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第一章 少年期
第九話 「少女」
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ロベルは城内を歩き回る。
廊下に敷かれた朱色のカーペットは、廊下と共にどこまでも続いているようにさえ感じる。
定期的に長椅子や肖像画、タペストリーが設置され、長い廊下はどこであっても華やかさを失わないように設計されている。
横を見れば、連続して扉が設置されているのが分かる。この城館には幾つもの部屋があるのだろう。
硝子張りの窓の外では、広大な庭先の一部に設置された訓練場で、騎士や常備軍が各々訓練を行っている。
そのどれも恐ろしい程に練度が高く、実際に戦う事になれば、洗練された技術を前に今のロベルでは数秒ともたないだろう。
流石は武力と経済力共に優秀と名高い辺境伯家といったところだろうか。
そんな事を考えながら、ロベルは適当に手に取った金品を懐に忍ばせて何食わぬ顔で歩いていた。
あまりに堂々とした態度に、すれ違う下女や下男たちは疑問を持たないどころか頭を下げていた。
そして、そろそろ城館を出ようかと思い始めていた時、その少女は現れた。
肩まで伸ばした艶のある金髪、つり上がった眉と蒼玉の瞳、血色の良い唇。
まるで、先程までロベルを犯していた女の生き写しのようなその少女は、凛とした声でロベルを呼び止めた。
「ここで何をしていらっしゃるのですか?」
「⋯⋯散歩だ。もう帰るがな」
「ここは辺境伯家の城館です。あなたのような卑しい身分の人間が居て良い場所ではございません。それと、私に対してその態度、もしかして揶っているのですか?」
「そうか。何せ学が無いからな。伯爵夫人には許可されたんだが」
「⋯⋯っ!」
伯爵夫人と言う単語が出た瞬間、少女はつりあげていた眉と瞳を更につりあげ、怒りを顕にした。
「平民風情が図に乗るんじゃねえ。良くもお母様から許可を頂いた等という嘘をついたな!」
少女は余所行き口調を辞め、ロベルを責め立てる。
「嘘では無い」
「そうか、どうやら話が通じないらしいな。⋯⋯よし、たった今筋書きを思いついた。──私はここで侵入者を見つけた。侵入者は私の姿を認めると襲いかかってきたので、仕方無く身を守った。⋯⋯どうだ?」
「悪くは無いな」
少女は不敵に笑うと、怒りに染めていた表情が鳴りを潜め、真剣な眼差しをロベルへ向けた。
ドレスのスカートを両手で持ち上げると、健康的な両足を包むニーソックスの側面に付けられていた短剣を二本手に取り、駆け出した。
対するロベルは獲物を持たない。愛用のダガーは門衛に没収されているからだ。
一先ずバックステップをとり少女との間隔をなるべく開ける。──が、少女の駆け足はかなり早く、想定よりも短い間隔しか開けられない。
ロベルは仕方無く徒手空拳のようなもので応戦する。
誰に教わった訳でもないその技術は、壮年の男が死んでから只管に裏の世界で生きようと抗い続けて得た我流のものだ。
少女は一気にロベルとの距離を詰めると、右手に持った短剣で袈裟斬りを試みる。
ロベルは後ろに半歩下がる事でこれを回避する。
少女は勢いをそのままに左手の短剣で刺突を狙う。
ロベルは体の軸を左に反らして回避すると同時に左拳でがら空きになった少女の腹部、肝臓のある位置を殴打する。
少女は衝撃をもろに受け、内蔵を握り潰されたと錯覚するような痛みを感じ、同時に喉奥から熱を持ったものがせり上がってくるような感覚を抱き、胃液を吐き出す。
続けざまにロベルは右手で少女の首を掴むと、そのまま後ろに押し倒した。
後頭部と背中に強い衝撃を感じると共に、少女の意識は飛んだ。
