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第二章『竜呪』~漆黒の嵐来たれり、ウォルヴァンシア~
竜の命を喰らう『檻』
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※イリューヴェル皇国、第三皇子、カインの視点で進みます。
――Side カイン
口の中に、ユキが無茶をした証が生々しく残っている……。
禁呪に身体の主導権を奪われ、意識だけを残された俺を救う為とはいえ、本当に予想外の無茶ばっかりやる奴だ……。俺なんかの為にお前が命を張る必要はねぇだろうが……、そう、怒りたいのと、俺を救う為に自分の身体を危険に晒してまで救ってくれたユキの気持ちが、素直に嬉しいと感じられる感情の両方を噛み締めながら、俺は闇夜の中で声を響かせ続ける……。
姿を現さねぇ高みの見物野郎、俺の中の禁呪、レイフィードのおっさん達の動きを封じている瘴気の獣共も……、全部返り討ちにしてやるさ。
(魔力の調整と、手順を間違えずにやり遂げれば……)
皇子としての勉強なんざ、気の遠くなるような昔に全部放り出したようなもんだったが、まだ俺がこうなる前、幼い頃の皇族教育の中で叩き込まれた『この術(すべ)』は、普通に生きている限りは、決して行使などする機会には恵まれない類のものだ。
今ではもう、イリューヴェル皇族と、それに近しい、英雄と謳われた血筋の家にしか伝わっていない古臭い術なんだが……。文献通りであれば、確かな効果を得られるはずだ。
そうでなければ、古の時代から途絶える事なく受け継がれていくはずがない。
(ユキ達にとって不要なモンは……、全部俺が呑み込んでやる)
あの得体の知れねぇ壁を壊せる自信がない以上、それ以外の不要なモンを全部消しちまうのが、状況の打開策として一番手っ取り早い。
ユキ達以外の何もかも……、姿を見せねぇ黒幕ごと全部。
古の時代、俺達の祖先である竜達がそうしたように……。
俺のせいで始まったこの面倒な一件を、この手で終わらせてやる。
(俺は、アンタらのように自己犠牲の精神とかねぇからな……、ご先祖さんよ。この術を行使しても、絶対に生き残ってやる……、死んで楽になるよりも、生きてやりてぇ事が出来たからな……)
俺の足元から広範囲に渡って、闇色と真紅の光を宿した陣が紋様を描いていく。
大気が術の発動の予兆を感じ、徐々に風が荒れ狂う様を見せ始める……。
最後の音まで詠唱を終えた直後、――陣から放たれた強烈な光が周囲一帯を覆い尽くした。
「カイン、さんっ!!」
背後でユキの声が聞こえたが、振り返る事はしない。
今気を抜いたら、この術を制御する意識が途切れてしまうかもしれないからだ。
知っているのは詠唱の方法と文献で読んだ制御の方法とその性質や必要最低限の知識だけ。
本来であれば、もっと歳を重ねた経験豊富な竜でないと、その扱いは容易には上手くいかない。
だから、発動出来たとしても、その後の制御が面倒の一言に尽きる。
俺が望む、排除対象を速やかに俺の作り上げた『檻』の中にぶち込み、こことは違う時空の彼方に鍵を掛け、封じ込める……。
永遠に出てくる事が出来ないように、俺の力で厳重な鍵を『檻』に取り付ける。
そこまで終わらせて、初めて息が抜けるのだ……。
上空に出現させた闇と真紅の光を集めた眩い『檻』の扉が重々しい音を立てて開く。
『檻』の中にぶち込みたい対象を念じると、俺の中にいる禁呪が外の脅威を感じて悲鳴を上げる気配が伝わってきた。
