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第八章
第213話 元通り
巧と約束した通り、優は夜に電話をしているときに香奈との関係についてあかりに尋ねてみた。
一軍に昇格してちょっと緊張していたし、同じ立場になったから香奈にばっかり頼っちゃいけないと思ってた——。
彼女はそう言った。「だから気にしないでください」とも続けた。
少々強引な気もしたが、確たる証拠もないのでそれ以上は詰められなかった。
翌日、アップを始める前に巧には伝えた。
「ふむ……あっ」
難しい顔で顎に手を当てていた巧が、何かを発見したように声を上げた。
視線の先では、あかりが香奈に話しかけていた。香奈は嬉しそうに笑っていた。そのまま楽しげに会話を続けた。
「なんか大丈夫そうじゃね? 元通りになったっつーか」
「そうだね」
巧がホッと息を吐いた。
コロコロと表情を変えながら腹を抱えて笑う香奈のことを愛おしげに見つめてから、優に笑みを向けた。
「優、協力してくれてありがとう。ここからは自分のことに集中していいよ」
「っ……!」
優はギシッと固まった。
巧の笑顔にアテられた——わけではない。改めて一軍で初めての公式戦だと自覚したからだ。
巧は笑いながらその肩を叩いた。
「大丈夫だよ。監督がメンバーに選んだってことは、優ならやれるってことだから」
「お、おうよ——おふっ⁉︎」
脇腹に手刀を入れられ、優はうめいた。
巧が距離を取りながら手をメガホンのように口元に当て、揶揄うように、
「今日はオフじゃないよー」
「白々しいわっ」
優は巧を追いかけ、捕まえて一通り懲らしめた。いつの間にか緊張はほぐれていた。
間違いなく巧のおかげだったが、それを認めることはなんだか癪だった。代わりに少しくすぐっておいた。
二人揃ってキャプテンの飛鳥に苦笑と苦言をいただいた。
優が出番をもらったのは大量リードしている後半の終盤数分だった。ボールタッチは十回にも満たなかっただろう。
それでもわずかでもチャンスをもらえたこと、実際にプレミアリーグの空気感を味わえたことは大きな収穫になった。
チームが解散すると、優はあかりと並んで歩き出した。
彼女は ONE OK ROCK のライブ映像を見るために直接優の家を訪れるのだ。
「お熱いなぁお前らも!」
「ったく、木村と佐藤がいなくなって巧たちだけになったと思ったら今度はお前らかよー」
「巧と白雪クラスにはなるんじゃねーぞっ」
「テス勉も忘れんなよー」
チームメイトから冷やかされつつ、そして一部真面目なアドバイスももらいつつ帰路についた。
優は少しだけ面倒には思いながらも、やはり周囲からカップルとして扱われていることは嬉しかった。
ふと隣を見て、優は眉をひそめた。
あかりは視線を下に落とし、唇を真一文字に結んでいた。
「七瀬はあんまりああいうの好きじゃないか?」
「えっ? ……まあ、はい。そうですね」
なんだか不明瞭な答えだった。ほとんど先輩しかいないので遠慮しているのかもしれない。
「気持ちはわかるけど、なんだかんだ揶揄いつつも応援してくれてるっつーか、悪い意味では絶対ねえと思うぞ」
「はい。それはわかってます」
あかりが頬を緩めてうなずいた。
この後はワンオクのライブ鑑賞会だ。いずれテンションも元通りになっていくだろう——。
このときの優は、そう楽観的に捉えていた。
◇ ◇ ◇
優とあかり、そして彼らをイジる過程で名前を出されていた巧と香奈以外にももう一組、一緒に帰宅している男女ペアがあった。誠治と冬美である。
彼らは奇しくも他のペアと同じように帰宅後は一つ屋根の下に集まろうとしていたし、実際に冬美の家に集まった。
しかし、甘い雰囲気は一切なかった。
十日後に迫った定期テストに向けた勉強会という名の冬美のスパルタ教育が行われていた。
「如月君たちや百瀬君たちのように遊んでいる暇はあなたにはないわ。赤点を取らなくてすむように死ぬ気で勉強しなさい」
「お、おう。わかってるつーの」
「何?」
冬美がスッと目を細めた。
