蒼麗侯爵様への甘いご奉仕~蜜愛の館~

古都助(幸織)

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~二人の秘密(片想い編)~

蒼麗侯爵様への甘いご奉仕

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「んっ……、はぁ」

 咥内を圧迫している硬く熱い熱塊を、私は必死に慰める。
 自分がやっている事が、どれほど恥ずかしい事かは……わかっていたけれど。
 この行為を『強要』された日から一ヶ月、ようやく『元気』を取戻してくれたこの熱塊に喜びのような物も感じている。
 最初は、触っても何の反応もなくて……、本当に自分が彼のモノを不能にしてしまったのかと焦った。
  熱塊に奉仕しながら見上げた先に映る、クセのない蒼色の髪に、眼鏡の青年……。
  眼鏡の奥から私を見つめているのは、切なげに何かを堪えているような深緑の瞳。
  私の拙い奉仕に感じてくれているのだと、時折漏らす艶やかな吐息から感じた。

「フィニア嬢……上手くなったものですね。俺が命じた時は、触る事さえ嫌がっていたのに……」

「だって……、んっ、ちゅっ、『償い』をしろと言ったのは、……貴方でしょう」

「そうですね、貴方が蹴り飛ばした……くっ、はぁ、の、ですから、ね」

 ソファーの後ろに体重を預けるかのように、青年……セレイド侯爵は私の頭を右手で掴んで悩ましい声を漏らす。
 私が舐めている熱塊の機能の復帰を喜んでいるのか、その声音には嬉々とした気配が感じられる。

「フィニア嬢……、これは、『償い』であり、『罰』なのですからね。んっ……、ちゃんと零さずに、美味しそうに飲んでくださいよ」

「は、はい……」

 抗えない命令。私は自分で仕出かした事の報いをこの身で受ける。
 張り詰めてビクビクと震える熱塊を深く咥え込み、はしたないとわかっていても、懸命に舐めしゃぶる。
 セレイド様が姿勢を前屈みに変え、余裕のない動きで、腰を激しく揺らし始めた。
 咥内を突き上げるように、熱塊全体で犯してくる……。

「イイ子です……っ、この可愛らしい唇の中に、たっぷりと……くっ、吐き出してあげますよ」

「んんっ」

  顔を引く事も出来ず、彼の恍惚とした呻き声と共に、苦味のある液体が咥内へと注ぎ込まれた。
  どろりと……、喉の奥に流れ込んでくるセレイド様の精……。
  それを、咽そうになるのを堪えて必死に嚥下していく。

「いやらしいですね……。そんなに俺の蜜は美味しいですか?」

「んんっ、はぁ、んぐっ」

 熱塊を咥え込ませたまま、彼は緩く腰を揺さぶりながら、意地悪にもそう問いかけた。
 美味しいわけがない。けれど、これが私に出来る唯一の償いならば、甘んじて精を飲み込むしかない。
 吐き出したいのをわかっているのか、セレイド様は面白げに見ているだけだ。

「しかし、ようやく吐精出来るまでは回復しましたが、まだまだ油断は出来ませんね。またいつ、貴方に蹴り飛ばされた時のように不能になるか」

「……けほっ、けほっ」

「おや、飲み終わりましたか?」

「も、もう、こんなに……元気になったんですから、私はお役御免ではないのでしょうか?」

「駄目ですよ。俺がいいと言うまで……、貴方には『奉仕』を命じます。さぁ、立って。別室で口の中を綺麗にしてきてください」

「は……はい」

 セレイド様の深緑の瞳が、私の言った言葉に僅かな苛立ちを浮かべ、隣室の小部屋を指差した。
 よろよろと歩き出し、隣室へと入った私は、ズルズルと扉を背にして座り込む。

 ――どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 両親の計らいで、幼い頃から学んできた自衛の為の技。
 それを……、私は、あのセレイド侯爵様に渾身の力をもって繰り出してしまった。
 一か月前の……、パーティー会場のバルコニーで……。
 決してわざとではない。言ってしまえば、あれは事故のようなもの。
 しつこい殿方の誘いに捕まっていた私を救い出してくれたセレイド様。
 彼に優しくエスコートされ、二人で楽しい時間を過ごした夢のようなひととき……。
 その後、バルコニーに出て……、なんというか、良い雰囲気になってしまい、口付けを受け入れた。
 けれど……。

(仮にも、そ、外で、『あれ以上』の事をしようとなさるからっ)

 あろう事か、私との口付けで欲情を煽られたらしきセレイド様は、私のドレスを肌蹴させたのだ。
 うっとりとした眼差しで胸元に唇を這わせ、所有の証を付けるかのように、ちゅっと吸い付いた感触。
 その行為に……、男性との経験が皆無だった私は、羞恥とパニックで暴走し……。
 ――思わず、無意識に身体が動いていた。
 もしもの時にと習った護身術の最終奥義を、セレイド様の股間に向かって放ってしまったのだ。
 結果は、今の私の状態を見ればわかるとおり……。
 彼の立派な分身は、一時期使い物にならないほどにダメージを受けていた。
 他の女性を抱こうとしても、一向に反応しない分身。
 恥をかかされた、と、再会したパーティー会場の別室で凄まれ、責任を取れと追及されてしまった。
 正直、どう責任を取れと!? と困惑したものだけれど、まさか……。

(性的な奉仕を命じられるなんて……っ)

 彼の分身の機能が回復するまで、マメに自分の許に通い、その部分に奉仕をしろと……。
 でなければ、自分がされた屈辱を父に話すと脅すもだから、私は従うしかなかった。
 ……あの美しい貴公子の命じるまま、彼の分身と付き合い続けて一ヶ月。

(そろそろ、もう大丈夫だと……思うのだけれど)

 触ったり舐める事に、素直に反応を返すようになったセレイド様の分身。
 熱く膨れ上がる逞しい熱塊は、もうどこからどう見ても、完全に復活していると思う。
 けれど……、同時に……、彼と関係を絶つ事に、寂しいと感じている自分がいる事にも気付いていた。
 セレイド様はこの一ヶ月、奉仕の時間以外にも、私を外へと連れ出し様々な場所に連れて行ってくれた……。
 そんな時間は必要ないはずなのに……、時折、頭を撫でて微笑みかけてくれた事もある。
 意地悪だけど優しい……、そんなセレイド様に、私は……。