「出てきたかったんだろ……?」
テメェの望み通り、今すぐに外に出してやるよ……。
胸の奥で不快な熱が身体を焼き尽くすような感覚を俺に伝え始めると、『檻』に向かって引き摺られるかのように、黒い靄が溢れ出した。
流石に、自分の中から引き摺り出すのは骨が折れるが、いつまでも居座られたんじゃ迷惑だ。
「ぐっ……、はぁ、さっさと、――行きやがれ!!」
『グァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
二重に聞こえた禁呪とクソ野郎の叫び声が聞こえた直後、『檻』が対象を認識し、俺の姿をした禁呪と、怨念という凝り固まった存在となっているクソ野郎をその体内に取り込んだ。
レイフィードのおっさん達を襲っていた瘴気の獣共も、犬みてぇな情けない鳴き声を響かせながら『檻』へと吸い込まれていく。
一度『檻』の中に取り込まれれば、決して出る事は叶わない……。
「はぁ……、はぁ、次はテメェの番だぜ、――黒幕野郎!!」
どこにいるかわからなくても、俺の作り出した『檻』は、必ずそいつを見つけ出す。
今回の一件について何も聞いてやる必要もない。禁呪ごと『檻』にぶち込んで、時空の彼方に封じ込めてやれば、それで事態は丸く収まる。
『檻』から黒と真紅の光が触手のように隠れて出て来やがらない黒幕野郎を捕えに猛手を伸ばす。
遥か上空に空間の揺らぎが生まれ、高見の見物を決め込んでいた影が『檻』の力に干渉されその姿を現した。闇と同化するかのような漆黒の外套とフード、そして、不気味な道化の笑みを刻んだ仮面の野郎。
「くっ……!!」
「ようやく……、ご対面、だな!! このクソ野郎!!」
『檻』に向かって一気に引き摺り込もうとするが、こいつ……。
イリューヴェル皇国の竜が古の時代に行使した秘技に抗ってやがる。
「とっとと……、くたばりやがれっ!!」
「ぐっ……!!」
こっちは術の制御と引き摺り込んだ後の事で頭がいっぱいだってのに……!!
ただでさえ、身体と精神の消耗が激しいんだ……、一気に決めちまわねぇと……。
「カイン!!」
「――ルイヴェル!?」
さらに魔力を高めてあのクソ野郎を確実に『檻』の中へと引き摺り込もうとしたその時、足掻くそいつの頭上高くから転移の陣を使って現れたルイヴェルが奴の背後へとまわった。
銀フレームの眼鏡の奥の深緑に、珍しく苛立ちの気配を纏い、ド級の低音を奴に向ける。
「俺達を馬鹿にするのもいい加減にしろ。――この下種が」
ルイヴェルが強烈な回し蹴りをクソ野郎の背中に叩き込んだ瞬間、クソ野郎の身体は俺の作り上げた『檻』に向かって高速で吹き飛んできた。
あの威力じゃ、背骨がいっちまっててもおかしくないだろう。流石ルイヴェル、容赦ねぇな。
「けど、助かったぜ!! 今度こそ……、逃がさねぇ!!」
傷を負い、疲労の激しい身体を宙へと躍らせ、奴が『檻』に放り込まれる瞬間を見届けた俺は、苦しげに呻くそいつに嘲笑を投げつけ、『檻』を完全に閉ざす『鍵』を取り付ける詠唱を唱えた。
こっちもそろそろ限界きそうだからな……、慎重にやらねぇと、心中になっちまう。
元々負担の大きな術を、この身体と精神状態で行使する事こそが命知らずなわけだが……、加減さえ間違えなければ、きっと生き残れるはずだ。
詠唱を紡ぎ、俺は胸を焼き尽くすようような熱を感じ始めると、その上に手を当て、体内で生まれたその『鍵』を右手に鷲掴んで引き摺り出した。
