夏の想い出

枕返し

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少年の日

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「全く、あいつらは!」
俺はムシャクシャしながら、それでいて高揚しながら山道を下っていた。理由は数日前に遡る。


「今日は何する?」
「山行くか。」
「えー、昨日も行ったし飽きたよ。」
「そうか、・・・じゃあさ、もっと先まで行こうぜ。頂上までとかさ。」
「それはダメだよ。怒られるもん。」
「そうだよ。それはダメだよ。子供だけで行っちゃダメって言われてるじゃん。」
「そんなの気にしてるのかよ。黙ってりゃ大丈夫だろ。」
「危ないよ。大人はみんなそう言ってるもん。」
「大丈夫だって。ヤバいと思ったら帰ってくればいいんだし。」
「まこちゃんは運動神経いいし大丈夫かもしれないけど俺らには無理だよ。」
「うん、ちょっとついていけないと思う。」
「大丈夫だって。頂上からの景色見てみたいと思わないのかよ。」
「ごめん。無理。」
「俺も止めとくよ。」
「なんだよお前ら。じゃあいいよ。」


その日、臆病な友達とはそこで別れて俺は一人で山へ向かった。
いつも遊んでいた山は中腹までは遊び場として行っていたが、それより上は子供は危ないから行ってはいけないと言われていた。
確かに人があまり入っていないという感じだが、全く道がないわけじゃない。大人たちはたまに入っているんだ。
なら俺だって行けるはずだと、前から思っていた。

そして実際に登ってみると予想よりもずっと簡単に頂上に着いてしまった。
木に登り景色を見渡す。すると俺の住んでる町が一望できた。
知った道を俯瞰で見ることが面白かった俺はしばらくそこで景色に没入していた。
あまりに夢中になっていたのか、気が付くと日が陰っていたため急いで下山する。
もし親に知られていたらどうしよう、怒られるかなと身構えたが全くなんてことはなかった。
言いつけを破ってもどうということはない。しかも案外簡単だ。
これは遊びの幅が広がるぞと、俺は胸を高鳴らせた。



次の日、
「昨日頂上まで行ったけど余裕だったぜ。」
「え?本当に行ったの?」
「ああ、全然余裕だった。だから行こうぜ。景色いいし、色んなもんがあるかも知れない。」
「・・いや、止めとくよ。」
「俺らには無理だよ。」
「怒られるし。」
次々に反対にあう。

「なんでだよ。なんなんだよ。お前ら。」
俺は友達みんなに反対されて、もどかしいような、言い表せない怒りを覚えた。今までは俺が皆の中心にいる感じがあったのに。

「まこちゃんは楽しいかも知れないけど。」
「俺たちは、・・なあ。」
「普段もまこちゃんについていくの怖い時あるし、大変なんだよ。」
そう言われて思い返してみると木登りをしても皆が俺の上に行くことはあまりない。下で見ているだけのこともある。枝に腰掛けても俺の隣に座ることができるやつなんていなかった。

「だから無理だよ。」
「違うことしようよ。」
「もし行くなら一人で行ってよ。」

山を登る時も俺はいつも皆を待ってばかりいた。
全力で山を駆けのぼったことはないかも知れない。
野球でも、サッカーでも、バスケでも、鬼ごっこでさえも、負けず嫌いな俺は本気を出せば一人勝ちすることができた。チームの味方にやきもきすることも多かった。大人にも中々負けないその運動能力は誇らしくもあったし優越感もあった。
でもその結果として、俺は本気で遊ぶことができていなかったし、友達にも嫌な思いをさせていたのかも知れない。

そんな考えがふとよぎるが、そんなことを認めたくはない、だってそれはつまり・・・。

俺はそれを受け入れられなかった。ただ混乱してしまって。
「ああもうそうかよ!俺とは遊びたくないってことかよ!」
つい大声を出してしまう。皆はびっくりしながら
「そんなこと言ってないけど・・・」と口々に。うじうじと。
「もういいよ!」

その日、俺は皆と別れて一人でいた。
一人でもっと面白い遊びをするにはどうしたらいいか。
今までと違って本気でやってみたいことは何か。そして決めた。



次の日、俺は一人で山へと向かった。
一昨日に登った頂上まではあっさり来ることができた。
道さえわかっていればなんてことはない。
そして昨日考えた結論、俺はこの頂上のその先に行ってみたくなった。
ただここから先は下り。山の向こうへの。
村の裏手に位置していたその山はいつも皆の遊び場だった。
だけどこの山の先は行ったことがない。道がなく人も住んでおらず、何もないからだ。
だから町でも話題に上がることさえない。
下っていこうにもそこは全く道らしきものはなく、どこから行こうか迷ってしまう程で、それはまるで前人未到の地へと旅立つ冒険家のような気分になる。
俺はそれが楽しみで心が躍っているのを感じた。
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