「痛っ!!」

「フィニア嬢、まだそこにいたんですか? いい加減待ちくたびれましたよ。早くしてください」

「ご、ごめんなさい」

 乱暴に開けられそうになった扉に後頭部を打ち付けられた私は、その意地悪な声音に謝罪し、急いで口を濯ぎ始めた。
 口内に残る……、苦い彼の味……。
 いずれ訪れる別れの時を思いながら、私は瞼を閉じた。


 ◆◆◆◆◆(城下町・とあるカフェ)・数日後◆◆◆◆◆


「アンタ……、まだあの男と関係してるわけ?」

「……だって、その……、まだ元気じゃないって……仰るから」

 そよそよと風に揺られる葉擦れの音を聞きながら、
 オープンテラス仕様のカフェの一角で、私はもじもじと、幼い頃からの親友にそう説明した。
 彼女は私と同じ伯爵家の娘で、アルディレーヌ・シャルドレア。お互いに十七歳。
 意志の強さを秘めたブラウンの瞳をこちらに向けながら、「なにそれ……」とげんなりしている。

「話を聞く限り、十分元気じゃないの」

「私もそう思うのだけれど……、本人が」

 数日前の奉仕の後も、「こんなものでは、全然元気になりません」と冷ややかに言われ、ソファーに押し倒され、腰をグリグリと押し付けられながら、長時間に渡って口内を彼の舌で攻められた。
 本人がまだ回復していないと主張してくる以上、私は奉仕を続けるしかない。

「それ……、アンタ、色々騙されていると思うわよ?」

「え?」

「十中八九……、アンタを手離したくないって事じゃない」

「う~ん、それってつまり……、まだ報復が足りてないと感じているという事かしら?」

「……この天然」

「え?」

 本当にわからいのか? と、アルディレーヌの視線が、呆れを滲ませた。
 セレイド様が私に強要している奉仕は、いわば、罪の償い。
 彼からしてみれば、自分の分身を危うく一生再起不能にしかけた女への報復のようなものだと思うのだけれど。
 アルディレーヌ、どうして残念な子を見るような目で私を見るのかしら?

「一応聞いとくけど……、アンタは、その男に対して、特別な感情とかないわけ?」

「と、特別!? ……え、えっと、そ、それは……」

「ふぅん、その様子じゃ……、惚れたわね?」

「ほ、惚れ!? そ、そんなわけっ……!!」

「じゃあ、その顔は何なのよ? 真っ赤になって、瞳をうるうる潤ませて……。私が男なら押し倒してるわよ?」

「アルディレーヌ!! 何を言っているの!!」

 た、確かに、セレイド様とはこの一ヶ月、誰よりも多くの時間を共に過ごしたといってもいい。
 けれど、それは、罪の償いをしなくてはならないからで……。
 関係が終わってしまうかも、と予感した時に覚えた寂しさは、あくまで……長く一緒にいたからで。
 決して恋という感情では……ない、はず。

『フィニア……、イイ子ですね』

 一瞬、頭の中にセレイド様の低く甘い声が響いたような気がした。
 普段は意地悪で冷たい印象のある人だけど、時折、奉仕が上手くいった時にかけてくれる言葉。
 私の顎の下を、子猫を愛でるかのように撫でた指先の感触……。
 それを思い出すだけで……、身体がはしたなく火照ってしまう。

「大丈夫、フィニア?」

「え、えぇ……。な、何でもないわ」

「そ。……で、ともかくね、その男に惚れてるんなら、さっさと告白した方がいいわよ。このままズルズルと『償い』に引き摺られてたんじゃ、取り返しがつかなくなるだろうし」

「ど、どういう事……?」

「そのうち、我慢出来なくなった狼が、アンタを食べちゃうって事よ」

「食べる……?」

 それは……、つまり、セレイド様と私が……えっと……。
 想像した瞬間、ボン! と顔がさらに熱をもって、思考を混乱させていくのがわかった。

「身体だけなし崩しに繋いでも、お互いの想いがわからなければ、ただのセフレでしょ」

「アルディレーヌ!! お願いだから恥ずかしい事を言わないでっ」

「アンタの反応の方が恥ずかしいわよ。……ってか、なんだか相手の男の気持ちがわかるような気がするわ」

「ど、どういう事?」

「フィニアって、Sっ気のある男からしたら、極上品だもの。たっぷりいじめて、反応を観察したいって思っちゃうんじゃないかしら?」

 親友のストレートすぎる追い打ちに、私は今すぐこの場を離れたくてしょうがなくなってしまう。
 仮にも、伯爵家の娘がオブラートに包む事もせず、ポンポンと破廉恥な事を言うのはどうかと……。
 と、そこで思い出した。アルディレーヌは、別名を使って女性向けの男女の睦み合いを主体とした物語を書いている事を。
 だからこそ、男性の心理も口にしやすのかもしれない。

「とにかく、関係を終わらせるにしても続けるにしても、一度はハッキリさせておいた方がいいわね。言い出せなくなる前に、ね」

「アルディレーヌ……」

「ま、……心配なんて、いらないでしょうけどね」

「え?」

 炭酸の効いたジュースを、ストローの先から吸ったアルディレーヌが、こちらを見ながら意味ありげな溜息を吐き出した。
 一体……何が心配ないのかしら……。


 ◆◆◆◆◆(セレイドの屋敷・自室)数日後の夕刻◆◆◆◆◆


「せ、セレイド様……、駄目っ」

「奉仕の時間に、駄目も何もないでしょう? さ、この細く美しい手のひらに、俺のモノを包んでください」

「んっ」

 屋敷に着いた早々、セレイド様に寝台へと押し倒された私は、彼の下腹部へと右手を導かれた。
 緩めた下服の中で熱を持つ熱塊が、私の指先の感触を受けてピクリと震える。
 私よりも大きな手が、奉仕を導くように小さな手の上から包み込んで込んできた。
 硬くなっていく熱塊を擦らせ、もう片方の空いている手で、私の頭を撫でるセレイド様。

