99 / 314
第三章『序章』~女帝からの誘い~
舞踏会の朝
しおりを挟む
――Side 幸希
「ユキちゃん、今日の夜は前に話しておいた舞踏会があるから、楽しみにしててね~」
と、レイフィード叔父さんから今日の夜に行われる煌びやかな世界の事を改めて言われたのが、記憶喪失の青年をこの王宮に運んでから二日後の朝の事だった。
ウォルヴァンシア王家の家族が集まって和やかに進めている朝食の席で、レイフィード叔父さんからドレスの試着を事前に済ませておくようにと笑顔で促された私は、朝一番でメイドさん達の待ち受ける場所へと向かう事に。
ラスヴェリートの国王夫妻であるセレインさんとリデリアさんの為に開かれる舞踏会。
ウォルヴァンシア王国の貴族の皆さんも参加するというその公式の場では、お父さんの娘として、レイフィード叔父さんの姪として、恥ずかしくない振る舞いを心掛けなくては……。
王兄姫としての礼儀作法や挨拶の仕方なども一応は教わっているけれど、やっぱりその時が近づいていると思うと、うぅ……、庶民の心臓が臆病な音をっ。
本格的な王族貴族の社交の場……。あまりの眩い世界観を前に気を失ったらどうしよう。
なーんて怖がっている内に、試着の時間が来てしまった私は、今、大勢のメイドさん達に囲まれ、ドレスの着心地はどうかとか、装飾品はどれにするかとか、色々と質問責めに遭っている。
プリンセスラインの鮮やかな明るい青のドレスは、ウエストの下辺りからフレア状に広がりを見せ、パニエの量もふんわりと使われており、髪も予行演習と称して、うなじが見えるようにとアップに結い上げられた。
「あの、……ふ、普通で、良いんですけど」
「いけません!! 今宵はユキ姫様にとって、初めての舞踏会!! つまり、公式の場での、社交界デビューのようなものなのです!! その場には、貴族のご令嬢方も御参加なさいますし、万が一にも、ユキ姫様が埋もれるような事があってはならないのですから!!」
「そうです!! レイフィード陛下からユキ姫様の晴れ姿を整えるようにと任された私達は、完璧にこの仕事を成し遂げる責任があるのですから!! さぁ、次はネックレスの合わせを行いますよ!!」
怖い!! 社交界へのメイドさん達の燃え上がるような意欲が怖すぎる!!
今すぐに逃げ出したい衝動に駆られている私の心情などお構いなしに、次々とネックレスやブレスレット、口紅はどの色を使うかなど、お化粧などの全てに至るまで、話が進んでいく。
王宮のメイドさんって、凄いなぁ……。貴族のご令嬢の皆さんのお屋敷でも同じ事が起きているのだろうか。若干遠い目をしながら息を吐いていると、今度は扉の方から感極まった声が響いてきた。
「ゆ、ユキちゃん!!!!!!!!」
「え? れ、レイフィード、叔父さん……?」
外に控えてくれていたメイドさん達と共に試着用の部屋に入って来たのは、今着ているドレスを用意してくれたというレイフィード叔父さんだった。
え? ちょっ、突然鼻の辺りを押さえて蹲ってしまったのだけど!! レイフィード叔父さん、どうしたの!? 大慌てで駆け寄ろうとしかけた私を、メイドさんの鉄壁の防衛網が取り囲む。
「あ、あの、レイフィード叔父さんがっ」
「陛下の事はご心配ありません。ユキ姫様の愛らしさに鼻の血管が少々暴走し過ぎただけですので。ささっ、試着の続きを」
「えぇええっ、で、でもっ」
「狼王族は鼻血ぐらいで死にはいたしません。ご安心を」
私のせいなの!? というか、レイフィード叔父さんは今、鼻血を出しているの!?
