』のDVDを
いただきに参上します。
ー怪盗ギン次郎ー
「江口スケベ子……本当にこんなDVDがあるんですか?」
「それは“えぐち”と読まずに“エロ”と読むんですよ」
「エ、エロスケベコ……すごい名前ですね」
「ええ、突如としてAV界に登場し、一本のDVDを発売して引退した、幻のAV女優です」
店長は、熱く語りだした。
「名前もすごいんですけど、顔も美人でスタイル抜群。マニアの間では、高値で取引されてる、プレミアDVDです」
「高値って、どれくらいですか?」
「20万前後ですね」
「た、高っ!」
どうやら、プレミアDVDであるのは間違いないようだ。
それにしても、いまどき予告状を送り付けるような古風な奴、怪盗ギン次郎とは、いったいどんな奴なのだろうか。黒川は少しだけ、興味がわいてきた。
そして、時刻は夜の11時50分を回ったのであった。
「あと10分ですね」
店長は心配そうに、黒川に言った。
「イタズラかもしれませんからね。ところで、DVDはどちらに?」
「はい、こちらの金庫に大切に保管してます」
見たところ、どこにでもある普通の耐火金庫のようだが、DVD一本を守るには、十分過ぎるくらい頑丈そうだ。
「これなら大丈夫ですね」
と、黒川が安心して言ったその時、深夜0時を告げる、黒川の腕時計のアラームが、ピピピと鳴った。
そして、
「来ないですね。やっぱりイタズラだったようです」
と、黒川が言ったその時である。
「アーハッハッハッハッ!」
どこからともなく、怪しい笑い声が聞こえてきたのである。
「だ、誰だっ!」
「ここだここだ!」
その声は、店の中から聞こえてきているようだ。
「こっちか!」
黒川は振り返った。
すると、DVDの棚の上。黄色いTシャツにジーパンにサングラス。そして、唐草模様の風呂敷をマント代わりして、その男は悠然と立っていた。
「なんだ、お前は?」
「私の名ですか」
唐草マントをひるがえし!
今日もイクイクすぐにイク!
怪盗ギン次郎! 参上!
「また、アホが一人増えたか……」
黒川は、頭を抱え込んだ。どうやら、頭痛がしてきたようだ。
すると、
「江口スケベ子のDVD、たしかに頂戴いたしました」
ギン次郎は、店長に意気揚々と言い放った。
「ええ! そんなはずは……」
店長はDVDを確認しようと、慌てて金庫を開けようとした。
だが、
「ダメだ! 開けるなっ!」
怒鳴り声をあげた黒川が、店長を止めた。
「だって、DVDが盗まれたかもしれないんですよ」
だが、店長は焦っている。
「それが奴の手だ。盗んだと嘘をついて、金庫を開けさせるつもりなんだ」
そう言いながら、黒川はギン次郎を睨みつけた。
「本当にいただきましたよ。ほらね」
だがギン次郎は、箱に入っていないDVDのディスクを、黒川に見せた。
「ああーっ! あれはたしかに、江口スケベ子のDVDです」
店長は取り乱している。
「金庫の鍵を貸して下さい」
黒川は、店長から鍵を受け取り、中身を確かめるため、金庫を開けた。
しかし、江口スケベ子のDVDは、まだ金庫に保管してあった。
「あるじゃねーか!」
「問題は中身ですよ。ナ・カ・ミ」
「中身だと?」
「美少女アニメのDVDと、すり替えておきました」
そう聞くと黒川は、DVDの箱を開らいた。
「美少女戦士パリキュア……なんだこりゃ?」
「今、大人気の美少女アニメですよ。江口スケベ子の代わりに差し上げます」
すると店長が、
「パリキュアならアリだな」
と、満足気にしている。
「アリなのかよっ!」
黒川は、とりあえず突っ込んでみた。
「じゃあ、いただく物はいただきましたし、私はここらで失礼しますよ」
そう言うとギン次郎は、なにやら黒い玉を取り出して、床に叩きつけた。
「えい!」
ガン!
だが黒い玉は、鈍い音をたてて転がっただけだった。
「あ、あれ?」
「お前、いったい何がしたいんだ?」
「いや、この玉、ここへ来る途中で拾ったんですけど」
「……で?」
「煙とか出ませんね」
「煙玉と思っていたのか?」
「はい」
「んな都合のいいもん、落ちてるわけねーだろっ!」
「仕方ない。今日のところは、普通に逃げることにしまーす!」
と、ギン次郎が逃ようとした時、サングラスがズレて、素顔をチラリ覗かせた。
「お、お前は……」
そして黒川は、その顔に見覚えがあった。
「おい、ちょっと待て!」
「はい?」
ギン次郎は立ち止まり、黒川の方を振り返った。
「とうとう泥棒にまで成り下がりやがったか……この、アホ探偵!」
そう、黒川が見た、怪盗ギン次郎の素顔とは、あの名探偵レン太郎だったのだ。
「探偵? なんの事ですか?」
「しらばっくれてもわかるんだよ! お前、レン太郎だろ!」
「レン……太郎?」
レン太郎の名を聞くと、ギン次郎は少し困惑した表情を見せた。
「お前の正体はわかってるんだ。大人しく逮捕されるんだな」
黒川は、ギン次郎ににじり寄った。
「そうはいきませんよ!」
と、ギン次郎が再度逃げようと、店の出入口に走りだしたその時である。
「ちょっとお待ちなさいな」
「だ、誰だっ!」
そこには一人の男が、ギン次郎の行く手を阻むかのように、立ちはだかっていた。
家に恋人200人!
