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第二章
第84話 簡単だ
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アザドムドがいつもの様に部屋でゲームをしていると、誰かが部屋に入ってきた。
無視してゲームを続けることにした。
しかし、そいつはこちらへ話しかけてきた。
「お前のおかげでキエティは峠を越えた。意識は回復したし、あとは体重が戻れば退院できるだろう。人族でも治療は可能であったみたいだが、グリフォンの方が短時間で解毒剤を生成することができた。キエティに余計な負担を掛けずに済んだ。お前のおかげだ。ありがとう」
アザドムドは無視してゲームを続ける。
「キエティからお前に言伝を…」
「それ以上は黙れ。俺は娘を助けたかったわけじゃない。気まぐれだ」
そう言って、ゼムドの方はもちろん見ない。
ただ、ゼムドは笑っている。
「とにかく俺はお前に感謝している。何か俺にして欲しいことがあったら俺に言ってくれ。じゃあな」
そう言って、ゼムドは部屋を出ていこうとする。
が、ここでアザドムドはゼムドに質問をした。
「おい、待て。ゼムド、おまえ今は楽しいか?」
ゼムドは止まる。
そしてアザドムドの質問に答えた。
「楽しいな。お前が3000年前に俺たちを纏め、そして過ごした日々も、今思うと面白かったが、ただ今はもっと面白い。お前達だけでなくて、人族、龍、そして他種族とつながっていくのが面白い。
今回の件ではエスカは残念な結果になった。しかし、時間は掛かるだろうが、やがてまた自我が芽生えるだろう。結果的には問題はないと言える」
アザドムドはここで、ゲームを止めゼムドへ振り返った。
「おまえ、もう闘う気はないのか?」
「いや、今も闘っている。ただ、闘い方の種類が変化しているだけだ。ただ、別に殴り合いをしたくなくなったわけじゃない。強い奴がいれば闘いたい。お前がやりたいならいつでも相手はしてやる」
「ならいい。もうゲームの邪魔だ。出ていけ」
ゼムドはまた笑っている。
前は、ゼムドはこんなに笑う奴じゃなかったと思う。
ゼムドは出て行った。
おそらくあの娘に会いに行ったのだろう。
まぁ、いい。
俺の〝王〟が楽しいなら、別にいい。
悪くはない。
そう思ってゲームを続けた。
**********************
キエティの病室に、ゼムドとシヴィがいた。ゼムドがこれまでの状況について説明していく。
「アザドムドはそんな感じだった。まぁ、お前の礼については話していないが」
「そうですか。でも何かお礼がしたいところですね」
「いや、いい。あいつは多分、お前に礼をされたら不機嫌になるだろう。多分、俺があいつの相手をしてやるのが一番いい」
シヴィが不思議そうな顔をして呟いた。
「でも、あのアザドムドさんが動くとは思いませんでした。彼を少し見直しました」
「だろう? あいつは大した奴だ。俺は信頼している」
ゼムドは笑っている。
「キエティ、俺はここで退散する。シヴィがお前に話があるらしい。どうやら俺は邪魔の様でな。俺は帰る。またな」
そう言って、ゼムドは部屋からあっという間に出て行ってしまった。
シヴィと二人で部屋に取り残された。
「お話とは何でしょうか?」
「一応、私の考えを話しておこうかと思いまして」
シヴィは澄ました顔をしている。なんとなく思い当たる節があるので先にこちらから話してみた。
「もしかして、シヴィさんが猫を被っていることでしょうか?」
「あら? 分かっていたのですか?」
「ええ。あの記者会見やその後の芸能活動を見ていて確信しました。ゼムド様は気づいていませんが、多分、シヴィさんは相当〝したたか〟だろう、と」
シヴィは笑ってこう返事をしてきた。
「流石に女性同士だと分かるようですね。でもゼムド様は全く気付いていませんよ」
自分も思わず笑ってしまった。