早く手当てをしてあげないと!! そう考えながらも、何度訴えてもメイドさん達は猛者だった。
自分達の背後で主君であるレイフィード叔父さんが大変な目に遭っているのに、私に対する使命感の方が激しく燃え滾っている。
「ははっ、いやぁ~、ユキちゃんが可愛すぎて、つい鼻から感動が噴出しちゃったよ~」
「陛下、ユキ姫様に血が飛び散らないように、少々距離を取って頂けますようにお願い申し上げます」
「ふふ、わかってるよ~。あぁ、でも、愛しい姪御ちゃんの着飾っている姿はやっぱり良いね~。……あ、でも、舞踏会の場でユキちゃんを見初める害獣が湧いたらどうしようかなぁ~。どうやって消しちゃおうかな~」
ようやく一通りの合わせが終わり、舞踏会用の仕様に仕上がった私を前に、レイフィード叔父さんが満面の笑顔で頷いている途中で不穏顔になり、また暢気な笑顔に戻る光景が目の前に現れた。
私の姿にうっとりとしながらも、今何か危ない台詞が聞こえたような気がするのだけど……。
「レイフィード叔父さん、こんなにも素敵なドレスをプレゼントして下さって、本当にありがとうございます。でも、舞踏会では綺麗なご令嬢の皆さんがいっぱい待っていると思うので、危険な事はしないでくださいね?」
「いやいや!! 今日のユキちゃんは少し大人仕様にしてあるから、参加者の独身男性達が良からぬ気を起こす可能性もあるんだよ!! 僕もしっかりユキちゃんを見守るつもりだけど、知らない人には絶対について行っちゃ駄目だからね!!」
「はは……。はい、気をつけます。それと、メイドの皆さんも、本当にありがとうございます」
「「「「ユキ姫様!! 本番ではもっと輝きが増すように頑張らせて頂きますね!!」」」」」
いえ、これ以上は頑張らないで下さい。切実に……。
ひくりと引き攣った笑顔と共に、私は精神的な疲れを癒すべく、近くの一人用ソファーへと腰を下ろす事にした。
女性のお洒落は武装のようなもの、と誰かが言っていたような気がするけれど、煌びやかな世界の舞台裏では、本当に沢山の人の努力と、綺麗であろうとする女性達の苦労が隠れている事を実感している。
内輪で行う小さなパーティーとは違い、メイドさん達の気合の入れ様が普段の何倍も違う。
私に出来る事といえば……、舞踏会の場でレイフィード叔父さんやお父さんに恥をかかせないように、王兄姫殿下としての自分を最後まで頑張る事くらい。
とりあえず、舞踏会の場ではダンスのお誘いがあるかもしれない、とは聞いているので、普段履かないヒールで躓いたりしないように踏ん張らないとっ。
「あら、ユキったら素敵なドレス姿に変身してるじゃない」
「ん? あ、リデリアさん。おはようございます。もしかしてそれ……、ドレスの試着中だったりしますか?」
メイドさん達に頭を下げられながら現れたのは、レイフィード叔父さんに続いてのお客様。
このウォルヴァンシア王宮に滞在するようになってから、彼女がラスヴェリートの王妃様として恥ずかしくない装いに身を包んでいる姿は何度も見ているけれど、今目の前で微笑んでいるリデリアさんは、普段の物よりも気合の入った御姿だった。
少しだけ大人っぽく着飾って貰った私とは違い、完璧な美の化身のように輝く、大輪の薔薇。
小さな真珠が結い上げられた髪を彩り、肩の部分が露わとなっている彼女のロングドレスは、大人の魅力を最大限に活かすかのように、妖艶な印象の漂う紫の色を纏っている。
リデリアさんの白い素肌が惜しげもなく晒され、ほっそりと長い腕には美しい装飾品の姿が。
