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~蜜愛の館(婚約編)
蒼麗侯爵様と子犬の話16
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※最初はフィニアの視点。
後半は、クレイラーゼ公爵レアンドルの視点が入ります。
◇◆◇◆◇フェルディナス伯爵邸・客室◆◇◆◇◆
――Side フィニア
「フィニー……」
「大丈夫よ、フィニア。警備隊だって来てるんだから、ちゃんとフィニー達の事も無事に保護してくれるわよ」
伯爵邸の客室に移り、伯爵夫人と共に並んでソファーに座って顔を覆っていた私は、アルディレーヌに肩を抱かれながらコクリと小さく頷く。
夫人の方は、ブランシュちゃんが寄り添って言葉をかけているけれど、私と同じく、心の中は酷く重苦しい悲しみに襲われているようだった……。
「ごめんなさい……。せっかく、貴方があの子を届けてくれたのに、たった数日で、また……本当に、ごめんなさい」
「フェルディナス夫人……」
両手で顔を覆い、憔悴しきった様子で私に謝ってくれる伯爵夫人。
彼女は何も悪くないのに……。
ゆっくりと私へ向けられた顔には、止め処なく悲しみの涙の筋が頬を伝い落ち、ずっとそんな状態で泣き続けたのだろう様子が窺える、真っ赤に充血してしまった双眸が見てとれた。
彼女にとってフィニー達が、どれほど大切な存在であるか……。
その顔と、私に何度も謝ってくれる辛そうな声音から、深く、強く、感じ取る事が出来た。
「フェルディナス夫人、謝らないでください……。今回の件は、全て予期せぬ事。このお屋敷を荒らしに入った者達が悪いのです」
「いいえ、あの時、私達が意識を失いさえしなければ……。それに、……貴女が送り届けてくれた子犬は、本当は……帰りたがっていたのに」
「え……」
「貴女とグレイシャール侯爵が私達の屋敷を出た後、あの子は、屋敷の中を走り回り、何かを探しているようでした……。寂しそうな声で鳴き続け、他の子犬達が寄り添っても、どんどん元気を失くしていくばかりで」
「フィニーが……」
元の家族と再会出来たというのに、何かを探し回っていたフィニー。
伯爵夫人は、その何かが、私とセレイド様の事ではないだろうかと、フェルディナス伯爵と共に思い当たっていたらしい。
本物の飼い主であり家族である伯爵夫妻と、少しの間仮の家族となっていた私達。
幼い子犬の中で、どんな想いが巡っていたのかはわからないけれど、きっとそれまでずっと一緒にいた私達の姿が見えなくなって戸惑ってしまったのだろう。
「今は戸惑っているだけだと、そう……考えていたのだけど。翌日になっても、あの子の様子は変わらなくて、随分と元気を失くしたようになって……」
「フェルディナス夫人……」
「きっと、貴女達にとても懐いていたのだと、固い絆が出来ていたのだと……、そう思ったら、もう一度貴女達に会わないといけないと思ったの」
「だから……、私達を今日お招き下さっていたのですね」
「ええ……」
大切な家族である子犬の幸せを第一に考えたいと話してくれた伯爵夫人が、私の手を取り、もう一度「本当にごめんなさい……」と、小さく呟く。
謝られる事なんて、何もないのに……。
フィニーを在るべき家族の許に帰す事が、私の本来の役目だったのだから。
あの子が幸せになれるようにと、そう願いながら去ったこのお屋敷……。
フィニーが得るべき幸せを、心ない賊達が亀裂を入れる様に壊してしまった。
「お心遣い、本当に感謝いたします。フェルディナス夫人。フィニーが望む幸せがどこに在るのか、私ももう一度、あの子と向き合ってみようと思います。その為にも……、フィニー達を捜し出さなくては」
夫人の手をしっかりと握り締めた後、私はソファーから立ち上がった。
「フィニア? どこに行くのよ」
「何か進展がなかったかどうか、ディダルヴァートさんに聞いてくるの。これから、どのように捜査を行ってくれるのか、色々と尋ねたい事もあるし」
「あぁ、あの嫌な視線を送って来た奴ね。だけど、あの男、あんまり貴族に対して良い感情を持ってないみたいだったし、行っても邪魔者扱いされるんじゃないかしら?」
扉へと向かう私の傍に歩み寄り、アルディレーヌが溜息と共に冷静な意見を述べる。
確かに、あのディダルヴァートという警備隊の男性は、私達に対して好意的な気配を向けてはくれなかった。
民の中には、貴族に対して不満や反感を抱く人達もいる事は知っていたし、そういう視線を向けられるには、それなりの理由があるのだろうという事もわかっている。
だけど、今はそんな事よりも、フィニー達の事が心配でならない。
「大丈夫。少しだけ質問をして来るだけだから」
「じゃあ、私も一緒に行くわ。ブランシュ、夫人をお願い」
「は、はい!」
泣き疲れてしまったのか、ふらりとよろけかけた夫人をブランシュちゃんが支え、私とアルディレーヌにしっかりとした頷きを見せてくれた。
◇◆◇◆◇フェルディナス伯爵邸・応接間◆◇◆◇◆
「これからの捜査についての方針と、犬達の捜索に関する件について、ですか?」
応接間へと辿り着いた私は、長身の背丈で冷たく私を見下ろしてくるディダルヴァートさんにコクリと頷く。
さっきと同じく、どこか敵意のような気配がこの人の双眸には宿っている。
だけど……、こうして正面から逃げずに、その視線を受け止めていると……。
(私を見ているはずなのに、何だか……違うような気がするのは、何故?)
