ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~

古都助(幸織)

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第三章『序章』~女帝からの誘い~

ラスヴェリートの国王夫妻

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「ラスヴェリート国王陛下、御正妃様、側近ヴェルガイア殿、玉座の間に入られます」

 祝福を告げる柔らかな光が降り注ぐ、全面窓硝子張りの光景。
 幸せそうに囀り合う小鳥達の声。僅かに零れ出そうになる欠伸を噛み殺しながら、私は内側から玉座の扉へと視線を向けた。二人のメイドさんが先に中へと入り、玉座に座っているレイフィード叔父さんへと恭しく頭を下げる。
 城下町での騒ぎから翌日、私はお父さんとお母さんと一緒に、この玉座の間へと呼ばれていた。
 話に聞いていたラスヴェリートの国王夫妻とお供の人達は、すでに昨日の内にウォルヴァンシア王宮へと入っていた。翌日の今日、謁見の時を迎える為に。
 私も普段とは違う、王族のお姫様仕様の綺麗な水色のドレスに身を包み、今この場に立っている。
 これも王族としてのお仕事のひとつ、頑張ってお姫様らしく振舞わないと!
 二人のメイドさんが内側から大きな扉を左右に開くと、国王としての正装に身を包んだ男性と、豪奢な装いと共に寄り添いながら歩く女性が、先に中へと足を踏み入れた。そのすぐ後ろに続く人の姿は、まだ見えない。
 玉座とレイフィード叔父さんの佇む階段の上に、年若き国王様の美しい青の双眸が向かう。
 他国の王族に対する礼をとり、必要な手順を踏んで紡がれる国王様と王妃様の言葉。
 それを終えると、レイフィード叔父さんがラスヴェリートの国王夫妻を心から歓迎する意を紡ぎ、玉座から立ち上がり階段の下へと。

「ようこそ、ウォルヴァンシア王国へ」

 満面の笑みで国王夫妻の手を取ったレイフィード叔父さんの言葉と想いを、私達も礼を取りながら頭を垂れて復唱する。
 晴れ渡る空の色と青の瞳を抱くラスヴェリートの国王様が見惚れる程に優雅な笑みを纏い、隣に寄り添っている王妃様も……、あれ? 
 パチパチと目を瞬き、レイフィード叔父さんと言葉を交わしている国王夫妻を凝視する。
 華やかな蝶を思わせるように背を伝う黄金の髪、微笑を纏うその顔は天上の女神様と称えてもおかしくはない程に麗しい。けれど……、その横顔を見つめていた私は首を傾げた。
 挨拶の時に聞こえた声音、今見えている華を纏う美貌、……どこかで会っているような気がする。
 そして、そのすぐ後ろに控えている銀長髪の男性に視線をずらした私は、「あ」と間抜けな音を落としてしまった。
 玉座の間に集まっている人達の視線が、一斉に私へと集中してくる。

「ん? どうかしたのかな、ユキちゃん」

「い、いえ……、あ、あの」

 やけに大きく響いてしまった私の「あ」の音で、レイフィード叔父さんがゆっくりとその意味を問いに近づいてきてしまう。けれど、それよりも早く、国王夫妻のすぐ後ろで喜びに満ちた驚愕の声が上がった。

「あ~!! 貴女は~!! 昨日の麗しのおみ足女性ではありませんか~!!」

 物凄く聞き覚えのあるその声にぎょっと肩を揺らした直後、レイフィード叔父さんの背後で激しい取っ組み合いの気配が伝わってきた。物騒な擬音が、いっぱい聞こえてくる!!
 玉座の間に集まっているメイドさんや騎士の人達も、レイル君やお父さん達も動くに動けない状況でも目に映っているのか、誰も止めに入る気配がない。

「で、ユキちゃん、何か気になる事でもあるのかな?」

「い、いえ、あの、だから……、う、後ろ、の方々を」

「ん~?」

 レイフィード叔父さんの笑顔がなんか黒くて怖い!
 私の両肩を掴んで、あえてその身体の向こうで繰り広げられている光景を見せないようにしているというか。あ、今……、断末魔の悲鳴が聞こえたぁあっ!! ついでに硝子が割れる音まで!!
 何? レイフィード叔父さんの背後で今何が起こっているの!?
 カタカタと怯える子犬の如く震えながら涙目になっている私が向こう側を視界に映したのは、それから三分程後の事だった。
 さっきまで国王夫妻の後ろにいた銀髪の男性が……、いない。
 優雅に空色の髪を掻き上げ、「どうかなさいましたか?」と天使のようなロイヤル・スマイルをキラキラと放っているラスヴェリートの国王様と、パンパンと両手を払っている王妃様の姿。
 絶対何か荒事をやった……、そんな気配が目の前に満ちている。
 その証拠に、お二人の向こう側、全面窓硝子張りの一部に、大きな人型でくり抜かれたような恐ろしい破壊の跡が。メイドさん達が大急ぎで無理やりな壁紙をペタペタと……。あれ、意味あるのかな。

「ユキ姫様、昨日は名乗りもせずにお暇してしまい申し訳ありませんでした。改めまして、私はラスヴェリートの王妃、リデリアと申します。どうぞよろしくお願いいたしますわ」

「あ、やっぱり、リデリアさんだったんですね。それで、あの……、さ、さっきまでご一緒にいた銀髪の」

 見間違いじゃなかったと、昨日知り合った美しい女性ことリデリアさんに再会の喜びを含ませた声音を向けた直後、思わぬ答えが返ってきた。

「私と陛下二人だけで謁見をさせて頂いておりましたが、何か?」

 え? 思いっきりお二人の後ろに銀髪のにこやかな男性がいましたよね?
 私の顔を見て、物凄く喜んだ気配で大声を上げていた……、昨日の不審者さんが。

「王妃の言う通りです」

 ニッコリ。私の方へと歩みを寄せた夫妻は、迷いのない晴れやかな笑顔で言い切った。
 右隣に立っているお母さんとお父さんに顔を向けると、そこはもうスルーで笑顔だけ浮かべて話を受け入れておきなさいと、無言の答えが返ってきた。はい、そうします。
 世の中には一部受け止めずに流した方がいい事もある。つまりはそういう事だ。

「昨日は、我が側近がユキ姫様にご迷惑をおかけしてしまったと伺っております。有能な男ではあるのですが、少々困った趣味嗜好を抱えておりまして……、よろしれば、後程謝罪の時間を与えては頂けないでしょうか?」

「陛下の仰る通り、私も昨日の件に関しましては、ユキ姫様へのご無礼を償わせて頂きたいと思っているのです。お許し頂けますでしょうか?」

 ずずいっ!! あぁ……、美しすぎる美貌の夫妻が滲ませる大迫力のお願いに首を横に振れるわけもない。華麗なる遠回しな脅しに屈した私は、コクコクと怯えの気配と共に頷くと、謁見の後に王宮医務室へと連行される事になったのだった。
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