その眩い美貌と、抜群のスタイルによってドレスやアクセサリーを着こなしているリデリアさんの姿に、メイドさん達がうっとりと両手を合わせて見惚れ始めている。
「何着か持ってきた中から選んだんだけど、どうかしら?」
「とっても綺麗です! 今日の舞踏会では、セレインさんが色々と大変でしょうね~」
美しすぎる女神様のような奥様に声をかけてくる男性達に絶対零度の目を向けるラスヴェリートの王様の姿が目に浮かぶようだもの。
……どうやったら、リデリアさんやセレスフィーナさんのように美人でスタイル抜群になれるのかなぁ。なんて、また若干遠い目をした私は、エリュセードにおける美の秘密をいつか探ってみせると、内心で密かな決意を固めるのであった。
「まぁ、セレインも他国の社交場で滅多な真似はしないと思うから大丈夫だとは思うわよ。あぁ、でも、あとが問題なのよねぇ……。部屋に戻ったら、ネチネチと嫉妬に塗れた何かが飛んできそうだわ」
「ふふ、大変ですね。でも、リデリアさんは心配じゃないんですか?」
「何が?」
「セレインさんも凄く綺麗なお顔をされている素敵な方ですし、たとえ既婚者でも、貴族のご令嬢の皆さんに囲まれてしまいそうな気が」
どちらも美形夫婦だから、互いに心配や苦労も多そうな気がするのだけど……。
リデリアさんは自信満々に鼻で笑うと、その素晴らしい細腰に右手を当て、こう言い放った。
「浮気する素振りを見せたら、即離婚!! ふふ、だから大丈夫よ」
「り、離婚……っ」
今の怖いくらいに力強い気配を見せた目は、本気だった!!
けれど、その物言いの中には、自分の旦那様が浮気などするわけがないという絶対的な自信が見てとれたわけで……。やっぱりラスヴェリートの国王夫妻は仲睦まじく、お互いしか見えていないのだなと微笑ましく思った。
レイフィード叔父さんも、「セレインが君以外を見る可能性なんて万が一にもないだろうね~」と、朗らかに笑って会話に参加してくる。
「ところでレイフィード陛下、ユキのパートナーはもう決まっているのですか?」
「う~ん、それなんだよねぇ……。一応今夜の舞踏会までには決める予定なんだけど、とりあえず、ユキちゃんに不埒な真似をしそうにない子、かなぁ」
「あら、美しく装った王兄姫殿下を前にして、男心を擽られない殿方がいらっしゃいますかしら? 陛下、姪御である彼女を大切に想われるお気持ちはわかりますが、女性はいつか恋をして蝶のよに羽化するものですわよ?」
「そ、そう……、だよねぇ。ユキちゃんも……、うぅっ、いつか、いつか、どこぞの馬の骨にっ、ぁああああっ、まだお嫁に行かないで!! ユキちゃん!!」
リデリアさんが持っていた羽根扇を広げ、意味深な笑みと共にそう言うと、レイフィード叔父さんがサァァァァッと青ざめ、私の手を取り懇願しにかかってくる展開に。
その姿に苦笑し、お嫁に行くのなんてまだまだ先の話ですよ~と笑いかけると、レイフィード叔父さんが瞳を輝かせて「本当だね? 本当に、本当の、本当だね!?」と、縋るように問いを重ねてきた。
う、う~ん……、レイフィード叔父さんは娘さんがいないせいか、きっと私の事を姪御兼娘だと思っているのかなぁ。その気持ちは嬉しいけれど、結婚もまた、乙女の夢。
きっといつかは、この心優しい叔父さんを号泣させてしまう日が来るのだろう。
「アレクとカインに言っておかなくちゃ……。ユキちゃんが大人になるまでは、絶対に結婚は許さない、って!! それと、絶対に婿取り!! これは譲れないからね!!」
「ユキ……、溺愛されているわねぇ」
「はは……。勿体なさすぎる愛情に、毎日ちょっと困り気味ですけど」