「……この屋敷に押し入った賊の行方を追う事を第一前提としていますので、犬達の件に関しては、それが終わった後にでも手配をしておく予定ですが」
「フィニー……、犬達を探すのは、まだまだ後の事、という事でしょうか?」
「そうなりますね。我々の仕事は犬探しなどではなく、賊を捕えるのが本分ですから」
ディダルヴァートさんの言っている事は、警備隊を率いる隊長として当然の事なのかもしれない。
だけど、その間にもしも、フィニー達に何かあったら……。
胸の前で両手を祈る形に組み合わせていた私は、決意を込めた視線で一度ディダルヴァートさんを見つめ返した後、アルディレーヌに声をかけた。
「お答えくださって、有難うございました。……行きましょう、アルディレーヌ」
「フィニア?」
彼に背を向け、ある事を決めた私は、足早に応接間を出て行く。
けれど、背後から左腕を引き留めるように掴まれてしまい、歩みが止まってしまった。
「どうされるおつもりですか?」
静かな、だけど、警戒の色を纏ったディダルヴァートさんの低い声音に、顔を向ける。
「警備隊の捜索が後回しになるのなら、自分で探します」
「犬達がどこに行ったのかもわからないのにですか? 貴女のような貴族の娘が、自分の足で?」
世間知らずの素人が、何を言っているのだ……、そう、彼は私を遠回しに揶揄しているのだろう。
確かに、私は貴族の家で育った娘。だけど、私には歩く事の出来る両足がある。
それがあれば、町の中を歩き回ってフィニー達を探す事も、その外へだって出て行く事が出来る。
「貴方達警備隊の邪魔をする気はありません。離してください」
「……」
決意を込めた眼差しでディダルヴァートさんを見つめ返していると、警備隊の一人である青年がニコニコと面白がる様に、私達の傍へと近付いて来た。
金の柔らかなクセのある髪と、愛嬌のある顔つきは、さぞかし女性達に愛される事だろう。
けれど、私を見下ろす彼の瞳には、どこか私を小馬鹿にするような気配が宿っている。
彼が来た事で、ディダルヴァートさんが一旦私の腕を解放したのが見えた。
「可愛らしいお嬢さんが、わざわざ犬の事で苦労する必要はないんじゃないかなぁ。君は知らないかもしれないけど、護衛もなしに外に出たら、色々危ないと思うよ? こんなに可愛くて脆そうな子じゃあ、すぐに攫われちゃうね~」
前にまわって来た彼は私の肩にその手を添え、わざとらしくそこを揉み始める。
完全に馬鹿にされている……。彼の笑い声が、……不快に響く。
それに対し、目を剣呑に細めた私は、傍にいたアルディレーヌが怒り出す前に……。
――ダァァァァァンッ!!
「……え」
おもむろに、警備隊の制服を着崩している青年の襟元を掴んだ私は、彼の足下を払う仕草を交えながら、武術の訓練で習った投げ技を容赦なくお見舞いした。
「ご心配なさらないでください。……自己防衛の対策も、ちゃんと考えていますので」
自分よりも小柄で、ただの貴族の娘だと思っていた相手から投げ技をお見舞いされてしまった青年が、目をパチパチと瞬きし、私を驚愕と共に見上げてくる。
ディダルヴァートさんも、私がこんな真似を出来る事を知らなかったせいか、真顔ばかりだった表情に、ツーと……冷汗が落ちていた。
「相変わらず鮮やかで威力のある投げ技ね~。最近見る事もなかったけど、……相当怒ってるわね? フィニア」
「本当は自分の身に危険が迫った時以外は駄目だと言われているのだけど、……ちょっとだけ、ね」
以前、まだセレイド様と想いを交わす前にも、混乱のあまり彼に対して自己防衛の一撃をお見舞いしてしまった事があるのだけど、今回は、フィニーを早く探しに行きたい自分の中の焦りと、視線の下で呆けている金髪の青年からの遠回しな揶揄に、つい……。
「痛てててて……。ねぇ、貴族の女の子って、普通か弱いんじゃないの? 今のアリ? 物凄い手際の良さだったんだけど……」
金髪の青年が腰を擦りながら立ち上がろうとしていると、入り口の方から軽い拍手の音が響いた。
そちらを振り向くと、グラーゼス殿下とレアンドル様を後ろに伴っているセレイド様がこちらへと歩いて来るところだった。
「流石は、俺の愛する姫君ですね。フィニア、見事な投げ技でしたよ? ですが……」
顔にわざとらしい笑顔を貼り付けて近付いて来たセレイド様が、立ち上がろうとしていた金髪の青年の足下を払い、またドスンと転ばしてしまった。
「俺の愛する婚約者殿を侮るような発言と、少しでもその身に触れた罪は、……重いですよ?」
「え……、あ、あのっ。ちょっ、お兄さん、目っ、目が怖い!!」
彼の言う通り、セレイド様は笑っているはずなのに、その目だけは笑っておらず、冷酷な気配を纏った眼差しと共に、金髪の青年を足先でうつ伏せに転がすと、その背中を踏みつけた。
「痛っ!! ちょっ、何すんの!!」
「あ~、セレイド様ってば、完全に怒ってるわねぇ……」
「あれ、俺も昔やられた事あるけどさ……、人を甚振ってる時のセレイドって、本当、冗談抜きで活き活きしてるよなぁ」
アルディレーヌとグラーゼス殿下が、金髪の青年の顔の傍に膝を着き、うんうんと頷いている。
人の背中を靴の裏でグリグリと力を込めて踏みつけながら嗤っているセレイド様は、……確かに、活き活きとしているというか、私との蜜事の際に言葉で攻めてくる時の気配にも似ている。
「せ、セレイド様……っ」
「俺もブランシュを同じように侮られたら……、ふふ、あれ以上の事はやってしまうだろうね」
私の傍に立ち、一見して微笑みの貴公子様のように笑うレアンドル様の発言の中身が怖い。
誰もセレイド様の暴挙? を止めないどころか、面白そうに観察しているし……。
何だか、踏まれている青年が可哀想になってきてしまったわ……。
「さぁ、次は鞭打ちの刑にでもしてあげましょうか? 俺の愛する人の心を曇らせ、その逆鱗さえ触れたのですからね……。彼女に代わり、この俺が……貴方に躾というものを施してあげましょう」
「嫌ぁああああ!! も、もう、やめ!! 反省したから、謝るから!! ってか、隊長、見てないで助けてよ~!!」
「……自分で何とかしろ」
「そんなああああああああ!!」
「いやぁ、自分がやられてないってだけでも安心感あるけど、他人がセレイドに甚振られてるの見てると、何か面白いな~」
無情にも、自分の部下を見捨てたディダルヴァートさんと、暢気に笑いながら状況を楽しんでいるグラーゼス殿下……。
誰も止める気がないせいで、セレイド様のお仕置きはますます悪化していってしまう。
懐から、何かを取り出したセレイド様だけど、あれって……。
「む、鞭!?」
「あぁ、フィニア嬢はまだ見た事がなかったか~。たまに出て来るんだよなぁ、あれ……」
「たまに!? というか、何故あんな物を常備しているんですか!?」
「他にも短剣とか、暗器とか、色々持ってるぞ?」
「……」
暢気な様子を崩さずに教えてくれるグラーゼス殿下に、私の血の気がどんどん下がっていく。
まさか自分の婚約者が、鞭が武器の類を常備していたなんて……本当に初耳ですよ。
「うぎゃああああん!! 痛い!! 痛いって~!!」
「このくらいの痛みで根をあげないでくれませんか? フィニアが心に負った痛みは、もっと深く辛いものなのですよ」
「いえ、セレイド様。別に傷付いたわけではなく……」
「彼女が傷付く前に、貴方のような害悪を近付かせないように動けなかった俺の咎です。今後、俺のフィニアを始めとした、多くの女性達を傷付ける事がないよう、たっぷりと躾けてあげましょう」
