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第一章
第13話 シャーロットの拒絶
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「ただの……? それって……会長が僕に話しかけてくれる前の関係に戻るってこと?」
「はい」
会長はあっさりとうなずいた。
もう、彼女の中で答えは出ているということだ。
何で、どうして。疑問符ばかりが浮かぶ。
「どうして? 僕、何かしちゃった?」
「あっ、いえ、そういうことではありません。先程も申し上げた通り、私もノアさんと一緒にいるのは楽しかったです。でも、これはノアさんのためなんです」
「僕のため? どういうこと?」
会長は何を言いたいのだろう。
「今回の一件、悪いのは誰だと思いますか?」
「えっ? そりゃもちろん、レヴィ——」
反射的に答えかけて、僕は口を閉ざした。
会長の問いの意図するところに気づいてしまったからだ。
「相変わらず察しが良いですね。そう、一番の悪者がレヴィである事に疑いの余地はありません。しかし、それと同時に私が大きな要因である事もまた、明白です」
僕は唇を噛んだ。
否定できなかった。
断じて会長に責任はないが、僕が会長と仲良くしていなければ、今回の一件は起きなかった。
少なくとも、レヴィが僕を殺そうとする事はなかっただろう。
「ノアさんは以前、私が人気だとおっしゃっていましたね。実際、レヴィ以外にもアプローチを受けた事は幾度かあります。その中から第二、第三のレヴィが現れない保証もない。ノアさんの安全のためには、私はこれ以上あなたに関わってはいけないんです」
会長の口調は相変わらず淡々としていた。
それが、無性に悔しかった。
「言っている事はわかるけど……でも、もうこんな事は起こらないよ。今回は油断してたし、僕の対応も悪かったし……そもそもおかしいよっ。そんな奴らのために我慢する必要なんて——」
「そういう問題じゃありませんっ!」
会長が叫んだ。
俯き加減だった彼女と目が合った瞬間、僕は絶句した。
会長の目には、涙が溜まっていた。
淡々としていたわけではなかった。
溢れ出る感情を必死に押さえ込んでいただけだっのだ。
「私は、怖いんですっ……」
会長の白い頬を、透明な滴が滑り落ちていく。
「私のせいでノアさんにもしもの事があったら……私はきっと耐えられない。だから……申し訳ありません」
もう、あなたと関わることはできません——。
会長は深々と頭を下げた。
僕が思っている以上に、今回の一件は彼女にとって精神的な負担になっていたのだ。
エリアが会長の肩を抱いた。
会長はその肩に顔を埋め、静かに嗚咽を漏らした。
胸が苦しくなった。
僕はレヴィに「会長自身が関わりたくないと言わない限りは、僕から離れるつもりはない」と言った。
嫌われる事を想定した言葉だったが、彼女は今、僕と関わりたくないと明言した。
精神的負担を強いてまで一緒にいたいとは思わない。
会長の事を考えるなら、受け入れるべきだ。
だが、ここで頷いてしまったら、もう会長との関わりはなくなる。
その現実を、どうしても受け入れられない。
感情じゃない。理屈で考えろ。
僕と彼女。どちらにとっても離れるべきじゃないか。
頭では理解しているのに、言葉が出てこない。
まるで、喉が何かで塞がってしまっているみたいに。
「——私は反対だな」
「……えっ?」
僕は驚きをもって発言者——エリアを見た。
会長もまた、目を見開いて妹を見つめていた。
涙は止まっていた。
「……エリア、どうしてですか?」
エリアは、質問者である会長ではなく僕に目を向けてきた。
「ノア。これからあなたにとって無神経な事を言っちゃうかもしれないけど、いい?」
「もちろん」
双子の姉と、最近知り合った異性の同級生。
前者を優先するのは当然の事だ。
「ありがと」
ウインクをして、エリアが会長に向き直る。
「お姉ちゃんの言いたい事はつまり、自分とノアが仲良くしているとまたノアが狙われる可能性があるから距離を置いた方がいい、って事だよね?」
「はい、その通りです」
「一理あるとは思うけど、今更離れたところでノアが狙われない確証はないんじゃない? 突然距離を置いたら、それはそれでそういう奴らの格好の餌じゃん」
「それはそうかもしれませんが……今回のような事態には発展し得ないはずです」
「まあね。けど、お姉ちゃんはノアと距離を置いて耐えられるの?」
「へっ……? あ、当たり前です! ノアさんなしでは生きていけないほどゾッコンなわけではありません!」
会長が頬を染めて叫んだ。
エリアがポリポリと頬をかいた。
「あぁ、いや、ごめん。そうじゃなくて……ノアと距離を取るって事は、ノアが色々言われたり攻撃されたりするのを見て見ぬふりしなきゃいけないって事だよ? お姉ちゃんっていう盾がなくなる以上、苛烈になっていく可能性も十分にある。その状況、耐えられるの?」
