ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~

古都助(幸織)

文字の大きさ
170 / 314
第三章『不穏』~古より紡がれし負の片鱗~

不穏なる者達の嘲笑3

しおりを挟む
※敵サイド、不穏を抱く者達の、第三者視点です。


「ふあぁ……、良く寝た~」

「朝眠りに就いてから、夜になるまでの十数時間だよ~。寝すぎだじゃないかな?」

 仄明るい炎の灯りを生む焚火に照らされながら身を起こした闇夜色の髪の青年が、自分の肩を揉みながら、その声に視線を向ける。
 太い幹に背を預け、難解なデータを記録として空中に表示させ、真剣な表情でそれを眺めている不精髭の男に。
 普段は不精髭を生やしただらしのない男にしか見えないが、こう見えて、青年達の仲間内では頭脳労働の役割を果たしている。
 
「朝眠りに就いてから、夜になるまでの十数時間……。寝すぎだと思うよ」
 
 呆れまじりの視線を不精髭の男から向けられ、寝起きの男は肩を竦めて笑う。

「仕方ないだろ。昨夜は『核』で使った玩具遊びで、俺もこいつらも夜更かしだ。それに、最近は『仕事』で忙しかったからな。寝不足解消もしたくなるってもんだよ」

 片膝を立て、不精髭の男、ヴァルドナーツを物憂げに見やりながら、闇夜色の髪の青年は苦笑を滲ませた。
 彼のすぐ傍では、毛布を肩まで被り、幸せな夢を見ているかのように表情を和ませて眠る二人の子供の姿がある。
 ガデルフォーンにいる間は、『仕事』が終わるまでは、こうやって、人気のない森や洞窟を選んで寝泊りをしている四人だ。
 
「そういえば昨日は聞く暇がなかったけど、『お仕事』は上手くいったのかい?」

「万事抜かりなく、な。仕掛けまでは全部終わらせといた。ガデルフォーンでの『仕事』が終わったら、あっちを動かせばいい」

「了解。ご苦労様。……ふぅ、しかし、俺達って、本当……、不思議な関係だよね~」

 不精髭の男、ヴァルドナーツが一度、記録の類を全て消し去ると、眠り込んでいる二人の子供を微笑ましそうに見遣った。

「元々、何の関係もない他人同士が、こうやって身を寄せ合っている」

「そうか? 関係がないとは言えないだろ。俺もお前も、こいつらも……、根元に抱えているのは、同じ思いだ。それが共通しているから、行動を共にしている。そうだろ?」

「……そうだね」

 ヴァルドナーツと闇夜色の髪の青年、そして、この子供達が抱く……、思い。
 それは決して、このエリュセードの民達には歓迎されない、排除されるべき存在の自分達。その手に、魂の底から欲した願いを掴みとる為に、彼らは禁を犯す道を選んだ。
 
「ん……」

 二人が子供達を眺めていると、金髪の少女、マリディヴィアンナがゆっくりと瞼を押し開き、隣で眠る少年を揺り起した。

「起きてくださいな。……私達の施した術が、解呪されたようですわ」

「……ふあぁ、おはよう、マリディヴィアンナ」

 起き上がった少年が、自分の髪を撫でつけ、グンっと背を反らすと、ふぅ……、と、ひと息零す。
 マリディヴィアンナの言う通り、少年も自身が施した呪いが解かれるのを確かに感じていた。
 
「お前ら、またなんか悪さしてきたのか? 昨夜も、魔物の操作を俺に任せて、少しの間どこかに行ってたよな?」

「ふふ、お姉様に会いに行っていましたのよ」

「お姉様?」

「ええ。とても可愛らしくて素直そうな……、私好みのお姉様でしたの。ほら、前回の時は、お兄様を手に入れ損ないましたでしょ? だから……、今度は、お兄様ではなくて、お姉様が欲しくなりましたの。蒼い髪がとても綺麗で、温かいぬくもりを与えてくれるお姉様を……」

 マリディヴィアンナは、うっとりと頬を染め、お姉様……、と酔いしれながら呟いている。そして、右手を前に翳し、お姉様……、否、ユキの姿をそこに映し出す。

「ウォルヴァンシアの王兄姫、ユキ・ウォルヴァンシアか。僕の集めた情報によると、異世界とエリュセードの混血児らしいよ」

 毛布をたたんでいた少年が、『記録』を見上げながらユキについての説明を添える。
 
「異世界? ……ふぅん、本当にあるんだな。そういうの。で? この女をお前のお姉様にしたいってわけか? マリア」

 青年が口にした愛称は、マリディヴィアンナの名前を呼びやすく略したものだ。
 彼女はにっこりと頷くと、お姉様お姉様とうわ言のように繰り返す。

「完全にベタ惚れしたな、このお姫さんは……」

「マリディヴィアンナは、一度ハマると、とことん執着するから……」

 青年と少年が視線を交わし、はぁ……と、疲労混じりの溜息を同時に吐き出した。
 ヴァルドナーツの方も同じく、自分の世界に浸りくるくると踊るマリディヴァンナを眺めながら苦笑いだ。

「ウォルヴァンシアの王兄姫、か。まだ少女期って感じだが、可愛い顔してるじゃないか……。まだ、なんにも染まってなさそうな無垢な気配が、俺好みだな」

 腕を組み、愉しそうにユキの記録に視線を定めた青年が、獲物を見つけた獣のように微笑した。
 
「珍しいね……。君は遊び慣れている女性の方が好みかと思っていたけど」

「そっちも面白いが、俺としては……、こういう穢れを知らなさそうな女をじっくりと落としていくのも好きなんだよ。真っ白な布を染めるように、俺の色を沁み込ませて変えていく。お子様なお前にはわからないだろうが、その過程を見るのも、面白いぞ?」

「……あまりわかりたくはないかな。それより、そんなに目の前のお姫様が気になるなら、遊んで来たら? まだ、僕達の『仕事』を本格的に動かすまで時間があるし、……僕からのお願いも聞いてほしいな」

「お願い?」

「あぁ。……とっても面白い事になるよ」

 ――大勢の人に守られて、笑顔で過ごし続ける『君』の穏やかで幸せな日常を、ほんの少しだけ、僕達の手で掻き乱してあげよう。

 以前、ユキの血とウォルヴァンシアの住人達のせいで失敗した『仕事』。
 彼らのせいで、少年達はまた別の『仕事』をしなくてはならなくなった……。
 あの時の屈辱をこの機会に晴らしてしまおうと、少年はほくそ笑む。
 
(それに、もうひとつ、面白い仕掛けもあるしね……)

 少年は、真紅の瞳を面白げに細めた青年の耳元に唇を寄せ、楽しい悪戯の計画を囁いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...