先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

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第六章

第145話 夕だち

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 たくみがダブルデートのメンバーとして想像した女子二人——香奈かなとあかりは、こちらはこちらであかりの自室で勉強会をしていた。
 
「ふいー……」

 香奈は区切りをつけて伸びをした。
 胸を大きく突き出す形になるため、巧以外の男子の前では絶対にしない所作だが、あかりの自室ならやりたい放題だ。
 ついでに言えば、部屋主のあかりも今はトイレに行っている。

「ふわ……あ」

 あくびが漏れる。眠い。とても眠い。

(あかりが戻ってくるまで少しだけ……)

 そう思って机に突っ伏すや否や、香奈の意識は眠りの世界へと羽ばたいた。



「……ん」

(重い……)

 何かが覆い被さっている感覚がして、香奈は目を覚ました。
 寝ぼけながら視線を横に向け——、

「ぴゃあ⁉︎」

 素っ頓狂な声を上げてしまった。
 あかりの横顔がすぐ近くにあったからだ。

「なっ、なっ……⁉︎」
「ん……うるさいなぁ……」

 あかりのまぶたが重そうに持ち上がった。
 ——彼女は、香奈に背後から覆い被さるようにして眠っていた。

「うるさいなぁじゃないよっ、何で私を羽交い締めにして寝てんの⁉︎」
「えっ……? あぁ」

 あかりが目をぱちぱちと瞬かせ、上体を起こした。
 記憶を辿るように斜め上を向いて、

「そうだ。トイレから戻ってきたら香奈が寝てたから、驚かせてやろうと思って抱きついたんだよ。そしたら寝ちゃったみたい。でも、結果的には大成功だね」
「もう、心臓止まるかと思ったよ~」

 ニヤリと笑ってみせるあかりに、香奈は唇を尖らせてブー垂れた。

「ごめんごめん」

 あかりが笑いながら香奈の頭を撫でた。香奈は頬を膨らませた。

「その不服そうな顔、可愛いね」
「やかましいわ。変態オヤジか」
「でも、香奈が無防備に寝てたのも悪いと思うんだ。そりゃイタズラしたくもなるじゃん。どうせ、如月きさらぎ先輩の家でもちょいちょい寝落ちしてるんでしょ?」
「ギクッ」

 心当たりしかなかった。

「当たりみたいだね」
「そ、そんなことないし? ムダ毛で数える程度だし?」
「永久脱毛してる? それによってだいぶ意味合い変わるけど」
「いや、A級はさすがに高いからB級脱毛してる」
「あっ、なるほどね」
「いや、なるほどねじゃないでしょ」

 香奈はすかさずツッコんだ。

「納得しないで。私が困るから」
「たしかに私B級脱毛知らないや。どれ、ちょっと拝見」
「ちょいちょいどこ見ようとしてんの」

 ズボンを下ろそうとするあかりの手首を掴んで止める。

「えー、ダメ?」
「ダメに決まってるでしょ」
「如月先輩には見せてるのに、私には見せてくれないの?」

 あかりが不満そうな表情を浮かべた。

「恋人と親友って別物だと思うんだけど」
「じゃあ私も香奈の恋人になってあげるよ。よく言わない? 両方いたほうが楽しいって」
「聞いたことない聞いたことない」
「遅れてるね——ところで如月先輩とは進んだ?」
「ううん、前に言ったのくらい」

 たくみとのイチャラブ生活、いや性活についてはあかりに赤裸々に話していた。

「あんまり待たせすぎちゃダメだよ。モタモタしてるうちにセフレ作っちゃうかもしれないし」
「巧先輩に限ってそれはないと思うけど……でも、そうだよね。私も頑張らないと」

 香奈だって、巧と一つになりたい気持ちはもちろんあるのだ。とはいえまだそこまで強く望んでいるわけではないが、巧の想いには早く応えてあげたい。
 あかりがふっと笑って、