一夫多妻なバーチャル探偵!
名探偵レン太郎!
「え、ええーっ!」
黒川はレン太郎の登場に、びっくりたまげている。ギン次郎のことをレン太郎だと思っていたのだから無理もない。
「な、なんで、お前が二人いるんだ?」
黒川は、レン太郎とギン次郎を交互に指差しながら、アタフタしている。
「二人って……私は一人しかいませんが、黒川さん」
そう言い終わるとレン太郎は、ギン次郎を指差して、こう言い放った。
「江口スケベ子のDVDは、すべて男の夢とロマンだ! 絶対に渡さないぞ!」
すると、
「レ、レン兄ちゃん……」
ギン次郎は、レン太郎に向かってそう呟いた。
「……は?」
「レン兄ちゃん! 俺だよ俺! ギン次郎だよ!」
そう言いながらギン次郎は、かけていたサングラスを外した。
「ギ、ギン次郎? おおーギン次郎じゃん! てかお前、今までどうしてたんだ?」
「いやーヒマで金ないもんだから、怪盗とかやってみよっかなーとか思っちゃってさー」
「マジで? オレは今、探偵やってんだよ」
「え、レン兄ちゃんが探偵? ていうか似合わねーし」
「やっぱ、お前もそう思う?」
「うん、思う」
「アーハッハッハッハッ!」
二人の会話は、留まるところを知らなかった。
そこへ黒川が、話に割って入ってきた。
「二人して勝手に盛り上がってんじゃねーよ!」
「あ、そうそう、忘れてました。ニャハハ」
黒川に愛想笑いを浮かべると、レン太郎はギン次郎に向かって話し始めた。
「ギン次郎。この人は、女の扱い方もろくに知らない、素人童貞的な人だが、とても怖い刑事さんなんだよ。だからお前もDVDを返して、大人しく帰った方がいいぞ」
「え? この人、素人童貞刑事なの?」
ギン次郎は、まるで汚らしい物でも見るかのような目で、黒川をじっとりと見つめた。
「違うわーっ!」
「いいや! 焦って否定するところが怪しい」
「というか……なんでお前ら、そんなにそっくりなんだ?」
「だって、私たち双子ですもん」
「ふ、ふ、双子だとぉーっ!」
黒川は、異常なまでにびっくりしている。
「驚き過ぎです、黒川さん」
「い、いや……お前と同じ遺伝子を持った人間が、この世にもう一人いると思ったらつい……」
「病原菌扱いしないで下さい!」
レン太郎とギン次郎は、声を揃えて黒川に突っ込んだ。
「そういえば、お前ら」
「はい、なんでしょう?」
レン太郎とギン次郎は、声を揃えて返事をした。
「久しぶりの対面のようだが、今まで会わなかったのか?」
「それには深い事情があるんですよ、黒川さん」
レン太郎とギン次郎は、声を揃えて言った。
「ていうかな……」
「なんですか?」
レン太郎とギン次郎は、声を揃えている。
「変態度が増すから、声を揃えてしゃべるな」
「だって、双子だからしょうがないじゃないですか」
だが、また声を揃えている。
「ああーっ! もういい、わかった。レン太郎、お前が答えろ」
「へい、がってんです」
「で、どんな事情なんだ?」
するとレン太郎は、遠い目をしながら語り始めた。
「実は、私とギン次郎は、遠い昔に生き別れになっていました。そして、その生き別れの事情とは……」
「事情とは?」
「……あれ」
「どうした?」
「なんだっけ?」
「覚えてねーのかよっ!」
「レン兄ちゃん……俺も覚えてないよ」
「オメーもかよっ!」
だがこの時、黒川は思った。
レン太郎は二重人格者で、しかも今はアホな方だ。生き別れになった時に、まともな方であったとするならば、その当時の記憶が、あるわけがない。
そしてまた、ギン次郎も二重人格者だとしたら、覚えているはずもない。
でも、二人とも兄弟という認識があるのは、双子ならではの成せる技ということか。
てことは、今、こいつらに銃声を聞かせれば、二人ともまともな人格に戻るということか?
いや、レン太郎は銃声で人格が変わるが、ギン次郎も銃声で変わるとは限らない。
でも、試しに一発だけ撃ってみるか?