ビシィーン、ビシィーンと……、手慣れた様子で青年の背中を打ち付けるセレイド様は、本当に調教師か何かのように輝いている。
眼鏡の奥の瞳が嗜虐と怒りの気配に染まり、容赦なくビシィーンビシィーンと……。
「せ、セレイド様、も、もういいですから!! 私の事なら大丈夫です。ですから、彼の事は解放してあげてくださいっ」
もう見ていられず、青年の傍へと膝を着き、助け起こそうとした私を、青年が救世主でも前にしたかのような嬉しそうな涙に滲んだ顔で見上げてくる。
「あぁっ、君って……すっごく優しいんだねぇ。さっきはごめんね? 俺、本当に考えなしに馬鹿言っちゃって……痛ぁああ!!」
私の手を握り、謝罪を口にしてくれた青年を、またセレイド様の鞭が打ち付ける。
「誰の許可を得て、俺の婚約者の手に触れているのでしょうね……? ディダルヴァート殿、飼い犬の躾は貴方の役目だと思いますが」
「……すみません。そいつは隊の中でも、一番の問題児で、こちらとしても手を焼いています」
「隊長~!! ちょっとは部下を庇おうよ!! 痛いっ、痛いよ!! このドSな人、本当どうにかして!! でないと、俺っ、……違う道に目覚め、ぎゃん!!」
青年が頬を染め、意味のわからない発言をしたのと同時に、またセレイド様の鞭が……。
「勝手に目覚めないでください。不愉快です。はぁ……、そろそろ飽きてきましたね。アルディレーヌ嬢、鞭を貸しますので、代わってください」
「お断りよ。何で私が鞭なんかを……」
「そうだぞ!! もしやるんなら、初めに打たれるのは、恋人である俺の役目、ぎゃんっ!!」
セレイド様から差し出された鞭を拒否したアルディレーヌの横で、目を期待に輝かせながら訴えたグラーゼス殿下を、鞭が容赦なくしなり打ち付ける。
「グラーシェル、場を弁えてください。それと、これは俺が特注で作らせた鞭ですからね。打たれると、かなり痛いですよ」
「た、確かに……、今のは相当痛かったっ」
セレイド様、次期国王様の身体に何て事を……!!
鞭をくるくると巻いて懐に仕舞ったセレイド様は、自分が王族に何をしたかも気にしておらず、私の許へと歩み寄って来る。
「フィニア、大丈夫ですか?」
「は、はい……」
「俺達が席を外していたせいで、貴女を辛い目に遭わせてしまうとは……」
「あの、ですから、別に傷付いたわけでは……」
私を優しく抱き寄せ、人の話をちゃんと聞かずに、謝罪の言葉を繰り返すセレイド様。
本当に、ちょっと苛立っただけで、別に傷付いてはいないのに……。
彼の過保護ぶりが日増しに悪化している気がしてならない。
「ですが、フィニア。客間で待っているはずの貴女が何故ここに?」
「フィニー達を、探しに行きたいんです」
「フィニー達を……?」
ディダルヴァートさんから聞かされた捜索の優先順位の話をすると、セレイド様が眉根を寄せ、咎める様に彼を睨み付けた。
「犬達の捜索に割く人員は惜しい、と……、そういうわけですか?」
「我が警備隊も、昨今人員不足が否めないのですよ。それに、賊を捕えるのが何よりの優先事項。犬にかまけてそれが疎かになるのは困ります。賊が捕獲出来れば、何人かは犬の捜索にあたらせますが……」
「……そうですか」
セレイド様はあえて反論はせず、ディダルヴァートさんを数秒ほど見つめた後、私の肩を抱いて応接間を出ようと歩みを向けた。
「どちらへ?」
「賊の捜索は、貴方達に任せますよ。協力をするとは言いましたが、犬の捜索を後回しにされるのは容認出来ません」
「痛たた……。でもさ、貴族なんだから、犬なんて幾らでも買い足せるんじゃないの? 捜すのが後回しになったって、そこまで気にする事……」
起き上がって来た金髪の青年が、不可解そうに自分の意見を告げた直後、セレイド様が振り向き投じた視線に、ビクリと肩を震わした。
底知れない冷たさと、射殺すほどの眼差し……。自分に向けられているわけではなくとも、彼の波打った感情が私の心へと沁み込んでくるようだ。
「貴方達には何の価値もなくとも、俺達にはあるんですよ……。共に過ごし、想いを交わし合った大事な家族、人でも犬でも、それは同じ事です。その軽い中身のない頭に、よく刻み付けておく事ですね」
表情と同じ、室内の空気を凍り付かせるほどの声音で淡々と告げたセレイド様に、私は顔を上げる。
セレイド様にとっても、フィニーは大事な家族だった子……。
そして、フィニーや他の犬達を大切に想う伯爵夫妻の気持ちを、彼は自分の想いと共に代弁している。
「さ、行きましょう、フィニア。彼らと話していると、……また鞭を振るいたくなってしまいますからね」
「はい……」
「セレイド~、俺達をおいてくなって!! あ、俺も犬探しの方にまわるから!! 後は、お前らで勝手にやってくれ」
私達の後を追うように、アルディレーヌ達も応接間を後にしていく。
警備隊の人達にも、責任や立場があるのはわかっている……。
だけど、それで黙って待てるほど、私達の気は長くはない。
フィニー達がどこに行ったのか、怪我をしたり、お腹を空かせていないか……。
後ろ向きな想像を持て余し、心配で堪らないのだから……。
だから、警備隊の人達がまだ捜索を出来ないというのなら、私達が自分で動くべきだろう。
出来る事を、精一杯やらなくては……。待っていてね、フィニー達。
◇◆◇◆◇フェルディナス伯爵邸、夫妻の寝室前◆◇◆◇◆
――Side レアンドル
「ブランシュ、夫人の様子はどうだい?」
グレイシャール侯爵達を客間に残し、夫人の付き添いで寝室へと移動していたブランシュの後を追い、俺は寝室前の廊下へと辿り着いた際に、部屋から出て来た彼女と運よく再会出来た。
浮かない顔で溜息を吐いているブランシュの頬を包む。
「今、お眠りになられました……。わんちゃん達がいなくなった事で、かなりショックを受けておられるようで……。伯爵様も夫人に付き添っていらっしゃいます」
「そうか……。お疲れ様、ブランシュ。 一度皆の所に戻ろうか」
「はい……」
彼女の肩を抱こうとした瞬間、ブランシュがぐらりと体勢を崩したのを目にし、急いでその身体を支える。
「す、すみません……」
「ブランシュ、ちょっと失礼するよ」
「え……、あっ」
ブランシュの額に手をあて、その温もりの高さを確認した俺は、眉根を寄せ、彼女の身体を抱き上げた。
朝は何ともなかったはずの彼女の身体は、触っている俺にもわかるほどに熱い。
瞳は辛そうに潤み、呼吸も苦しそうだ……。
「すぐに医者を呼ぶからね。それまで悪いが、我慢しておくれ」
「あの、レアンドル様、だ、大丈夫……です、からっ。こんなの……、お母様から教わった栄養ジュースを飲めばすぐに……」
「それもいいが、ちゃんと薬を呑みなさい。旅行の疲れが出てしまったのかもしれないが、これは寝込むレベルの状態だよ」
「大丈夫……です、から」
全く、いつまで経っても、彼女は俺に遠慮してばかりだね。
恋人関係になっても、ブランシュは俺に対して壁ばかり作っている。
そうされる事で、俺が寂しさを覚えている事も知らずに……。
俺はブランシュを甘やかしたい。いつだって、恋人として頼られたい。
そう願っても、まだ俺とブランシュの心の距離は縮まらないままだ。
「病人の大丈夫という言葉はあてにならないからね。……こんなに発熱しているんだ。苦しいわけがないだろう?
