最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

文字の大きさ
12 / 85

第11話 六人の魔族たち

しおりを挟む
 人族の住む土地から、はるか遠くの建物の中で六人の魔族が騒いでいた。

 六人の魔族たちが集まっている建物はかなり大きい。そして、建物内部にある巨大な円形のテーブルの近くに、六人の魔族が座っている。

 そして一人の〝若い男の魔族〟が、不機嫌そうに話し始めた。

「おい、まだゼムドの行方は分かんねーのかよ?」

 そう言いながら片足を、ドン、とテーブルに乗せて騒ぐ。
 この不機嫌そうな魔族に対して、この男よりずっと若い〝男の子の魔族〟が落ち着いた様子で答える。

「はい、闘神様の魔力痕を、追跡獣を使って捜索はしているのですが見つかりません。どうやら出かけるに当たって完全に魔力を消してから移動したようです」

 この男の子の魔族はこの六人の中では一番の新参者だ。だが、新参者だからというわけではなく、誰に対してもいつも丁寧な口調で喋る。
 男の子の発言を聞いて、机に足を乗せた魔族が独り言のように呟いた。

「あの野郎、出かけるなら出かけるで、一言声かけて出掛けりゃいいじゃねーか」

「まぁ、ゼムド殿なりに何か思うところがあったのではないでござろうか? この千年程、物思いに耽っていることが多かったように思うでござる」

 侍のような恰好をした。ひょろっとした姿の魔族が、顎をさすりながらこれに返答する。この侍の魔族はいつも笑顔だ。穏やかに笑っている。
 テーブルに脚を載せた魔族がこれに返答する。

「いや、全然そんなこと分からなかったわ。俺にはいつも通りにしか見えなかった。俺があいつと初めて戦った時に比べれば確かに最近大人しくなったとは思っていたが、それはここにいる奴全員そうだろ、みんな大人しくなりやがって」

「いや、あんたに一番驚くわー。どんだけ負けてもまだゼムドに勝つつもりでやってんだから、それに驚くわー」
 小さい女の子の魔族が答える。答えた魔族の女の子はテーブルの上に上半身を突っ伏して、両手を伸ばしている。

「(ガシャンガシャン)」大きく金属音がする。

 女の子の隣に座っていた大きい鎧を着た魔族が、大きい音をまき散らしながら頷いている。女の子の意見に同意しているようだ。
 この魔族は鎧をいつも着ていて、喋らないし、皆、中の人がどんな人物なのか見たこともない。この鎧の魔族にはガルドロストという名前があったが、闘神であるゼムドが適当に付けた名だ。
 前に一度この鎧を外してやろうと、女の子の魔族がちょっかいを出したが、この魔族と喧嘩になり三ヵ月ほど寝ることなく戦うことになった。女の子も、鎧の魔族も両者は魔族の上位種である。このレベルの魔族が本気で戦うと地形が相当変化するし、魔力によって大地が汚染される。その時の闘いの影響は今もこの大地に残ってしまっていた。ただ、その時の闘いではどちらも本気を出していないので、どちらの方が強い魔族なのかは分からない。

「そう、お主に一番驚くでござる。お主この千年大して強くなってないのに、よく毎回ゼムド殿に挑み続けるでござるな。普通諦めるか、もっと強くならなきゃ挑もうと思わないでござる」

 侍の魔族がテーブルに置いてあった刀を鞘から抜いて、天井に向かって差し出し、それを見ながら、テーブルに方足を乗せた魔族にツッコミを入れた。

「うるせー。俺はいつかゼムドを倒すんだよ。で、勝ったらお前ら全員、俺の配下な」
「無理ねー」
「無理でござる」
「(ガチャンガチャン)」と大きい鎧の頭を動かして頷く。

「お前らぶっ殺すぞ!!」

 言葉使いは物騒だが、机に足をのせた魔族も、もちろん本気で殺してやろうとは思っていない。
「まぁ、それよりゼムド様の顔を見られないのは私としては辛いですわ。あの方の横顔を見るだけで毎日幸せな気持ちになれたのに、それができないことがこんなにも心苦しいとは思いませんでした」

 一人の女ががっかりした表情でそう言う。

「お前もホント不思議だねぇ。それだけの美貌があって未だにつがいが見つけられねーとは。ゼムドはお前に興味ないって。諦めて他の男を探せよ」

「あなたそれ本気で言ってます? 返答次第では許しませんよ」

「おー、怖い怖い。あ、そうだ、ゼムドは嫁探しに出かけたんじゃねーの?」

 バン、という音ともにテーブルが叩き割られた。厳密には叩き割ったというよりはバカにされた女の魔族が魔力を放出したのだが。

「もし、そうだったとしたら私は相手の女を殺しますね。絶対に認めないし、許しません。というか、ゼムド様に近づく女は全て私が排除してきましたし、今後も私に振り向いてもらえるまではそれを続けるつもりです」

(……おい、冗談で嫁探しって言ったんだけどよ、これ本当にエスカのせいでゼムドが出て行ったんじゃねーの?)
(あー、私も思った。これ本当に嫁探しの可能性あるかも……)

