最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第16話 魔族との出会い

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 ゼムドは、キリやオリバに会った後、二日ほどホテルにこもった。
 そして、辞書とやらの魔道板マジックタブレットいじっていた。

 様々な情報が辞書には記されていた。それぞれの情報は簡単に説明されたもので、現物を見てみないとイメージが湧かないものも多かったが、知識を増やしていくことで、今まで自分の頭の中で、もやっとしていたことを秩序立って考えられるようになっていた。

 本当に驚く。
 今まで生きてきて、その大半を強さの追求に当ててきたし、それ以外のことに何か意味があるとは思えなかったが、こうして知識を得てみると、力による強さ以外のことにも価値があるのかもしれないと思い始めていた。

 これらの知識に関しては仲間の連中にも伝えてみたいと思った。

 あいつらの大半はそれほど興味を示さない気もするが、おそらくケリドとエスカは興味を示すだろう。ケリドは一番仲間内では若いが、あいつは魔族にしては妙に他種族の真似事を好む傾向がある。この辞書を渡せばおそらく喜んで読み込むだろう。
 エスカは何か知らんが俺の気を引こうと必死だから、〝これを理解したら結婚してやる〟と言えば目の色を変えて飛びつくだろう。もちろん結婚する気はないので、この場合、覚えた諺で云えば〝嘘も方便〟と云ったところか。

 一方で、ここまで案内してくれた人が、自分のことを、腫れ物を扱うような感じで、対処に困っているのは分かっていた。俺に言われたまま、従っているような振る舞いをしているが、実際のところは自分とグリフォンの間に挟まれて困惑しているのが本心なのだろう。
 今までの自分からすると、人とグリフォンにどのような力関係があるのか興味はなかったが、そのうち人とグリフォンの関係についても調べてみようと思う。いや、それだけでなく世界全体で、それぞれの種族がどのような役割を担い、また、力関係にあるのか調べてみようと思った。
 
 ――ゼムドには過去に一度だけ、他種族に対して強い感情を抱いたことがあった――
 
 オリバやキリは中央に逐一、俺の様子を報告しているようだ。
 オリバのポケットからは微弱ながら魔力の波が一定レベル放出されていた。オリバは気づかれてないと思っているようだが、オリバのポケットには何かしらの魔道具が入っていて、おそらく俺の状況をどこかへ定期的に伝えているのだろうと思った。

 ギルドで銀行についての説明を受けたが、あの時、ギルドマスターとやらもおそらくあの部屋の真向かいで、何らかの魔道具を使っていたのだろう。おそらく俺を警戒して何かあった場合は対処するつもりだったのだろうと思われる。
 そういうのを含めて面白いと感じる。弱いが知恵があるため、道具を使い、困難な状況に対処しようとする。単純に力比べだけでなく、そのような駆け引きをこの人族は長い年月の間で繰り返してきたのだろう。

 とりあえず――辞書を読み込んでみよう。完全に読み込むにはあと数日掛かるか。

********************

 結局、辞書を一通り読み込むのに五日ほど掛かった。重要そうではない箇所は省いた。
 人の言葉の意味は大体理解できたが、実際に自分の目で見てみないとどういうものか想像できないものが大半だった。とりあえず自分が当面どうしたいかを人族に伝える必要があると思った。

 そのため、もう一度オリバにギルドへ案内させた。そして、キリとギルドマスターも呼び出した。五日前にキリとオリバから説明を受けた部屋で、四人が対峙することになった。

 辞書を読んで分かったことだが、人族には〝人〟〝エルフ〟〝ドワーフ〟の三種類がある。目の前の三人は全員〝人〟だ。この街で見た人族は全て〝人〟のようで、エルフとドワーフはまだ見たことが無い。