「ふふ、貴方は本当に可愛い人だ。もう何度も俺のモノに触れているというのに、態度は初々しいまま……」

「だ、だって……あっ、また大きく……」

「貴方のせいですね。会う度に罪を重ねて……、本当にイケナイ子だ」

「そ、そんな……」

 扱く度に、セレイド様の熱塊から漏れ出す蜜……。
 それが潤滑油のように手の動きを助け、彼の熱塊をどんどん淫らに硬くしていく。

「セレイド様……、やっぱり、……もう元気になってるんじゃ……んんっ」

「黙りなさい。貴方が今出していいのは、俺を満足させる為の可愛い囀りだけですよ」

「んぁっ、んっ、ご、ごめんなさいっ」

 やっぱりだ……。十分に元気になっている事を指摘すると、セレイド様の機嫌が悪くなる。
 私に熱塊を愛撫させながら、深く奥まで交わるように口付けを押し付けては、舌を絡めて嬲っていく。
 まるで、正常な判断なんて下せなくなるように……。

「フィニア嬢、今日は……、少し変わった事をしましょうか」

「か、変わった事……?」

「大丈夫ですよ。怖がる事はありません。んっ」

 身体を起き上がらせたセレイド様が、私のドレスをお腹の辺りまで捲りあげ、露わになった下腹部の下着を遠慮もなく剥ぎ取ってしまった。

「い、嫌っ!! 何をするんですかっ」

「『奉仕』……ですよ。俺が本当の意味で元気になる為に」

「やぁっ、やめてっ」

 両足を抱え上げ、私の恥ずかしい部分を自分の方に引き寄せたセレイド様が、自身の硬く反り返った熱塊を、そこに触れ合わせてくる。
 何……、何をされるの!? 恐れと困惑で身体を震わせる私に、彼が意地悪に笑んだ。

「ここを……、こうやって……、俺のモノで擦るんですよ」

「い、いやっ、駄目っ、んんっ」

 秘部を緩やかに熱塊で嬲り始めるセレイド様……。
 私によく見えるように、腰を少しだけ浮かせて、何度もいやらしく擦り付けてくる。
 じわりと……、自分の中からもはしたない蜜が生まれる事を感じながら、私は後ろへと下がろうとした。

「逃がしませんよ。貴方は『責任』をとらなくてはならない。俺が不能にならないように、ずっと……ね」

「んぁぁっ、はうっ、で、でもっ、こんなに元気、なの、にぃっ」

「全然元気なんかじゃありませんよ。はぁ……くっ、ヌルヌルですね」

「いやぁ……言わないでぇっ」

 お互いの蜜でどろどろになった秘部を、セレイド様が攻め立てるように腰を激しく動かしてくる。
 身体の芯を甘く痺れさせるような彼の情欲に満ちた声音と、もうこのままどうなっても構わないという淫らな欲望が、私自身を快楽に溺れさせていく。

「フィニア嬢、……『中』で、俺を元気にしてはくれませんか?」

「あぁっ、はぁ、はぁ……え」

「貴方のいやらしい声を聞いていたら、堪らなくなりました。これだけ蕩けていたら、受け入れやすいでしょうしね」

「セレイド様っ、い、嫌っ、それだけは、許してくださっ、あぁんっ」

 拒否の言葉を向けた瞬間、彼の苛立ちがぶつけられるように、淫粒を強く指先で摘み上げられた。
 そこをギュゥゥッと締め付け、私に覆いかぶさって来るセレイド様。
 耳朶をねっとりと濡れた熱い舌で愛撫し、命じて来る。

「『責任』……、とってくれるんでしょう?」

「んぁっ、はぅっ」

「貴方の中で包んでくれれば、きっと俺は元気になれますよ。だから……、貴方の初めてを、俺に捧げてください」

「セレイド、あぁっ、さまっ」

 同意も得ないまま、淫粒から指先を離された直後……。
 途方もない大きさと硬さを誇る熱塊が、未開化の蕾を押し開き、中に強く押し込まれた。

「嫌ぁっ、痛い……痛いぃっ」

「逃がさない、と言ったでしょう? んっ……この狭い膣内を、俺で満たし尽してあげますからね。大人しく……淫らに啼いてください」

「んんっ、やぁぁっ、ぬ、抜いて、はぁ、くださ、いぃっ」

「フィニア嬢、……はぁ、……くぅっ、絶対に逃がしませんよっ」

 眼鏡の奥にある深緑の眼差しが、獰猛な肉食の獣を思わせるように険しく細められる。
 逃げようと足掻いても、身体全体の体重をかけるようにセレイド様に押し潰されて、動く事すら難しい。
 私の首筋の横に顔を埋めたセレイド様が、『フィニア嬢っ……』と何度も繰り返し声を漏らす。
 膣内が、それに反応するかのように、彼の熱塊をキュウキュウと締め付けていく。

「んっ、はぁ、はぁ……、お願いっ、抜いて……くださっ、ぁんっ」

「フィニア嬢、貴方は本当に罪ばかり重ねていく人ですね。無理に決まっているでしょう? こんなにも熱く……淫らな締め付けを与えておいて」

「わ、私のせいじゃ、んんっ」

「んっ、言い訳は聞きません。大人しく、俺のモノに奉仕を続けてください」

 私とは違い、快楽を強く受けているらしいセレイド様が、言葉を封じるように唇を重ねてくる。
 クチュクチュとお互いの唾液を共有しながら交わるお互いの舌も感触。
 そして……、徐々に余裕がなくなり、激しい腰使いを見せ始めるセレイド様……。
 私は彼の背中に腕を回し、痛みと快楽の狭間で爪を立てた。
 無理矢理されているのに……、どうしてそんなにショックを受けていないのだろう。
 彼が漏らす欲情に溺れた声も、私を呼ぶ低い音も……、愛おしく感じてしまう。

「フィニアっ……、んっ、このぐらいじゃ、まだまだ……俺は元気になれませんよ。もっと……、貴方の全てで俺を慰めてください。深く……もっと」

「んっ、はぁ、あぁっ、駄目っ、奥まで来ないでっ、セレイド様ぁっ」

「貴方の全てを暴きたい……、俺が知らない所など、一片も存在しないようにっ。くぅっ、フィニア……、フィニアっ」

 次第に意識が朦朧とし始め、正常な考えが思考から消え去っていく。
 痛みだけだったはずの膣内は、いつの間にか快楽の波で痛みを洗い流し、セレイド様が腰を打ち付ける度に、下腹部に甘い蕩けるような快楽が注ぎ込まれてくる。