会長がハッと息を呑んだ。
その顔から赤みはすっかりと消え去っていた。
「もっと言えばさ——」
エリアが会長の顔を覗き込んだ。
「——そういうのを間近で見て、暴走しないでいられるの?」
「そ、それはっ……」
会長が体を震わせた。
顔は青ざめ、唇は白くなっている。
「エリア、それ以上は——」
「ノアは黙ってて」
厳しい口調で遮られた。
「ノアには悪いけど、お姉ちゃんの暴走リスクを減らす事は、私にとっては何よりも大事だから」
そう言われてしまえば、反論できない。
それに、会長の暴走リスクを減らしたいのは僕も同じだ。
「どうなの? お姉ちゃん。別に急いで答えなくてもいいから」
エリアが優しく語りかけた。
「わ、私はっ……」
「うん。何?」
「多分、耐えられない……と思います」
会長は絞り出すように言った。
こんな状況なのに、僕は嬉しくなってしまった。
ニヤけてしまわないように歯を食いしばる。
「そうだよね。じゃあ、お姉ちゃんとノアが距離を置くっていう案はなしじゃない?」
「でも、それだとノアさんがっ」
「いい案があるよ」
エリアがニヤリと笑った。
まるで、待ってましたとばかりの笑みだ。
「いい案……?」
「うん。ノアが攻撃されるリスクとお姉ちゃんが暴走するリスク、どっちも減らせる方法」
「そんなものがあるんですかっ?」
「そんなものがあるのっ?」
会長と僕は同時にエリアに詰め寄った。
「ちょ、ちょい、二人ともがっつきすぎ! お互いそんなに離れたくなかったの?」
「あっ……」
僕と会長は思わず目を合わせた。
それから同時に顔を背ける。
会長の頬は桜色に染まっていた。
きっと僕もそうなのだろう。
頬が熱をもっているのがわかる。
「ま、仲が良いのはいい事だよ~」
「うるさいですっ!」
ニマニマと笑いながら僕らの肩を叩いたエリアの頭を、会長の平手が襲った。
スパーンという、すごくいい音がした。
「いったぁ!」
エリアが思わずといった様子で頭を抑えた。
「馬鹿な事を言っていないで、さっさとそのいい案を教えてくださいっ」
「えー、今の衝撃で忘れ……わかった! 言う! 言うから叩かないで!」
会長が腕を振り上げたのを見て、エリアが慌てた様子で手のひらを突き出した。
涙目になっていた。
「でも、また叩かれそうな内容なんだけど……」
「私とノアさん、双方にメリットのある案なのでしょう?」
「それはもう、お任せくださいな」
「なら、殴りませんよ。検討するだけならタダですし、とりあえず話してみてください」
エリアが視線を向けてくる。
僕はお願い、と頷いた。
彼女は、僕と会長の顔を見比べながら言った。
「その、二人が恋仲になったらどうかなって」
「……えっ?」
「……はっ?」
僕と会長は、揃って絶句した。
「はい」
会長はあっさりとうなずいた。
もう、彼女の中で答えは出ているということだ。
何で、どうして。疑問符ばかりが浮かぶ。
「どうして? 僕、何かしちゃった?」
「あっ、いえ、そういうことではありません。先程も申し上げた通り、私もノアさんと一緒にいるのは楽しかったです。でも、これはノアさんのためなんです」
「僕のため? どういうこと?」
会長は何を言いたいのだろう。
「今回の一件、悪いのは誰だと思いますか?」
「えっ? そりゃもちろん、レヴィ——」
反射的に答えかけて、僕は口を閉ざした。
会長の問いの意図するところに気づいてしまったからだ。
「相変わらず察しが良いですね。そう、一番の悪者がレヴィである事に疑いの余地はありません。しかし、それと同時に私が大きな要因である事もまた、明白です」
僕は唇を噛んだ。
否定できなかった。
断じて会長に責任はないが、僕が会長と仲良くしていなければ、今回の一件は起きなかった。
少なくとも、レヴィが僕を殺そうとする事はなかっただろう。
「ノアさんは以前、私が人気だとおっしゃっていましたね。実際、レヴィ以外にもアプローチを受けた事は幾度かあります。その中から第二、第三のレヴィが現れない保証もない。ノアさんの安全のためには、私はこれ以上あなたに関わってはいけないんです」
会長の口調は相変わらず淡々としていた。
それが、無性に悔しかった。
「言っている事はわかるけど……でも、もうこんな事は起こらないよ。今回は油断してたし、僕の対応も悪かったし……そもそもおかしいよっ。そんな奴らのために我慢する必要なんて——」
「そういう問題じゃありませんっ!」
会長が叫んだ。
俯き加減だった彼女と目が合った瞬間、僕は絶句した。
会長の目には、涙が溜まっていた。
淡々としていたわけではなかった。
溢れ出る感情を必死に押さえ込んでいただけだっのだ。
「私は、怖いんですっ……」
会長の白い頬を、透明な滴が滑り落ちていく。
「私のせいでノアさんにもしもの事があったら……私はきっと耐えられない。だから……申し訳ありません」