「健気だねえ。いい子な香奈に免じて、合宿か修学旅行まではこっちで我慢するとしよう」

 あかりが香奈の胸を下から持ち上げた。
 女子同士では、陰部はともかく胸なら普通に触り合うため、香奈は強く抵抗することもなく、

「貞操観念しっかり系彼氏か」
「いや、修学旅行で彼女の下見ようとしてるやつはやばいでしょ」
「たしかにっ」

 二人はあはは、と笑い合った。
 その後は少しだけ雑談を交わし、勉強に戻った。



 翌日から定期テストが始まった。
 巧とあかりに教えてもらったこともあり、香奈は前回とは違って赤点はないと断言できるくらいの手応えを感じていた。

 ——手応えを感じていたのは巧も同じだった。
 香奈とのイチャイチャがあるため勉強時間は減ったかもしれないが、誰かと一緒に勉強するというのは緊張感があったし、彼女と少しでも長くイチャつくという目標のおかげで集中力は増していたため、質という面ではこれまでで最高だったかもしれない。

 試験は午前中に終わった。部活が終わってもまだ夕方だった。
 試験の終わった開放感から少し寄り道をしていると、突然の夕立ちに襲われた。

「わわっ!」
「めっちゃ降ってきた!」

 巧も香奈も傘を持っていなかった。
 なんとかシャッターの閉まった店の前で雨宿りに成功したときには、二人ともびしょ濡れになっていた。

「とりあえずここで待とう」
「そうですね」

 寄り道していたのが災いし、学校にも家にも走って帰れる距離ではなかった。

「予報ありましたっけ?」
「いや、なかった——」

 すっかり透けてしまっている香奈の赤色のブラが目に入り、巧はパッと目を背けた。
 彼女もすぐに気づいたらしい。笑いながら、

「別に、彼氏なんですからそんな慌てて目を逸らさなくていいんじゃないですか?」
「いや、まあそうだけど、こういうハプニング系はあんまり見ないほうがいいかなって思って」
「巧先輩になら全然いいですよ。でも、そうですね。たしかに他の人には見られたくないので——」

 香奈が巧にぎゅっと抱きついた。

「隠してください」
「か、香奈っ?」

 巧は動揺した。
 現在地は人通りが少ないため、人から見られる心配はほとんどないとはいえ、ここまで大胆な行動を取ってくるとは予想していなかった。

 しかし、巧は彼女を引き剥がそうとはしなかった。その華奢な体に腕を回して抱きしめた。
 他の人、特に男に今の香奈を見せたくなかったし、単純に暖かかった。

「あったかいですね。風邪を引かなくてすみそうです」
「そうだね」

 お互いの服が濡れているというのもあって、いつもよりも香奈の体を感じられる。
 誰かに見られる可能性があるのはわかっていたが、それだけで抑えられるほど男の本能は賢くなかった。

 密着しているため、当然香奈にも巧のそこに血液が集まっているのはわかったのだろう。
 彼女はニマニマと笑い、

「ふふ、雨だというのに巧ジュニアのテンションは高いですね。これぞまさに夕勃ちってやつですか」
「うまいこと言わないで」
「付き合う前にも一回同じようなシチュエーションあったじゃないですか。あのときも実はしれっと元気になってたんですか?」
「いや、理性総動員して抑えてた。さすがにまずいと思って」
「なるほど……」

 香奈は何か考えるそぶりを見せたあと、何の前触れもなく巧のモノをぎゅっと握った。

「うっ……な、何してんの⁉︎」
「触ってます」
「そ、外だよっ?」
「大丈夫です。誰もいませんし、これだけ密着していれば見えませんよ」
「そ、そういう問題じゃないと思うけど——」
「巧先輩。あそこ、シャワーもあるし雨宿りできますけど」
「っ……」

 巧は息を呑んだ。
 香奈の視線の先にあるのはラブホテルだった。

「……雨が収まる気配もないし、行こっか」

 香奈がコクンとうなずいた。
 自分から提案したというのに、その頬は真っ赤だった。
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