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第二章『竜呪』~漆黒の嵐来たれり、ウォルヴァンシア~
漆黒の主と終焉
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「いや……、嫌ぁ、……カインさああああああああああああああん!!」
カインさんによって、一度は空の彼方へと吹き飛ばされた正体不明の巨大な陣。
それが再び脅威を現したかと目を瞠った直後。
その陣に込められていた陣が術を発動させ、世界全体を震わせるかのような雷鳴を轟かせ、『檻』とカインさんに襲いかかった。
上空から崖下に向けて、救いの手さえもたらされずに落ちていく『檻』とカインさん……。
伸ばした私の右手は、闇の中消えていくカインさんの姿を掴めずに虚しさだけを手にした。
役目を終えたかのように消え去った巨大な陣、崖下から放たれた眩い光の柱……。
「うぅっ……、カイン、さ、んっ」
あの陣がなければ、ううん、私の背後にある見えない壁の存在さえなければ、レイフィード叔父さん達の力を借りて、事態を無事に終わらせる事が出来たかもしれなかったのに……。
草地を拳で打ち付けながら涙を零していると、私の肩に優しい感触が落ちた。
ゆっくりとその手から視線を伝わせていくと、辛そうに歪んだアレクさんの姿があった。
あの見えない壁は……? そう疑問を口にしようとするけれど、嗚咽のせいで上手く言葉にならない。
「アレク、ユキ姫様の傍についていろ。カインの事は俺達で見に行く」
「ルイ……、わかった」
私の傍に膝を着いたアレクさんの背後で、ルイヴェルさんがそう言葉を残すと、ルディーさんやロゼリアさん達と一緒に崖下へと飛び込んで行った。
飛ぶ力さえ失い、ボロボロの身体で落ちていったカインさん……。
どうか無事でいてください。
そう願う私の身体を、アレクさんがその両腕で包み込んでくれた。
「大丈夫だ……。あの男がそう簡単に死ぬわけがない」
「アレクさん……っ、はい、そう、です……、よね。きっと」
生きている。カインさんは絶対に生きている……。
だって、カインさんは竜の一族なんでしょう? 普通の人間とは違うんでしょう?
たとえ大怪我を負っていても、闇の中に投げ出されても、人のように脆くは……。
「カインさん……、カイン、さっ」
「ユキ……」
縋るように抱き着いたアレクさんの腕の中で、私はしゃくり上げながら涙を零す。
エリュセードの神様、どうかお願いです……。カインさんを、意地悪で人をからかってばかりだけど、本当は不器用で優しいあの人を……、助けてっ!!
「ユキちゃん、泣く必要はないよ」
「れ、レイフィード……、叔父、さん?」
私の傍にやって来たレイフィード叔父さんが、膝を着き、私の涙をその優しい指先で拭いながらそう言ってくれる。その音は、決して気休めなどではない……、確信めいたものを含んでいるように思えた。お父さんもレイフィード叔父さんに同意し、確かな頷きを私に向けると、崖の先に広がる闇に視線を据えた。
「陛下……、この気配は」
「息子に似て不器用でどうしようもない父親の、遅すぎる訪問、かな」
「父親……、それって、もしかして」
崖下から唸るような荒れ狂う風の音が響き始めたかと思うと、カインさんの安否を確かめに行ってくれたルイヴェルさん達が凄い速さで崖上へと戻ってきた。
――その直後。巨大な漆黒の影が夜空の星々を覆い隠すように何かが舞い上がってきた。