「フィニア、これも『罰』、ですよ……っ。『責任』をとって、はぁ……『中』で、俺を受け止めてください」

「だ、駄目ですっ、中は……、絶対にっ」

「言ったでしょう? これは『償い』であり、『罰』だと。んっ、……俺を元気にしたかったら、貴方の奥に俺を吐き出させてください」

「赤ちゃんが出来たらっ、はぁ、はぁ、ど、どうするんですかぁっ」

「何を心配しているんですか? 出来たって何の問題もない。それもまた、貴方に与える『罰』、ですからね」

 ――瞬間、一番奥の深い所にセレイド様の熱塊が突き立てられ、私は甲高い嬌声と共に果ててしまった。
 中で……どぷりと……彼の欲望の残滓が吐き出されていく。
 セレイド様……、酷い。子供が出来ても構わないって……、それも『罰』だなんて……。
 度を越えた仕打ちに、私は悲しみの涙を零していた。

「はぁ……、フィニア嬢、俺の精でいっぱいですね。……え」

「セレイド様……、貴方にとって……私は……何なんですか……」

「どうしたんです。少し、酷くしすぎましたか? 初めてなのはわかっていましたが、そんなに……辛そうに」

「そうです……。初めて、だった……のに。好きな人にいつか捧げるはず、……だった……のに」

「……俺が相手では、……不服だった、と?」

 違う……。そういう事じゃない。
 多分私は、セレイド様に対して、恋情を抱いていたとは思う。
 彼に奉仕する事も、一緒に時を過ごして笑い合う事も……、こうやって抱かれた事も、本音で言えば、嬉しく感じる自分がいた。
 だけど……、彼は言ったのだ。『子供が出来ても構わない』、『それもまた『罰』』、だと。
 つまり、いつでも捨てる事の出来る女だと……子供が出来ようが自分には関係がないと、彼はそう言ったも同然だった。

「セレイド様、……もう、やめましょう」

「……」

「貴方はもう十分過ぎるほど元気じゃないですか。私に……、いつまでも奉仕させる理由なんて、どこにもありませんよ。社交界で、……綺麗な蝶を見つけて、お相手をして頂いたらいかがですか。
もう……恥をかく可能性もありません」

「勝手に決めないでください。貴方の『償い』は、まだ終わっていないんですよ」

「んっ、嫌っ!!」

 顎を持ち上げられ、強引に口付けを受けそうになった私は、本気の拒絶をもって顔を逸らそうとした。
 唇に触れる寸前、……彼の動きが止まった。
 ゆっくりと恐るおそる瞼を押し開ければ、すぐ間近に……苦痛を堪えるようなセレイド様の顔が見える。
 眉を顰め、眼鏡の奥から物言いたげに私を見つめるセレイド様……。

「そんなに嫌、ですか……。俺を他の女に押し付けたいほど……」

「……」

「本当に貴方は……、『罪』ばかり重ねる人ですね」

 膣内を埋め尽くしていた熱塊が、ずるりと引き抜かれていく。
 冷たい空気に晒されるように、彼を失った内部が喪失感に身を震わせた気がした。
 一度身支度を整え、行為などなかったかのように立ち上がったセレイド様が、部屋を出てどこかに行ってしまう。
 面倒な女だと……、呆れられてしまったのかもしれない。

 数分ほどして、洗面器に熱いお湯とタオルを持ち帰ったセレイド様が、
 サイドテーブルにそれを置いて、再び寝台に上がって来た。
 行為で受けた痛みと、心を引き裂くようなショックのせいで、私はまだ動けないまま……。
 瞼を閉じて身体が回復するのを待っていると、ふと……下腹部に何かが触れる気配がした。

「んっ……」

「じっとしていて下さい。痛みは取り除いてはあげられませんが、汚れは取ってあげられますからね」

 そう静かに淡々と言って、セレイド様はお湯に浸して絞ったタオルを使って、私の身体に付着しているお互いの蜜を拭い取ってくれる。

「……フィニア嬢、今日はこの部屋に泊まってください」

「いいえ……、帰ります」

「無理ですよ。初めての行為で、腰に力が入らないはずですから」

「大丈夫……で、んっ」

 どうにかして自力で帰ろうと、身を起こす行動に移ったその時……。
 鈍く重たい痛みが下腹部に走り、私は彼の言うとおり、寝台に逆戻りしてしまった。
 悔しいけれど……、この状態では、部屋を出る事はおろか、寝台からさえ脱出出来そうにもない。

「俺は別室で寝ますから、明日までゆっくり身体を休めてください」

「……」

「それと……、念の為言っておきますが、……後悔はしていませんからね」

「……」

 貴方は何も感じていなくても、私はこの行為で酷く傷ついた。
 正確に言えば、貴方の放った心ない言葉に……。

「セレイド様……、私……、もう貴方とは会いません」

「俺がそれを許すとでも?」

「私自身が……、もう貴方とは会いたくないと、関わりたくないと感じているんです。役目はこの一ヶ月で十分に果たしました。もう貴方の命令は聞きません」

 これ以上、貴方の傍にいて傷付きたくないから……。
 本気で……好きだと自覚する前に……全てを終わらせたいから。

「フィニア嬢……、俺と離れても……、貴方の奥に刻んだ俺の所有の印は、消えませんよ」

「んんっ」

 そっとなぞるように、指先で子宮のある辺りに触れたセレイド様。
 今もまだ、彼の注ぎ込んだ精が、私の奥を犯し続けているのだと、そう言われているかのように。


 ◆◆◆◆◆(王宮・第一王子の執務室)ニ週間後の夕刻◆◆◆◆◆
 side セレイド……。


「いい加減……その不機嫌駄々漏れのオーラをなんとかしろよ」

 書類から顔を上げたこの国の王子が、手前の席に座って仕事を手伝っている俺にうんざりとした視線を寄越した。
 だが俺は、左から右に流れていく書類の文字を把握するので忙しい。

「もう二週間だぞ……。その前まで溢れ出ていた上機嫌オーラはどこに消えたんだ?」

「……殿下、くだらない事を言っている暇があったら、その山積みになっている書類に集中してください」

「もしかしてあれか? 女にでもフラれたか?」

「違います……!!」

 俺の手にあった書類が、その一言に無残にも握り潰されていく。
 この国の第一王グラーゼスは、よほど人の地雷を踏むのに特化しているようだ。
 脳裏に、もう俺とは会わないと言って、本当に呼び出しに応じなくなった女性の姿が浮かぶ。
 最高の幸せを味わった直後、俺の昂ぶる恋情とは反対に、彼女の心は氷のように冷え切っていた。
 フィニア・ロージェ……、伯爵家令嬢であり、最初の出会いだけで、俺を虜にした存在。
 彼女に『責任』という脅迫同然の命令を強いて、あの無垢な存在に淫らな奉仕を躾け続けた。
 俺の許に縛り付ける為に、『責任』や『償い』といった言葉で、どこにも行かないように……。
 互いを近くに感じながら過ごした一ヶ月、俺達は確かに心の奥底で互いを求め合っていたはずだ。
 恥じらいながらも、俺のキスや愛撫に応えた彼女……。
 処女を散らす時だって、彼女は俺だけを見つめてくれていた。
 それなのに……、何故彼女が急に冷めてしまったのかがわからない。