もう、あなたと関わることはできません——。
会長は深々と頭を下げた。
僕が思っている以上に、今回の一件は彼女にとって精神的な負担になっていたのだ。
エリアが会長の肩を抱いた。
会長はその肩に顔を埋め、静かに嗚咽を漏らした。
胸が苦しくなった。
僕はレヴィに「会長自身が関わりたくないと言わない限りは、僕から離れるつもりはない」と言った。
嫌われる事を想定した言葉だったが、彼女は今、僕と関わりたくないと明言した。
精神的負担を強いてまで一緒にいたいとは思わない。
会長の事を考えるなら、受け入れるべきだ。
だが、ここで頷いてしまったら、もう会長との関わりはなくなる。
その現実を、どうしても受け入れられない。
感情じゃない。理屈で考えろ。
僕と彼女。どちらにとっても離れるべきじゃないか。
頭では理解しているのに、言葉が出てこない。
まるで、喉が何かで塞がってしまっているみたいに。
「——私は反対だな」
「……えっ?」
僕は驚きをもって発言者——エリアを見た。
会長もまた、目を見開いて妹を見つめていた。
涙は止まっていた。
「……エリア、どうしてですか?」
エリアは、質問者である会長ではなく僕に目を向けてきた。
「ノア。これからあなたにとって無神経な事を言っちゃうかもしれないけど、いい?」
「もちろん」
双子の姉と、最近知り合った異性の同級生。
前者を優先するのは当然の事だ。
「ありがと」
ウインクをして、エリアが会長に向き直る。
「お姉ちゃんの言いたい事はつまり、自分とノアが仲良くしているとまたノアが狙われる可能性があるから距離を置いた方がいい、って事だよね?」
「はい、その通りです」
「一理あるとは思うけど、今更離れたところでノアが狙われない確証はないんじゃない? 突然距離を置いたら、それはそれでそういう奴らの格好の餌じゃん」
「それはそうかもしれませんが……今回のような事態には発展し得ないはずです」
「まあね。けど、お姉ちゃんはノアと距離を置いて耐えられるの?」
「へっ……? あ、当たり前です! ノアさんなしでは生きていけないほどゾッコンなわけではありません!」
会長が頬を染めて叫んだ。
エリアがポリポリと頬をかいた。
「あぁ、いや、ごめん。そうじゃなくて……ノアと距離を取るって事は、ノアが色々言われたり攻撃されたりするのを見て見ぬふりしなきゃいけないって事だよ? お姉ちゃんっていう盾がなくなる以上、苛烈になっていく可能性も十分にある。その状況、耐えられるの?」
会長がハッと息を呑んだ。
その顔から赤みはすっかりと消え去っていた。
「もっと言えばさ——」
エリアが会長の顔を覗き込んだ。
「——そういうのを間近で見て、暴走しないでいられるの?」
「そ、それはっ……」
会長が体を震わせた。
顔は青ざめ、唇は白くなっている。
「エリア、それ以上は——」
「ノアは黙ってて」
厳しい口調で遮られた。
「ノアには悪いけど、お姉ちゃんの暴走リスクを減らす事は、私にとっては何よりも大事だから」
そう言われてしまえば、反論できない。
それに、会長の暴走リスクを減らしたいのは僕も同じだ。
「どうなの? お姉ちゃん。別に急いで答えなくてもいいから」
エリアが優しく語りかけた。
「わ、私はっ……」
「うん。何?」
「多分、耐えられない……と思います」
会長は絞り出すように言った。
こんな状況なのに、僕は嬉しくなってしまった。
ニヤけてしまわないように歯を食いしばる。
「そうだよね。じゃあ、お姉ちゃんとノアが距離を置くっていう案はなしじゃない?」
「でも、それだとノアさんがっ」
「いい案があるよ」
エリアがニヤリと笑った。
まるで、待ってましたとばかりの笑みだ。
「いい案……?」
「うん。ノアが攻撃されるリスクとお姉ちゃんが暴走するリスク、どっちも減らせる方法」
「そんなものがあるんですかっ?」
「そんなものがあるのっ?」
会長と僕は同時にエリアに詰め寄った。
「ちょ、ちょい、二人ともがっつきすぎ! お互いそんなに離れたくなかったの?」
「あっ……」
僕と会長は思わず目を合わせた。
それから同時に顔を背ける。
会長の頬は桜色に染まっていた。
きっと僕もそうなのだろう。
頬が熱をもっているのがわかる。
「ま、仲が良いのはいい事だよ~」
「うるさいですっ!」
ニマニマと笑いながら僕らの肩を叩いたエリアの頭を、会長の平手が襲った。
スパーンという、すごくいい音がした。
「いったぁ!」
エリアが思わずといった様子で頭を抑えた。
「馬鹿な事を言っていないで、さっさとそのいい案を教えてくださいっ」
「えー、今の衝撃で忘れ……わかった! 言う! 言うから叩かないで!」
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「それはもう、お任せくださいな」
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