真紅一色の光の紋様……、『鍵』とは言っても、少々形の違う紋様の描かれた陣のようなものだ。
それを『檻』に向け、勢いよく最後の仕事をやり遂げるように叩き込んだ。
「――っ!!」
しかし、『檻』と『鍵』がひとつになるその瞬間、『檻』の正面に得体の知れない謎の巨大な陣が現れ、まさかの干渉に入った。
『鍵』は発動した陣の威力によって俺の方へと弾き返され、術の完成が中断されてしまう。
現れた謎の巨大な陣はドス黒く禍々しい光を放ちながら、今度は『檻』に向かって圧をかけるかのようにその効果を押し付け始める。
「くそっ……、最後の最後でっ」
「カインさんっ!!」
地上から、ユキが俺を案じる声が届く。アイツもこの事態が不味いと気づいているんだろう。
俺の邪魔をしてくれた陣から目を離す事は出来ないが、レイフィードのおっさん達も、この陣の不気味さを前に息を呑み警戒の気配を抱いている事が伝わってくる。
「ちっ……、一体どこのどいつだ」
もう俺には、あの陣を止めるような力は残ってねぇ……。
ルイヴェルの奴も、クソ野郎があの見えない壁の向こうにいたから俺の手助けをする事は出来たが、壁を作り上げた奴がそれを通過出来ても、こっちに駆けつける事はまだ出来ないようだった。
「くそっ……、このまま全部無駄にされて堪るかよ!!」
『檻』からクソ野郎や禁呪、瘴気の獣共が解き放たれるような事があれば、また振り出しに戻っちまう!! 誰がさせるかよ、そんな胸糞悪ぃ事!!
秘技を行使しているこの身体は、刻一刻とその消耗を激しくしていく……。
俺の意識がある内に、この身体が持つ内に……、何とかしねぇとっ。
(ユキには説教喰らうだろうが……、何も出来ねぇで終わるよりは)
「マシ……、だよな」
覚悟を決めた俺の心の奥から、何か温かな感触が湧き出たように感じた直後。
使おうとしていた魔力の流れに支えが出来たような……、自分の力が一時的に増していくような感覚が芽生えた。何だ……、気のせいか……、身体も少しずつ疲労感が減っていくような感じが。
「いや、今はそんなのどうでもいいっ」
『檻』を維持している俺の魔力に追加の力を詠唱と共に注ぎ込み、その存在を押し潰そうとしている巨大な陣に抗う。
何かが俺に味方しているのかもしれない……。それが何なのかはわからないが、揮える魔力が増強された事は有難い。俺は自分の中に残っている全魔力を以て巨大な陣を『檻』から上空へと向かって押し飛ばす。
「うらあああああああああああああああ!!」
やるなら今しかない。俺は真紅の光を纏う『鍵』たる紋様を『檻』に向かって叩き付ける。
『檻』の一部が破壊されてはいるものの、俺の望み通りに『鍵』とそれはひとつとなり、術の完成形である『封』が成された。
「はぁ、はぁ……。これで……、あとは、空間を、……ぐっ」
不味い……。鍵はつける事が出来たが、一時的に楽になったと思った身体に激痛が走り、俺は支えを求めるように『檻』の一部をこの手に掴んだ。
まだだ……、俺にはまだ、やる事が……。
そう強く自分の意識を怒鳴りつけたいのに、限界の気配が俺を急速に包み込み、『檻』に縋っている俺の力さえ奪うように視界を霞ませていく。
「ぐぅっ……、はぁ、……まだ、だ、って、言ってんだろう、がっ」
血の生臭い味を噛みしめながら呻いた瞬間、俺と『檻』の頭上に、吹っ飛ばしたはずの巨大な陣の気配が……、全ての希望を打ち砕くかのように不快な雷鳴を響かせその刃を振り下ろした。
術が発動した気配と、『檻』ごと叩き落されるような感覚……!!