それとも、看病をするのが俺では、不満なのかな?」
「ち、違い……ますっ。だけど……、ご迷惑を、おかけするわけ、には」
それでもまだ俺の腕から下りようとするブランシュに、少しだけ心の中がざわつく。
何故俺を頼ろうとしない? 何故、恋人の前でも我慢をしようとする?
「ブランシュ……」
「は、はい……」
「俺はね、愛しい人から甘えられるのが一番の幸せなんだ」
「え……」
「だから、君のこの熱が下がって元気になるまでは、……強制的に甘えさせるよ」
「ええっ」
顔にだけは笑みを貼り付けて、俺は愛しいブランシュの額に口づけた。
誓いを交わすような想いを込めて、彼女は俺が守るのだと、そう、自分に誓いながら。
「だ、駄目ですっ、レアンドル様……っ。今は、このお屋敷で盗みを犯した人達の捜索や、わんちゃん達の事もあるのに……」
「大丈夫だよ。それは、グレイシャール侯爵達や警備隊がしっかりやってくれるからね。それよりも俺にとっては、愛する君が苦しんでいるのをどうにかする方が大事なんだよ」
拒むのなら、強引に看病をさせて貰うだけだ。
俺はブランシュの小柄な身体を腕の中に強く抱き締めながら、今自分にとっての一番の優先事項を果たす為、客室がある階へと急ぐ。
「レアンドル様っ、本当に、だい、じょうぶ……です、からっ。下ろして、くださ、いっ。お願い……です、からっ」
階段を下りている最中にも、ブランシュは俺の看病を拒むように身を捩ろうとする。
この子は、見た目の可愛らしさとは別に、意思の固い所もあるからね……。
自分に出来る事をしたくて仕方がないのだろう。
だけど、それを黙ってさせる事はしない。
今のブランシュは、どこからどう見ても病人だ。
無理などさせたら、一体どんな悪夢が待っている事か……。
「大人しくしない悪い子には……、お仕置きを与えるけれど、それでもいいのかい?」
「え……、お、お仕置きっ?」
ビクンっと、ブランシュの身体が不穏な言葉に震える。
不安げに俺を見上げる様さえ、とても可愛らしくて仕方がないが……。
今は彼女を大人しくさせて、寝台で眠って貰うのが一番だからね。
俺はわざと、いつもとは違う類の笑みを纏い、彼女の顔に自分のそれを近付けた。
「そう、お仕置きだよ……。大人の言う事を聞かない強情な子供には、少し手荒な真似をしないといけなくなる……」
「て、手荒な真似……です、かっ」
彼女の額に自分の額を押し当て、恐怖を煽るように不穏な笑みを口許に浮かべる。
「ブランシュは沢山泣いてしまうかもしれないね。俺としては、可愛い君をそんな目に遭わせたくはないのだけど……」
「お、お仕置きは……、い、嫌です、怖い、ですっ。でも、私も……フィニアお姉様達の力になりたい、からっ」
うるうると目に涙を溜めて、震える声音を発する彼女は、それでもまだ、俺の腕の中から下りようとしている。
全く……、本当に困った子だね。怖くて堪らないくせに、まだ逆らってくる。
「ブランシュ、よく聞きなさい。君がフィニア嬢達の力になりたいと望むように、彼女達もまた、君の事を大切に想っているのだよ?」
「……」
「その君が、熱を出して病にかかっているというのに、無理などしたら……、彼女達は絶対に悲しんでしまうよ?」
「あ……」
「今の君に出来る事は、医者に診て貰って、薬を呑んで、よく眠る事だ。そして、元気になったら……、また頑張りなさい」
「レアンドル……様」
戸惑いを込めた瞳を揺らし、ブランシュは俺の名を呼ぶ。
フィニア嬢達を大切に想うなら、自分の事も大切にするべきだ。
たまに、人の為に頑張りすぎて、自分を壊す人もいるけれど……。
ブランシュにはそうなってほしくはない。
まず自分という存在を大事にして、それから、人の事も大事にする。
お互いがお互いを壊さない為のルールを守ってほしい……。
俺の言葉に小さく頷いた彼女が、ようやく俺に全てを預けてくれる。
「しかし、君の体調の変化に気付けなかった俺も、……罪深いね。ブランシュ、元気になったら、何か俺に出来る償いを考えておいてくれるかな?」
「え……。れ、レアンドル、様は……私を心配してくださった、だけ、なのにっ」
「俺は君の恋人だよ? それなのに、何も気付けなかったなんて、……男として情けないよ。だから、その償いをさせてほしい」
困ったように視線を彷徨わせたブランシュが、ブンブントと弱々しく首を振る。
「いいえ……。レアンドル様はやっぱり、何も悪くなんて……ない、です。だから、……償い、なんて、駄目……です」
「ブランシュ?」
どうやら体調が本格的に悪化してきたようだ。
俺は彼女の身体を落とさぬようしっかりと抱き抱え、客室のある場所へと急いだ。
後半は、クレイラーゼ公爵レアンドルの視点が入ります。
◇◆◇◆◇フェルディナス伯爵邸・客室◆◇◆◇◆
――Side フィニア
「フィニー……」
「大丈夫よ、フィニア。警備隊だって来てるんだから、ちゃんとフィニー達の事も無事に保護してくれるわよ」