「言いたいことがあるならはっきり言いなさい」
「……怒らねえか?」
「怒られる覚悟があるのなら言えばいいし、ないなら黙って勉強しなさい」
誠治は頬を強張らせた。冬美に怒られたくはない。好きな人どうこうの前に、単純に怖いのだ。
「いや、その……前回は流れちったし、今日こそ頑張ったらちょっとだけ出かけるっつーのはナシか?」
「っ……!」
冬美が目を見開いた。予想だにしていなかったようだ。
誠治から視線を逸らしてはぁ、と息を吐いた。
「テスト十日前ということはわかっているのかしら?」
「うっ……そうだよな。やっぱりテスト前は——」
「前回よりも審査は厳しくなるわよ」
「……へっ?」
誠治はポカンと冬美を凝視した。
彼女は居心地が悪そうに眉をひそめた。
「何よ」
「い、いいのか?」
誠治は信じられなかった。口調的に断られると思っていたのだ。
冬美は答えず、サラサラとノートに何かをメモしていった。
ペンを止めて確認するように上から下まで見返した後、視線は逸らしたまま誠治にノートを突き出した。
「あくまでこれらを全てこなして、さらに夕食までに時間があればの話よ」
「うす!」
誠治は間髪入れずに返事をした。思わずといった様子で振り向いた冬美には目もくれず、時間が惜しいとばかりに勉強に取りかかった。
これまでの彼からすれば、とても夕方までに終えられる量ではなかった。
しかし、諦めなければ試合は終了しない。
誠治は冬美が無理やり休ませようか悩むほどの集中力を発揮し、午後五時半までに全ての課題を復習も含めて終わらせた。
「どうだ⁉︎」
「……合格よ。まさか本当にやり遂げるとは思わなかったわ」
ワークなどのチェックを終え、冬美が呆れたように言った。
誠治は渾身のガッツポーズを決めた。
「っしゃあ!」
「……それで、どこに行きたいのかしら?」
「あー、そうだな……」
時間的に遠出はもちろん、カラオケなどのある程度まとまった時間が必要な遊びはできない。
悩んだ末に、誠治はゲームセンターを選択した。女の子が総じて好きなショッピングはあまり興味がなかったし、彼には一つ狙いもあった。
一軍に昇格してちょっと緊張していたし、同じ立場になったから香奈にばっかり頼っちゃいけないと思ってた——。
彼女はそう言った。「だから気にしないでください」とも続けた。
少々強引な気もしたが、確たる証拠もないのでそれ以上は詰められなかった。
翌日、アップを始める前に巧には伝えた。
「ふむ……あっ」
難しい顔で顎に手を当てていた巧が、何かを発見したように声を上げた。
視線の先では、あかりが香奈に話しかけていた。香奈は嬉しそうに笑っていた。そのまま楽しげに会話を続けた。
「なんか大丈夫そうじゃね? 元通りになったっつーか」
「そうだね」
巧がホッと息を吐いた。
コロコロと表情を変えながら腹を抱えて笑う香奈のことを愛おしげに見つめてから、優に笑みを向けた。
「優、協力してくれてありがとう。ここからは自分のことに集中していいよ」
「っ……!」
優はギシッと固まった。
巧の笑顔にアテられた——わけではない。改めて一軍で初めての公式戦だと自覚したからだ。
巧は笑いながらその肩を叩いた。
「大丈夫だよ。監督がメンバーに選んだってことは、優ならやれるってことだから」
「お、おうよ——おふっ⁉︎」
脇腹に手刀を入れられ、優はうめいた。
巧が距離を取りながら手をメガホンのように口元に当て、揶揄うように、
「今日はオフじゃないよー」
「白々しいわっ」
優は巧を追いかけ、捕まえて一通り懲らしめた。いつの間にか緊張はほぐれていた。
間違いなく巧のおかげだったが、それを認めることはなんだか癪だった。代わりに少しくすぐっておいた。
二人揃ってキャプテンの飛鳥に苦笑と苦言をいただいた。
優が出番をもらったのは大量リードしている後半の終盤数分だった。ボールタッチは十回にも満たなかっただろう。
それでもわずかでもチャンスをもらえたこと、実際にプレミアリーグの空気感を味わえたことは大きな収穫になった。
チームが解散すると、優はあかりと並んで歩き出した。
