最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第二章

第82話 病室にて

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 キエティはエスカに襲撃されてから翌日に目が覚めた。

 病室だった。横を見ると、ゼムドがいた。ゼムドがこちらを見て話しかけてきた。

「意識が戻ったか。よかった」

 キエティは胸の辺りに痛みを感じた。ただ、それほど痛い感じはしない。

「キエティ、これまでの経緯を説明する。お前はあの時何があったか覚えているか?」

「いえ、全然、覚えていません。最後にケリド君とシヴィさんと一緒に立ち上がったところから先の記憶がありません」

「そうか。では全てを説明する」

 そう言って、ゼムドは話を始めた。

 キエティからすると、よく分からないが、とにかくエスカが、犯人であることは間違いないようだ。
 
 本人のマンションから、複数の薬品が出てきて、これらが大学から盗まれたものと判明した。この手の物質の場合、若干だが、不純物が含まれることがあるが、その不純物の割合とレモンティー内部の不純物の割合が一致した。犯人はエスカで間違いないとのことだった。

 現在、エスカは龍種の下で管理されているようだ。
 エスカは下位種まで力が落ちたが、ただ、普通の下位種とは異なるという事だった。普通の下位種は攻撃的だが、エスカはそうでないらしい。腹をすかせた時だけは、攻撃的になるが、それ以外は無表情で何もしないとのことだった。

 龍族は、魔族の高位種が下位種まで落ちたという現象に興味を持ったらしくて、その研究がしたいとのことだった。ゼムドの提案で、エスカ自体を長期的にまともな倫理観を植え付けることを前提に、龍族にエスカを託したらしい。

 キエティはあの場で、大量の出血をしていて、心臓にも損傷があった。ゼムドの重力魔法で血液は循環していたが、病院で手術をするとなると、流石に手の施しようがないレベルであったそうだ。
 しかし、以前、ワダマルさんが回復の魔石を手に入れていたらしくて、その魔石を置いてある場所をケリド君が思い出したらしい。
 ゼムド達が住んでいたアジトは一度完全に壊れてしまっていたが、ケリド君が地下に保存してあったことで、回復の魔石は無事だった。そして、キエティにそれを使ってくれたそうだ。

 ただ、今でも若干、胸の辺りが痛い。

 これはどうしてだろう? 回復の魔石で治ったはずではないのだろうか?

 ゼムドが頭を下げた。

「済まなかった。まさか、お前をこんな目に合わせてしまうとは思わなかった」

 ゼムドは頭を上げない。

「いえ、別にいいですよ。結果的に助かったわけですし。それに私がゼムド様をあの場に近づけなかったのも今思うと問題でした……」

 ゼムドが顔を上げた。

「率直に聞く。俺達は人族の国を離れた方が良いと思うか?」

 少し考えてみた。

「いえ、その必要は無いと思います。おそらくですが、エスカさん自体が異常であった話だと思います。仮にですが、エスカさんが人族であったとしても、私を襲うなら襲うでしょう。魔族の問題というよりは本人の問題という側面が大きいと思います」

「おまえは、俺達が嫌ではないのか?」

「私はおそらく、あなた方魔族については人族の中でも一番理解があると思いますが、それぞれの人格について現在、問題があるとは思えません。ただ、今後、人族の国へ魔族を入れるなら、その人の過去を調査すべきだとは思いますが」

「その点はそうだった。反省している。エスカがまさか、俺に近づく女を殺していたとは思わなかった」

「……その点については残念です。ただ、もう現在、それについて悔やんでも意味はないでしょう。前を見た方が良いと思います」

 そう言ってから、言葉を区切って、笑顔を作ってみる。

「結果的に、シヴィさんやケリド君、ワダマルさんの回復の魔石で私は助けてもらったわけですし、魔族の方にされたことと、してもらったことは同じだと思います。別にそれでいいんじゃないでしょうか?」

 ゼムドも少し笑う。

「お前にそう言ってもらえると助かる。こっちとしても流石に少し参っていた」

「シヴィさんとケリド君は大丈夫でしょうか?」

「ああ、問題ない。どうせだからとシヴィとケリドも、キエティに回復魔石を使う時、その場にいて、その光を浴びた。あの魔石は魔力を回復させることはないが、外傷についてはあっという間に元通りにできる。ケリドは、二年前の傷まで治っている」