伯爵邸の客室に移り、伯爵夫人と共に並んでソファーに座って顔を覆っていた私は、アルディレーヌに肩を抱かれながらコクリと小さく頷く。
夫人の方は、ブランシュちゃんが寄り添って言葉をかけているけれど、私と同じく、心の中は酷く重苦しい悲しみに襲われているようだった……。
「ごめんなさい……。せっかく、貴方があの子を届けてくれたのに、たった数日で、また……本当に、ごめんなさい」
「フェルディナス夫人……」
両手で顔を覆い、憔悴しきった様子で私に謝ってくれる伯爵夫人。
彼女は何も悪くないのに……。
ゆっくりと私へ向けられた顔には、止め処なく悲しみの涙の筋が頬を伝い落ち、ずっとそんな状態で泣き続けたのだろう様子が窺える、真っ赤に充血してしまった双眸が見てとれた。
彼女にとってフィニー達が、どれほど大切な存在であるか……。
その顔と、私に何度も謝ってくれる辛そうな声音から、深く、強く、感じ取る事が出来た。
「フェルディナス夫人、謝らないでください……。今回の件は、全て予期せぬ事。このお屋敷を荒らしに入った者達が悪いのです」
「いいえ、あの時、私達が意識を失いさえしなければ……。それに、……貴女が送り届けてくれた子犬は、本当は……帰りたがっていたのに」
「え……」
「貴女とグレイシャール侯爵が私達の屋敷を出た後、あの子は、屋敷の中を走り回り、何かを探しているようでした……。寂しそうな声で鳴き続け、他の子犬達が寄り添っても、どんどん元気を失くしていくばかりで」
「フィニーが……」
元の家族と再会出来たというのに、何かを探し回っていたフィニー。
伯爵夫人は、その何かが、私とセレイド様の事ではないだろうかと、フェルディナス伯爵と共に思い当たっていたらしい。
本物の飼い主であり家族である伯爵夫妻と、少しの間仮の家族となっていた私達。
幼い子犬の中で、どんな想いが巡っていたのかはわからないけれど、きっとそれまでずっと一緒にいた私達の姿が見えなくなって戸惑ってしまったのだろう。
「今は戸惑っているだけだと、そう……考えていたのだけど。翌日になっても、あの子の様子は変わらなくて、随分と元気を失くしたようになって……」
「フェルディナス夫人……」
「きっと、貴女達にとても懐いていたのだと、固い絆が出来ていたのだと……、そう思ったら、もう一度貴女達に会わないといけないと思ったの」
「だから……、私達を今日お招き下さっていたのですね」
「ええ……」
大切な家族である子犬の幸せを第一に考えたいと話してくれた伯爵夫人が、私の手を取り、もう一度「本当にごめんなさい……」と、小さく呟く。
謝られる事なんて、何もないのに……。
フィニーを在るべき家族の許に帰す事が、私の本来の役目だったのだから。
あの子が幸せになれるようにと、そう願いながら去ったこのお屋敷……。
フィニーが得るべき幸せを、心ない賊達が亀裂を入れる様に壊してしまった。
「お心遣い、本当に感謝いたします。フェルディナス夫人。フィニーが望む幸せがどこに在るのか、私ももう一度、あの子と向き合ってみようと思います。その為にも……、フィニー達を捜し出さなくては」
夫人の手をしっかりと握り締めた後、私はソファーから立ち上がった。
「フィニア? どこに行くのよ」
「何か進展がなかったかどうか、ディダルヴァートさんに聞いてくるの。これから、どのように捜査を行ってくれるのか、色々と尋ねたい事もあるし」
「あぁ、あの嫌な視線を送って来た奴ね。だけど、あの男、あんまり貴族に対して良い感情を持ってないみたいだったし、行っても邪魔者扱いされるんじゃないかしら?」
扉へと向かう私の傍に歩み寄り、アルディレーヌが溜息と共に冷静な意見を述べる。
確かに、あのディダルヴァートという警備隊の男性は、私達に対して好意的な気配を向けてはくれなかった。
民の中には、貴族に対して不満や反感を抱く人達もいる事は知っていたし、そういう視線を向けられるには、それなりの理由があるのだろうという事もわかっている。
だけど、今はそんな事よりも、フィニー達の事が心配でならない。
「大丈夫。少しだけ質問をして来るだけだから」
「じゃあ、私も一緒に行くわ。ブランシュ、夫人をお願い」
「は、はい!」
泣き疲れてしまったのか、ふらりとよろけかけた夫人をブランシュちゃんが支え、私とアルディレーヌにしっかりとした頷きを見せてくれた。
◇◆◇◆◇フェルディナス伯爵邸・応接間◆◇◆◇◆
「これからの捜査についての方針と、犬達の捜索に関する件について、ですか?」
応接間へと辿り着いた私は、長身の背丈で冷たく私を見下ろしてくるディダルヴァートさんにコクリと頷く。
さっきと同じく、どこか敵意のような気配がこの人の双眸には宿っている。
だけど……、こうして正面から逃げずに、その視線を受け止めていると……。
(私を見ているはずなのに、何だか……違うような気がするのは、何故?)