「ええ、そうだと思います。あの人は全く女性に免疫が無いので、多分、簡単に騙されるでしょうね。今回の事件にしても、多分、犯人が男性で合理的な行動だけ取る人なら簡単に捕まえられたのでしょうが、ゼムド様では女性の心は分からなかったと思います」
「そうでしょうね」
そう言って、シヴィは姿勢を正した。
「では、私も一応、自分の考えを述べさせていただきます。私は今後もゼムド様を諦めるつもりはありません。ただ、今回だけは例外としましょう。貴方に当面はゼムド様を譲ることにします」
「いいのでしょうか?」
「ええ、そもそも私とあなた達とでは寿命が違いますから。私としては五百年程度の時間はあっという間です。その間はあなたにゼムド様を預けましょう。ただ、その後は私の自由にさせてもらいますが」
「私が死んだ後も、私に情があるかもしれませんよ?」
「それは、私があなたに勝てないという意味でしょうか?」
シヴィは笑っている。かなり可愛い。多分、これを見て落とされない男はいないだろう。
シヴィは立ち上がった。
「それでは私もこの辺で失礼します。体重が落ちているようですが、何か食べたいものがあったら、言ってくださいね。私なりにできることはしましょう」
「ありがとうございます。この度は本当にありがとうございました。シヴィさんが護ってくれなかったら、どうなっていたか分かりません」
「こちらとしても、結果的にゼムド様の疑念を晴らすことが出来たので僥倖でした。気に掛けるようなことではありませんね」
そういって、シヴィは出て行ってしまった。
窓から、空を見た。
多分、仕事が溜まっているな~。
そろそろ、頭を切り替えるか!!
そう思った。
*******************
ゼムドはエスカの部屋を訪れていた。
エスカの魔道板を起動してみる。
どうもBL小説にハマっているというのは嘘だったようだ。
エスカが使っていた魔道板でネット上の閲覧履歴を検索してみたが、BL小説にハマっていた形跡はない。
それより、推理小説のようなものを大量に読んでいたようだ。それにヒントを得て、毒物でキエティを殺害しようとしたのか。
あの部屋にペットボトルが散乱していたのもフェイクだ。
あの後ケリドに、部屋には絶対入るな、とエスカから通達があったらしいが、小説にハマったフリをして、ケリドの警戒を解くのが目的だったのだろう。
女性の部屋に入るのはおかしいとかどうとか言ってきたらしいが、本当は、俺の張った結界から抜け出て、大学でキエティの様子を観察していたはずだ。
そして、男子学生が定期的にキエティの飲み物を買っていることに気づいた。
最終的に男子学生に罪を着せて、キエティを殺そうとした……。
正直、エスカを信用しすぎた。
いや、数千年も一緒にいた仲間を疑いたくない面があった。
キエティには助教授を疑うような発言をしたが、正直、頭の中ではエスカの可能性が一番高いのは分かっていた。
ただ、それを認めたくない自分があった。
ベゼルが言っていた〝以前より自分は弱くなっている〟というのは事実だろう。
だが、今後はミスをするわけにはいかない。
考え方を変える必要がある。
アザドムドがエスカの魔核を引き抜いてくれたのには驚いた、いや、助かったと言うべきか。
あの場で、エスカを処分しようかどうか迷っていた。
アザドムドは、俺が悩んでいることに気づいたのだろう。
だから、率先して自分でエスカの胸を貫いた。
あの場で、アザドムドがエスカからの胸から手をすぐに引き抜かなかったのは、エスカから一発殴られるつもりだったのだろう。
ただ、エスカはアザドムドを殴らなかった。
勝てないと思ったのか、全てを諦めたのか今となってはよく分からない。
魔道板の閲覧履歴を眺めていく。
意外だったのは、子育てに関するページが大量に閲覧されていることだった。
魔族の上位種は子育てをしない。
こんなページを見ても意味はないだろう。
エスカは何を考えて、こんなページを見ていたのだろうか?