エリュセードを司る三つの月を背にし、物語に出てくるような両翼を力強く羽ばたかせる、雄々しき竜のような生き物が。
「竜……、真紅の瞳の……」
「イリューヴェル皇国を統治する、竜皇族(りゅうおうぞく)の長にして、皇帝たる男。――グラヴァード・イリューヴェル」
巨大な竜を見上げ、嬉しそうな響きを声音に含ませたレイフィード叔父さんが、草地に落ちていた握り拳ぐらいの大きさをした石を拾い上げると、――狙いを定めて皇帝と呼んだその竜に向かって投げ放った。こんな無茶すぎる距離感で届くはずもない。普通ならそう思うだろう。
だけど、レイフィード叔父さんの投げた石は、見事に巨大な竜の顎に届いただけでなく、下から強烈な右ストレートを味わったかのように大ダメージを被ってしまった。
『グガァアアアアアアアアアア!!』
「あ、あの、レイフィード叔父さん……、な、なに、をっ」
「いいんだよ、ユキ。これが、レイフィードと彼の交流みたいなものだからね」
「お、お父さん……?」
苦痛の声を上げる巨大な竜が、すぐに体勢を復活させて抗議の気配と共に私達の方へと舞い降りてきた。いや、飛び込んできた。
初めて目にする、その物語の中から抜け出してきたような存在。
その竜は崖付近に着地する寸前に、真紅の光に包み込まれた。
一瞬だけ視界を瞼で覆った私は、竜という大きな生き物が降り立つ事によって生じる衝撃を待っていたけれど、……どれだけ待っても震動が起きない。
「あれ……?」
瞼を開く。……どこにも、さっきまで目にしていた巨大な竜の姿がない。
戸惑いながら視線を彷徨わせた果てに辿り着き、私の瞳に映り込んだのは……。
長身の背と、艶やかな夜のベールのように、漆黒の長い髪を纏う一人の男性の姿。
開いた瞼の奥には、見る者を妖しく誘うかのような魔性を感じさせる真紅の双眸が在った。
その面差しは、少し歳を重ねてはいるけれど、私のよく知るその人のもので……。
瞬きながら呆けたように見つめている私に気づいたのか、返ってきたのは優しい気配を宿したその人の笑み。
「え、えっと……」
カインさんによく似た顔をしているその男性は、私から視線を外すと、今度は鬼の形相に変化した。怒りの先はレイフィード叔父さんのようで、その腕に、傷つきボロボロになったカインさんを抱いたまま、その男性が怒声を叩き付けながら近づいてくる。
「レイフィード!! 貴様は相変わらず普通の出迎えが出来ない奴だな!! 俺の顎に当たったぞ!! 顎に!!」
「はいはい。久しぶりだね、イリューヴェル。相変わらずその面倒な顔に反して、感情的な面も健在のようで何よりだよ」
「当たり前だろう!! 大体昔から、お前という奴は性格がわるす」
「そういうどうでもいい事はあとで幾らでも聞いてあげるから、まず落ち着こうね。――カインの方は、何とか無事みたいだね、良かった」
レイフィード叔父さんとお父さんの視線が、イリューヴェルと呼ばれた男性の腕の中へと向かう。
横抱きにされて意識を失っているカインさんは、酷い状態にあるのは変わらなかったけれど、ちゃんと息をしながら浅く胸を上下させている。
生きている……。生きていてくれた。
酷い有様だけど、カインさんは確かに……、生きて私達の許へと戻って来てくれた。
「カインさん……っ」
「良かったな、ユキ」
「レイル君……、うんっ」
その背を屈め、アレクさんの腕の中にいる私を見下ろしながら微笑んでくれたのは、顔に掠り傷を作ったレイル君だった。同じようにほっとした顔で微笑みあう。
本当に、本当に、無事で良かった!!
