先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

文字の大きさ
62 / 328
第二章

第62話 クールな先輩マネージャーの決意

しおりを挟む
「おはよう、香奈かな
「おはようございますっ、たくみ先輩!」

(おっ、調子は戻っているみたいだ。良かった)

 いつも通りの香奈の元気な挨拶に、巧は胸を撫で下ろした。

「昨日はすみませんでした。なんか突然帰る形になっちゃって」

 香奈がぺこりと頭を下げた。

「ううん、気にしないで。体調でも悪かった?」
「そうですね。ちょっと調子良くなかったって言うのもありますし……まあでも、今はもう大丈夫なので」
「そっか。元気になったなら良かった」

 本当に大丈夫そうだったので、巧は深くは言及しなかった。
 香奈は安堵したように息を吐いた後、ふっと笑った。

「やっぱり、巧先輩って優しいですよね」
「えっ、どうしたの急に」
「いえ、普通なら突然帰ったらもっと怒ってもおかしくないのに、むしろ心配してくれてるのが優しいなって。いつもありがとうございます」
「ううん、こちらこそありがとう。そんなふうに言える香奈も優しいね」
「っ……巧先輩限定ですよ?」

 息を詰まらせた後、香奈がそう言ってウインクをした。

「そうなの? それは嬉しいけど、他の人にも優しくしなきゃダメだよ」
「わかってますよー。デフォルトで優しいですもん私。巧先輩が特別ってだけですから!」
「そっか。ありがとう」

 たとえそれがたわむれの範疇はんちゅうを出なかったとしても、特別と言われて嬉しくない人間はいない。
 巧は若干の照れ臭さを感じつつ、笑みを浮かべた。

「やはり手強い……」
「えっ、何か言った?」
「気になりますか?」

 香奈が小首を傾げてニヤリと笑った。

「うん、気になる」
「えっ、私のことが?」
「あなたの発言が」
「もう、仕方ないなぁ……特別ですよ?」

 香奈が手を口元に持っていき、メガフォンのような形を作った。
 巧が耳を寄せると、彼女はささやいた。

「……にょ」
「えっ?」
「ゴニョゴニョ」
「ゴニョゴニョって言ってるだけじゃん」

 巧は思わず香奈の頭をチョップしてしまった。

「いたっ」
「あっ、ご、ごめん! ついっ……痛かった?」
「いえ、ぜんぜ——痛かったです」
「今全然って言いかけ——」
「痛かったです」

 強い口調で言い切った後、香奈が巧の腕をつかんだ。

「……えっと?」
「痛かったので、痛いの痛いの飛んでけーってしてください」
「今?」
「今です」

 即答だった。

「……外なんだけど」
「いいじゃないですか。パッと見では人もいませんし、いたとしても見せつけてやればいいんです。私たちのラブラブさを」

 香奈がイタズラっぽく笑った。

「イタイカップルのすることじゃん、それは」
「じゃあ、それもまとめての飛んでけぇってしないとですね」
「……おぉ、うまいね」
「でしょう? ほらほら巧先輩、早く。人来ちゃいますよ?」
「しょうがないなぁ」

 巧は渋々、香奈の頭に手を乗せた。

「痛いの痛いの飛んでけー……って、すごい恥ずかしいんだけど、これ」
「ふふ、でもそのおかげですっかり痛みがなくなりました。ありがとうございます!」
「まあ、ならよかったけど」

 ちょっといつもと調子が違うなぁ、と巧は思った。

 ——そんな彼の様子を見て、香奈は一定の手応えを覚えていた。
 ここまででもかなり恥ずかしさを押し殺しているが、苦労に見合うだけの成果は得られていると感じていた。

 しかし、彼女は油断してはいなかった。
 あかりの忠告もあり、これまで以上に巧と距離を縮めている人はいないかと注視していた。

 だから、グラウンドに到着してすぐに気がついた。
 玲子れいこが、巧に明確な好意を持っていることに。
 そして、二人の距離間がこれまでよりも近くなっていることに。


◇   ◇   ◇



 香奈に自分の巧への好意が露見したことは、玲子にもすぐにわかった。
 彼女の自分を見る目が、一瞬だけ鋭くなったからだ。
 嫌悪は感じなかったが、間違いなく敵視はしていた。

 玲子は意識的に巧との距離を縮めているため、ある程度は覚悟していた。
 しかし、その鋭さは予想を上回るものだった。

「ちょっとした出来事って、二軍昇格だったんですね」
「あぁ」
「ちょっとした、じゃなくないですか?」
「おや、そんなに喜んでくれているのかい?」
「それはまあ、嬉しいですよ」

 巧が頬を緩めた。
 同時に香奈からの視線が鋭くなるのが、玲子にはわかった。
 ちょうど死角になっているため、巧にはわからないだろうが。

「ふふ、可愛いことを言ってくれるじゃないか……ところで如月君。香奈ちゃんとは何かあったのかい?」
白雪しらゆきさんとですか? いえ、特には何もありませんけど。どうしてですか?」
「いや、何もないならいいんだ。気にしないでくれ」

 玲子は、巧との関係が進展したがゆえに香奈が予想以上に自分を敵視していると考えたのだが、巧が嘘を吐いているようには見えない。
 ということは、香奈の中で何か心境の変化があったのだろう。

(もう少しじっくり距離を縮めようと思っていたが……多分、急いだほうが良さそうだな)

 思っている以上に時間がないことを玲子は自覚した。
 彼女にとっては、香奈だって可愛くて大切な後輩だ。

(だが、負けるわけにはいかない)

 恋はスポーツと同じだ。
 さまざまな駆け引きがあり、最終的に頂に立てるのは、特に巧の場合は絶対に一人だけ。その一人を除けば全員が敗者だ。

 それに、相変わらず巧と香奈が登校しているところを見るに、それがたとえなんらかの事情ありきだったとしても、玲子が現時点で負けているのは間違いないだろう。
 香奈が本気でアタックをし始めたら、おそらく勝ち目はない。手をこまねいている暇はないのだ。

 悪いけど先に仕掛けるよ、香奈ちゃん——。
 心の中で宣戦布告をしてから、玲子は巧に話しかけた。

「如月君。今日の練習後は空いているかい?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...