「殿下、女性というものは、難しい存在ですね」

「そりゃ性別が違うからなぁ。考えてる事も、感じる事も、理解出来ない部分は多いだろうな」

「……確かに互いを求め合っていたはずなのに、急に冷めたような態度をとられた場合は? 直前まで愛し合って繋がり合っていたのに、終わった途端冷めた場合は一体……」

「いやに具体的だな。ん~……、どっちかが行為の最中にヘマしたか、余計な事を言っちまった場合、冷めるかもなぁ」

「ヘマ……はしていなかったと思うのですが」

「セレイド・グレイシャール!!」

 その時、ノックの音もなく、殿下の執務室の扉が乱暴に開け放たれた。
 赤茶色の長いウェーブを描く髪と、怒りに満ち溢れたブラウンの瞳の令嬢……。
 ここが第一王子の執務室だという事さえ構わず、俺を見つけるなり鬼のような形相で歩み寄って来た。

「セレイド様、とお見受けいたします」

「そうですが……、貴方は?」

 突然現れた恐ろしいまでの殺気を纏う令嬢に肯定の頷きを返せば……。
 何故だか俺に対して向けられていると思わしき激情の気配が一層苛烈さを増した。

「ちょっと歯を食いしばってちょうだいな」

「え?」

「フィニアの仇!!」

 その一言の直後、令嬢の右手が勢いを付けて俺の頬へと裁きを与えるかのように打ち付けてきた。
 執務室に響き渡る大きな音……。ヒリヒリと強い衝撃をその肌に受けた俺の頬。
 自分が何故見知らぬ令嬢にこんな仕打ちを受けなくてはならないのか……。
 俺は深緑の瞳を剣呑に細めて、彼女を睨んだ。

「どういう事でしょうか? 貴方と私は初対面のはずでしょう」

「あ~……、セレイド。その令嬢は、あ~……、俺の友人だ。アルディレーヌ・シャルドレア。伯爵家の令嬢なんだが……。おい、一体全体何がどうしたんだ?」

「殿下は黙っててちょうだい!! 私はね、この眼鏡に言いたい事があって来たのだから」

 俺の記憶を探る限り、この令嬢と会ったのは今日が初めてだ。
 憎悪さえするように睨まれる筋合いは微塵もない。

「よくも私の可愛いフィニアに、トラウマになるような初体験を与えてくれたわね!!」

「ぶっ!! しょ、初体験!?」

 グラーゼス殿下が、口に含んでいた紅茶を噴き出すのが見えた。
 書類に零していないといいのだが……。
 それよりも、今この令嬢は、『フィニア』と言った気がする。
 俺がこの世で一番深く愛し、現在進行形で拒絶されている相手の名だ。
 おそらく、彼女の友人といったところか?

「アンタねぇ……っ、初めてのフィニアに、何最初から中に出してんのよ!! しかも、子供が出来ても構わないとか、無責任な事まで言ってくれたらしいじゃない!!」

「ぶはあっ、ちょっ、待て!! アルディレーヌ!! 外に聞こえるだろ!! お前、一応令嬢なんだから、オブラートに包めよ!!」

「うるさい!! 今の問題はそこじゃないのよ!! この眼鏡のせいで、フィニアは自分が使い捨ての遊び相手同然だと思われているって傷付いてんのよ!!」

「……は?」

「は? じゃないわよ!! どうせ言葉が足りなかったんでしょうけど、あの子はね、純粋なの!! 超がつくほどの天然部分があるの!! ちゃんとわかりやすく説明しないと勘違いしちゃうのよ!!」

 勘違い……? 俺が言った言葉で……、遊び相手同然だと誤解した?
 ――その瞬間、あの日の全ての流れをようやく本当の意味で掴む事が出来た。
 つまり……、フィニアが急に冷めた態度をとったのは、関係をやめたいと言ったのは……。

「ちゃんと伝わっていなかったのか……」

 俺からすれば、もし妊娠しても、彼女と子供両方を愛せる自信があったから……。
 全てを引き受けるという意味で構わないと言った……。
 待てよ、でもその後に……、『それもまた、貴方に与える『罰』、ですからね』と言ってしまったような……。
 これもまた、フィニアに誤解を与える原因となったのだろう。
 彼女を一生俺の傍に縛り付けたい、その想いから『罰』という盾を押し付けた。

「私がどんなにフォローしても、フィニアは完全に心を閉ざしているのよ!! すぐにでも修道院に入って、その身を一生神様に捧げるとか言い出してるし!!」

「しゅ、修道院……!?」

 そんな場所に入られたら、俺にはもう手が出せなくなる。
 他の男にフィニアを渡す事さえ耐えられないというのに、神だと?
 一生俗世と縁を絶ち、閉ざされた世界に彼女をやる?
 そんな事……。

「許しませんよ……、絶対にっ」

 拳を怒りに震えながら握り締め、俺は絞り出すようにそう口にしていた。

「殿下、申し訳ありませんが、あとは一人で片付けてください」

「こ、この量をか!?」

「頑張れば何とかなりますよ。アルディレーヌ嬢、来てくれて助かりました。フィニアが何故俺を拒んだのか、やっとわかりましたから」

「ふん! 今度は誤解させずに上手くやりなさいよ?」

「肝に銘じておきます。どうやら俺の可愛い人は、遠回しな言葉では伝わらないようですからね」

 俺は殿下とアルディレーヌ嬢に背中を向け、愛しい人の姿を思い浮かべて走り出した。
 後ろから、「フィニアは自分の屋敷にいるわよー!!」と、アルディレーヌ嬢からの有難い声が聞こえてくる。
 修道院になど……、絶対にやらない。
 彼女の温もりを失ってしまえば、今度こそ俺は本当に再起不能になってしまう。
 会う度に俺の心を捉え、甘く優しい砂糖菓子のように堕としてくれる姫君。
 フィニア、君が本気で俺から逃げたいと思っていても、……絶対に手離す気はない。