ある意味で、セレインさんと同じくらいに、むしろ、それ以上に愛情を注いでくれるレイフィード叔父さんの手を自分の温もりで包みながら、私はリデリアさんと笑みを零し合うのだった。
「ユキちゃん、今日の夜は前に話しておいた舞踏会があるから、楽しみにしててね~」
と、レイフィード叔父さんから今日の夜に行われる煌びやかな世界の事を改めて言われたのが、記憶喪失の青年をこの王宮に運んでから二日後の朝の事だった。
ウォルヴァンシア王家の家族が集まって和やかに進めている朝食の席で、レイフィード叔父さんからドレスの試着を事前に済ませておくようにと笑顔で促された私は、朝一番でメイドさん達の待ち受ける場所へと向かう事に。
ラスヴェリートの国王夫妻であるセレインさんとリデリアさんの為に開かれる舞踏会。
ウォルヴァンシア王国の貴族の皆さんも参加するというその公式の場では、お父さんの娘として、レイフィード叔父さんの姪として、恥ずかしくない振る舞いを心掛けなくては……。
王兄姫としての礼儀作法や挨拶の仕方なども一応は教わっているけれど、やっぱりその時が近づいていると思うと、うぅ……、庶民の心臓が臆病な音をっ。
本格的な王族貴族の社交の場……。あまりの眩い世界観を前に気を失ったらどうしよう。
なーんて怖がっている内に、試着の時間が来てしまった私は、今、大勢のメイドさん達に囲まれ、ドレスの着心地はどうかとか、装飾品はどれにするかとか、色々と質問責めに遭っている。
プリンセスラインの鮮やかな明るい青のドレスは、ウエストの下辺りからフレア状に広がりを見せ、パニエの量もふんわりと使われており、髪も予行演習と称して、うなじが見えるようにとアップに結い上げられた。
「あの、……ふ、普通で、良いんですけど」
「いけません!! 今宵はユキ姫様にとって、初めての舞踏会!! つまり、公式の場での、社交界デビューのようなものなのです!! その場には、貴族のご令嬢方も御参加なさいますし、万が一にも、ユキ姫様が埋もれるような事があってはならないのですから!!」
「そうです!! レイフィード陛下からユキ姫様の晴れ姿を整えるようにと任された私達は、完璧にこの仕事を成し遂げる責任があるのですから!! さぁ、次はネックレスの合わせを行いますよ!!」
怖い!! 社交界へのメイドさん達の燃え上がるような意欲が怖すぎる!!
今すぐに逃げ出したい衝動に駆られている私の心情などお構いなしに、次々とネックレスやブレスレット、口紅はどの色を使うかなど、お化粧などの全てに至るまで、話が進んでいく。
王宮のメイドさんって、凄いなぁ……。貴族のご令嬢の皆さんのお屋敷でも同じ事が起きているのだろうか。若干遠い目をしながら息を吐いていると、今度は扉の方から感極まった声が響いてきた。
「ゆ、ユキちゃん!!!!!!!!」
「え? れ、レイフィード、叔父さん……?」
外に控えてくれていたメイドさん達と共に試着用の部屋に入って来たのは、今着ているドレスを用意してくれたというレイフィード叔父さんだった。
え? ちょっ、突然鼻の辺りを押さえて蹲ってしまったのだけど!! レイフィード叔父さん、どうしたの!? 大慌てで駆け寄ろうとしかけた私を、メイドさんの鉄壁の防衛網が取り囲む。
「あ、あの、レイフィード叔父さんがっ」
「陛下の事はご心配ありません。ユキ姫様の愛らしさに鼻の血管が少々暴走し過ぎただけですので。ささっ、試着の続きを」
「えぇええっ、で、でもっ」
「狼王族は鼻血ぐらいで死にはいたしません。ご安心を」
私のせいなの!? というか、レイフィード叔父さんは今、鼻血を出しているの!?
