先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

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第八章

第212話 彼女が親友に遊びをドタキャンされた

 一軍の土曜日の練習は、日曜日から再開する——選手権県予選のために中断していた——プレミアリーグ第二十節に向けた調整練習だった。
 調整というだけのことはあり、練習の強度は高くなかった。どちらかというと戦術の確認などを重点的に行なった形だ。

 ミーティングが終わり、たくみはいつも通り香奈かなと帰路についていた。
 マンションの近くのコンビニを通り過ぎるころ、香奈の携帯がメッセージの受信を告げた。画面を一目見て、彼女の表情が曇った。

「どうしたの?」
「あかり、あんまり体調が悪いから遊ぶのはまた今度にしようって」

 香奈はこの後あかりと遊ぶ約束をしていた。

「そっか。それは残念だけど仕方ないね」

 巧が励ますように言っても、香奈の表情は晴れなかった。ハァ、と重いため息を吐いた。

「なんか最近、あかりに避けられてる気がするんです。月曜日の夜も電話の約束ドタキャンされてますし……」
「それは寂しいよね。あれ、そのときも体調不良だったっけ?」
「はい」
「なら、デリカシーのない話ではあるけど、アレだったりもするんじゃないかな。学校ではなんとか普通に振る舞ってる反動で、その後のことは全部しんどくなっちゃったりすることとかもあるんじゃない? だって、香奈は何もしてないんでしょ?」
「はい。それは本当に何も」

 香奈は強い口調で断言した。
 どれだけ振り返っても、自分があかりのことを傷つけた記憶はない。選手権前にも「ずっと親友でいようね」と言われていたくらいなのだ。

「……うん、そうですね。あかりも色々と不安定になっているだけなのかもしれません」
「そうだよ。一軍に昇格したばっかだし、ストレスも色々抱えているのかもしれない。もう少し経てばいつも通りに戻るかもだし、そんなに考えすぎなくてもいいんじゃない?」
「わかりました。そうします」
「うん、いい子いい子」

 巧はやや乱暴にぐしゃぐしゃと香奈の頭を撫でた。
 彼女は「子供扱いしないでください」と頬を膨らませた後、ふっと笑みをこぼした。

 あかりは生理で精神が乱れているのだろう——。
 香奈はそう考えることにした。

 そうであってほしいという願望も決して小さくなかったとはいえ、まさるとのスキンシップを見ていない彼女が親友の異変をそのように結論づけてしまうのは仕方のないことではあっただろう。
 年頃の少女にとって精神面の不安定さは主にそれに起因するものであり、自分の意思ではどうしようもないものであることを知っていたのだから。

 当事者ではない分、巧は香奈よりも状況を冷静に捉えることができていた。
 最近のあかりの態度がおかしいのは、香奈を相手にしているときのみだった。生理であるならば、他の人にも多少なりともぞんざいな態度を取ってしまうはず。親友だけに態度が悪いなど不自然だ。

 巧はあかりの彼氏である優に相談することにした。
 香奈が自宅にお風呂に入りに行ったタイミングで電話をかけた。

『もしもし』
「もしもし優。今時間大丈夫?」
『おう。どうした?』
「最近、七瀬ななせさんとはどう?」
『な、なんだよ急に』

 のんびりとしていた優の口調が露骨に乱れた。

「いや、最近ますますサッカーの調子よさそうだからさ。明日のメンバーにも選ばれたし」
『……まあ、それなりに進展はあったけど』

 優が照れくさそうに言った。
 巧は思わず前のめりになった。

「えっ、本当? どれくらい?」
『毎日ずっこんばっこんのお前らからすりゃ微々たるもんだぞ』
「別に毎日はシてないし。で、どうなの?」
『……キスまではした』
「おー、いいね! 七瀬さん、結構ガード固そうだけど」
『まあな』

 優は口調こそ冷静さを装っているが、喜びがにじみ出ていた。どうやら、二人の関係は順調そのものであるようだ。
 ——だからこそ、巧の中で違和感は強くなった。

「いいねぇ、着々とって感じで……そんな中悪いんだけどさ、ちょっと優に相談があって」
『どうした?』

 優の声が低くなった。

「香奈と七瀬さんについてなんだけどさ。最近あの二人の距離遠くない?」
『あー……言われてみれば確かに?』

 優としても、少し思うところはあるようだ。

「一軍マネージャーでお互いが唯一の一年生で、しかも自他ともに認める親友同士にしては一緒にいる時間が明らかに少ないじゃん」
『それはそうだな』
「見てる感じ七瀬さんから避けてることが多いし、香奈も距離を取られてるんじゃないかって落ち込んでてさ。ちょっと探り入れることとかってできるかな? もちろん、七瀬さんとの関係を優先してほしいけど」
『わかった。夜に電話するし、ちょっとさりげない感じで聞いてみるわ』
「本当? ありがとう」
『おうよ』

 少しぶっきらぼうな口調だった。
 照れ隠しであることはわかっているため、巧は思わずクスッと笑ってしまった。

「じゃあ、よろしく。また明日ね」
『おう、じゃあな』
「深夜テンションでセクハラ電話しちゃダメだよ」
『日常的に普通ならセクハラになるような行為してるお前に言われたかねえっつーの』

 笑いながらそう言って、電話は切れた。

「……確かにしてるなぁ」

 巧は一人うんうんと納得してしまった。
 香奈が家に来たときは、本番はまだしも軽い触り合い程度なら必ずしているし、本番まで進んだのであれば一回で終わった試しがない。

 世間一般のカップルに比べて、自分たちの性交の頻度や回数、ひいては性欲自体が高いことはわかっていた。
 しかし、そんなことは全く気にしていなかった。
 普通のスキンシップを取っていればムラムラはしてしまうし、香奈も喜んで応えてくれているのだから何も問題はないだろう。むしろ彼女から誘ってくることも多いのだから。

「まあ、今日はそういう流れにはならないかもしれないけど」

 いくら自分に言い聞かせたとはいえ、親友に避けられているかもしれない状況では香奈もそういう気分にならないだろう。
 どのみち明日は試合なので、欲望のままに激しくするわけにもいかない。巧としては全然シなくても構わないのだ。

 月曜日の部活はオフだ。
 今日明日中に香奈とあかりの問題が解決して、明日の試合にも勝ってそのまま夜の試合をキックオフし、今日の分までゴールを決めることができたら最高の流れだな、と巧は思った。
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