 ◆◆◆◆◆(修道院に向かう山道)同日・夕刻◆◆◆◆◆
 side フィニア……。


 ガラガラと車輪を回し、馬に引かれて進む馬車の中。
 私は窓の外に映る濃い緑の群れを見つめながら溜息を吐き出していた。
 あと少し……。この山道を上がって、中腹にある修道院に足を踏み入れれば、この胸の中の気持ちとも別離が叶う。
 セレイド様に抱かれてから二週間、もう会いたくないと言っているのに、彼は迎えを寄越し続けていた。使いの方には何度もお断りを入れて徒労に終わらせる日々。
 きっと、これからも彼は私を呼び出し続けるのだろうと予感した私は、最後の手段をとる事にした。
 もう、彼以外を想う事さえ難しい、この快楽を教え込まれた身体……。
 他の男性に肌を許せる気には到底なれなくて……、なら俗世を捨てようという考えに至ったのだ。
 修道院に入れば、きっと心穏やかに過ごせる。
 セレイド様の事も、いつかはこの痛みと共に忘れられる日がくる……。
 そう信じて、ここまで来た。
 親友のアルディレーヌには、修道院へ行く日取りは伝えていなかった。
 きっと言ってしまえば止められる気がしたから……。
 だから、こっそりと数人の伴を連れて、馬車に乗り込んだ。

「フィニアお嬢様、どうしてもお心は変わられませんか?」

「ごめんなさいね、コレット。けれど……、もう決めたから」

 私を心配して、一緒に馬車に乗り込んでくれた侍女のコレット。
 何回も説得をしてくれた心優しい子だけれど、こうするしか自分の心を救う方法がない。
 セレイド様を想う気持ちが私を壊してしまう前に、早く……俗世を捨てなくては。
 神の御許に救いを求め、私はコレットにもう一度謝って瞼を閉じた。


 ◆◆◆◆◆(修道院前)◆◆◆◆◆

 ついに……、修道院へと辿り着いてしまった。
 馬車の中で一度大きく揺られ、ピタリと止まったのを確認すると、外から御者の声が響いた。

「フィニアお嬢様、到着いたしました。さぁ、お降りになられてください」

「え、ええ……」

 その声に、ふと違和感を覚えた。
 馬車の手綱を握っていた御者は、中年の渋い声音の男性のはずだ。
 けれど、今中に向かって呼びかけられたのは、低いけれど若く美しい声音……。

「フィニアお嬢様、やはりお屋敷にお戻りになられませんか? 今ならまだ間に合います」

「……いいえ。行くわ」

 コレットが重ねてきた優しい温もりをやんわりと外し、私は扉へと向かった。
 降りる私を助けるように、外から差し出されたのは、白い手袋を嵌めた男性の手。
 それに自分の手を重ねると、予想外の事が起こってしまった。
 力強く前のめりに引っ張られ、誰かの胸に飛び込んだ感触……。
 慌てて身を離そうとするけれど、逃げ場を封じるようにその人物は私を強く掻き抱いてきた。
 誰……、胸から顔を上げ、自分の視界に映った人の姿を見て息を呑む。
 どうして……、『貴方』がここにいるの……?

「本当に……、どれだけ『罪』を重ねれば気が済むんでしょうね。何を勝手に、俺の許可もなく修道院入りなんてしようとしているんですか」

「せ、セレイド様っ」

「屋敷に行ったら、すでに出た後だと聞いて焦りましたよ。裏道を使って追い付けたからいいようなものを……、悪戯が過ぎますよ?」

「は、離してくださいっ!! 私は本気なんです!! もう、男の方とは、関わりたくなんてないんです!!」

「許さない……と、何度言えばわかるんでしょうね? 俺に見つかった以上、観念して一緒に帰りましょう」

「嫌です!!」

「我儘を言わないでください。結婚式の日取りや、ウェディングドレスを選んだり、客に出す料理を打ちあわせたり、貴方とは色々話し合わなくてはならないのですからね」

「……は?」

 強固な檻のように、セレイド様は私を腕に閉じ込めたまま、ごく自然にそう言った。
 け、結婚……? だ、誰と、誰が……?
 言われている意味を理解出来ず、私はぽかんと間抜けな顔をしてセレイド様を見上げてしまう。

「アルディレーヌ嬢から聞きました。フィニア、天然にもほどがありますよ? 俺が言った言葉を誤解して、一人で傷付いて思い詰めるなんて……。貴方を一人で悩ませておくと、色々と面倒ですからね。――大人しく俺の妻になってください」

「えっ、え? ど、どういう事なんですかっ」

「本当に察しの悪い人ですね……。そういうところも可愛らしくて愛おしいですが、焦らされるのにも飽きました」

「セレイド……さ、んんっ」

 後頭部を掴み、悩ましげな吐息と共に私の唇を奪うセレイド様。
 御者が侍女のコレットが見ているのにも構わず、蜜音を響かせて口内を貪ってくる。
 何かを強く伝えてくるかのように、セレイド様の舌が私の舌の逃げ道を奪い吸い付いては舐め上げる。

「んぁっ……、だ、駄目っ」

「二週間……、はぁ、貴方に触れたくて堪らなかった……。愛しい俺のフィニア……、貴方がどんなに嫌がろうと、俺の妻にしますよ。誰にも渡しません。たとえ神の加護を失おうとも、俺のモノに……」

「セレイド様……んんっ」

「貴方は鈍感ですからね……。んっ、はぁ、わかりやすい言葉で伝えてあげます。――愛していますよ、俺の可愛いフィニア。もうどこにも行かせたくなどありません。貴方を妻にして、生まれて来る子供ごと、幸せになりましょう」

「んっ、……な、何を言って……っ」

「貴方が誤解した件ですよ。ちゅっ、子供が出来ても構わないというのは、結婚する意志があったからですよ。こんなにも愛らしく魅力的な姫との子なら、きっとその子供も天使のようだと……。
俺が生涯をかけて守ると……、そういう意味だったんですよ?」

「う、嘘……っ」

 じゃ、じゃあ……、私は完全に一人で勘違いをして、勝手に落ち込んでいたって事?
 でも、私だけが悪いわけじゃない気がする。だって、あれを聞いてセレイド様の言うように理解しろなんて……。
 普通は中々無理だと思うわ!! だけど……。
 今セレイド様の言った事が本当なら……、これはどんな幸せな夢なのかしら?
 彼の告白とプロポーズに、胸の奥が歓喜に震えて激しい高鳴りを打っている。