「コホン」

 六人の中で一番若い男の子の魔族が軽く咳のフリをしてから喋り始めた。

「闘神様の追跡についてですが、追跡獣での探索は現状では今週いっぱいで打ち切る予定です。魔力痕を一切残していない、ということは、闘神様は最初から追跡されないような行動を取っているはずで、あの方の魔力コントロールを考えると、追跡獣での捜索に意味があるとは思えません。そこで別のアプローチに切り替えようと思っています。あれほどの力を持った方ですと、外出したといっても、どこかでは力の衝突があると考えられます。他の大陸も含めて何かしら異変があった場合の情報を集める方が、手っ取り早いように思えます」

「あー、それはそうだな。この数千年ゼムドには多少の上位種の魔族ですら、俺たちが近づけさせてないから、同じ魔族でもあいつが闘神と分からない奴もそれなりに増えてるだろ。ゼムドが周囲のことを気に掛けるわけないから、他の魔族か獣とぶつかる可能性が高いな」

「確かにどこかしらでは魔力の放出なり、地形が変わるくらいのことは起こりえるでござろうな。その情報からゼムド殿を探す方が早かろう」

「それはいい案ですね。さっそく魔族の下位種から中級種に種を滅ぼされたくなければ、ゼムド様の居場所を見つけるように命令しましょう。有力な情報を見つけた者達には、強い魔石のような報奨を渡してもいいですね」

 エスカと呼ばれた女の魔族を除いた一同は、顔を互いに見合わせて黙る。
(……おい、これどうなんだ? 本気でエスカは外した方がいいんじゃないのか? う~ん)
 男の子の魔族が、エスカの話を受けて続ける。

「魔族の下位・中位種に脅しを掛けても、大半は言うことを聞きませんし、命令した内容を理解すらできないでしょう。そこで、獣族に大陸の地形が大きく変化した場所が存在しないか、あるいは獣族で一夜にして全滅した種がどこかにないか、そのような情報をこちらへ届けてもらうようにしようかと思います」

「どうやって獣族に命令すんだよ? 俺は、たかが獣に興味ねーぞ。あんな弱い連中のところへ行こうとするだけで、イライラするわ」

 男の子の魔族が続ける。

「私が出かけて行きます。私はあなた方と違い、獣族とも若干ですが交流があります。獣族では採取することができないような魔石をいくつか掘り起こして、それを手土産に交渉してみようかと思います」

 女の子の魔族が答える。

「じゃあ、私もどっかで魔石取ってくるわー。ここで、こうしてても、つまらないしー」

「ふむ、では拙者も魔石探しに興じてみようか」

「良いですね。私一人では流石にこの世界のどこかにいるゼムド様を見つけるのは無理ですし、獣族を使ってゼムド様を見つけるのがいいでしょう。では、さっそく私も魔石を探してきますね。見つけてきたら、ここにすぐ戻ってきますので」

 そう言うといきなりエスカは立ち上がって、急いで建物の外へ出て行った。
 ドン、という大きい音が聞こえる。
 おそらくもう魔石探しのために、空へ飛んで行ったのだろう。

「ガルドロストさんはどうされます?」

 男の子の魔族が大きな鎧を着た魔族に尋ねる。

「(ガシャンガシャン)」
 頷いているので、魔石を探しに行く気らしい。

「アザドムドさんはどうしますか?」

「俺は行かねー、別にゼムドが帰ってこなくてもいいし。知ったこっちゃねーわ」

 不貞腐れたような表情をしているが、アザドムドは、結局魔石を探しに行くかもしれない。
 この人の性格からすると〝魔石を探しに行く確率は50%くらいかな〟と考えながら、男の子魔族ケリドは、残りの魔族に話しかける。

「では、私たち四人も魔石を探しましょう。
 もちろん全員で同じ場所を探してもしょうがないので、適当に方角をバラして、珍しい魔石があるような場所で魔石を拾ってきましょう。その際に闘神様を発見することが出来ればいいので、闘神様が見つかったら、その場で強めの魔力を放出してください。エスカさんには伝えていませんが、彼女も私たちが強めの魔力を放出すれば何かあったと気づくでしょう。
 ガルドロストさんは二時の方向へ、私は四時の方向、ミホさんは六時の方向、ワダマルさんは八時の方向へ飛んでもらいます。エスカさんは十時の方向へ飛んで行ったので、そちらは探す必要が無いでしょう」

 アザドムドにわざと〝十二時の方向へは、誰も魔石を探しに行きませんよ〟という情報を流してやる。
 魔族の女の子ミホが立ち上がる。 

「よし、行くかー。なんか強い敵いないかなー」

 侍の魔族ワダマルがそれに答える。

「最近出かけてないでござるからな、もしかすると上位から高位の魔族へ進化した者がいるかもしれないでござる。出来れば手合わせ願いたいでござる」

 ガシャン、と大きい音がして鎧の魔族もその場から立ち上がる。
 そして四人は建物の出口に向かっていき、外へ出て行く。
 建物から出た場所で四人は物凄い音を立ててその場から飛び上がり、それぞれの目的の方向へ魔石を探しに飛んで行った。

 一人残されたアザドムドは毒づく。

「俺は行かねーからな!!」

 大きい声でそう発すると、誰もいない建物の中にその声が反響していった。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

処理中です...