早く手当てをしてあげないと!! そう考えながらも、何度訴えてもメイドさん達は猛者だった。
自分達の背後で主君であるレイフィード叔父さんが大変な目に遭っているのに、私に対する使命感の方が激しく燃え滾っている。
「ははっ、いやぁ~、ユキちゃんが可愛すぎて、つい鼻から感動が噴出しちゃったよ~」
「陛下、ユキ姫様に血が飛び散らないように、少々距離を取って頂けますようにお願い申し上げます」
「ふふ、わかってるよ~。あぁ、でも、愛しい姪御ちゃんの着飾っている姿はやっぱり良いね~。……あ、でも、舞踏会の場でユキちゃんを見初める害獣が湧いたらどうしようかなぁ~。どうやって消しちゃおうかな~」
ようやく一通りの合わせが終わり、舞踏会用の仕様に仕上がった私を前に、レイフィード叔父さんが満面の笑顔で頷いている途中で不穏顔になり、また暢気な笑顔に戻る光景が目の前に現れた。
私の姿にうっとりとしながらも、今何か危ない台詞が聞こえたような気がするのだけど……。
「レイフィード叔父さん、こんなにも素敵なドレスをプレゼントして下さって、本当にありがとうございます。でも、舞踏会では綺麗なご令嬢の皆さんがいっぱい待っていると思うので、危険な事はしないでくださいね?」
「いやいや!! 今日のユキちゃんは少し大人仕様にしてあるから、参加者の独身男性達が良からぬ気を起こす可能性もあるんだよ!! 僕もしっかりユキちゃんを見守るつもりだけど、知らない人には絶対について行っちゃ駄目だからね!!」
「はは……。はい、気をつけます。それと、メイドの皆さんも、本当にありがとうございます」
「「「「ユキ姫様!! 本番ではもっと輝きが増すように頑張らせて頂きますね!!」」」」」
いえ、これ以上は頑張らないで下さい。切実に……。
ひくりと引き攣った笑顔と共に、私は精神的な疲れを癒すべく、近くの一人用ソファーへと腰を下ろす事にした。
女性のお洒落は武装のようなもの、と誰かが言っていたような気がするけれど、煌びやかな世界の舞台裏では、本当に沢山の人の努力と、綺麗であろうとする女性達の苦労が隠れている事を実感している。
内輪で行う小さなパーティーとは違い、メイドさん達の気合の入れ様が普段の何倍も違う。
私に出来る事といえば……、舞踏会の場でレイフィード叔父さんやお父さんに恥をかかせないように、王兄姫殿下としての自分を最後まで頑張る事くらい。
とりあえず、舞踏会の場ではダンスのお誘いがあるかもしれない、とは聞いているので、普段履かないヒールで躓いたりしないように踏ん張らないとっ。
「あら、ユキったら素敵なドレス姿に変身してるじゃない」
「ん? あ、リデリアさん。おはようございます。もしかしてそれ……、ドレスの試着中だったりしますか?」
メイドさん達に頭を下げられながら現れたのは、レイフィード叔父さんに続いてのお客様。
このウォルヴァンシア王宮に滞在するようになってから、彼女がラスヴェリートの王妃様として恥ずかしくない装いに身を包んでいる姿は何度も見ているけれど、今目の前で微笑んでいるリデリアさんは、普段の物よりも気合の入った御姿だった。
少しだけ大人っぽく着飾って貰った私とは違い、完璧な美の化身のように輝く、大輪の薔薇。
小さな真珠が結い上げられた髪を彩り、肩の部分が露わとなっている彼女のロングドレスは、大人の魅力を最大限に活かすかのように、妖艶な印象の漂う紫の色を纏っている。
リデリアさんの白い素肌が惜しげもなく晒され、ほっそりと長い腕には美しい装飾品の姿が。
その眩い美貌と、抜群のスタイルによってドレスやアクセサリーを着こなしているリデリアさんの姿に、メイドさん達がうっとりと両手を合わせて見惚れ始めている。
「何着か持ってきた中から選んだんだけど、どうかしら?」
「とっても綺麗です! 今日の舞踏会では、セレインさんが色々と大変でしょうね~」
美しすぎる女神様のような奥様に声をかけてくる男性達に絶対零度の目を向けるラスヴェリートの王様の姿が目に浮かぶようだもの。
