自殺しようとしているクラスメートを止めたら、「じゃあ私を抱けるんですか?」と迫られた

桜 偉村

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第10話 お出かけデート①

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 翌朝、俺はかえでの家に向かっていた。
 まさか朝からおっ始めるわけじゃないぞ? 一緒に登校する約束をしてるってだけだ。

 約束通りの時間にチャイムを鳴らすと、玄関から物音がした。
 躊躇いがちに開かれた扉から、楓がおそるおそるといった様子で顔を覗かせる。

「楓、おはよう」
「お、おはようございます、悠真ゆうま君」

 何かオドオドしているな。目線も合わせてくれない。

「どうかしたか?」
「い、いえっ、なんでもありません! 行きましょうっ」

 楓がそそくさと俺の横を通り過ぎる。頬はうっすらと色づいていた。
 ……もしかしてこれ、照れてねえか?
 よし、確かめよう。

「行くか」
「はい——あっ……!」

 手を握ると、楓はみるみるうちに真っ赤になった。
 俺の予想が当たっているのは間違いなかったが、あえてすっとぼけた表情で、

「どうした?」
「ど、どうしたじゃありませんっ。何でそんな慣れてるんですか……!」

 涙目で睨みつけてくる。
 どうやら本当に恋人と登校するというのが恥ずかしいようだ。

 もちろん俺だって羞恥心はあるが、楓ほどじゃない。
 というより、色々すっ飛ばして体の関係を持ってしまったのもあって、なんか感覚おかしくなってるんだよな。

 彼女はうぅ、とうめいている。
 恋人が恥ずかしがっていれば、さらにいじめたくなるのが男の性だろう。

「薄暗かったとはいえ、野外でブラ見せながら俺のモノを握ってきたときとは大違いだな」
「なっ……!」

 楓がさらに赤面して、わなわなと体を震わせた。

「ば、ばかっ」
「いててっ!」

 繋いでいた手を思いきり握りしめられ、悲鳴をあげてしまった。
 体力だけじゃなくて握力もあんのかよ。

「……あんまり調子に乗ってると、本気でタマ潰しますからね?」
「わりぃわりぃ」
「むー……」

 軽い謝罪が気に入らなかったのか、楓はぷくっとむくれてた。今日はずいぶんと表情が豊かだ。
 可愛すぎたので頭を撫でておく。

「はぅっ……!」

 ようやく収まりかけていた楓の頬の赤みが一瞬にして回復した。
 どうやら、俺の彼女はエッチなことには積極的なくせに普通の恋人らしいことにはまったく耐性がないようだ。

 恥ずかしがるだけで、楓は俺の手を払いのけようとはしない。よく見ればその目元や口はへにゃりと幸せそうに緩んでいた。

(可愛すぎるだろ……!)

 抱きしめたくなったけど、さすがに往来でそれは良くないし、楓の心臓も持たないような気がするからやめておくか。
 ……俺も腰を引きながら歩く羽目になるだろうし。



 学校に到着すると、俺の数少ない友人である八雲やくも早乙女さおとめの姿があった。
 交際を報告してもまったく驚いた様子を見せなかった二人に文句を言うと、八雲に「羽生はにゅう結弦ゆづるがトリプルアクセル成功させたと聞いても誰も驚かないだろう」と言われた。
 ドヤ顔がウザかったので腹に一発入れておいた。

「やはり鬼畜っ……!」
「八雲氏、そっちに行ってはなりませぬうぅぅう!」

 相変わらずの茶番を繰り広げる二人を見て、楓が「愉快なご友人たちですね」と笑った。

 他のやつらは特段親しくもないため言わなかった。
 手を繋いで登校して休み時間も一緒にいて、さらには名前で呼び合うようになっていればわかっただろうが、揶揄われることもなかった。

 楓に対するいじめの主犯格がごっそりと退学したのだ。わざわざ俺と彼女に積極的に絡もうとする者は少ないだろう。
 長いものに巻かれていじめに加担していたり、そうでなくとも見て見ぬ振りをしていた奴らとは仲良くしたくもなかったから、腫れ物扱いは逆に俺たちにとっては好都合だった。



 交際して最初の二回の休日はいわゆるお家デートをしてしぼり取られたが、その次の週の土曜日は出かけることになった。
 楓から提案されたときは、自分から外に出たいと思うくらい精神状態が上向いてきたのだと感極まって涙ぐんでしまったものだ。