彼女は ONE OK ROCK のライブ映像を見るために直接優の家を訪れるのだ。
「お熱いなぁお前らも!」
「ったく、木村と佐藤がいなくなって巧たちだけになったと思ったら今度はお前らかよー」
「巧と白雪クラスにはなるんじゃねーぞっ」
「テス勉も忘れんなよー」
チームメイトから冷やかされつつ、そして一部真面目なアドバイスももらいつつ帰路についた。
優は少しだけ面倒には思いながらも、やはり周囲からカップルとして扱われていることは嬉しかった。
ふと隣を見て、優は眉をひそめた。
あかりは視線を下に落とし、唇を真一文字に結んでいた。
「七瀬はあんまりああいうの好きじゃないか?」
「えっ? ……まあ、はい。そうですね」
なんだか不明瞭な答えだった。ほとんど先輩しかいないので遠慮しているのかもしれない。
「気持ちはわかるけど、なんだかんだ揶揄いつつも応援してくれてるっつーか、悪い意味では絶対ねえと思うぞ」
「はい。それはわかってます」
あかりが頬を緩めてうなずいた。
この後はワンオクのライブ鑑賞会だ。いずれテンションも元通りになっていくだろう——。
このときの優は、そう楽観的に捉えていた。
◇ ◇ ◇
優とあかり、そして彼らをイジる過程で名前を出されていた巧と香奈以外にももう一組、一緒に帰宅している男女ペアがあった。誠治と冬美である。
彼らは奇しくも他のペアと同じように帰宅後は一つ屋根の下に集まろうとしていたし、実際に冬美の家に集まった。
しかし、甘い雰囲気は一切なかった。
十日後に迫った定期テストに向けた勉強会という名の冬美のスパルタ教育が行われていた。
「如月君たちや百瀬君たちのように遊んでいる暇はあなたにはないわ。赤点を取らなくてすむように死ぬ気で勉強しなさい」
「お、おう。わかってるつーの」
「何?」
冬美がスッと目を細めた。
「言いたいことがあるならはっきり言いなさい」
「……怒らねえか?」
「怒られる覚悟があるのなら言えばいいし、ないなら黙って勉強しなさい」
誠治は頬を強張らせた。冬美に怒られたくはない。好きな人どうこうの前に、単純に怖いのだ。
「いや、その……前回は流れちったし、今日こそ頑張ったらちょっとだけ出かけるっつーのはナシか?」
「っ……!」
冬美が目を見開いた。予想だにしていなかったようだ。
誠治から視線を逸らしてはぁ、と息を吐いた。
「テスト十日前ということはわかっているのかしら?」
「うっ……そうだよな。やっぱりテスト前は——」
「前回よりも審査は厳しくなるわよ」
「……へっ?」
誠治はポカンと冬美を凝視した。
彼女は居心地が悪そうに眉をひそめた。
「何よ」
「い、いいのか?」
誠治は信じられなかった。口調的に断られると思っていたのだ。
冬美は答えず、サラサラとノートに何かをメモしていった。
ペンを止めて確認するように上から下まで見返した後、視線は逸らしたまま誠治にノートを突き出した。
「あくまでこれらを全てこなして、さらに夕食までに時間があればの話よ」
「うす!」
誠治は間髪入れずに返事をした。思わずといった様子で振り向いた冬美には目もくれず、時間が惜しいとばかりに勉強に取りかかった。
これまでの彼からすれば、とても夕方までに終えられる量ではなかった。
しかし、諦めなければ試合は終了しない。
誠治は冬美が無理やり休ませようか悩むほどの集中力を発揮し、午後五時半までに全ての課題を復習も含めて終わらせた。
「どうだ⁉︎」
「……合格よ。まさか本当にやり遂げるとは思わなかったわ」
ワークなどのチェックを終え、冬美が呆れたように言った。
誠治は渾身のガッツポーズを決めた。
「っしゃあ!」
「……それで、どこに行きたいのかしら?」
「あー、そうだな……」
時間的に遠出はもちろん、カラオケなどのある程度まとまった時間が必要な遊びはできない。
悩んだ末に、誠治はゲームセンターを選択した。女の子が総じて好きなショッピングはあまり興味がなかったし、彼には一つ狙いもあった。
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