魔界の姫君は、わんこ天使に手を焼いておりまして。

古都助(幸織)

文字の大きさ
16 / 29

第十五話・シグルドの友人

しおりを挟む

「シグルドぉおおおおおおおお!!」

「シャルロット、危ない」

「は?」

 回廊の向こうから噴煙を上げながら突進してきたひとつの影。
 その突進物の姿が明確になる前に、シャルロットはシグルドの片腕に担がれ、回廊の外に逃れる事になった。
 二人がいた場所を爆走と共に抜けるかと思われた突進物だが、まさかの瞬時方向変更によって直角に曲がったそれが、回廊の外に広がっている芝生の方へと突っ込んでくる!

「シグルドぉおおおおおおおお!!」

「鬱陶しい」

 シャルロットを庇い、片足のブーツ底を勢いよく突き出すシグルド。
 見事にその靴裏と熱烈なキッスをする羽目になった突進物が……、ずるりと、その場に崩れ落ちていく。
 
(な、何なんだ……っ、一体)

 背中から純白の翼が生えているという事は、シグルドと同じ天使だ。 
 頭の上の部分は深い蒼色で、途中から綺麗な水色の髪が広がっている。
 染めているのではなく、きっと地毛だろう。無理のない色の移り変わりがとても美しい。
 おん、いや、これは、多分男だろう。筋肉の付き具合からみて。
 ぐぐっと苦しそうな声が漏れた気がするが、男はすぐに勢いよく顔を上げた。
 
「いやぁ~! 相変わらずシグルドはクールだよなぁ~。ふふ、元気そうで何よりだよ」

 足蹴にされた事はどうでもいいのか?
 愛想たっぷりの笑顔で顔を撫でながら立ち上がった男に、シグルドが微妙な表情で溜息を吐く。
 知り合い……、だと思うが、やけに温度差があるような。
 男天使が改めて両手を広げ、シグルドに向かって言う。

「さぁっ! 改めて再会の抱擁を!!」

「……」

「シグルド君……、君が飛び込んでくるのを待っているみたいだぞ?」

「男に抱き着く趣味はない。行こう、シャルロット」

 一方通行の片思いか何かなのか?
 気まずげに男を指さすシャルロットに爽やかな笑みを見せ、シグルドはその肩を抱いて回廊に戻り始める。
 だが、相手もそのままスルーされる気はないようで。

「シグルドぉおおおお!!」

「ぐっ!!」

 背後からダイブされ、がっしりと羽交い絞めにされてしまったわんこ天使。
 振り落とそうと奮闘しても、男天使はなかなか離れない。
 ……まるで、某妖怪ジジィのようだと、シャルロットはシグルドに降りかかった面倒を神妙に頷きながら観察する。

「最近、仕事が別々で全然会えなかったしさ~!! それにっ、休みの日が重なっても、どっかに行っちゃってるしっ、寂しかったんだぞぉ~!!」

「気色の悪い事を言うな!! シャルロットにBLだと誤解されるだろうが!!」

「へ? びーえる? なにそれ?」

「お初にお目にかかる、天使殿。私はシャルロット。魔王の娘だ。よろしく頼む。それと、今、シグルド君が言った戯言は気にしないでくれ」

「魔王の、娘……。あぁっ!! ラジエル様が言ってたお姫様だね!! あ、じゃなくて……。よっと」

 男天使はシグルドから離れ、自分の服を軽く叩いて姿勢を正した。
 貴人に対する、騎士のような仕草でシャルロットの手を取り……。

「お初にお目にかかります。私は天界の軍に属する者、クリスウェルトと申します。第七部隊の部隊長を拝命しております。シャルロット王女殿下にお目にかかれました事、光栄に」

「あぁ、かしこまらなくていい。普通に接してくれ」

「そうですか? では、よろしくね~! シャルロットちゃん!!」

 むぎゅり。普通にとは言ったが、まさか初対面で熱烈なハグを受けるとは思わなかった。
 少々馴れ馴れしいタイプの天使のようだが、……まぁ、嫌悪感を覚えないからいいか。
 されるがままにむぎゅむぎゅと愛でられていたシャルロットだが、彼女は忘れていた。
 自分のすぐ傍に、非常に危険な綱渡り状態の精神をした男がいる事に。

「クリス……」

 暗黒オーラ+ダダ漏れになっている殺気の奔流。
 シグルドに肩を掴まれたクリスウェルトが振り返り、怒れる大魔神にも臆さずのたまう。

「え? あぁ、シグルド。大丈夫大丈夫! 次はお前の番だからな~!! この溢れんばかりの愛情で、お前を」

 シグルドに対し笑顔で返したクリスウェルトだったが、彼は喋っている最中に遠く空の彼方へと吹っ飛ばされてしまった……。勿論、やったのはシグルドだ。
 
「はぁ、はぁ……っ。くそっ!!」

「し、シグルド、君……。クリスウェルト君は、と、友達、じゃないのか? 君との再会を喜んでいたようだが」

 何故に友達をあんな風に手荒な扱いで強制退場させるのか。
 シャルロットが首を傾げながら近づくと、シグルドが息を切らしながら剣呑な目を寄越してきた。

「駄目だ」

「は?」

「知らない男に、いや、男に身体を触らせるな……!」

「その筆頭が君なんだが……」

 と言いかけて、口を噤む。
 本人が無自覚なのに、わざわざ自分を窮地に追い込むような発言はよろしくない。
 よし、黙っておこう。話を逸らそう。
 
「クリスウェルト君は、友達なのだろう?」

「友達じゃない。いつもちょっかいをかけにくる、赤の他人だ」

「だが、君の事を好きそうだったぞ」

「BLじゃない!!」

「いや、別にBL扱いはしていない。ただ、特別に仲の良い親友、のように思われてるんじゃないかと、だな」

 シグルドにもちゃんと友達がいたのかと、ほっとしているだけなのだが。
 どうやら、二人の間には色々とすれ違い要素的なものがあるらしい。
 主に、クリスウェルトの片思……、ではなくて、一方通行な友情が大きいのだとか。
 構われたくないのに構われまくるので困っている、と。
 シグルドが面倒そうに彼との関係を話してくれた。

「いいじゃないか。クリスウェルト君から悪意は感じなかったぞ? せっかく気にかけてくれているのだから、君も歩み寄りを」

「アイツより、俺はシャルロットと友達になりたい」

「男同士の友情の方が何かとお役立ちだぞ? 風呂で裸の付き合いが出来る」

「一緒に入ろう、シャルロット」

「セクハラか!!」

 ただの女友達と風呂に入りたいなどと、よくも言えたものだ。
 この男の鈍感さはまさに、天然記念物並みの恐ろしさといえよう。
 シャルロットが一秒で具現化させた特大ハリセンでその頭をぶっ叩いてやると、シグルドの顔には「何故叩く?」と、不思議そうな気配が浮かんだ。

(シグルド君の中で、異性とは一体どういう位置づけなんだろうな!! 本当に!!)

 その瞬間、シャルロットの頭に恐ろしい想像が駆け巡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

処理中です...