「恐れながら、両陛下に申し上げます」
すると、今度はレイル君のすぐ後ろから、セレスフィーナさんが歩み出てきた。
カインさんの治療を始める為に、ウォルヴァンシア王宮へその身体を運ぶ許可をレイフィード叔父さん達に求めるている。
「カインさんは……、助かるんですよね」
「ルイとセレスの腕なら、必ずあの男を助けられる……。だが、お前の状態も油断できるものではないんだ。ユキ、王宮に戻ろう」
「アレクさん……、ふふ、大丈夫……、ですよ。まだ……、このくらい」
とは言っても、もう意識を保っているのが精一杯……。
突然現れたあの謎の陣が何だったのか。
カインさんの作り上げた『檻』に封じられた禁呪。
そして、今回の件に介入してきたあの声の主がどうなったのか……、まだそれを確かめていない。
そう伝えると、今度はルイヴェルさんがそれに答えてくれた。
「現時点でわかっている事は、イリューヴェル皇帝の介入によってカインが救われた事。そして、カインが決死の思いで捕えた禁呪は皇帝陛下の中に取り込まれ囚われた状態にあります。かなり弱った状態になっていましたからね……。『檻』の効果もあり、上手くいったようですが……」
そこで、ルイヴェルさんは意味深に言葉をきった。
顎に緩く握り込んだ手をあて、思案するように下を向いたかと思うと、カインさんのお父さんに問いを投げた。
「恐れながら皇帝陛下にお尋ね申し上げます。禁呪と瘴気の獣達以外の存在に関しては……、どうなりましたでしょうか?」
「――逃げられた。不肖の息子と禁呪を回収し、瘴気の獣の類に関しては消滅させたが、『檻』が不完全な状態であった事が災いしたのだろうな」
「……そうですか。ユキ姫様、これでご納得頂けましたか?」
「は、はい……。あの、それと、私達の間にあった見えない壁の事は……」
『檻』とカインさんが崖下に落ちた直後、アレクさん達が私の許へと辿り着けた理由。
それを尋ねてみると、あの仮面姿の存在が『檻』に放り込まれた時点で、壁を作っていた術者の影響が薄まり、落下の直後に完全に術が消失してしまったらしい。
そのお蔭で、ようやく障害が消えたのだと、ルイヴェルさんは教えてくれた。
あの声の主、外套姿の人物は……、一体何者だったのだろうか……。
遠目に見たその姿も、どこか小柄な人物のように思えたけれど……。
今回の一件の背後に、一体何が蠢いていたのか……。
誰もが後味の悪さを感じながら、この終わりを迎えた。
「面倒な事は俺達の仕事です。ユキ姫様、今はお休みください。貴女は自分で思っているよりも……、かなりの重症状態なのですからね」
「ルイヴェル……、さん」
「ユキ、あとはルイ達に任せておけばいい。一緒に帰ろう。王宮に」
「アレクさん……、はい」
またレイフィード叔父さんとカインさんのお父さんが何かを言い争う声が聞こえてくる。
だけど、一応の収束を見せた今回の一件からようやく気を抜く事が出来た私は、自分の顔の前に手を翳したルイヴェルさんの、子守歌のような低い声音で紡がれる詠唱を聞いた後、ゆっくりと眠りの中に落ちていったのだった。
カインさんによって、一度は空の彼方へと吹き飛ばされた正体不明の巨大な陣。
それが再び脅威を現したかと目を瞠った直後。
その陣に込められていた陣が術を発動させ、世界全体を震わせるかのような雷鳴を轟かせ、『檻』とカインさんに襲いかかった。
上空から崖下に向けて、救いの手さえもたらされずに落ちていく『檻』とカインさん……。
伸ばした私の右手は、闇の中消えていくカインさんの姿を掴めずに虚しさだけを手にした。
役目を終えたかのように消え去った巨大な陣、崖下から放たれた眩い光の柱……。
「うぅっ……、カイン、さ、んっ」
あの陣がなければ、ううん、私の背後にある見えない壁の存在さえなければ、レイフィード叔父さん達の力を借りて、事態を無事に終わらせる事が出来たかもしれなかったのに……。
草地を拳で打ち付けながら涙を零していると、私の肩に優しい感触が落ちた。
ゆっくりとその手から視線を伝わせていくと、辛そうに歪んだアレクさんの姿があった。
あの見えない壁は……? そう疑問を口にしようとするけれど、嗚咽のせいで上手く言葉にならない。
「アレク、ユキ姫様の傍についていろ。カインの事は俺達で見に行く」
「ルイ……、わかった」
私の傍に膝を着いたアレクさんの背後で、ルイヴェルさんがそう言葉を残すと、ルディーさんやロゼリアさん達と一緒に崖下へと飛び込んで行った。
飛ぶ力さえ失い、ボロボロの身体で落ちていったカインさん……。
どうか無事でいてください。
そう願う私の身体を、アレクさんがその両腕で包み込んでくれた。
「大丈夫だ……。あの男がそう簡単に死ぬわけがない」
「アレクさん……っ、はい、そう、です……、よね。きっと」
生きている。カインさんは絶対に生きている……。
だって、カインさんは竜の一族なんでしょう? 普通の人間とは違うんでしょう?