「ぐぁぁあっ、――ちくしょぉおおおおおおおおおおお!!」
――この世界に神様ってのが本当にいるのなら、この終わりはないだろ……。
絶望の闇に放り出されるかのように俺の身体は宙に舞い、最後に耳に残ったのは……。
「カインさあああああああああああああああああああああああああああん!!」
――どうせ最期の時を迎えるのなら……。
(お前の笑顔を見ながら……、終わりたかった)
ユキの悲痛な絶叫を聞きながら、俺は闇の大穴へと向かって沈んでいった。
――Side カイン
口の中に、ユキが無茶をした証が生々しく残っている……。
禁呪に身体の主導権を奪われ、意識だけを残された俺を救う為とはいえ、本当に予想外の無茶ばっかりやる奴だ……。俺なんかの為にお前が命を張る必要はねぇだろうが……、そう、怒りたいのと、俺を救う為に自分の身体を危険に晒してまで救ってくれたユキの気持ちが、素直に嬉しいと感じられる感情の両方を噛み締めながら、俺は闇夜の中で声を響かせ続ける……。
姿を現さねぇ高みの見物野郎、俺の中の禁呪、レイフィードのおっさん達の動きを封じている瘴気の獣共も……、全部返り討ちにしてやるさ。
(魔力の調整と、手順を間違えずにやり遂げれば……)
皇子としての勉強なんざ、気の遠くなるような昔に全部放り出したようなもんだったが、まだ俺がこうなる前、幼い頃の皇族教育の中で叩き込まれた『この術(すべ)』は、普通に生きている限りは、決して行使などする機会には恵まれない類のものだ。
今ではもう、イリューヴェル皇族と、それに近しい、英雄と謳われた血筋の家にしか伝わっていない古臭い術なんだが……。文献通りであれば、確かな効果を得られるはずだ。
そうでなければ、古の時代から途絶える事なく受け継がれていくはずがない。
(ユキ達にとって不要なモンは……、全部俺が呑み込んでやる)
あの得体の知れねぇ壁を壊せる自信がない以上、それ以外の不要なモンを全部消しちまうのが、状況の打開策として一番手っ取り早い。
ユキ達以外の何もかも……、姿を見せねぇ黒幕ごと全部。
古の時代、俺達の祖先である竜達がそうしたように……。
俺のせいで始まったこの面倒な一件を、この手で終わらせてやる。
(俺は、アンタらのように自己犠牲の精神とかねぇからな……、ご先祖さんよ。この術を行使しても、絶対に生き残ってやる……、死んで楽になるよりも、生きてやりてぇ事が出来たからな……)
俺の足元から広範囲に渡って、闇色と真紅の光を宿した陣が紋様を描いていく。
大気が術の発動の予兆を感じ、徐々に風が荒れ狂う様を見せ始める……。
最後の音まで詠唱を終えた直後、――陣から放たれた強烈な光が周囲一帯を覆い尽くした。
「カイン、さんっ!!」
背後でユキの声が聞こえたが、振り返る事はしない。
今気を抜いたら、この術を制御する意識が途切れてしまうかもしれないからだ。
知っているのは詠唱の方法と文献で読んだ制御の方法とその性質や必要最低限の知識だけ。
本来であれば、もっと歳を重ねた経験豊富な竜でないと、その扱いは容易には上手くいかない。
だから、発動出来たとしても、その後の制御が面倒の一言に尽きる。
俺が望む、排除対象を速やかに俺の作り上げた『檻』の中にぶち込み、こことは違う時空の彼方に鍵を掛け、封じ込める……。
永遠に出てくる事が出来ないように、俺の力で厳重な鍵を『檻』に取り付ける。
そこまで終わらせて、初めて息が抜けるのだ……。
上空に出現させた闇と真紅の光を集めた眩い『檻』の扉が重々しい音を立てて開く。
『檻』の中にぶち込みたい対象を念じると、俺の中にいる禁呪が外の脅威を感じて悲鳴を上げる気配が伝わってきた。
「出てきたかったんだろ……?」