「……この屋敷に押し入った賊の行方を追う事を第一前提としていますので、犬達の件に関しては、それが終わった後にでも手配をしておく予定ですが」
「フィニー……、犬達を探すのは、まだまだ後の事、という事でしょうか?」
「そうなりますね。我々の仕事は犬探しなどではなく、賊を捕えるのが本分ですから」
ディダルヴァートさんの言っている事は、警備隊を率いる隊長として当然の事なのかもしれない。
だけど、その間にもしも、フィニー達に何かあったら……。
胸の前で両手を祈る形に組み合わせていた私は、決意を込めた視線で一度ディダルヴァートさんを見つめ返した後、アルディレーヌに声をかけた。
「お答えくださって、有難うございました。……行きましょう、アルディレーヌ」
「フィニア?」
彼に背を向け、ある事を決めた私は、足早に応接間を出て行く。
けれど、背後から左腕を引き留めるように掴まれてしまい、歩みが止まってしまった。
「どうされるおつもりですか?」
静かな、だけど、警戒の色を纏ったディダルヴァートさんの低い声音に、顔を向ける。
「警備隊の捜索が後回しになるのなら、自分で探します」
「犬達がどこに行ったのかもわからないのにですか? 貴女のような貴族の娘が、自分の足で?」
世間知らずの素人が、何を言っているのだ……、そう、彼は私を遠回しに揶揄しているのだろう。
確かに、私は貴族の家で育った娘。だけど、私には歩く事の出来る両足がある。
それがあれば、町の中を歩き回ってフィニー達を探す事も、その外へだって出て行く事が出来る。
「貴方達警備隊の邪魔をする気はありません。離してください」
「……」
決意を込めた眼差しでディダルヴァートさんを見つめ返していると、警備隊の一人である青年がニコニコと面白がる様に、私達の傍へと近付いて来た。
金の柔らかなクセのある髪と、愛嬌のある顔つきは、さぞかし女性達に愛される事だろう。
けれど、私を見下ろす彼の瞳には、どこか私を小馬鹿にするような気配が宿っている。
彼が来た事で、ディダルヴァートさんが一旦私の腕を解放したのが見えた。
「可愛らしいお嬢さんが、わざわざ犬の事で苦労する必要はないんじゃないかなぁ。君は知らないかもしれないけど、護衛もなしに外に出たら、色々危ないと思うよ? こんなに可愛くて脆そうな子じゃあ、すぐに攫われちゃうね~」
前にまわって来た彼は私の肩にその手を添え、わざとらしくそこを揉み始める。
完全に馬鹿にされている……。彼の笑い声が、……不快に響く。
それに対し、目を剣呑に細めた私は、傍にいたアルディレーヌが怒り出す前に……。
――ダァァァァァンッ!!
「……え」
おもむろに、警備隊の制服を着崩している青年の襟元を掴んだ私は、彼の足下を払う仕草を交えながら、武術の訓練で習った投げ技を容赦なくお見舞いした。
「ご心配なさらないでください。……自己防衛の対策も、ちゃんと考えていますので」
自分よりも小柄で、ただの貴族の娘だと思っていた相手から投げ技をお見舞いされてしまった青年が、目をパチパチと瞬きし、私を驚愕と共に見上げてくる。
ディダルヴァートさんも、私がこんな真似を出来る事を知らなかったせいか、真顔ばかりだった表情に、ツーと……冷汗が落ちていた。
「相変わらず鮮やかで威力のある投げ技ね~。最近見る事もなかったけど、……相当怒ってるわね? フィニア」
「本当は自分の身に危険が迫った時以外は駄目だと言われているのだけど、……ちょっとだけ、ね」
以前、まだセレイド様と想いを交わす前にも、混乱のあまり彼に対して自己防衛の一撃をお見舞いしてしまった事があるのだけど、今回は、フィニーを早く探しに行きたい自分の中の焦りと、視線の下で呆けている金髪の青年からの遠回しな揶揄に、つい……。
「痛てててて……。ねぇ、貴族の女の子って、普通か弱いんじゃないの? 今のアリ? 物凄い手際の良さだったんだけど……」
金髪の青年が腰を擦りながら立ち上がろうとしていると、入り口の方から軽い拍手の音が響いた。
そちらを振り向くと、グラーゼス殿下とレアンドル様を後ろに伴っているセレイド様がこちらへと歩いて来るところだった。
「流石は、俺の愛する姫君ですね。フィニア、見事な投げ技でしたよ? ですが……」
顔にわざとらしい笑顔を貼り付けて近付いて来たセレイド様が、立ち上がろうとしていた金髪の青年の足下を払い、またドスンと転ばしてしまった。
「俺の愛する婚約者殿を侮るような発言と、少しでもその身に触れた罪は、……重いですよ?」
「え……、あ、あのっ。ちょっ、お兄さん、目っ、目が怖い!!」
彼の言う通り、セレイド様は笑っているはずなのに、その目だけは笑っておらず、冷酷な気配を纏った眼差しと共に、金髪の青年を足先でうつ伏せに転がすと、その背中を踏みつけた。
「痛っ!! ちょっ、何すんの!!」
「あ~、セレイド様ってば、完全に怒ってるわねぇ……」
「あれ、俺も昔やられた事あるけどさ……、人を甚振ってる時のセレイドって、本当、冗談抜きで活き活きしてるよなぁ」
アルディレーヌとグラーゼス殿下が、金髪の青年の顔の傍に膝を着き、うんうんと頷いている。
人の背中を靴の裏でグリグリと力を込めて踏みつけながら嗤っているセレイド様は、……確かに、活き活きとしているというか、私との蜜事の際に言葉で攻めてくる時の気配にも似ている。
「せ、セレイド様……っ」
「俺もブランシュを同じように侮られたら……、ふふ、あれ以上の事はやってしまうだろうね」
私の傍に立ち、一見して微笑みの貴公子様のように笑うレアンドル様の発言の中身が怖い。
誰もセレイド様の暴挙? を止めないどころか、面白そうに観察しているし……。
何だか、踏まれている青年が可哀想になってきてしまったわ……。
「さぁ、次は鞭打ちの刑にでもしてあげましょうか? 俺の愛する人の心を曇らせ、その逆鱗さえ触れたのですからね……。彼女に代わり、この俺が……貴方に躾というものを施してあげましょう」
「嫌ぁああああ!! も、もう、やめ!! 反省したから、謝るから!! ってか、隊長、見てないで助けてよ~!!」
「……自分で何とかしろ」
「そんなああああああああ!!」
「いやぁ、自分がやられてないってだけでも安心感あるけど、他人がセレイドに甚振られてるの見てると、何か面白いな~」
無情にも、自分の部下を見捨てたディダルヴァートさんと、暢気に笑いながら状況を楽しんでいるグラーゼス殿下……。
誰も止める気がないせいで、セレイド様のお仕置きはますます悪化していってしまう。
懐から、何かを取り出したセレイド様だけど、あれって……。
「む、鞭!?」
「あぁ、フィニア嬢はまだ見た事がなかったか~。たまに出て来るんだよなぁ、あれ……」
「たまに!? というか、何故あんな物を常備しているんですか!?」
「他にも短剣とか、暗器とか、色々持ってるぞ?」
「……」
暢気な様子を崩さずに教えてくれるグラーゼス殿下に、私の血の気がどんどん下がっていく。
まさか自分の婚約者が、鞭が武器の類を常備していたなんて……本当に初耳ですよ。
「うぎゃああああん!! 痛い!! 痛いって~!!」
「このくらいの痛みで根をあげないでくれませんか? フィニアが心に負った痛みは、もっと深く辛いものなのですよ」
「いえ、セレイド様。別に傷付いたわけではなく……」