部屋に残っていた家具、そして、大量の飲料水を火魔法で処分していく。
もう、置いておく意味もないからだ。
最後に残ったのは魔道板だ。
どうしようかと思ったが、これも処分することにした。
エスカが死んだなら、これを残して置いたかもしれないが、別に会おうと思えばいつでも会える。意識はないが。
まぁ、良いかと思って、魔道板も処分した。
エスカの部屋の窓を開けて、外を見た。
いい天気だ。
以前の自分なら、天気のことなど考えたはずもない。
自分は、以前と変わっている。
下の階から、音が聞こえてくる。ミホが大音量でゲームをやっているようだ。
あいつはいろんな意味で、会った時から変わらない。
自分が面白いと思ったことしかやらない。
アザドムドは、ゲームにハマっているようだが、おそらく、あいつは辞書を少しずつ読み込んでいるはずだ。あいつの性格だと、読んだとしても正直には言わないだろう。
多分、こちらも気付いていないフリをするのがいいはずだ。
ワダマルは相変わらずだ。
俺達の中では一番長く生きていて、魔族にしては、何故か人族に近い感覚を絶えず持っていたように思う。あれは不思議だ。人族と関りがあったことはないはずだが、どうしてあれほど、人族について理解があるような行動を取れるのだろう?
最後にシヴィがエスカを殺そうとした時の様子を聞いたが、あれは魔族にできる判断ではない。ワダマルには何か別の秘密があるのかもしれない。
シヴィはどうも変わっている。というか、あいつは俺に対して何か隠し事があるような気がする。
あいつが記者会見で変なことを喋ったせいで、俺の方にも記者が寄ってくるようになった。面倒なので結界を張って、近寄れないようにしているが、どうも俺は女たらしのように報道されているようだ。誤解だ。
ケリドはあの後、俺に謝罪をしてきたが、別に怒ってはいない。
ケリドの判断力は、俺達の中でもトップクラスだろう。あいつがミスをするとすれば、俺達全員、誰でもミスをするはずだ。それを責めても仕方がない。
ケリドがあれほど謝って来るとは思わなかったので驚いてしまった。あとで、何かに付き合ってやってもいいか。
最後にキエティの顔が思い浮かぶ。
最初に人族の国に来て、その後一番、関りがあった人族はキエティだ。
もし、キエティが人族の代表でなかったら、俺はどうなっていただろう?
ここで、カルベルトの顔が思い浮かんだ。
正直、最初にカルベルトが出て来て、俺と会話していれば、もっと人族に親しみを持ったかもしれない。
キエティ達は俺を警戒して、俺を隔離するような行動を取ったが、カルベルトなら、多分、俺にもっとうまく接していたような気がする。なんとなくだが、そんな気がした。
キエティか。
自分の仕事面では頭はキレるが、喜怒哀楽が大きく、単純だ。
あれはちょろい。
そんなことを思うが、もしかしたらキエティも自分のことをそう思っているのかもしれないと思う。
俺はちょろいのだろうか?