テメェの望み通り、今すぐに外に出してやるよ……。
胸の奥で不快な熱が身体を焼き尽くすような感覚を俺に伝え始めると、『檻』に向かって引き摺られるかのように、黒い靄が溢れ出した。
流石に、自分の中から引き摺り出すのは骨が折れるが、いつまでも居座られたんじゃ迷惑だ。
「ぐっ……、はぁ、さっさと、――行きやがれ!!」
『グァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
二重に聞こえた禁呪とクソ野郎の叫び声が聞こえた直後、『檻』が対象を認識し、俺の姿をした禁呪と、怨念という凝り固まった存在となっているクソ野郎をその体内に取り込んだ。
レイフィードのおっさん達を襲っていた瘴気の獣共も、犬みてぇな情けない鳴き声を響かせながら『檻』へと吸い込まれていく。
一度『檻』の中に取り込まれれば、決して出る事は叶わない……。
「はぁ……、はぁ、次はテメェの番だぜ、――黒幕野郎!!」
どこにいるかわからなくても、俺の作り出した『檻』は、必ずそいつを見つけ出す。
今回の一件について何も聞いてやる必要もない。禁呪ごと『檻』にぶち込んで、時空の彼方に封じ込めてやれば、それで事態は丸く収まる。
『檻』から黒と真紅の光が触手のように隠れて出て来やがらない黒幕野郎を捕えに猛手を伸ばす。
遥か上空に空間の揺らぎが生まれ、高見の見物を決め込んでいた影が『檻』の力に干渉されその姿を現した。闇と同化するかのような漆黒の外套とフード、そして、不気味な道化の笑みを刻んだ仮面の野郎。
「くっ……!!」
「ようやく……、ご対面、だな!! このクソ野郎!!」
『檻』に向かって一気に引き摺り込もうとするが、こいつ……。
イリューヴェル皇国の竜が古の時代に行使した秘技に抗ってやがる。
「とっとと……、くたばりやがれっ!!」
「ぐっ……!!」
こっちは術の制御と引き摺り込んだ後の事で頭がいっぱいだってのに……!!
ただでさえ、身体と精神の消耗が激しいんだ……、一気に決めちまわねぇと……。
「カイン!!」
「――ルイヴェル!?」
さらに魔力を高めてあのクソ野郎を確実に『檻』の中へと引き摺り込もうとしたその時、足掻くそいつの頭上高くから転移の陣を使って現れたルイヴェルが奴の背後へとまわった。
銀フレームの眼鏡の奥の深緑に、珍しく苛立ちの気配を纏い、ド級の低音を奴に向ける。
「俺達を馬鹿にするのもいい加減にしろ。――この下種が」
ルイヴェルが強烈な回し蹴りをクソ野郎の背中に叩き込んだ瞬間、クソ野郎の身体は俺の作り上げた『檻』に向かって高速で吹き飛んできた。
あの威力じゃ、背骨がいっちまっててもおかしくないだろう。流石ルイヴェル、容赦ねぇな。
「けど、助かったぜ!! 今度こそ……、逃がさねぇ!!」
傷を負い、疲労の激しい身体を宙へと躍らせ、奴が『檻』に放り込まれる瞬間を見届けた俺は、苦しげに呻くそいつに嘲笑を投げつけ、『檻』を完全に閉ざす『鍵』を取り付ける詠唱を唱えた。
こっちもそろそろ限界きそうだからな……、慎重にやらねぇと、心中になっちまう。
元々負担の大きな術を、この身体と精神状態で行使する事こそが命知らずなわけだが……、加減さえ間違えなければ、きっと生き残れるはずだ。
詠唱を紡ぎ、俺は胸を焼き尽くすようような熱を感じ始めると、その上に手を当て、体内で生まれたその『鍵』を右手に鷲掴んで引き摺り出した。
真紅一色の光の紋様……、『鍵』とは言っても、少々形の違う紋様の描かれた陣のようなものだ。
それを『檻』に向け、勢いよく最後の仕事をやり遂げるように叩き込んだ。
「――っ!!」
しかし、『檻』と『鍵』がひとつになるその瞬間、『檻』の正面に得体の知れない謎の巨大な陣が現れ、まさかの干渉に入った。