「彼女が傷付く前に、貴方のような害悪を近付かせないように動けなかった俺の咎です。今後、俺のフィニアを始めとした、多くの女性達を傷付ける事がないよう、たっぷりと躾けてあげましょう」
ビシィーン、ビシィーンと……、手慣れた様子で青年の背中を打ち付けるセレイド様は、本当に調教師か何かのように輝いている。
眼鏡の奥の瞳が嗜虐と怒りの気配に染まり、容赦なくビシィーンビシィーンと……。
「せ、セレイド様、も、もういいですから!! 私の事なら大丈夫です。ですから、彼の事は解放してあげてくださいっ」
もう見ていられず、青年の傍へと膝を着き、助け起こそうとした私を、青年が救世主でも前にしたかのような嬉しそうな涙に滲んだ顔で見上げてくる。
「あぁっ、君って……すっごく優しいんだねぇ。さっきはごめんね? 俺、本当に考えなしに馬鹿言っちゃって……痛ぁああ!!」
私の手を握り、謝罪を口にしてくれた青年を、またセレイド様の鞭が打ち付ける。
「誰の許可を得て、俺の婚約者の手に触れているのでしょうね……? ディダルヴァート殿、飼い犬の躾は貴方の役目だと思いますが」
「……すみません。そいつは隊の中でも、一番の問題児で、こちらとしても手を焼いています」
「隊長~!! ちょっとは部下を庇おうよ!! 痛いっ、痛いよ!! このドSな人、本当どうにかして!! でないと、俺っ、……違う道に目覚め、ぎゃん!!」
青年が頬を染め、意味のわからない発言をしたのと同時に、またセレイド様の鞭が……。
「勝手に目覚めないでください。不愉快です。はぁ……、そろそろ飽きてきましたね。アルディレーヌ嬢、鞭を貸しますので、代わってください」
「お断りよ。何で私が鞭なんかを……」
「そうだぞ!! もしやるんなら、初めに打たれるのは、恋人である俺の役目、ぎゃんっ!!」
セレイド様から差し出された鞭を拒否したアルディレーヌの横で、目を期待に輝かせながら訴えたグラーゼス殿下を、鞭が容赦なくしなり打ち付ける。
「グラーシェル、場を弁えてください。それと、これは俺が特注で作らせた鞭ですからね。打たれると、かなり痛いですよ」
「た、確かに……、今のは相当痛かったっ」
セレイド様、次期国王様の身体に何て事を……!!
鞭をくるくると巻いて懐に仕舞ったセレイド様は、自分が王族に何をしたかも気にしておらず、私の許へと歩み寄って来る。
「フィニア、大丈夫ですか?」
「は、はい……」
「俺達が席を外していたせいで、貴女を辛い目に遭わせてしまうとは……」
「あの、ですから、別に傷付いたわけでは……」
私を優しく抱き寄せ、人の話をちゃんと聞かずに、謝罪の言葉を繰り返すセレイド様。
本当に、ちょっと苛立っただけで、別に傷付いてはいないのに……。
彼の過保護ぶりが日増しに悪化している気がしてならない。
「ですが、フィニア。客間で待っているはずの貴女が何故ここに?」
「フィニー達を、探しに行きたいんです」
「フィニー達を……?」
ディダルヴァートさんから聞かされた捜索の優先順位の話をすると、セレイド様が眉根を寄せ、咎める様に彼を睨み付けた。
「犬達の捜索に割く人員は惜しい、と……、そういうわけですか?」
「我が警備隊も、昨今人員不足が否めないのですよ。それに、賊を捕えるのが何よりの優先事項。犬にかまけてそれが疎かになるのは困ります。賊が捕獲出来れば、何人かは犬の捜索にあたらせますが……」
「……そうですか」
セレイド様はあえて反論はせず、ディダルヴァートさんを数秒ほど見つめた後、私の肩を抱いて応接間を出ようと歩みを向けた。
「どちらへ?」
「賊の捜索は、貴方達に任せますよ。協力をするとは言いましたが、犬の捜索を後回しにされるのは容認出来ません」
「痛たた……。でもさ、貴族なんだから、犬なんて幾らでも買い足せるんじゃないの? 捜すのが後回しになったって、そこまで気にする事……」
起き上がって来た金髪の青年が、不可解そうに自分の意見を告げた直後、セレイド様が振り向き投じた視線に、ビクリと肩を震わした。
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「貴方達には何の価値もなくとも、俺達にはあるんですよ……。共に過ごし、想いを交わし合った大事な家族、人でも犬でも、それは同じ事です。その軽い中身のない頭に、よく刻み付けておく事ですね」
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「さ、行きましょう、フィニア。彼らと話していると、……また鞭を振るいたくなってしまいますからね」
「はい……」
「セレイド~、俺達をおいてくなって!! あ、俺も犬探しの方にまわるから!! 後は、お前らで勝手にやってくれ」
私達の後を追うように、アルディレーヌ達も応接間を後にしていく。
警備隊の人達にも、責任や立場があるのはわかっている……。
だけど、それで黙って待てるほど、私達の気は長くはない。
フィニー達がどこに行ったのか、怪我をしたり、お腹を空かせていないか……。
後ろ向きな想像を持て余し、心配で堪らないのだから……。
だから、警備隊の人達がまだ捜索を出来ないというのなら、私達が自分で動くべきだろう。
出来る事を、精一杯やらなくては……。待っていてね、フィニー達。
◇◆◇◆◇フェルディナス伯爵邸、夫妻の寝室前◆◇◆◇◆
――Side レアンドル
「ブランシュ、夫人の様子はどうだい?」
グレイシャール侯爵達を客間に残し、夫人の付き添いで寝室へと移動していたブランシュの後を追い、俺は寝室前の廊下へと辿り着いた際に、部屋から出て来た彼女と運よく再会出来た。
浮かない顔で溜息を吐いているブランシュの頬を包む。
「今、お眠りになられました……。わんちゃん達がいなくなった事で、かなりショックを受けておられるようで……。伯爵様も夫人に付き添っていらっしゃいます」
「そうか……。お疲れ様、ブランシュ。 一度皆の所に戻ろうか」
「はい……」
彼女の肩を抱こうとした瞬間、ブランシュがぐらりと体勢を崩したのを目にし、急いでその身体を支える。
「す、すみません……」
「ブランシュ、ちょっと失礼するよ」
「え……、あっ」
ブランシュの額に手をあて、その温もりの高さを確認した俺は、眉根を寄せ、彼女の身体を抱き上げた。
朝は何ともなかったはずの彼女の身体は、触っている俺にもわかるほどに熱い。
瞳は辛そうに潤み、呼吸も苦しそうだ……。
「すぐに医者を呼ぶからね。それまで悪いが、我慢しておくれ」
「あの、レアンドル様、だ、大丈夫……です、からっ。こんなの……、お母様から教わった栄養ジュースを飲めばすぐに……」
「それもいいが、ちゃんと薬を呑みなさい。旅行の疲れが出てしまったのかもしれないが、これは寝込むレベルの状態だよ」
「大丈夫……です、から」
全く、いつまで経っても、彼女は俺に遠慮してばかりだね。
恋人関係になっても、ブランシュは俺に対して壁ばかり作っている。
そうされる事で、俺が寂しさを覚えている事も知らずに……。
俺はブランシュを甘やかしたい。いつだって、恋人として頼られたい。
そう願っても、まだ俺とブランシュの心の距離は縮まらないままだ。
「病人の大丈夫という言葉はあてにならないからね。……こんなに発熱しているんだ。苦しいわけがないだろう?