……どうやったら、リデリアさんやセレスフィーナさんのように美人でスタイル抜群になれるのかなぁ。なんて、また若干遠い目をした私は、エリュセードにおける美の秘密をいつか探ってみせると、内心で密かな決意を固めるのであった。
「まぁ、セレインも他国の社交場で滅多な真似はしないと思うから大丈夫だとは思うわよ。あぁ、でも、あとが問題なのよねぇ……。部屋に戻ったら、ネチネチと嫉妬に塗れた何かが飛んできそうだわ」
「ふふ、大変ですね。でも、リデリアさんは心配じゃないんですか?」
「何が?」
「セレインさんも凄く綺麗なお顔をされている素敵な方ですし、たとえ既婚者でも、貴族のご令嬢の皆さんに囲まれてしまいそうな気が」
どちらも美形夫婦だから、互いに心配や苦労も多そうな気がするのだけど……。
リデリアさんは自信満々に鼻で笑うと、その素晴らしい細腰に右手を当て、こう言い放った。
「浮気する素振りを見せたら、即離婚!! ふふ、だから大丈夫よ」
「り、離婚……っ」
今の怖いくらいに力強い気配を見せた目は、本気だった!!
けれど、その物言いの中には、自分の旦那様が浮気などするわけがないという絶対的な自信が見てとれたわけで……。やっぱりラスヴェリートの国王夫妻は仲睦まじく、お互いしか見えていないのだなと微笑ましく思った。
レイフィード叔父さんも、「セレインが君以外を見る可能性なんて万が一にもないだろうね~」と、朗らかに笑って会話に参加してくる。
「ところでレイフィード陛下、ユキのパートナーはもう決まっているのですか?」
「う~ん、それなんだよねぇ……。一応今夜の舞踏会までには決める予定なんだけど、とりあえず、ユキちゃんに不埒な真似をしそうにない子、かなぁ」
「あら、美しく装った王兄姫殿下を前にして、男心を擽られない殿方がいらっしゃいますかしら? 陛下、姪御である彼女を大切に想われるお気持ちはわかりますが、女性はいつか恋をして蝶のよに羽化するものですわよ?」
「そ、そう……、だよねぇ。ユキちゃんも……、うぅっ、いつか、いつか、どこぞの馬の骨にっ、ぁああああっ、まだお嫁に行かないで!! ユキちゃん!!」
リデリアさんが持っていた羽根扇を広げ、意味深な笑みと共にそう言うと、レイフィード叔父さんがサァァァァッと青ざめ、私の手を取り懇願しにかかってくる展開に。
その姿に苦笑し、お嫁に行くのなんてまだまだ先の話ですよ~と笑いかけると、レイフィード叔父さんが瞳を輝かせて「本当だね? 本当に、本当の、本当だね!?」と、縋るように問いを重ねてきた。
う、う~ん……、レイフィード叔父さんは娘さんがいないせいか、きっと私の事を姪御兼娘だと思っているのかなぁ。その気持ちは嬉しいけれど、結婚もまた、乙女の夢。
きっといつかは、この心優しい叔父さんを号泣させてしまう日が来るのだろう。
「アレクとカインに言っておかなくちゃ……。ユキちゃんが大人になるまでは、絶対に結婚は許さない、って!! それと、絶対に婿取り!! これは譲れないからね!!」
「ユキ……、溺愛されているわねぇ」
「はは……。勿体なさすぎる愛情に、毎日ちょっと困り気味ですけど」
ある意味で、セレインさんと同じくらいに、むしろ、それ以上に愛情を注いでくれるレイフィード叔父さんの手を自分の温もりで包みながら、私はリデリアさんと笑みを零し合うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
ひみつの姫君 ~男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!~
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります。
リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる