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第二章
第62話 クールな先輩マネージャーの決意
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「おはよう、香奈」
「おはようございますっ、巧先輩!」
(おっ、調子は戻っているみたいだ。良かった)
いつも通りの香奈の元気な挨拶に、巧は胸を撫で下ろした。
「昨日はすみませんでした。なんか突然帰る形になっちゃって」
香奈がぺこりと頭を下げた。
「ううん、気にしないで。体調でも悪かった?」
「そうですね。ちょっと調子良くなかったって言うのもありますし……まあでも、今はもう大丈夫なので」
「そっか。元気になったなら良かった」
本当に大丈夫そうだったので、巧は深くは言及しなかった。
香奈は安堵したように息を吐いた後、ふっと笑った。
「やっぱり、巧先輩って優しいですよね」
「えっ、どうしたの急に」
「いえ、普通なら突然帰ったらもっと怒ってもおかしくないのに、むしろ心配してくれてるのが優しいなって。いつもありがとうございます」
「ううん、こちらこそありがとう。そんなふうに言える香奈も優しいね」
「っ……巧先輩限定ですよ?」
息を詰まらせた後、香奈がそう言ってウインクをした。
「そうなの? それは嬉しいけど、他の人にも優しくしなきゃダメだよ」
「わかってますよー。デフォルトで優しいですもん私。巧先輩が特別ってだけですから!」
「そっか。ありがとう」
たとえそれが戯れの範疇を出なかったとしても、特別と言われて嬉しくない人間はいない。
巧は若干の照れ臭さを感じつつ、笑みを浮かべた。
「やはり手強い……」
「えっ、何か言った?」
「気になりますか?」
香奈が小首を傾げてニヤリと笑った。
「うん、気になる」
「えっ、私のことが?」
「あなたの発言が」
「もう、仕方ないなぁ……特別ですよ?」
香奈が手を口元に持っていき、メガフォンのような形を作った。
巧が耳を寄せると、彼女は囁いた。
「……にょ」
「えっ?」
「ゴニョゴニョ」
「ゴニョゴニョって言ってるだけじゃん」
巧は思わず香奈の頭をチョップしてしまった。
「いたっ」
「あっ、ご、ごめん! ついっ……痛かった?」
「いえ、ぜんぜ——痛かったです」
「今全然って言いかけ——」
「痛かったです」
強い口調で言い切った後、香奈が巧の腕をつかんだ。
「……えっと?」
「痛かったので、痛いの痛いの飛んでけーってしてください」
「今?」
「今です」
即答だった。
「……外なんだけど」
「いいじゃないですか。パッと見では人もいませんし、いたとしても見せつけてやればいいんです。私たちのラブラブさを」
香奈がイタズラっぽく笑った。
「イタイカップルのすることじゃん、それは」
「じゃあ、それもまとめていたいのいたいの飛んでけぇってしないとですね」
「……おぉ、うまいね」
「でしょう? ほらほら巧先輩、早く。人来ちゃいますよ?」
「しょうがないなぁ」
巧は渋々、香奈の頭に手を乗せた。
「痛いの痛いの飛んでけー……って、すごい恥ずかしいんだけど、これ」
「ふふ、でもそのおかげですっかり痛みがなくなりました。ありがとうございます!」
「まあ、ならよかったけど」
ちょっといつもと調子が違うなぁ、と巧は思った。
——そんな彼の様子を見て、香奈は一定の手応えを覚えていた。
ここまででもかなり恥ずかしさを押し殺しているが、苦労に見合うだけの成果は得られていると感じていた。
しかし、彼女は油断してはいなかった。
あかりの忠告もあり、これまで以上に巧と距離を縮めている人はいないかと注視していた。
だから、グラウンドに到着してすぐに気がついた。
今日付けで二軍に昇格してきた玲子が、巧に明確な好意を持っていることに。
そして、二人の距離間がこれまでよりも近くなっていることに。
◇ ◇ ◇
香奈に自分の巧への好意が露見したことは、玲子にもすぐにわかった。
彼女の自分を見る目が、一瞬だけ鋭くなったからだ。
嫌悪は感じなかったが、間違いなく敵視はしていた。
玲子は意識的に巧との距離を縮めているため、ある程度は覚悟していた。
しかし、その鋭さは予想を上回るものだった。
「ちょっとした出来事って、二軍昇格だったんですね」
「あぁ」
「ちょっとした、じゃなくないですか?」
「おや、そんなに喜んでくれているのかい?」
「それはまあ、嬉しいですよ」
巧が頬を緩めた。
同時に香奈からの視線が鋭くなるのが、玲子にはわかった。
ちょうど死角になっているため、巧にはわからないだろうが。
「ふふ、可愛いことを言ってくれるじゃないか……ところで如月君。香奈ちゃんとは何かあったのかい?」
「白雪さんとですか? いえ、特には何もありませんけど。どうしてですか?」
「いや、何もないならいいんだ。気にしないでくれ」
玲子は、巧との関係が進展したがゆえに香奈が予想以上に自分を敵視していると考えたのだが、巧が嘘を吐いているようには見えない。
ということは、香奈の中で何か心境の変化があったのだろう。
(もう少しじっくり距離を縮めようと思っていたが……多分、急いだほうが良さそうだな)
思っている以上に時間がないことを玲子は自覚した。
彼女にとっては、香奈だって可愛くて大切な後輩だ。
(だが、負けるわけにはいかない)
恋はスポーツと同じだ。
さまざまな駆け引きがあり、最終的に頂に立てるのは、特に巧の場合は絶対に一人だけ。その一人を除けば全員が敗者だ。
それに、相変わらず巧と香奈が登校しているところを見るに、それがたとえなんらかの事情ありきだったとしても、玲子が現時点で負けているのは間違いないだろう。
香奈が本気でアタックをし始めたら、おそらく勝ち目はない。手をこまねいている暇はないのだ。
悪いけど先に仕掛けるよ、香奈ちゃん——。
心の中で宣戦布告をしてから、玲子は巧に話しかけた。
「如月君。今日の練習後は空いているかい?」
「おはようございますっ、巧先輩!」
(おっ、調子は戻っているみたいだ。良かった)
いつも通りの香奈の元気な挨拶に、巧は胸を撫で下ろした。
「昨日はすみませんでした。なんか突然帰る形になっちゃって」
香奈がぺこりと頭を下げた。
「ううん、気にしないで。体調でも悪かった?」
「そうですね。ちょっと調子良くなかったって言うのもありますし……まあでも、今はもう大丈夫なので」
「そっか。元気になったなら良かった」
本当に大丈夫そうだったので、巧は深くは言及しなかった。
香奈は安堵したように息を吐いた後、ふっと笑った。
「やっぱり、巧先輩って優しいですよね」
「えっ、どうしたの急に」
「いえ、普通なら突然帰ったらもっと怒ってもおかしくないのに、むしろ心配してくれてるのが優しいなって。いつもありがとうございます」
「ううん、こちらこそありがとう。そんなふうに言える香奈も優しいね」
「っ……巧先輩限定ですよ?」
息を詰まらせた後、香奈がそう言ってウインクをした。
「そうなの? それは嬉しいけど、他の人にも優しくしなきゃダメだよ」
「わかってますよー。デフォルトで優しいですもん私。巧先輩が特別ってだけですから!」
「そっか。ありがとう」
たとえそれが戯れの範疇を出なかったとしても、特別と言われて嬉しくない人間はいない。
巧は若干の照れ臭さを感じつつ、笑みを浮かべた。
「やはり手強い……」
「えっ、何か言った?」
「気になりますか?」
香奈が小首を傾げてニヤリと笑った。
「うん、気になる」
「えっ、私のことが?」
「あなたの発言が」
「もう、仕方ないなぁ……特別ですよ?」
香奈が手を口元に持っていき、メガフォンのような形を作った。
巧が耳を寄せると、彼女は囁いた。
「……にょ」
「えっ?」
「ゴニョゴニョ」
「ゴニョゴニョって言ってるだけじゃん」
巧は思わず香奈の頭をチョップしてしまった。
「いたっ」
「あっ、ご、ごめん! ついっ……痛かった?」
「いえ、ぜんぜ——痛かったです」
「今全然って言いかけ——」
「痛かったです」
強い口調で言い切った後、香奈が巧の腕をつかんだ。
「……えっと?」
「痛かったので、痛いの痛いの飛んでけーってしてください」
「今?」
「今です」
即答だった。
「……外なんだけど」
「いいじゃないですか。パッと見では人もいませんし、いたとしても見せつけてやればいいんです。私たちのラブラブさを」
香奈がイタズラっぽく笑った。
「イタイカップルのすることじゃん、それは」
「じゃあ、それもまとめていたいのいたいの飛んでけぇってしないとですね」
「……おぉ、うまいね」
「でしょう? ほらほら巧先輩、早く。人来ちゃいますよ?」
「しょうがないなぁ」
巧は渋々、香奈の頭に手を乗せた。
「痛いの痛いの飛んでけー……って、すごい恥ずかしいんだけど、これ」
「ふふ、でもそのおかげですっかり痛みがなくなりました。ありがとうございます!」
「まあ、ならよかったけど」
ちょっといつもと調子が違うなぁ、と巧は思った。
——そんな彼の様子を見て、香奈は一定の手応えを覚えていた。
ここまででもかなり恥ずかしさを押し殺しているが、苦労に見合うだけの成果は得られていると感じていた。
しかし、彼女は油断してはいなかった。
あかりの忠告もあり、これまで以上に巧と距離を縮めている人はいないかと注視していた。
だから、グラウンドに到着してすぐに気がついた。
今日付けで二軍に昇格してきた玲子が、巧に明確な好意を持っていることに。
そして、二人の距離間がこれまでよりも近くなっていることに。
◇ ◇ ◇
香奈に自分の巧への好意が露見したことは、玲子にもすぐにわかった。
彼女の自分を見る目が、一瞬だけ鋭くなったからだ。
嫌悪は感じなかったが、間違いなく敵視はしていた。
玲子は意識的に巧との距離を縮めているため、ある程度は覚悟していた。
しかし、その鋭さは予想を上回るものだった。
「ちょっとした出来事って、二軍昇格だったんですね」
「あぁ」
「ちょっとした、じゃなくないですか?」
「おや、そんなに喜んでくれているのかい?」
「それはまあ、嬉しいですよ」
巧が頬を緩めた。
同時に香奈からの視線が鋭くなるのが、玲子にはわかった。
ちょうど死角になっているため、巧にはわからないだろうが。
「ふふ、可愛いことを言ってくれるじゃないか……ところで如月君。香奈ちゃんとは何かあったのかい?」
「白雪さんとですか? いえ、特には何もありませんけど。どうしてですか?」
「いや、何もないならいいんだ。気にしないでくれ」
玲子は、巧との関係が進展したがゆえに香奈が予想以上に自分を敵視していると考えたのだが、巧が嘘を吐いているようには見えない。
ということは、香奈の中で何か心境の変化があったのだろう。
(もう少しじっくり距離を縮めようと思っていたが……多分、急いだほうが良さそうだな)
思っている以上に時間がないことを玲子は自覚した。
彼女にとっては、香奈だって可愛くて大切な後輩だ。
(だが、負けるわけにはいかない)
恋はスポーツと同じだ。
さまざまな駆け引きがあり、最終的に頂に立てるのは、特に巧の場合は絶対に一人だけ。その一人を除けば全員が敗者だ。
それに、相変わらず巧と香奈が登校しているところを見るに、それがたとえなんらかの事情ありきだったとしても、玲子が現時点で負けているのは間違いないだろう。
香奈が本気でアタックをし始めたら、おそらく勝ち目はない。手をこまねいている暇はないのだ。
悪いけど先に仕掛けるよ、香奈ちゃん——。
心の中で宣戦布告をしてから、玲子は巧に話しかけた。
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