ダメだ。そんな事したら、俺はクビになる。
いや待てよ。犯人が銃を持っていたので、やむを得ず発砲したという事にすれば──。
やっぱりダメだ。バレたらクビになる。
と、黒川はブツブツと小声で呟きながら、銃がしまってある懐に、手を入れたり出したりしている。
「レン兄ちゃん、さっきからあの刑事さん、念仏唱えながら変な動きしてるよ」
「ギン次郎……人間、童貞が長いと、ああなってしまうんだよ」
「そっかぁ……じゃあ、オレたちも気をつけてないとね」
「ああ、そうだな」
「アーハッハッハッハッ!」
と、レン太郎とギン次郎が、話していると、カチャッとなにやら金属音が、黒川の方から聞こえてきた。
「テメエら……威嚇射撃じゃなく、本当に命中させてやろうか?」
黒川は怒りにうち震えながら、レン太郎とギン次郎に銃口を向けていた。
「アヒャー! すんません黒川さん! ウソですウソです。ぜーんぶウソですからーっ!」
と、また二人で声を揃えて、必死で黒川に謝っている。
「フン! 命拾いしたな」
黒川は銃を下ろした。
すると、
「ところでギン次郎」
「なんだいレン兄ちゃん?」
また二人の会話が始まった。
「お前、いつの間にDVDをすり替えだんだ?」
「当ててみてよレン兄ちゃん」
「……うーん」
レン太郎は、ガラにもなく真剣に考え込んでいる。
「わかったぞ! ギン次郎!」
「わかったの? レン兄ちゃん!」
「金庫に入れる前に、店に忍び込んですり替えたんだな?」
「当たりー! さすがレン兄ちゃん。探偵なだけあるね」
「えーそれ程でもあるけどー」
「アーハッハッハッハッ!」
そこへ黒川が、
「んなこと誰でもわかるわーっ!」
と、我慢しきれず突っ込んだ。
「ええ! そうだったんですか?」
だが、店長はびっくりしている。
「あんたも、金庫に入れる前に確認くらいしとけーっ!」
と、また黒川が突っ込んだ。
そして、その勢いのまま黒川は、ギン次郎に向かって話し出した。
「おい! ギン次郎!」
「な、なんですか?」
「お前を逮捕するのを、忘れるところだったぜ」
「ヤバ……逃げよ。じゃあ、レン兄ちゃんまたねー!」
そう言い残すとギン次郎は、出入口に向かって走り、外に出た。
「ま、待てコラ!」
そして黒川もその後を追った。だが、黒川が店から出ると、ギン次郎は、もうかなり遠いところまで逃げていた。
「な、なんて逃げ足だ……」
しかし、黒川は諦めずに追い掛けようとした。
だがその時、
「待って下さい、黒川さん」
レン太郎が、黒川を呼び止めた。
「なんだ? 邪魔するとお前も逮捕することになるぞ」
「いえ、邪魔するつもりはありませんが……」
「だからなんだ?」
「DVDも戻ってきた事だし、今日のところは見逃してやってもらえませんか?」
そう言いながらレン太郎は、盗まれたはずのDVDを黒川に見せた。
「な、なんでお前が持ってんだ?」
「さっき、ギン次郎のポケットから、こっそり抜き取っておきました。だから、もういいじゃないですか?」
そう言い終えるとレン太郎は、江口スケベ子のDVDを店長に手渡した。
「あ、ありがとうございます!」
店長は涙ながらに、レン太郎に感謝している。
すると、レン太郎はにんまりと笑いながら、店長に近づいた。
「ところで店長さん」
「はい、なんでしょうか?」
「そのDVDですが、ロムにコピーして私にくれません?」
「コピーですか?」
「そうですよ、それに大量にコピーして売りさばけば、めちゃめちゃ儲けますよ」
「な、成る程……それは名案ですな」
と、そこへ黒川が
「おい、お前ら」
「は、はい?」
「刑事の前で、違法販売の話をするとは、なかなかいい度胸してんじゃねーか」
黒川は、指をパキパキ鳴らしている。
「い、いやーあくまでも例えばの話ですよ。例えば」
「うるせーよ!」
レン太郎と店長に、黒川の鉄拳が炸裂した。
「本当にやったら、お前ら逮捕だからな!」
「はーい、わかりましたぁー」
不服ながらも、レン太郎と店長は返事をした。
「あと、ギン次郎のことだが……」
「が、なにか?」
「今日は逃がしたが、窃盗の容疑で手配はさせてもらうぞ」
「それは仕方がありませんね」
「じゃあ、俺は暑に戻るからな。お前も帰れよ」
「いえ、私はまだ店長さんと話が……」
「いいから帰るんだよっ!」
そして黒川は、レン太郎の首根っこを掴み、引きずりながら店を後にした。
「く、黒川さん。私の分のコピーだけでも……」
「うるさいっ!」
見事にDVDを取り返した、名探偵レン太郎。
次回は、どんな現場に現れるのであろうか。
そして、その頃ギン次郎は──、
「に、逃げてる途中で、DVD落としたぁーっ!」
(つづく)
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