千文字小説

レン太郎

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カエル

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「カエルの歌が聞こえてくるよ」

 そう口ずさみながら家を出た冬の朝──。
 何となく浮かんだメロディーを口ずさんだだけ。だって、あたしはカエルが嫌いなんだもの。
 ふとアスファルトの道路を見ると、カエルが車にひかれていた。
 でも、あたしは可哀相だとは思わない。だってカエルだもの。
 なんの価値もない生き物。そういえば、皮をむいて焼けば美味しいっておじいちゃんが言ってた。
 でも、あたしは食べようとは思わない。だってカエルだもの。

 小さな頃は、よくカエルの口に爆竹を突っ込んで遊んでたな。
 爆竹に火をつけて、空に投げる。高く舞い上がったカエルが、パーンと木っ端みじんに砕け散るのを見て、近所の花火大会よりも興奮したのを思い出した。
 でも、そんなことも、今となってはしなくなった。あたしも大人になったということか。

 あたしはカエルの亡きがらをじっと見た。何度も車に踏み潰されたカエル。その姿は、もはや両生類──。
 そう、生物としての面影はなく、ペラペラのせんべいのようだった。
 べったりとアスファルトにこびりつき、時折吹いてくる風に、足のような物がたなびいていた。

 とここで、あたしはふと思う。なぜこんな季節にカエルがいるのだろうか。もしかして、冬眠するのを忘れたのか。だとしたら馬鹿なカエルだ。
 あたしはその場にしゃがみ込み、カエルをじっと見つめた。このカエルの生涯は、哀れにもここで終わってしまったが、はたしてこいつは幸せだったのか。
 家族はいたのか。子供はいたのか。もしそうでなかったら寂しい人生だ。そう思いながら、あたしはペラペラなカエルに手を合わせた。

 理由は、ただ、何となく。

 べつに成仏して欲しいからではない。だってカエルだもの。

 とそこへ、一台のダンプカーが、ものすごい勢いで目の前を横切り、あたしはその冷たい風に追いやられ、尻餅をついた。
 そのまま曇天の空を仰ぐと、今までこびりついていたカエルが、ひらひらと宙を舞っているのが見えた。
 まるで、残り一枚になった葉が、木から巣立っていくように。
 でも、あたしは風流だなんて思わない。だってカエルだもの。
 あたしは起き上がり、尻をポンポンと叩いた。カエルはそのまま風にあおられ、どこかへ飛んで行ってしまったようだ。
 また、アスファルトの道路を見る。今までカエルがいた場所が、くっきりと円くなっていた。
まるで、日食で見られるダイヤモンドリングのように。
 でも、あたしは綺麗だなんて思わない。だってカエルだもの。

 そして、あたしはまた、歌いながら足を踏み出した。

「カエルの歌が聞こえてくるよ」
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