**************
くだらないことを考えていると、魔道板が揺れる。ファルデザートからメールが来た。
ファルデザートはメル友だ。
ファルデザートは話し相手が欲しいらしい。
最近は、しょうもない内容のメールを大量に送ってくる。
魔道板を開いてみると、今日食べる予定の料理の画像だ。
何かの肉と魔石を混ぜた料理の様だ。
どうでもいい。
そもそも俺達は魔素さえ吸っていれば、食事を摂る必要はない。
少し前には、龍族の間で不倫があって、その仲裁を自分がやらされたとかどうとかの愚痴メールを送ってきた。
俺にそんな話をしてどうする……。
全世界に向けて、メールの内容を公開してやろうかと思う。
魔道板を閉じた。
空を見上げる。
悪くない日々だ。
これからやらねばいけないことは多いが、ただ、あいつらが居てくれれば、成し遂げられるだろう。
簡単だ。
そう思って、青い空へ向かって飛んで行った。
********************
作者からになります。
今日から、この話の中に出てきていたベゼルを使った外伝を、別作品として投稿しています。
最終的にこちらの本編のキャラクター達と合流する予定なので、興味のある方はそちらもご覧ください。
〝異世界で刀を抜いて旅をする ~転生すると剣豪になっていたが、自分の中に変な奴がいた~ 〟
作者のページからいけると思います。宜しくお願いします。
無視してゲームを続けることにした。
しかし、そいつはこちらへ話しかけてきた。
「お前のおかげでキエティは峠を越えた。意識は回復したし、あとは体重が戻れば退院できるだろう。人族でも治療は可能であったみたいだが、グリフォンの方が短時間で解毒剤を生成することができた。キエティに余計な負担を掛けずに済んだ。お前のおかげだ。ありがとう」
アザドムドは無視してゲームを続ける。
「キエティからお前に言伝を…」
「それ以上は黙れ。俺は娘を助けたかったわけじゃない。気まぐれだ」
そう言って、ゼムドの方はもちろん見ない。
ただ、ゼムドは笑っている。
「とにかく俺はお前に感謝している。何か俺にして欲しいことがあったら俺に言ってくれ。じゃあな」
そう言って、ゼムドは部屋を出ていこうとする。
が、ここでアザドムドはゼムドに質問をした。
「おい、待て。ゼムド、おまえ今は楽しいか?」
ゼムドは止まる。
そしてアザドムドの質問に答えた。
「楽しいな。お前が3000年前に俺たちを纏め、そして過ごした日々も、今思うと面白かったが、ただ今はもっと面白い。お前達だけでなくて、人族、龍、そして他種族とつながっていくのが面白い。
今回の件ではエスカは残念な結果になった。しかし、時間は掛かるだろうが、やがてまた自我が芽生えるだろう。結果的には問題はないと言える」
アザドムドはここで、ゲームを止めゼムドへ振り返った。
「おまえ、もう闘う気はないのか?」
「いや、今も闘っている。ただ、闘い方の種類が変化しているだけだ。ただ、別に殴り合いをしたくなくなったわけじゃない。強い奴がいれば闘いたい。お前がやりたいならいつでも相手はしてやる」
「ならいい。もうゲームの邪魔だ。出ていけ」
ゼムドはまた笑っている。
前は、ゼムドはこんなに笑う奴じゃなかったと思う。
ゼムドは出て行った。
おそらくあの娘に会いに行ったのだろう。
まぁ、いい。
俺の〝王〟が楽しいなら、別にいい。
悪くはない。
そう思ってゲームを続けた。
**********************
キエティの病室に、ゼムドとシヴィがいた。ゼムドがこれまでの状況について説明していく。
「アザドムドはそんな感じだった。まぁ、お前の礼については話していないが」
「そうですか。でも何かお礼がしたいところですね」
「いや、いい。あいつは多分、お前に礼をされたら不機嫌になるだろう。多分、俺があいつの相手をしてやるのが一番いい」
シヴィが不思議そうな顔をして呟いた。
「でも、あのアザドムドさんが動くとは思いませんでした。彼を少し見直しました」
「だろう? あいつは大した奴だ。俺は信頼している」
ゼムドは笑っている。
「キエティ、俺はここで退散する。シヴィがお前に話があるらしい。どうやら俺は邪魔の様でな。俺は帰る。またな」
そう言って、ゼムドは部屋からあっという間に出て行ってしまった。
シヴィと二人で部屋に取り残された。
「お話とは何でしょうか?」
「一応、私の考えを話しておこうかと思いまして」
シヴィは澄ました顔をしている。なんとなく思い当たる節があるので先にこちらから話してみた。