たとえ大怪我を負っていても、闇の中に投げ出されても、人のように脆くは……。
「カインさん……、カイン、さっ」
「ユキ……」
縋るように抱き着いたアレクさんの腕の中で、私はしゃくり上げながら涙を零す。
エリュセードの神様、どうかお願いです……。カインさんを、意地悪で人をからかってばかりだけど、本当は不器用で優しいあの人を……、助けてっ!!
「ユキちゃん、泣く必要はないよ」
「れ、レイフィード……、叔父、さん?」
私の傍にやって来たレイフィード叔父さんが、膝を着き、私の涙をその優しい指先で拭いながらそう言ってくれる。その音は、決して気休めなどではない……、確信めいたものを含んでいるように思えた。お父さんもレイフィード叔父さんに同意し、確かな頷きを私に向けると、崖の先に広がる闇に視線を据えた。
「陛下……、この気配は」
「息子に似て不器用でどうしようもない父親の、遅すぎる訪問、かな」
「父親……、それって、もしかして」
崖下から唸るような荒れ狂う風の音が響き始めたかと思うと、カインさんの安否を確かめに行ってくれたルイヴェルさん達が凄い速さで崖上へと戻ってきた。
――その直後。巨大な漆黒の影が夜空の星々を覆い隠すように何かが舞い上がってきた。
エリュセードを司る三つの月を背にし、物語に出てくるような両翼を力強く羽ばたかせる、雄々しき竜のような生き物が。
「竜……、真紅の瞳の……」
「イリューヴェル皇国を統治する、竜皇族(りゅうおうぞく)の長にして、皇帝たる男。――グラヴァード・イリューヴェル」
巨大な竜を見上げ、嬉しそうな響きを声音に含ませたレイフィード叔父さんが、草地に落ちていた握り拳ぐらいの大きさをした石を拾い上げると、――狙いを定めて皇帝と呼んだその竜に向かって投げ放った。こんな無茶すぎる距離感で届くはずもない。普通ならそう思うだろう。
だけど、レイフィード叔父さんの投げた石は、見事に巨大な竜の顎に届いただけでなく、下から強烈な右ストレートを味わったかのように大ダメージを被ってしまった。
『グガァアアアアアアアアアア!!』
「あ、あの、レイフィード叔父さん……、な、なに、をっ」
「いいんだよ、ユキ。これが、レイフィードと彼の交流みたいなものだからね」
「お、お父さん……?」
苦痛の声を上げる巨大な竜が、すぐに体勢を復活させて抗議の気配と共に私達の方へと舞い降りてきた。いや、飛び込んできた。
初めて目にする、その物語の中から抜け出してきたような存在。
その竜は崖付近に着地する寸前に、真紅の光に包み込まれた。
一瞬だけ視界を瞼で覆った私は、竜という大きな生き物が降り立つ事によって生じる衝撃を待っていたけれど、……どれだけ待っても震動が起きない。
「あれ……?」
瞼を開く。……どこにも、さっきまで目にしていた巨大な竜の姿がない。
戸惑いながら視線を彷徨わせた果てに辿り着き、私の瞳に映り込んだのは……。
長身の背と、艶やかな夜のベールのように、漆黒の長い髪を纏う一人の男性の姿。
開いた瞼の奥には、見る者を妖しく誘うかのような魔性を感じさせる真紅の双眸が在った。
その面差しは、少し歳を重ねてはいるけれど、私のよく知るその人のもので……。
瞬きながら呆けたように見つめている私に気づいたのか、返ってきたのは優しい気配を宿したその人の笑み。
「え、えっと……」
カインさんによく似た顔をしているその男性は、私から視線を外すと、今度は鬼の形相に変化した。怒りの先はレイフィード叔父さんのようで、その腕に、傷つきボロボロになったカインさんを抱いたまま、その男性が怒声を叩き付けながら近づいてくる。
「レイフィード!! 貴様は相変わらず普通の出迎えが出来ない奴だな!! 俺の顎に当たったぞ!! 顎に!!」
「はいはい。久しぶりだね、イリューヴェル。相変わらずその面倒な顔に反して、感情的な面も健在のようで何よりだよ」
「当たり前だろう!! 大体昔から、お前という奴は性格がわるす」
「そういうどうでもいい事はあとで幾らでも聞いてあげるから、まず落ち着こうね。――カインの方は、何とか無事みたいだね、良かった」
レイフィード叔父さんとお父さんの視線が、イリューヴェルと呼ばれた男性の腕の中へと向かう。
横抱きにされて意識を失っているカインさんは、酷い状態にあるのは変わらなかったけれど、ちゃんと息をしながら浅く胸を上下させている。
生きている……。生きていてくれた。
酷い有様だけど、カインさんは確かに……、生きて私達の許へと戻って来てくれた。
「カインさん……っ」
「良かったな、ユキ」
「レイル君……、うんっ」
その背を屈め、アレクさんの腕の中にいる私を見下ろしながら微笑んでくれたのは、顔に掠り傷を作ったレイル君だった。同じようにほっとした顔で微笑みあう。
本当に、本当に、無事で良かった!!
