最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第30話 魔族と一緒に街を歩く その5

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 今度は違う区画に連れていかれた。
 五百平方メートルくらいある場所でとても広い。その周囲は部外者が入れないように策がしてある。
 管理者がゼムドに剣を渡しながら説明を始めた。

「現在開発段階のMRゲームで、マルチプレイ用なんですが、それ以外にも開発目的があります。
 よりリアリティを追求するために、モンスターに剣が触れた際に、疑似的に反力を再現したいのです。ただ、ここの開発がうまく進んでおりません。
 先ほどあなたが指摘された通り、剣の強度が私共としても問題なのです。強度を上げることはできるのですが、どうしても重量が増えてしまいます。ですから、今あなたに渡した剣は試作段階のものでまだ重さがかなりあります。先ほどと違って、モンスターに攻撃が当たる度に、手ごたえを感じることはできるのですが、その重量は大丈夫でしょうか?」

 それを聞いてゼムドが一度素振りをして答える。

「問題ない。先ほどと大して重さは変わらないが、確かに強度はありそうだ。より早く動けそうだ」

 管理者はここでもまた驚いた表情をしている。

「ではゲームを開始させていただきます。中にお入りください」

 ゼムドは剣を一本持って中に入っていく。
 策の周囲には既に人だかりが出来ていた。先ほどゼムドがパーフェクトクリアしたのが話題になったのであろう。
 観客たちはゼムドを動画や写真で記録しているようだ。

 ゼムドの前に大きいモンスターが現れた。
 長さは五メートル程だろうか。虎のような形をしているが、背中に二本の羽も生えている。

〝ゲットレディ、アタック!!〟

 再びゲームが開始される。
 瞬時に、ゼムドが一気に距離を詰めて虎の一本の羽を切った。しかし、ダメージ表示が出るだけで、羽は切り落とされない。
 しかし、モンスターは怯むことなくゼムドに片腕で攻撃しようとする。
 次にゼムドは高速で移動して、反対側の羽を切った。同じようにダメージの数字が出るだけだった。
 しかし、ここでゼムドはフェンシングの様に剣を水平にして、高速の多段攻撃を繰り出した。
 一瞬でコンボカウンターが〝14〟の数字を示した。それと同時に羽が消え、モンスターが苦しそうに一度だけのたうち回った。
 ゼムドはその瞬間に移動して、残りの羽も同様に、多段に〝14〟回攻撃して羽を切り落とした。
 虎はもう一度苦しむ。しかし、ここでゼムドが本体の首を切り落とそうとしたが、ダメージが入らない。

 ゲームではこういう風に一時的にダメージが入らなくなる時がある。
 ゲームバランスの問題でこういう構造になっているのだろう。
 ゼムドはダメージが通らないのを確認すると、一瞬でその場から離れて距離を取った。
 ゼムドはゲームをやったことはないはずだが、あんな動きが瞬間にできるのは、実戦であのように戦ってきたからだろう。羽が生えた敵ならば、まず羽を落として、動ける範囲を狭めるのが賢い。首を狙ってダメージを与えて、致命傷にならず上空へ逃げられると面倒なはずだ。

 モンスターが首を左右に振ってから、ゼムドを見据える。
 モンスターが思いっきり息を吸い込み、口から何かを吐き出そうする動きを見せる。
 ゼムドは動かない。
 モンスターの口から火の玉が吐き出された。ただ、遅い。人用に作っているからだろう。
 ゼムドは次の瞬間、モンスターの首元へ向かって、一瞬で多段攻撃を繰り返す。
 コンボカウンターが〝20〟を示した段階で、モンスターは尻尾を振り回しながらその場で高速で回転した。

 キエティは、〝初見殺し〟だと思った。ゲームの場合、ある程度パターンを知っていないと、対処できないケースがある。これはそうだ。
 モンスターは1体だから、マルチプレイならモンスターを囲んで叩けばいいはずだが、それでは面白くない。だから、ある一定のダメージを与えたところで、モンスターは周囲一帯を攻撃するように作られているのだろう。
 しかし、ゼムドはこの攻撃をまたも一瞬で避けた。当然だろうと思う。パターンを知っていれば人でも避けられるように作っているはずで、ゼムドが避けきれないはずはない。

 そこでゼムドが急にこっちに向かって喋りかけてきた。
「おい、1体ではつまらない。出せるだけモンスターを出せ」
 管理者はそれを聞いて、慌てて傍にいたこのゲームの開発員に対して指示をしている。
 もっとモンスターを出せるのだろうか?

