魔界の姫君は、わんこ天使に手を焼いておりまして。

古都助(幸織)

文字の大きさ
2 / 29

第一話・君との出会い

しおりを挟む

「ん~……。お~い、お兄さん、生きてるか~い?」

 旅の途中で通りがかった、とある山中。
 シャルロットは歩き読書をしている最中に、所謂『生き倒れ』に瀕している男を見つけた。
 ――いや、思いっきりその背中部分を踏み付けてしまった。
 せっかく面白いシーンを読んでいたのに、まったく……。静かに本を閉じ、足をどかす。

「……ふむ」

 何やら、男らしい身体つきの上に綺麗な顔をしているが……、どこもかしも傷だらけ。
 
「……こっちも、真っ赤だな~」

 人間じゃない。横向きに倒れているその背中から生えている……、紅に染まった翼らしきもの。
 それに……、

「珍しい混血だな~。わんこか?」

 男の黒銀髪の中から生えている、へにゃんと垂れた二つの獣耳。
 お尻からも同じ色のふさふさ尻尾が生えており、男が二つの種族の血を引いている事を証明している。

「綺麗と可愛いが一緒って、お得だな~。だけど」

 シャルロットは翼に触れ、紅を指先に掬い取った。……間違いない、この匂い、血だ。

「はぁ~……、嫌だなぁ。こういう生臭いの苦手なのに」

 だが、放っておけば死んでしまうかもしれないこの男を放って立ち去る気にもなれない。
 自分は善人ではないが、かといって、悪人に染まっているわけでもない。
 一応、人並みの同情心というものくらいは持ち合わせている。

「まぁ、助けるだけならいっか」

 どう見ても厄介な物件さんだが、傷の治療をして立ち去れば問題はない。
 シャルロットは男の身体に両手を当て、瞼を閉じて詠唱を開始した。
 
「……うっ」

「はいはい、我慢我慢~。君には辛いだろうけど……、ちゃんと耐えるんだぞ~」

 元は純白の美しい翼だったのだろうそれを見ながら、シャルロットは発動させた治癒の術によって男を癒し続ける。……普通の術者が使うものと違って、自分の術とそれに宿っている力が、彼にとって毒であるとも知りながら。

「……誰、だ」

 治療の最中、苦しそうに呼吸をしていた男が、その瞼を開いた。
 混濁としている意識の中での目覚めだ。別段支障はないが……。
 男の力強い意志の力を感じるサファイアの瞳を直視した瞬間、シャルロットの胸に凄まじい衝撃が起こった。

「ちょっ、ちょっと君っ!! ストップ!! ストップ!! 私は敵じゃない!! と、通りすがりの、え~と、え~と、た、旅人だ!! 君が怪我をしているようだから、手当をっ」

 ……って、自分の治療が男にとって苦痛を伴わせるものである以上、信じろというのは無理な話か。
 だが、この苦痛を耐えてくれれば、傷を癒す事が出来る。
 男は手負いの獣さながらにシャルロットを睨みつけていたが、徐々に自分の傷が塞がっていく事に気付いたのか、やがて意識を失ってしまった。……た、助かった!!

「う~ん……、この子、相当強い力を持ってるんだなぁ。危うく支配されるところだった。危ない危ない」

 人間以外の異種族、例えば、この男の属している種族の中でも強大な力を有している者は、他者を見ただけで自分の従属に堕とす事が出来る場合がある。
 恐らく、この男はシャルロットを敵かもしれないと思い込み、その力を発動させようとした。
 その強制力に押し負ける前に留まってくれて良かった……。
 
「まったく、治療中に仕掛けるなんて卑怯じゃないか。可愛くない奴だな、君は」

 普通に対峙していたのならば、勿論簡単に押し負ける事はなかっただろうが……。
 まぁいい。さっさと治療をして逃げよう。
 シャルロットは男の傷を全て塞ぎ終えると、サービスで体力が早く回復する術と翼の汚れまで綺麗にしてやり、木陰に蹴り飛ばして結界を張り、それからニンマリとやり切った笑顔でその場を去って行った。
 あの男を心配したからじゃない。自分のやった事を無駄にされたくないからだ。


 ――だが、シャルロットは知らない。
 この人助けが、自分の運命を面倒な事態に発展させてしまうフラグだった、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

処理中です...