『鍵』は発動した陣の威力によって俺の方へと弾き返され、術の完成が中断されてしまう。
現れた謎の巨大な陣はドス黒く禍々しい光を放ちながら、今度は『檻』に向かって圧をかけるかのようにその効果を押し付け始める。
「くそっ……、最後の最後でっ」
「カインさんっ!!」
地上から、ユキが俺を案じる声が届く。アイツもこの事態が不味いと気づいているんだろう。
俺の邪魔をしてくれた陣から目を離す事は出来ないが、レイフィードのおっさん達も、この陣の不気味さを前に息を呑み警戒の気配を抱いている事が伝わってくる。
「ちっ……、一体どこのどいつだ」
もう俺には、あの陣を止めるような力は残ってねぇ……。
ルイヴェルの奴も、クソ野郎があの見えない壁の向こうにいたから俺の手助けをする事は出来たが、壁を作り上げた奴がそれを通過出来ても、こっちに駆けつける事はまだ出来ないようだった。
「くそっ……、このまま全部無駄にされて堪るかよ!!」
『檻』からクソ野郎や禁呪、瘴気の獣共が解き放たれるような事があれば、また振り出しに戻っちまう!! 誰がさせるかよ、そんな胸糞悪ぃ事!!
秘技を行使しているこの身体は、刻一刻とその消耗を激しくしていく……。
俺の意識がある内に、この身体が持つ内に……、何とかしねぇとっ。
(ユキには説教喰らうだろうが……、何も出来ねぇで終わるよりは)
「マシ……、だよな」
覚悟を決めた俺の心の奥から、何か温かな感触が湧き出たように感じた直後。
使おうとしていた魔力の流れに支えが出来たような……、自分の力が一時的に増していくような感覚が芽生えた。何だ……、気のせいか……、身体も少しずつ疲労感が減っていくような感じが。
「いや、今はそんなのどうでもいいっ」
『檻』を維持している俺の魔力に追加の力を詠唱と共に注ぎ込み、その存在を押し潰そうとしている巨大な陣に抗う。
何かが俺に味方しているのかもしれない……。それが何なのかはわからないが、揮える魔力が増強された事は有難い。俺は自分の中に残っている全魔力を以て巨大な陣を『檻』から上空へと向かって押し飛ばす。
「うらあああああああああああああああ!!」
やるなら今しかない。俺は真紅の光を纏う『鍵』たる紋様を『檻』に向かって叩き付ける。
『檻』の一部が破壊されてはいるものの、俺の望み通りに『鍵』とそれはひとつとなり、術の完成形である『封』が成された。
「はぁ、はぁ……。これで……、あとは、空間を、……ぐっ」
不味い……。鍵はつける事が出来たが、一時的に楽になったと思った身体に激痛が走り、俺は支えを求めるように『檻』の一部をこの手に掴んだ。
まだだ……、俺にはまだ、やる事が……。
そう強く自分の意識を怒鳴りつけたいのに、限界の気配が俺を急速に包み込み、『檻』に縋っている俺の力さえ奪うように視界を霞ませていく。
「ぐぅっ……、はぁ、……まだ、だ、って、言ってんだろう、がっ」
血の生臭い味を噛みしめながら呻いた瞬間、俺と『檻』の頭上に、吹っ飛ばしたはずの巨大な陣の気配が……、全ての希望を打ち砕くかのように不快な雷鳴を響かせその刃を振り下ろした。
術が発動した気配と、『檻』ごと叩き落されるような感覚……!!
「ぐぁぁあっ、――ちくしょぉおおおおおおおおおおお!!」
――この世界に神様ってのが本当にいるのなら、この終わりはないだろ……。
絶望の闇に放り出されるかのように俺の身体は宙に舞い、最後に耳に残ったのは……。
「カインさあああああああああああああああああああああああああああん!!」
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