蒼麗侯爵様への甘いご奉仕~蜜愛の館~

古都助(幸織)

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~蜜愛の館(婚約編)

蒼麗侯爵様と子犬の話1◆

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 ◆◆◆◆◆(セレイドの屋敷・脱衣所)◆◆◆◆◆
 
 ――side セレイド……

「せ、セレイド様っ、くすぐったいです」

「大人しくしていなさい。……全く、寿命が縮むかと思いましたよ」

 眩く柔らかな金の髪に被せるように、タオルを使って彼女の世話を焼きながら、ポタポタと伝い落ちる水滴を丁寧に拭い取っていく。
 大雨に晒されてこの屋敷に辿り着いた当初はずぶ濡れだったフィニアも、入浴を済ませたお蔭でほかほかと夜着の隙間から湯気を仄かに漂わせている。

「雨の中を、徒歩でここまで来るなんて感心しませんよ?」

「ごめんなさい……。まさか雨が降るだなんて思っていなくて……」

 そう言って上目遣いに謝ってくるフィニアに、ひとつ苦笑が漏れる。
 確かに、今日は朝から雨の心配などないほどに、空はよく晴れ渡っていた。
 だからこそ、俺の愛しい人もお散歩と称してここまで歩いて来ようと思ったのだろう。
 本来、貴族ならば馬車を使うのが普通だが……。

「貴方はお散歩好きですからね」

「はい。お天気も良かったので、つい……馬車を途中で返してしまったんです」

 恥じらうように頬を染めたフィニアの頭を優しく拭い、タオルを洗面台に置いた。
 後は暖炉の前で仕上げをするとして、次は……。

「さ、フィニア。この夜着を着て下さいね」

「は、はい……。でも、自分で着れますから……」

「遠慮しないでいいんですよ。俺は、貴女の事なら何でもこの手でしてあげたいんです。勿論……」

 そこで言葉を止め、フィニアの顎を右手の人差し指で持ち上げる。

「せ、セレイド様……?」

「フィニア……、ん」

 軽めのキスをその小さな唇に落とし、二度、三度と啄むように彼女の感触を味わって唇を離す。

「貴方の可愛いところも全部……俺がお世話して差し上げますよ。フィニア」

 わかりやすいほどに、頬を食べ頃の果実を思わせるように赤く染めたフィニア。
 俺の行為で頼りなく潤んだ空色の瞳に、……徐々に情欲の色が滲み始める。
 僅かな触れ合うだけのキスしか与えていないというのに……。
 こんなにも淫らに感じやすくなってしまって……、少々不安になってしまう。
 俺以外に、こんな顔を見せたりした日には、すぐに襲われてしまいますよ。ふぅ……。

「んっ」

 元から可愛い俺の婚約者は、本人の知らない所では噂の的なのだ。
 自分の妻にしたいと、貴族の獣達が虎視眈々と彼女を想像の中で汚し、いつか手に入れようと画策していた事を、俺は知っている。
 婚約を交わしていても、お構いなしに愛人の座を狙う不届き者は多いものだ。
 本当に……、この世から一片の肉片させ残させずに葬り去ってやりたい獣が多すぎる。
 それでも全て、……俺の愛しい人が、こんなにも魅力的なのが悪いのだろう。
 もし、あの出会いの場で、彼女を連れ出したのが俺ではなかったら……。
 タイミング悪くその場にいなかったら……、そう考えるだけで苛立ちと強い不快感が胸を締め付けていく。

「フィニア、愛していますよ……。俺だけの可愛い人」

「セレイド様、駄目……」

「はぁ、困った人ですね。言葉と視線が真反対ですよ。……俺に、『奉仕』されたくなってきたのでしょう?」

 耳朶に舌を這わせ、形をなぞるように愛撫していくと、愛しい人が太腿の合わせ目をもどかしそうに擦り合わせるのが見えた。
 そっと、片腕を下肢へと伸ばし、秘められた柔らかな蕾を指先で探りあてる。
く ちゅり……と、すでに熱と花蜜を零し始めていたフィニアの秘部。

「あっ……、んっ、セレイド、様っ、だ、駄目っ」

「でも、このままでは辛いでしょう? 貴方は感じやすいのだから、しっかりと俺がお世話してあげなくてはね……」

「んっ、本当に……駄目っ、です……っ。『あの子』が、はぁ、待って……る、のに」

「大丈夫ですよ。貴方を気持ち良くさせて差し上げる時間くらいはあります。だから、安心して……、ん、俺の『奉仕』で感じてください」

「んんっ、やぁっ、ゆ、指がっ、あっ、あっ」

 貴方を愛するのは、俺だけでいいんです。
 蜜肉の中で指をキャンディーのようにしゃぶる俺の可愛い婚約者。
 この感触は俺だけのモノ……。
 指で掻き回す度に聞こえてくる甘い蜜を含んだ声も、腰を揺らして俺にしがみつく火照った身体も、なにもかも……、全部、俺だけが愛する事を許されていると、実感したい。
 絶え間なく与えられる愛撫を甘受しながら、フィニアの堪らない欲情の声を吐息ごと呑み込み、俺は彼女を楽園へと連れて行く為に、その膣内を淫らな指使いで煽り立てた。