「恐れながら、両陛下に申し上げます」
すると、今度はレイル君のすぐ後ろから、セレスフィーナさんが歩み出てきた。
カインさんの治療を始める為に、ウォルヴァンシア王宮へその身体を運ぶ許可をレイフィード叔父さん達に求めるている。
「カインさんは……、助かるんですよね」
「ルイとセレスの腕なら、必ずあの男を助けられる……。だが、お前の状態も油断できるものではないんだ。ユキ、王宮に戻ろう」
「アレクさん……、ふふ、大丈夫……、ですよ。まだ……、このくらい」
とは言っても、もう意識を保っているのが精一杯……。
突然現れたあの謎の陣が何だったのか。
カインさんの作り上げた『檻』に封じられた禁呪。
そして、今回の件に介入してきたあの声の主がどうなったのか……、まだそれを確かめていない。
そう伝えると、今度はルイヴェルさんがそれに答えてくれた。
「現時点でわかっている事は、イリューヴェル皇帝の介入によってカインが救われた事。そして、カインが決死の思いで捕えた禁呪は皇帝陛下の中に取り込まれ囚われた状態にあります。かなり弱った状態になっていましたからね……。『檻』の効果もあり、上手くいったようですが……」
そこで、ルイヴェルさんは意味深に言葉をきった。
顎に緩く握り込んだ手をあて、思案するように下を向いたかと思うと、カインさんのお父さんに問いを投げた。
「恐れながら皇帝陛下にお尋ね申し上げます。禁呪と瘴気の獣達以外の存在に関しては……、どうなりましたでしょうか?」
「――逃げられた。不肖の息子と禁呪を回収し、瘴気の獣の類に関しては消滅させたが、『檻』が不完全な状態であった事が災いしたのだろうな」
「……そうですか。ユキ姫様、これでご納得頂けましたか?」
「は、はい……。あの、それと、私達の間にあった見えない壁の事は……」
『檻』とカインさんが崖下に落ちた直後、アレクさん達が私の許へと辿り着けた理由。
それを尋ねてみると、あの仮面姿の存在が『檻』に放り込まれた時点で、壁を作っていた術者の影響が薄まり、落下の直後に完全に術が消失してしまったらしい。
そのお蔭で、ようやく障害が消えたのだと、ルイヴェルさんは教えてくれた。
あの声の主、外套姿の人物は……、一体何者だったのだろうか……。
遠目に見たその姿も、どこか小柄な人物のように思えたけれど……。
今回の一件の背後に、一体何が蠢いていたのか……。
誰もが後味の悪さを感じながら、この終わりを迎えた。
「面倒な事は俺達の仕事です。ユキ姫様、今はお休みください。貴女は自分で思っているよりも……、かなりの重症状態なのですからね」
「ルイヴェル……、さん」
「ユキ、あとはルイ達に任せておけばいい。一緒に帰ろう。王宮に」
「アレクさん……、はい」
またレイフィード叔父さんとカインさんのお父さんが何かを言い争う声が聞こえてくる。
だけど、一応の収束を見せた今回の一件からようやく気を抜く事が出来た私は、自分の顔の前に手を翳したルイヴェルさんの、子守歌のような低い声音で紡がれる詠唱を聞いた後、ゆっくりと眠りの中に落ちていったのだった。
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