 少し、時間が経つ。

 お互いに無言だ。

「ゼムド様、お願いがあります」

「お前の願いはいくつも聞き入れたからだダメだ、と言いたいところだが、そういう訳にはいかないな。いいだろう、お前の望みを一つ叶えてやろう」

 キエティはこれを聞いてアラジンのランプの話を思い出す。
 ゼムドは残り何個の願いを叶えてくれるのだろうか?
 目の前の魔人もまるで空想上の生き物のようだ。

 キエティは意を決して話し掛けてみる。

「私にキスしてください」

 ゼムドはそれを聞いて驚いた顔をした。

「それはいいのか?」

「ええ、構いません。ただ、この意味は分かりますか?」

 ゼムドは苦笑いをしている。

「ああ、分かる。今なら、な。一回目は分からなかった。あの時、お前が怒った理由も今なら分かる」

 ゼムドがそう言う。

「では、お願いします」

 ゼムドが近づいてくるのが見える。

 キエティは目を閉じようかと思った。

***********

 しかし、ここで、ゼムドが何かに気づいたような表情をした。

「キエティの研究室の連中が来たようだ。俺はここで退散しよう」

「えっ? 別にいいですよ。ここに居てもらっても……」

「いや、部外者は出て行く。まぁ、また後で来るさ。お前達だけで話をした方がいいだろう」

 そう言って、ゼムドは窓を開けて外へ出て、飛んで行ってしまった。

 しばらくして、いつもの研究室メンバーが部屋に入ってきた。
 女子学生が騒ぐ。

「私は先生が心配で心配で、食事が喉に通りませんでしたよ」

 女子学生はそう言いながら目の前で両手を握って、神に祈るようなポーズをしている。

「あ、そう」

 キエティは適当に答える。
 この子はそういう子ではない。

「ちょっと、先生、どうしたんですか? ここで何かキレのあるツッコミを入れてくれないと、私、逆につらいんですけど…」

「いや、キエティ教授はまだ病み上がりなんですから、そんなことに期待してはダメですよ」

 男の助教授が苦笑いしている。
 その後、来てくれた皆に一通り感謝の言葉を述べて、それから私がいない間に研究や教授会がどうなったかの話を聞く。
 色々聞いてみたが、とりあえず問題はなさそうだ。
 後は、体力が回復すればすぐに退院して、仕事をしなければいけない。
 頭を切り替えねばいけない。

 皆はキエティが本調子でないことに気づいてくれたのだろう。
 必要最低限の話だけをして、すぐに部屋を出て行った。
 彼らが部屋を出て行ってから感じるが、やはり、体の調子は良くない感じだ。
 窓の外を見る。
 
 エスカさんだけが今回は不幸な結果になってしまったが、ただ、色々な人のおかげで自分は命が助かったと思う。
 回復したらそれぞれの人にお礼に行かねばならないだろう。
 ゼムドやケリド君がシヴィさんを疑っていたようだが、結果的に完全に私たちの味方だと判明した。
 シヴィさん、ケリド君、ワダマルさんにも後でお礼を言おう。

 ……自分は幸運だ。

 あのグリフォンの時も魔族に命を助けてもらい、今回もまた魔族達に命を助けてもらった。
 研究も大事だが、自分は何か人族と魔族を繋ぐこと、魔族達が世界に馴染めるようなことを手助けできればいいな、と思う。
 そういうことをしてみたい。

 彼らからすると、私の寿命はあっという間だろうが、私にしかできないこともある気がする。
 彼らを不幸にはしたくない。
 彼らは不幸だ。老衰で死ぬことが出来ないなんて。
 彼らにもきちんとしたコミュニティができればそのようなことは無くなるのではないか?
 その手助けは人族ならできそうな気がする。

 それにしても、と思う。

 何か、さっきから体の調子がおかしい。

 凄くだるい。

 まだ本調子でないからなんだろうが、すごく眠い。

 できれば、退院後の研究について考えなきゃいけないんだけど……

 ……

 ゼムド……

 ……

 ……

 そう言えば、また来るって言ってな。

 ……

 早く来ればいいのに……

 ……

 ……

 ああ、ダメだ眠い……

 ……

 ……

 ……少しだけ眠ろう……


 キティはこの後、眠りに付くことになるが、いつも通り目を覚ますことはなかった。
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