 チャイムを鳴らすと、待ってましたとばかりに扉が開いた。

「おはようございます、悠真君っ」
「っ……!」

 ポーチを体の前でげ、楓がはにかむように笑った。
 俺は言葉を失った。

 心労が減って食べる量も増えたからか、楓は血色も良くなって徐々に肌荒れもほとんど治っており、ますます綺麗になっていた。
 おそらくはボツボツを隠すためだろうもっさりとした前髪を切れば、世間的に見ても一躍美人の仲間入りをするのは間違いない。

 今日の格好は純白のワンピースだ。麦わら帽子を被り、水色のサンダルを履いている。
 小物のポーチも同色で、夏が近づいてきた今の時期にぴったりな爽やかさとフェミニンさを兼ね備えた清楚な出立ちだった。

 そんな彼女の照れ臭そうな笑顔は、空の青さを際立たせる太陽よりもキラキラ輝いていた。
 俺は挨拶を返すのも忘れてすっかり見惚れてしまっていた。

 しかし、彼女は違う捉え方をしてしまったようだ。
 眉を下げて、不安そうに尋ねてきた。

「もしかしてこの格好、似合ってませんでしたか……?」
「えっ? いや、めっちゃ似合ってる! ごめん、可愛すぎて見惚れてた」
「そ、そうですかっ……」

 楓は瞬時に真っ赤になってうつむいた。
 よく見れば、その頬やら口元やらは緩み切っていた。

「可愛い」
「っ~!」

 思わず俺の口をついて出た言葉に、彼女はさらに赤くなった。

「うん、マジで可愛いぞ」

 念を押すように繰り返すと、楓は涙目で懇願するように、

「も、もう大丈夫です……!」
「いや、別にわざと言ってるわけじゃなくて、楓見てたら自然と言っちゃうっていうか——ふぐっ⁉︎」

 手のひらで口をふさがれた。

「ほ、本当にもうっ……こ、これ以上言われたら死んじゃいます!」
「えー……」
「えー、じゃありませんっ」

 赤面したまま楓がメッ、と指を突きつけてくる。その瞳はわずかに潤んでいた。
 そういう可愛らしいことをされるから可愛いと言いたくなるんだけどな。本当に限界そうだから胸の内に留めておくが。

「じゃあ、行くか」
「はい——あっ」

 楓がテテテ、と数歩進んでからこちらを向き直り、

「その、ゆ、悠真君もすごく格好いいですよ?」
「っ……!」

(照れくさそうな顔で言うのは反則だろ……!)

 俺は口元を手の甲で抑えて顔を背けた。
 頬も耳も、日焼けって言っても誤魔化せないくらいに熱くなってるんだろうな。

 正面からふふ、という楽しそうな笑い声が聞こえた。

「お顔が真っ赤ですよ? 悠真君だって人のこと言えないじゃないですか」
「うっ……し、仕方ないだろ。楓が可愛すぎるのが悪いんだ」
「っ……! もう、すぐそうやって反撃してくる……!」

 楓が上目遣いで睨みつけてきた。
 そのいじらしさに耐えかねて、俺は無意識に彼女のことを抱きしめていた。ふわっと女の子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

「あ、あのっ、悠真君……⁉︎」
「えっ……? あっ、悪い!」

 やっべ、外なのに抱きしめちまった……!
 俺は慌てて楓を解放し、頭を下げた。

「マジでごめん!」
「……べ、別にそんな謝らなくてもいいですよ」

 楓が不満そうに言った。そっぽを向いて続けた。

「恥ずかしいだけで、悠真君に抱きしめられるのはう、嬉しいですもん」
「っ……!」

 俺は息を呑んで固まった。
 楓も恥ずかしいことを言った自覚はあるのか、視線が合うとパッと目を逸らした。
 赤く染まった顔を両手で覆ってうぅ、とうめいている。

「……」
「……」

 気まずく、それでいて不快ではない沈黙がその場を支配した。
 色々と限界だった俺は、そんな空気を振り払うように楓の手を取り、

「ほ、ほらっ、そんなことより早く行こうぜ! 電車の時間も迫ってるしっ」
「そ、そうですね!」

 俺たちは二人して赤くなりながら、それでもしっかりとお互いの手を握りしめて駅へと急いだ。
 なんだかおかしくなって、顔を見合わせて笑い合った。

 何気ない幸せって、こういうことを言うんだろうな。
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