「もしかして、シヴィさんが猫を被っていることでしょうか?」
「あら? 分かっていたのですか?」
「ええ。あの記者会見やその後の芸能活動を見ていて確信しました。ゼムド様は気づいていませんが、多分、シヴィさんは相当〝したたか〟だろう、と」
シヴィは笑ってこう返事をしてきた。
「流石に女性同士だと分かるようですね。でもゼムド様は全く気付いていませんよ」
自分も思わず笑ってしまった。
「ええ、そうだと思います。あの人は全く女性に免疫が無いので、多分、簡単に騙されるでしょうね。今回の事件にしても、多分、犯人が男性で合理的な行動だけ取る人なら簡単に捕まえられたのでしょうが、ゼムド様では女性の心は分からなかったと思います」
「そうでしょうね」
そう言って、シヴィは姿勢を正した。
「では、私も一応、自分の考えを述べさせていただきます。私は今後もゼムド様を諦めるつもりはありません。ただ、今回だけは例外としましょう。貴方に当面はゼムド様を譲ることにします」
「いいのでしょうか?」
「ええ、そもそも私とあなた達とでは寿命が違いますから。私としては五百年程度の時間はあっという間です。その間はあなたにゼムド様を預けましょう。ただ、その後は私の自由にさせてもらいますが」
「私が死んだ後も、私に情があるかもしれませんよ?」
「それは、私があなたに勝てないという意味でしょうか?」
シヴィは笑っている。かなり可愛い。多分、これを見て落とされない男はいないだろう。
シヴィは立ち上がった。
「それでは私もこの辺で失礼します。体重が落ちているようですが、何か食べたいものがあったら、言ってくださいね。私なりにできることはしましょう」
「ありがとうございます。この度は本当にありがとうございました。シヴィさんが護ってくれなかったら、どうなっていたか分かりません」
「こちらとしても、結果的にゼムド様の疑念を晴らすことが出来たので僥倖でした。気に掛けるようなことではありませんね」
そういって、シヴィは出て行ってしまった。
窓から、空を見た。
多分、仕事が溜まっているな~。
そろそろ、頭を切り替えるか!!
そう思った。
*******************
ゼムドはエスカの部屋を訪れていた。
エスカの魔道板を起動してみる。
どうもBL小説にハマっているというのは嘘だったようだ。
エスカが使っていた魔道板でネット上の閲覧履歴を検索してみたが、BL小説にハマっていた形跡はない。
それより、推理小説のようなものを大量に読んでいたようだ。それにヒントを得て、毒物でキエティを殺害しようとしたのか。
あの部屋にペットボトルが散乱していたのもフェイクだ。
あの後ケリドに、部屋には絶対入るな、とエスカから通達があったらしいが、小説にハマったフリをして、ケリドの警戒を解くのが目的だったのだろう。
女性の部屋に入るのはおかしいとかどうとか言ってきたらしいが、本当は、俺の張った結界から抜け出て、大学でキエティの様子を観察していたはずだ。
そして、男子学生が定期的にキエティの飲み物を買っていることに気づいた。
最終的に男子学生に罪を着せて、キエティを殺そうとした……。
正直、エスカを信用しすぎた。
いや、数千年も一緒にいた仲間を疑いたくない面があった。
キエティには助教授を疑うような発言をしたが、正直、頭の中ではエスカの可能性が一番高いのは分かっていた。
ただ、それを認めたくない自分があった。
ベゼルが言っていた〝以前より自分は弱くなっている〟というのは事実だろう。
だが、今後はミスをするわけにはいかない。
考え方を変える必要がある。
アザドムドがエスカの魔核を引き抜いてくれたのには驚いた、いや、助かったと言うべきか。
あの場で、エスカを処分しようかどうか迷っていた。
アザドムドは、俺が悩んでいることに気づいたのだろう。
だから、率先して自分でエスカの胸を貫いた。
あの場で、アザドムドがエスカからの胸から手をすぐに引き抜かなかったのは、エスカから一発殴られるつもりだったのだろう。
ただ、エスカはアザドムドを殴らなかった。
勝てないと思ったのか、全てを諦めたのか今となってはよく分からない。
魔道板の閲覧履歴を眺めていく。
意外だったのは、子育てに関するページが大量に閲覧されていることだった。
魔族の上位種は子育てをしない。
こんなページを見ても意味はないだろう。
エスカは何を考えて、こんなページを見ていたのだろうか?