「ご、ごめんなさいっ。セレイド様っ、私、勝手に勘違いしてっ」

「あぁ、涙を浮かべる貴方も堪らなくそそりますね。んっ……、フィニア……、もう修道院には用はないでしょう? このまま俺の屋敷に帰りましょう」

「で、でも……」

「修道院には俺から話をつけてあります。いくら尊き神であっても、……俺の大切な妻を奪う事は許せませんからね」

 妖しい色香を漂わせながら、セレイド様は眼鏡の奥で笑みを浮かべた。
 もう彼の中では、私は『妻』だと認識されているらしい。
 その事に大きな喜びを感じた私は、彼の首筋へと腕を回し全身全霊で抱き着いた。

「素直な貴方はなんと可愛らしいのでしょうね。今この場で押し倒して繋がってしまいたくなるほどに……」

「さすがに、それはちょっと……」

「わかっていますよ。馬を連れて来てあります。急いで帰りましょう。そして……、俺の部屋で、たっぷりと……『ご奉仕』してくださいね?」

「んっ、は……はい」

 背中をツツーとなぞる指の動きが、淫らな行為を予感させるもので……。
 私はゾクリと身を震わせた後、子猫のように甘く小さな鳴き声を上げて、彼の腕の中に抱え上げられた。


 ◆◆◆◆◆(セレイドの屋敷)同日・夜◆◆◆◆◆
 side セレイド……


 本当に危機一髪だった……。
 まさかアルディレーヌ嬢の言うとおり、フィニアが修道院入りを決行してしまうなど。
 親友にもそれを実行する日取りを告げず、こっそりと屋敷を出発した彼女……。
 それを家令から聞いた時には、心臓が一度止まったかのような錯覚を覚えた。
 彼女を神という存在に奪われてしまう……、二度と会えないかもしれない……。
 目の前が真っ暗になりそうなのを堪え、俺はすぐに自分の屋敷へと戻った。
 自分の愛馬に跨り、フィニアが向かった修道院に先回りするべく、裏道と呼ばれる少々危険な道筋を駆け抜けながら、ようやく辿り着いた修道院。
 フィニアの家の馬車が到着するのより、おそらく五分ほどというギリギリの差で先に着く事が出来た。
 絶対にどこにもやらない。彼女は俺だけの愛しい存在なのだから……。
 腕の中に取り戻したフィニアを屋敷へと連れ帰った俺は、二週間分の奉仕を彼女へと求めた。

「んんっ、セレイドっ、はぁ、様ぁっ、駄目ぇっ」

「これは『罰』ですよ、フィニア。俺を傷付けて、二週間も奉仕をさぼって……。んっ、はぁ……本当に悪い子ですね」

「そ、それはっ、ひあぁっ、深いとこっ、あぁっ、許してっ」

「俺がどれだけ辛い思いをしたか……。ほら、わかるでしょう? 俺の『コレ』が……すっかり元気を失くしていた事」

「う、嘘っ、んんっ、こんなに、元気、なの、にぃっ」

 気に入りのソファーの上で乱れるフィニアを見下ろしながら、俺は性急に熱塊を抽送していた。
 彼女も待ちきれなかったのか、屋敷に着いてすぐに押し倒し、秘部を愛撫すると、とろとろと甘い蜜がすっかりと下着に滲んでいた。
 二週間ぶりの触れ合い、俺を欲しがってヒクヒクと震えている淫らな秘部の中心。
 おあずけを喰らっていた熱塊の硬い尖端をあてがい、俺は一気に彼女の柔らかな蜜肉を求めて突き入れた。
 ひとつになる瞬間の恍惚感……。キュウキュウと強請るように締め付けるフィニアの抱擁。
 今度は互いに、確かな愛情をもって深く愛し合う。

「フィニアっ、貴方のここは……、ぐちゅぐちゅに蕩けて、俺を咥えこんでいますよ」

「やぁ……、言わないで、はぁ、んっ」

「俺の太いモノが、いやらしい音を立てて出し入れされてるのもわかっているでしょう? はぁ……、凄く……堪らない光景ですね」

「んぁっ、はぁっ、あぁんっ」

 素直に快楽に溺れている愛しい人を愉しげに観察しながら、
 俺は淫粒へと指先を伸ばす。

「ひあぁああっ」

「気持ちイイでしょう、フィニア? 中を擦られながら、ここも弄られると……はぁ、堪らない締め付けをくれますね」

 強弱をつけて淫粒を指先で弄り、彼女の甘い媚薬のような声に酔いながら俺は腰を動かす。
 お互いにもっと深い快楽の波に溺れるように、彼女の弱い部分を執拗に攻める。

「貴方がいない間、俺は一人寂しく、自分のモノを慰めていたんですよ? 可愛い貴方の事を想いながら、何度も……ね」

「いやぁ……、お願いっ、もう、やめ、はうっ、セレイド様ぁっ」

「何度も言っているでしょう? これは『罰』。今日はもう帰しませんからね。たっぷりと俺にご奉仕してください。んっ、……くぅっ、愛していますよ、俺のフィニアっ」

 もう互いの淫卑な蜜でどろどろの膣内、この後も、俺が精を吐き出す事によってさらにいやらしく溢れるのだろう。
 身体をぐっと前に倒し、眼鏡の先に映るフィニアの痴態を目に焼き付け、俺は激しい抽送を絶え間なく送り続ける。
 一度で終わらせる気はない。彼女の喉が枯れても、意識を失っても……。
 一晩中、この腕に閉じ込めてフィニアという存在を貪りつくそう。

「はぁ、……も、もう、駄目っ、はぁ」

「貴方は、一生俺のモノですよ……っ。永遠に俺に奉仕し続けてください……、それが、俺を虜にした貴方の『罰』だっ」

「セレイド様っ、はぁ、はぁ、んんっ、好き、好きです……っ。貴方が……こんなにもっ」

「フィニアっ、くっ……、馬鹿ですね。俺を煽ったらどうなるか……。たっぷりと中で感じてください」

 潤んだ瞳で何て凶悪な誘いをかけてくるんだ……。
 さらに体積を増した熱塊で蜜肉を擦り上げ、俺は余裕なく腰を前後に叩き付ける。
 そして、彼女の一番深い部分に狙いを定めて、一気に熱塊を突き入れた。
 ブルリと……、中で大きく震えた熱塊が、所有の証である精を容赦なく彼女の中に注ぎ込んでいく。フィニアの甲高い嬌声を唇ごと封じ込め、緩やかに腰を動かす。

「んっ、はぁ、愛していますよ、俺の可愛い人」

「あぁっ、中が……、んっ、熱い……」

「貴方を愛している証拠ですよ。それに……、二週間分は溜まっていますからね。まだ終わりませんよ?」

「えっ、や、やぁっ、も、もう、無理です、からぁっ」

「俺の赤ちゃん……孕んでくれるんでしょう? そうだ、良い物があるんですよ。貴方のもっと淫らな姿が見れるように……」

 ソファーの端にあった小さな隙間に指を差しいれると、隠していた小瓶が手の中に収まった。
 紫の液体が入ったその蓋を開け、口の中に含む。
 互いの快楽をより深く感じられるように、長い時間愛し合えるように……、俺はフィニアの口内にそれを流し込んでいく。

「んんっ……!!」

「……俺の愛しい人。貴方のえっちな姿を……、もっと俺に沢山見せてください」

「な、何……っ、ふあぁぅ、ん、身体が凄く……あ、熱ぃっ」

「即効性ですからね。多めに飲ませておきましたし、……何度でも出来るはずですよ」

「せ、セレイド様……!? その黒い笑みは、な、な……あぁんっ」

「理性なんて感じなくていいんです。貴方は俺の事だけ考えていれば……ね」

「やぁっ、へ、変になっちゃぁっ、駄目ぇっ」

 媚薬の効果で、より感じやすくなったフィニアの中で、俺は再び硬くなった熱塊で突き上げ始める。想いが通じ合った今、俺達を隔てるものは何もない。
 駄目駄目と弱々しく嫌がるフィニアの口を封じ、愛を伝える為に腰を激しく叩き付ける。
 やっと手に入れた愛しい人。貴方の甘い蜜に酔った哀れな男の熱を……慰め続けるのが貴方の仕事。


 ◆◆◆◆◆(王宮・第一王子の執務室)数日後・昼◆◆◆◆◆
 ――Side セレイド

「おい……、セレイド」

「何でしょうか、殿下?」

 今日も書類の山を捌くのを手伝ってやっていた俺に、グラーゼス殿下は再びうんざりした顔つきで声をかけてきた。

「何で自分の恋人を、仕事場まで連れて来るんだ?」

 そう言って見つめた先には、俺の膝に座って恥ずかしそうにしているフィニアの姿がある。
 何故と言われても、この仕事の後に、彼女と出掛ける予定があるからだが。
 それに、フィニアが傍にいてくれるだけで、俺の仕事の効率は神業レベルでアップしていく。
 お得な効果を目の前で見ているのなら、黙っていてほしいものだ。

「フィニア、もう少し待っていてくださいね。これが終わったら、二人きりで甘い時間を過ごせますよ」

「いや!! 十分、今でも甘いだろう!! アルディレーヌも何とか言ってやれ!!」

 グラーゼス殿下が味方を求めるように動かした視線の先、
 俺達の座る席の向こう側の席には、テーブルの上で何か書き物をしているアルディレーヌ嬢の姿があった。
 後から聞いた話だが、どうやら彼女は、巷で有名な小説家らしい。

「うっさわいね!! 今、いい感じにインスピレーションが沸いてんだから、黙ってなさいよ!!」

「お前……、目の前でバカップルにいちゃつかれて、平気なのかっ」

「別に? だって、私の書いてる物自体、他人のバカップルさを始終目にしているようなものだもの。それに、フィニアが幸せなら私は構わないわ」

「貴方が寛容な親友想いの人で助かりますよ」

「あ、あの、セレイド様、そろそろ下ろしてください。は、恥ずかし過ぎて……ううっ」

 頬をこれ以上ないくらいに赤らめて下を向いたフィニアに、
 俺は今すぐにこの場で押し倒して事に及んでは駄目かと自問自答する。
 日々俺に抱かれているせいか、最近は艶まで増して俺の情欲を所構わず煽ってくる愛しい人。
 仕事が終わったら出掛けようと考えてはいたが……、一度屋敷に帰る方が先かもしれない。

「お~い、セレイド。お前、顔がヤバイ。変態の顔をしている事を自覚しろっ」

「やめときなさいって殿下。馬に蹴られて死んじゃうわよ」

「そうですよ。俺達を見ている暇があったら、さっさと仕事に集中してください。あ、フィニア、顔を背けないでください。俺の目を見て……」

「もうやだ……。バカップルなんか、この世から爆発して消えてしまえばいいんだっ」

「ドンマイよ、殿下。いつかきっと、良い事があるわよ」

「アルディレーヌ……、よし、わかった。俺の膝の上に来い。一緒にイチャイチャしよう」

「今すぐ、その軽口を縫い止めて股間を蹴りあげてやりましょうか? 寝言は寝てから言えってのよ」

「そんなぁぁぁぁっ」

 ふぅ……。本当に騒がしい人達ですね。
 ついでに補足しておきますが、この第一王子とアルディレーヌ嬢は、実は恋人同士だったりします。
 噂だけは聞いていたんですがね……。なかなか相手の名前を教えない殿下でしたから、後で知って驚きましたよ。こんなにも気の強い凛々しい女性が殿下のお相手とは、と。
 まぁ、殿下がヘタレ属性ですからね。尻に敷かれているのは似合いと言えば似合いでしょう。
 ……と、それよりも。俺は仕事をさっさと片付けて、フィニアを愛でる時間を作らなくては。

「セレイド様、お願いだから下ろしてくださいっ」

「駄目です。悪い子にはまた媚薬を使いますよ?」

「うっ……、せ、セレイド様の意地悪っ、破廉恥っ」

「何とでも言ってください。可愛い貴方を堪能する為なら、変態だろうが、破廉恥だろうが、何を言われても構いませんからね」

「んっ」

 怒るフィニアの唇に軽く口付けて、俺は再び仕事へと戻った。
 俺のモノになった以上……、観念してくださいね、フィニア。
 貴方がどんなに首を振っても、俺の愛情は深くて重いんです。
 だから、これからもずっと……、『奉仕』し続けてください。俺の為だけに、ね。
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