 ◆◆◆◆◆(セレイドの屋敷・自室)◆◆◆◆◆

「ペロペロ……」

「わんちゃん、よっぽどお腹が空いていたんですね……」

 暖炉の前で身体を温めながらフィニアが見下ろしているのは、一匹のクリーム色をした子犬だった。
 フィニアが俺の屋敷を訪ねて来た時に、彼女に守られるように腕に抱かれていた可愛らしい存在。
 どちらもずぶ濡れの状態で屋敷に辿り着いたらしく、メイドが俺を呼びに来た時には心底焦った。
 何故馬車を使わなかったのか、どこかで雨宿りをしようとしなかったのか、問いただしたい事はいくらでもあったが、フィニアに風邪を引かせるわけにもいかず、俺は子犬の方をメイドに預け、彼女をお風呂場へと急いで運び込んだ。今は動物用のミルクに口を付けて、嬉しそうに舌を動かしている。

「フィニア、一体その子をどこで拾って来たんですか?」

「えっと……、セレイド様のお屋敷に向かう途中にある、橋の下で見つけたんです。足を汚していて、それで、動けないのだとわかって……」

「で、仕方なく俺の許に連れて来た、と?」

「はい……。途中で、レアンドル公爵様のお屋敷の方が近いので、そちらでお世話になろうかとも思ったんですけど……、途中から雨まで降ってしまって。さすがにずぶ濡れの状態で訪ねるのは憚られたというか……」

「ぶっ!!」

「せ、セレイド様!?」

 愛しい人の発した爆弾発言に、俺は口に含んでいた紅茶を危うく噴き出しかけてしまう。
 気管に入ったせいで、何度か咳を繰り返した俺は、フィニアの不思議そうな視線を呆れ交じりに受け止め、苛立ちを抑え込んだ吐息を吐き出す。

「はぁ、恐ろしい選択をしかけていたわけですね。貴方が俺の屋敷への道を選んでくれて良かった……」

「え? 恐ろしい、というのは一体……」

「フィニア、自分がどれほど悲惨な状態で雨に濡れていたかわかっていますか? 身体のラインがくっきりと浮かぶように、服が肌に張り付いて……。ともかく、クレイラーゼ伯爵や他の男の目に触れなくて、俺はほっとしていますよ」

「何だかよくわかりませんけど、えっと、ごめんなさい」

 相変わらず、天然というか鈍感というか……。
 小首を傾げて困ったように謝る貴方も可愛いですが、放っておけない危うさがありますよ。
 一度じっくりと、フィニアには話をする必要がある気がしますね……。

「わふっ、ぺろっ、ワンッ!!」

「あ、わんちゃん、もうご馳走様なの?」

「ワンッ!!」

「すっかり元気になってますね。おやおや、貴方の膝に上がり込んで、今度はお昼寝ですか」

 動物用のミルクをぺろりと平らげた子犬が、今度は眠りを求めてフィニアの膝へと前足をかけて座り込んだ。
 クリーム色の小さな身体を丸めて、すぐにうつらうつらと舟を漕いで瞼を閉じはじめる。

「貴方が酷い目に遭いながら助けてやったというのに、暢気なものですね」

「ふふ、でも、私が見付けた時は、凄く心細そうに鳴いていたんですよ? きっと、怖くて怖くて不安で堪らなくて……、誰かが来てくれるのを待っていたんだと思うんです。だから、やっと落ち着ける場所に来られて、それで安心出来たんじゃないでしょうか」

「確かに……、『一人』というのは、……辛いものですからね」

「セレイド様?」

「……」

「あの、……セレイド様?」

 フィニアの膝で安心して眠る子犬を眺めながら、その姿に在りし日の記憶を見てしまう。
 屋敷の中、一人温もりを求めて彷徨う子供の泣き声……。
 孤独という毒に浸食され続けた日々……。
 意識が、……ズルリと、記憶の沼に嵌り込んでいく気がする。

「セレイド様っ」

 その時、遠い過去の記憶に意識を沈み込ませていた俺を現実に引き戻すように、すぐ傍で愛しい声音が呼びかけてきた。案じている事がわかる不安そうな音、視線を移した先に見えた、愛しい人の輪郭。

「セレイド様、大丈夫ですか?」

「フィニ……ア? ……俺は」

 いつ傍に来たのかにも気付かなかった。
 子犬を腕の中に抱え、俺の顔を心配げに覗き込んでいるフィニア。

「何度呼びかけても上の空でしたので、心配になってしまって……」

「すみません、ちょっと……昔の事を思い出してしまっただけです」

「昔の事、ですか……?」

 きょとんと首を傾げたフィニアの頭を撫で、「いえ、何でもありません」と言い直した。
 彼女の心を翳らせてしまうような話など、聞かせる必要はない。
 今この瞬間の幸福を、彼女が与えてくれる優しい愛を、確かに傍に感じられるのだから……。
 あんな話を耳に入れる必要など……ありはしない。

「さ、フィニア。本でも持ってきますから、一緒に読みましょうか」

「セレイド様、あの……っ」

 俺が言った事を気にしているのか、フィニアが俺の服の裾を掴んで引き止めた。
 その手をやんわりと引き離し、俺は彼女の額にキスを与えて笑みを向ける。
 何も心配はいらないのだと、そう安心させるように……。

「子犬の方にも、何か掛ける物を持ってきましょうね」

 そう伝えても、フィニアの表情から案じる色は消えない。
 天然なところもある彼女だが、ふとした時に、察しの良さを垣間見える時がある。
 俺は、そんな彼女の視線から逃れるように、足早に自室を後にした。
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