それとも、看病をするのが俺では、不満なのかな?」
「ち、違い……ますっ。だけど……、ご迷惑を、おかけするわけ、には」
それでもまだ俺の腕から下りようとするブランシュに、少しだけ心の中がざわつく。
何故俺を頼ろうとしない? 何故、恋人の前でも我慢をしようとする?
「ブランシュ……」
「は、はい……」
「俺はね、愛しい人から甘えられるのが一番の幸せなんだ」
「え……」
「だから、君のこの熱が下がって元気になるまでは、……強制的に甘えさせるよ」
「ええっ」
顔にだけは笑みを貼り付けて、俺は愛しいブランシュの額に口づけた。
誓いを交わすような想いを込めて、彼女は俺が守るのだと、そう、自分に誓いながら。
「だ、駄目ですっ、レアンドル様……っ。今は、このお屋敷で盗みを犯した人達の捜索や、わんちゃん達の事もあるのに……」
「大丈夫だよ。それは、グレイシャール侯爵達や警備隊がしっかりやってくれるからね。それよりも俺にとっては、愛する君が苦しんでいるのをどうにかする方が大事なんだよ」
拒むのなら、強引に看病をさせて貰うだけだ。
俺はブランシュの小柄な身体を腕の中に強く抱き締めながら、今自分にとっての一番の優先事項を果たす為、客室がある階へと急ぐ。
「レアンドル様っ、本当に、だい、じょうぶ……です、からっ。下ろして、くださ、いっ。お願い……です、からっ」
階段を下りている最中にも、ブランシュは俺の看病を拒むように身を捩ろうとする。
この子は、見た目の可愛らしさとは別に、意思の固い所もあるからね……。
自分に出来る事をしたくて仕方がないのだろう。
だけど、それを黙ってさせる事はしない。
今のブランシュは、どこからどう見ても病人だ。
無理などさせたら、一体どんな悪夢が待っている事か……。
「大人しくしない悪い子には……、お仕置きを与えるけれど、それでもいいのかい?」
「え……、お、お仕置きっ?」
ビクンっと、ブランシュの身体が不穏な言葉に震える。
不安げに俺を見上げる様さえ、とても可愛らしくて仕方がないが……。
今は彼女を大人しくさせて、寝台で眠って貰うのが一番だからね。
俺はわざと、いつもとは違う類の笑みを纏い、彼女の顔に自分のそれを近付けた。
「そう、お仕置きだよ……。大人の言う事を聞かない強情な子供には、少し手荒な真似をしないといけなくなる……」
「て、手荒な真似……です、かっ」
彼女の額に自分の額を押し当て、恐怖を煽るように不穏な笑みを口許に浮かべる。
「ブランシュは沢山泣いてしまうかもしれないね。俺としては、可愛い君をそんな目に遭わせたくはないのだけど……」
「お、お仕置きは……、い、嫌です、怖い、ですっ。でも、私も……フィニアお姉様達の力になりたい、からっ」
うるうると目に涙を溜めて、震える声音を発する彼女は、それでもまだ、俺の腕の中から下りようとしている。
全く……、本当に困った子だね。怖くて堪らないくせに、まだ逆らってくる。
「ブランシュ、よく聞きなさい。君がフィニア嬢達の力になりたいと望むように、彼女達もまた、君の事を大切に想っているのだよ?」
「……」
「その君が、熱を出して病にかかっているというのに、無理などしたら……、彼女達は絶対に悲しんでしまうよ?」
「あ……」
「今の君に出来る事は、医者に診て貰って、薬を呑んで、よく眠る事だ。そして、元気になったら……、また頑張りなさい」
「レアンドル……様」
戸惑いを込めた瞳を揺らし、ブランシュは俺の名を呼ぶ。
フィニア嬢達を大切に想うなら、自分の事も大切にするべきだ。
たまに、人の為に頑張りすぎて、自分を壊す人もいるけれど……。
ブランシュにはそうなってほしくはない。
まず自分という存在を大事にして、それから、人の事も大事にする。
お互いがお互いを壊さない為のルールを守ってほしい……。
俺の言葉に小さく頷いた彼女が、ようやく俺に全てを預けてくれる。
「しかし、君の体調の変化に気付けなかった俺も、……罪深いね。ブランシュ、元気になったら、何か俺に出来る償いを考えておいてくれるかな?」
「え……。れ、レアンドル、様は……私を心配してくださった、だけ、なのにっ」
「俺は君の恋人だよ? それなのに、何も気付けなかったなんて、……男として情けないよ。だから、その償いをさせてほしい」
困ったように視線を彷徨わせたブランシュが、ブンブントと弱々しく首を振る。
「いいえ……。レアンドル様はやっぱり、何も悪くなんて……ない、です。だから、……償い、なんて、駄目……です」
「ブランシュ?」
どうやら体調が本格的に悪化してきたようだ。
俺は彼女の身体を落とさぬようしっかりと抱き抱え、客室のある場所へと急いだ。
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