ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~

古都助(幸織)

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第三章『不穏』~古より紡がれし負の片鱗~

不穏なる者達の嘲笑

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※今回は、誰の視点でもありません。
 ガデルフォーン皇国内にある、森の中……。
 幸希が出会った金髪の少女と不精髭の男達の動向です。


 薄暗闇が支配する鬱蒼とした森の中、金の髪を纏う少女は退屈そうに欠伸を噛み殺した。

「退屈ですわ~……」

 太い幹に背を預け、溜息を発した少女が目の前の石ころを軽く蹴った。
 彼女の目の前では、同じように別の木にもたれて幾つかの『記録』を見ている不精髭の男の姿がある。
 不満を漏らす少女に、「まぁまぁ、もうすぐだって」と苦笑しながら相槌を返し、また別の『記録』を取り出す男。ガデルフォーン皇国内の、あらゆる場所が映し出されているそれは、一体何を意味しているのか……。

「ねぇ、それ楽しいんですの~? 難しい事がいっぱい過ぎて、頭が痛くなっちゃいそうですのに」

「まぁ、俺はこれが専門だしね~。まだ時間かかるから、あれだったら遊びに行って来たらいいんじゃないかな?」

「むぅ……、一人は……、寂しいじゃないですの。でも退屈なのは嫌ですし……、仕方がありませんわね」

 少女は溜息と共に暗闇と星空が支配する夜空へと視線を上げ、どこに行けば、この退屈さは消えるだろうかと考えを巡らせる。
 自分には、目の前のこの男と、他に数人しか知り合いがいない。
 友達というわけでもないけれど、一番長く共に過ごしているこの男性と、別の場所に行っている彼らの他には、誰も……。

「お友達……、欲しいですわねぇ」

 男でも女でも、どっちでも構わない。
 自分という存在を認め、この手をとってくれる誰かの温もりが欲しい。

『チチチッ……!』

「あら」

 物思いに耽っていると、少女の肩に一羽の小鳥が舞い降りた。
 水色の羽をもつ……可愛らしい存在。
 それを少女がひと撫ですると、小鳥は宙へと飛び立ち、淡い光を纏いながらその形を変えた。目鼻立ちの整った中性的な美貌、銀の光に青の色が混じる髪質の少年。

「仕事は進んでるのかな?」

「それは、あちらのおじさんに聞いてくださいな」

 淡々とした少年の声音に、少女はツンとそっぽを向きながら答える。

「どうなの?」

「う~ん、さっきもお姫様に説明したとおり、まだ仕事は若干残ってるねぇ。ごめんね?  一応、これでも急いでるんだけどさ。ほら、俺ってまだ……、目が覚めてそんなに経ってないからさ」

 お茶目な笑みを浮かべ、パチンと片目を瞑る不精髭の男……。
 それに小さく頷き、少年は怒るでもなくまた淡々と言葉を紡ぐ。

「問題なく進んでいるならいいよ。だけど、くれぐれも気づかれないようにね?」

「了解。まぁ、たとえバレたとしても、最深部に施したあれは、優秀なあの子達でも、上手くは扱えないだろうからね~……」

「駄目だよ。油断したら……、また前みたいに『眠る』羽目になる」

「そうですわよ~。あんなに余裕綽々で計画を請け負ったくせに、最後には簡単にやられちゃうんですもの。同じ失敗は、タブーですわよ?」

 事実だけを述べる少年と、不精髭の男が過去に犯した失敗を笑いながら指摘する少女。それが紛れもない自分の失態であるだけに、男は肩を竦めて「はいはい」と苦笑を漏らす。

「大丈夫だよ。前のようにはならない……。俺も手酷くやられちゃったからね。今度はヘマしないように頑張るよ」


「楽しみですわね~。ふふ、あの女帝……、どんな顔で私達を出迎えてくれるのかしら? ふふ……ふふふ……、早く皆と遊びたい……」

 不精髭の男が行っている仕事の内容も、その目的も把握している彼女だが、複雑な構成を成すその作業には興味がない。
 しかし、それがいずれ起こす『遊戯』を思うと、少女の鼓動は歓喜に満ち溢れた音を刻んでしまう。

「いっぱい眠りましたもの。もう退屈なのは沢山……」

『あの時』受けた屈辱と絶望……。
 少女は長い眠りの中で、目が覚めたらどのように報復してやろうかとずっと考えていた。眠る直前に残した『プレゼント』では生温い……。
 あの薄紫の髪の女帝の顔が本物の絶望で染まるように、その身を今度こそ引き裂いてしまおう。
 狂った人形のように笑いを零す少女を、少年は愉快そうな視線で見つめ、不精髭の男は、「楽しみがあっていいね~」と、場違いな微笑みと共に見守っている。

「そういえばさ、ぼっちゃんにちょっと聞きたいんだけど」

「……何?」

「『あの子』は、まだ戻って来ないのかい? そろそろ迎えに行った方がいいと思うんだけど」

「『ユシィール』のこと? 別に構わないよ。今はいなくても問題はないし、いずれは再会する日が来るだろうしね。その時は」

「あまり酷いお仕置きはしちゃ駄目だよ~。飴と鞭は上手く使い分けないと、……壊れちゃうからね」

 喉奥で笑った男が自分に課せられた作業を行いながら、不穏な表情を刻む。
 どこへ逃げようと、最後には自分達の檻に囚われる哀れな人形。

「わかってるよ……。それより、『マリディヴィアンナ』」

「何ですの?」

 マリディヴィアンナと呼ばれた少女が、笑いを止めて振り返る。

「彼の仕事が終わるまで……、ちょっと一緒に遊びに行こうか」

「遊びに?」

「あぁ。……とっても楽しい遊びを、ね」


 あまり表情に変化がなかった少年に、僅かに浮かび上がる狂気の笑み。
 退屈をどう晴らすべきか悩んでいたマリディヴィアンナは、少年に耳元で何か囁かれた後、――嬉々として喜びの声を上げ始めた。
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