先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

文字の大きさ
292 / 328
第十一章

第292話 スタンディングオベーション

しおりを挟む
「ここにきて、咲麗しょうれいが勝ち越したぁ!」
西宮にしみやの完璧なパスと、如月きさらぎの完璧な抜け出し!」
「そしてかがりの泥臭いゴールだ!」
「西宮と如月、息ピッタリじゃねえか!」
「なんでリーグ戦では併用されてなかったんだ⁉︎」
「縢もよく追いついたなぁ!」

 熱狂に包まれる中、咲麗しょうれいイレブンは歓喜の輪を作り、得点者である誠治せいじのもとへ駆け寄った。

「誠治!」
「よく詰めてたなぁ!」
「最高だぜお前!」

 しかし、たくみはその輪に加われなかった。
 というより、キーパーとの接触を避けた勢いで倒れ込んだまま、立ち上がることすらできていなかった。

 怪我をしたわけではない。
 単純に体力の限界が来たのだ。

 それまではアドレナリンと使命感が彼を動かしていたが、ただでさえ守備とまことのサポートに走り回っていた彼に、無事得点が決まってなお動き続けられるほどの体力は残っていなかった。
 彼は仰向けになって、寝転がった。

「空が青いなぁ……」
「「「——巧!」」」

 まるで戦場で力尽きた戦士のようにつぶやいた巧のもとへ、咲麗イレブンは集結した。

「ったく、大活躍したっつーのに、最後は情けねー格好してんなぁ」

 誠治は苦笑しつつ、巧の腕を自分の肩に回して引き上げた。

「あぁ、ありがとう……もう動けないや……」

 弱々しく笑う巧に、チームメイトがわっと一斉に押し寄せ、我先にとその頭を叩いた。

「作戦、見事的中だな!」
「さすが俺らの監督だぜ!」
「アシストも誠治が追いつける絶妙な強さだったし、相変わらずエロいなぁお前!」
「それに、体力ねえくせによく走ったよ!」
「みなさん、痛いです……」

 シャワーのようにねぎらいの言葉と平手を浴びながら、巧は誠治に支えられてピッチを後にした。
 一ゴール一アシストの活躍に、会場からはスタンディングオベーションが送られた。

「すごかったぞ如月!」
「さすが咲麗の小さな魔術師だ!」
「お疲れー!」

 巧の消耗を見越していた咲麗ベンチは、すでに交代の準備を整えていた。
 代わって出場するのはまさるだ。

「優……後は頼んだよ……」
「お、おう……お前、もうゾンビみたいになってるぞ……」

 息も絶え絶えの巧に、優は頬を引きつらせた。

「もしも僕がウイルスにかかっていたら、容赦なくヤっちゃって……」
「冗談言えるくらいの体力は残ってんだな……でも、マジですごかったぜ。お疲れさん」
「ありがと……」

 巧の背中をポンポンと叩き、優はピッチに入った。

『選手の交代をお知らせします。咲麗高校八番、如月選手に代わり、十七番、百瀬ももせ選手が入ります』

 場内アナウンスが流れる中、晴弘はるひろ蒼太そうたが誠治から巧を受け取った。
 後輩に両側から支えられて、巧はなんとかベンチに腰を下ろした。

「巧先輩っ……! もう、本っ当に最高でした!」

 香奈かなは頬を赤らめながら、潤んだ瞳でドリンクを差し出した。
 その声は震えていて、まるで今にも感極まって泣き出しそうだった。

「ありがとね……僕、ちょっとは格好良かった?」
「そりゃもうっ、すっごく……! 今日だけで百回は惚れ直しました!」

 香奈は勢いよく何度もうなずき、そのまま巧の手をぎゅっと握った。

「そっか……じゃあ、頑張った甲斐があったな……」

 巧は弱々しく微笑んだ。
 その魂が消滅する寸前のようなはかない笑顔に、皆が慌てて駆け寄る——ことはなく、じっとりした視線があちこちから向けられた。

「悲報。如月選手、彼女に惚れ直してもらうために頑張っていた」
「そんな状態でもイチャつけるなんて、もう骨のずいまで染み付いているのね」
「イチャつかないと死ぬ呪いって、あながち間違いでもねえかもしれねえな」
「それな」

 巧と香奈のやり取りをきっかけに、咲麗のベンチはワイワイ盛り上がった。

 ——それが象徴するように、流れは一気に咲麗に傾いていた。
 もう交代したとはいえ、徹底的に対策をしたのに巧の術中にハマってしまったこと、そして絶対に負けないと思っていた彼と神楽のマッチアップに土をつけられたことは、桐海陣営にとってはショック以外の何者でもなかった。

 実際、桐海イレブンたちにも動揺が見えていた。
 しかし、全員が全員、心を乱されているわけではなかった。

「みんな、まだ一点差なんや! 切り替えていくで——巧君もいなくなったことやしな!」

 今泉はたっぷり一つの間を空けてから、そう付け足した。
 それから、唇を噛みしめてうつむく後輩の名を呼んだ。

「神楽!」
「は、はひっ!」

 神楽はまるでイタズラがバレた子供のように、大きく体を震わせた。

「ご、ごめんなさい! ぼ、僕が如月さんに食いつきすぎたせいで——」
「——謝るな」
「っ……!」

 今泉はあえて鋭い声を出した。
 神楽は頭を下げかけて、ビクッと震えた。

 その瞳がしっかりと自分を捉えたのを確認して、今泉は表情と語気を和らげた。

「試合はまだ終わりやない。今は、ここからどう巻き返すかや」
「そうですね……ごめんなさい」
「ええんや。お前はまだ一年やし、名誉挽回のチャンスもあるからな。お前ならできるはずや」
「えっ?」

 神楽はキョトンとした表情になった。

「多分やけどな——」

 今泉はあることを耳打ちした。神楽の瞳が見開かれる。

「なるほど……わかりました。やってみますごめんなさい!」
「おう。気負うんやないで。普通にやればできるはずや」
「はい!」

 大きくうなずく神楽の表情から、先程までの悲壮感はさっぱり消え失せていた。暗かった瞳に、希望の光と情熱の炎が灯った。

「おっしゃ、神楽! やり返してやろーぜ!」
「はいっ、必ず挽回しますごめんなさい!」
「おうよ!」

 永井ながいが白い歯を見せて屈託なく笑い、親指を立てた。

「こういうとき、永井の単純さはありがたいな」
「あぁ。ワシらじゃ、ああも馬鹿正直に励ますことは不可能やからな」
「そうだな」

 小さく笑い、浜本はまもとは自分のポジションへと戻っていった。
 今年のチームは本当にバランスがええな——。
 今泉は一瞬だけ穏やかに笑ったが、すぐにその笑みの種類は異なるものへと変化した。

(さて、やられたことはやり返させてもらうで、巧君)

 そうほくそ笑む今泉の視線の先にいるのは、巧と交代で出場した優の姿だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...