 ギルドマスターは大柄な男で坊主頭、ゼムドから見ても今までに見た人間の中でもやはりずばぬけて魔力が高い。

「いやー、あんたが噂の魔族さんか? おれさぁ、一応中央からおまえのことを監視しろ、って言われてんだけど、それよりグリフォン潰してくれてありがとな!!」

 キリとオリバがギョッとした表情をする。
 次にキリの顔が真っ赤になっていく。そして怒りを押し殺しながら言葉を吐き出す。
「ギルマスは黙ってください」

 ギルドマスターはニコニコしながら話を続ける。

「キリちゃん、そんなに怒らなくてもいいじゃん。そんなんだから行き遅れるんだよ。もっと笑顔を大事にした方が良いって」

 キリがギルドマスターの足を蹴り飛ばした。

「いてぇ! 何も蹴るこたぁねだろ!」

 オリバは、はぁ、とため息をついている。
 ゼムドがギルドマスターに尋ねる。

「グリフォンはお前たちにとっては、都合のいい面もあったのではないか?」

 ギルドマスターが答える。
「確かに、グリフォンのおかげで人が上位の獣族や中位以上の魔族に襲われることはなくなったな。一撃で全滅ってことないのは事実ではあるが、それでも負担がそれなりに大きいんだよ。献上するものはいくつもあるが、酒だけでも国家予算の一〇分の一近く必要だ。税として庶民の生活に響いている。
 それに、それよりも問題は〝人柱〟だ。人族の〇・一%を毎年献上することになっていて、人・ドワーフ・エルフの人口割合に応じてそれぞれがそれなりの人数を差し出している。
 これが一番つらい。
 龍族が世界を統一する3000年前までは人族は世界各地にいたんだが、その頃だってもちろん人は他の種に襲われて死ぬことはあった。ただ、自分たちの手で同族を差し出すのはもっとつらい」

 ニコニコしていたギルドマスターだったが、話の最後になるにつれて顔が真面目になる。
 キリとオリバの顔も暗い。

 「何故辛いのだ? お前たち種族が滅ばないようグリフォンは警護しているのだろう?」

 「何故って、おまえさん、そんなことも分からないのか? 仲間が死ぬんだぞ? 嫌だろ?」

 自分にはよく分からない。
 魔族は生を受けて、しばらくしたらすぐに同族を殺して食べるようになるので、同族が死ぬのが辛いというのが何を意味するのか分からない。いつも一緒にいるあいつらが死んでもしょうがないとは感じるだろうが、辛くはないだろう。やはり、もう少し人の価値観を理解する必要があるか。ここでもまた、昨夜考えていたことと同じ結論に至る。

「お前たちに中央で指示を与えている者に会わせろ」

 キリとオリバが驚いたような顔をして、オリバが答えた。

「どのような理由から中央の者達にお会いしたいのでしょうか? 私たちでは何か不満なのでしょうか?」

「お前たちは中央からの指示だろうが、俺に対して全ての情報を開示しようとしないな。それでは俺は知りたいことを知れない。直に中央の者に会って、俺が知りたい情報を出させる。オリバ、貴様はポケットに何かの通信機器を入れているな。それを今ここで出せ、俺が中央の者と話をする」

 オリバはしぶしぶポケットから小さい板状のものを取り出した。

 「これは位置情報を発信する装置です。ゼムド様がどの辺の位置にいるか、中央の者は大体これで把握しております。また、中央の者とは通信板で連絡を取ることになります」

 「では、中央と繋がっているその通信板を出せ」

 キリは自分の通信板マジックフォンをポケットから取り出した。
 通信板とは七×一〇センチメートルくらいの厚さが殆どない板で、通信・画像撮影機能等が搭載された透明な板とのこであった。

 キリはこれを起動させて、話し始めた。

「キエティ様いらっしゃいますか? キリです。ゼムド様がお話をしたいそうです」

 そう言ってゼムドに通信板を渡す。

「初めまして、キエティと申します。この度は……」

 キエティからの通信がそう伝えられた瞬間、ゼムドは立ち上がった。

 ギルドマスター、キリ、オリバがギョッとしてどうするのかと見ていると、ゼムドは窓を開け、そこから物凄い速度で飛んで行ってしまった。

********************

 キエティが通信板に話しかけていると、急に通信板の音声・映像が乱れた。
 一瞬、向こうで何かあったのだろうか、と思ったが、次の瞬間、何かがこちらへ向かって飛んでくるのが視界に入った。
 物凄い速度で何かがこの建物へ突っ込んできたので、キエティは思わず魔力で建物を覆ってしまった。しかし、その〝何か〟は建物にぶつかることはなく急激に止まった。その際の衝撃波が周辺に音となってこだまする。

「おい、魔力を解いて窓を開けよ」

 目の前にいる魔族はそう言った。
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