 そこからが凄かった。
 一つ目の巨人やオーク、蛇のような化け物が五百平方メートルの区間に大量に出現したが、ゼムドはそれら全ての相手をしながら、新しく出てくるのモンスターの動きを把握し、ノーダメージで戦い続けた。
 時間は開始から既に一時間を過ぎている。
 コンボカウンターは〝999〟でカンストしていて、それ以上はもう数字が表示されなくなっていた。
 ゼムドは高速で動き続け剣を振っているが、それでも無表情で息を切らしているわけでもない。しかも片腕はポケットに手を突っ込んだままだ。
 観客たちも最初は声を上げていたが、三十分を過ぎた当たりから何も言わなくなった。誰もが息を飲むほどの動きを、ゼムドは永遠と繰り返していた。

 そして、ここで急にモンスターが全て消えてしまった。
 ゼムドは地面に降り立つ。そして、管理者がゼムドに近づいていく。

「いやー、凄いですね。お見事でした。私は見ているだけで感動してしまいました」

 そう言って、管理者がゼムドに拍手した。
 すると、それに合わせて見ていた観客たちも手を叩き始めた。
 皆の拍手の音が辺りを包んでいく。
 キエティもゼムドに近づいて行って、話しかけてみた。

「どうでした? 面白かったですか?」

「俺が人族の国に来てからでは一番面白いな。もし、実戦で戦うように作られていればもっと面白いだろう。ダメージが通らない時間があるのが面白くない」

 ゼムドはそう言って少し笑った。
 キエティはゼムドが笑うのを初めて見たので、内心かなり驚いてしまった。
 ゼムドって笑うことがあるんだ……

 この後、管理者はゼムドにお礼と〝また来てくれ〟と歓迎の言葉を伝えていた。
 それほどにゼムドのプレイは人を魅了するものだった。
 おそらく今日ゼムドがプレイした様子は、そのうちこの施設のHPに動画として上がるだろう。宣伝効果としては抜群に違いない。

 ゼムドとキエティが施設を出ようとすると、一人の少年が近づいてきた。
 中学生くらいだろうか?

「すみません。その魔族の方に話があるのですが」

 ゼムドが少年を見て聞き返した。

「何だ?」

「あなたがグリフォンを倒したというのは本当ですか?」

 キエティはこの瞬間〝マズイ〟と思った。
 情報規制を掛けていたが、おそらくキウェーン街の住民等経由で情報が漏れたのだろう。
 ゼムドから遠ざけねば。

「その話については――」

「ああ、倒したな。数体だったが」

 キエティはゼムドの顔を見た。
 この少年にゼムドと会話させたくないが、そういう訳にもいかなそうだ。

「今のゲームの動きを見ていても、あなたが強いのは分かりました。グリフォンからこの国を守ってもらえませんか?」

「どういうことだ?」

「私の母は私が幼少期にグリフォンに供物として捧げられています。もしあなたが強いなら、この国でそういうことが今後生じないようにしてもらえませんか?」

「お前たちはグリフォンに一定の人柱を捧げることで、他種族から守ってもらっていたのだろう? お前の母は死んだようだが、お前は生きているではないか? 何か問題なのか?」

 ゼムドがそう言うと少年の表情が暗くなった。
 そして、一言だけ発した。

「そうですか」

 そう言って、少年はその場から去っていった。

 ゼムドがキエティに話しかけてきた。

「あいつは何を言っている?」

 キエティは、ここが〝勝負どころか〟と思って話をすることにした。

「あれが人の心なのです。私はゼムド様とこの数日過ごしていますが、私の目から見てあなたは優しいのか優しくないのかよく分かりません。ゼムド様は人の心が理解できていますか?」

「俺は人の心などに興味はないな。目の前にあるものが面白いかどうか、そんなところか。
 元々、この人族の国には暇つぶしで来ただけだ。だが、まぁ、俺がいるうちは少なくともグリフォンに何かはさせないだろう」

 そう言って、ゼムドは興味無さそうに歩いて行ってしまう。

 キエティは〝やっぱりダメか〟と思った。
 やはりゼムドに何か期待してもダメなのかもしれない……。

 この日はここで見学は終了になった。
 室内施設にいたから気づかなかったが、日は完全に落ちて屋外は既に暗くなっていた。

 そして、それからの数日間もキエティはゼムドを色々な場所へ連れて行き、ゼムドを見学させているのか、それとも一緒に遊んでいるのか、よく分からない日々に振り回されることになってしまう。
 同時に、キエティもそれなりにその時間を楽しんでしまうのだが、これが後に問題となってしまうのであった。
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