───と、同時に、老執事の謝罪の声が聞こえ、ロベルも意識を飛ばした。
廊下に敷かれた朱色のカーペットは、廊下と共にどこまでも続いているようにさえ感じる。
定期的に長椅子や肖像画、タペストリーが設置され、長い廊下はどこであっても華やかさを失わないように設計されている。
横を見れば、連続して扉が設置されているのが分かる。この城館には幾つもの部屋があるのだろう。
硝子張りの窓の外では、広大な庭先の一部に設置された訓練場で、騎士や常備軍が各々訓練を行っている。
そのどれも恐ろしい程に練度が高く、実際に戦う事になれば、洗練された技術を前に今のロベルでは数秒ともたないだろう。
流石は武力と経済力共に優秀と名高い辺境伯家といったところだろうか。
そんな事を考えながら、ロベルは適当に手に取った金品を懐に忍ばせて何食わぬ顔で歩いていた。
あまりに堂々とした態度に、すれ違う下女や下男たちは疑問を持たないどころか頭を下げていた。
そして、そろそろ城館を出ようかと思い始めていた時、その少女は現れた。
肩まで伸ばした艶のある金髪、つり上がった眉と蒼玉の瞳、血色の良い唇。
まるで、先程までロベルを犯していた女の生き写しのようなその少女は、凛とした声でロベルを呼び止めた。
「ここで何をしていらっしゃるのですか?」
「⋯⋯散歩だ。もう帰るがな」
「ここは辺境伯家の城館です。あなたのような卑しい身分の人間が居て良い場所ではございません。それと、私に対してその態度、もしかして揶っているのですか?」
「そうか。何せ学が無いからな。伯爵夫人には許可されたんだが」
「⋯⋯っ!」
伯爵夫人と言う単語が出た瞬間、少女はつりあげていた眉と瞳を更につりあげ、怒りを顕にした。
「平民風情が図に乗るんじゃねえ。良くもお母様から許可を頂いた等という嘘をついたな!」
少女は余所行き口調を辞め、ロベルを責め立てる。
「嘘では無い」
「そうか、どうやら話が通じないらしいな。⋯⋯よし、たった今筋書きを思いついた。──私はここで侵入者を見つけた。侵入者は私の姿を認めると襲いかかってきたので、仕方無く身を守った。⋯⋯どうだ?」
「悪くは無いな」
少女は不敵に笑うと、怒りに染めていた表情が鳴りを潜め、真剣な眼差しをロベルへ向けた。
ドレスのスカートを両手で持ち上げると、健康的な両足を包むニーソックスの側面に付けられていた短剣を二本手に取り、駆け出した。
対するロベルは獲物を持たない。愛用のダガーは門衛に没収されているからだ。
一先ずバックステップをとり少女との間隔をなるべく開ける。──が、少女の駆け足はかなり早く、想定よりも短い間隔しか開けられない。
ロベルは仕方無く徒手空拳のようなもので応戦する。
誰に教わった訳でもないその技術は、壮年の男が死んでから只管に裏の世界で生きようと抗い続けて得た我流のものだ。
少女は一気にロベルとの距離を詰めると、右手に持った短剣で袈裟斬りを試みる。
ロベルは後ろに半歩下がる事でこれを回避する。
少女は勢いをそのままに左手の短剣で刺突を狙う。
ロベルは体の軸を左に反らして回避すると同時に左拳でがら空きになった少女の腹部、肝臓のある位置を殴打する。
少女は衝撃をもろに受け、内蔵を握り潰されたと錯覚するような痛みを感じ、同時に喉奥から熱を持ったものがせり上がってくるような感覚を抱き、胃液を吐き出す。
続けざまにロベルは右手で少女の首を掴むと、そのまま後ろに押し倒した。
後頭部と背中に強い衝撃を感じると共に、少女の意識は飛んだ。
───と、同時に、老執事の謝罪の声が聞こえ、ロベルも意識を飛ばした。
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