部屋に残っていた家具、そして、大量の飲料水を火魔法で処分していく。
もう、置いておく意味もないからだ。
最後に残ったのは魔道板だ。
どうしようかと思ったが、これも処分することにした。
エスカが死んだなら、これを残して置いたかもしれないが、別に会おうと思えばいつでも会える。意識はないが。
まぁ、良いかと思って、魔道板も処分した。
エスカの部屋の窓を開けて、外を見た。
いい天気だ。
以前の自分なら、天気のことなど考えたはずもない。
自分は、以前と変わっている。
下の階から、音が聞こえてくる。ミホが大音量でゲームをやっているようだ。
あいつはいろんな意味で、会った時から変わらない。
自分が面白いと思ったことしかやらない。
アザドムドは、ゲームにハマっているようだが、おそらく、あいつは辞書を少しずつ読み込んでいるはずだ。あいつの性格だと、読んだとしても正直には言わないだろう。
多分、こちらも気付いていないフリをするのがいいはずだ。
ワダマルは相変わらずだ。
俺達の中では一番長く生きていて、魔族にしては、何故か人族に近い感覚を絶えず持っていたように思う。あれは不思議だ。人族と関りがあったことはないはずだが、どうしてあれほど、人族について理解があるような行動を取れるのだろう?
最後にシヴィがエスカを殺そうとした時の様子を聞いたが、あれは魔族にできる判断ではない。ワダマルには何か別の秘密があるのかもしれない。
シヴィはどうも変わっている。というか、あいつは俺に対して何か隠し事があるような気がする。
あいつが記者会見で変なことを喋ったせいで、俺の方にも記者が寄ってくるようになった。面倒なので結界を張って、近寄れないようにしているが、どうも俺は女たらしのように報道されているようだ。誤解だ。
ケリドはあの後、俺に謝罪をしてきたが、別に怒ってはいない。
ケリドの判断力は、俺達の中でもトップクラスだろう。あいつがミスをするとすれば、俺達全員、誰でもミスをするはずだ。それを責めても仕方がない。
ケリドがあれほど謝って来るとは思わなかったので驚いてしまった。あとで、何かに付き合ってやってもいいか。
最後にキエティの顔が思い浮かぶ。
最初に人族の国に来て、その後一番、関りがあった人族はキエティだ。
もし、キエティが人族の代表でなかったら、俺はどうなっていただろう?
ここで、カルベルトの顔が思い浮かんだ。
正直、最初にカルベルトが出て来て、俺と会話していれば、もっと人族に親しみを持ったかもしれない。
キエティ達は俺を警戒して、俺を隔離するような行動を取ったが、カルベルトなら、多分、俺にもっとうまく接していたような気がする。なんとなくだが、そんな気がした。
キエティか。
自分の仕事面では頭はキレるが、喜怒哀楽が大きく、単純だ。
あれはちょろい。
そんなことを思うが、もしかしたらキエティも自分のことをそう思っているのかもしれないと思う。
俺はちょろいのだろうか?
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くだらないことを考えていると、魔道板が揺れる。ファルデザートからメールが来た。
ファルデザートはメル友だ。
ファルデザートは話し相手が欲しいらしい。
最近は、しょうもない内容のメールを大量に送ってくる。
魔道板を開いてみると、今日食べる予定の料理の画像だ。
何かの肉と魔石を混ぜた料理の様だ。
どうでもいい。
そもそも俺達は魔素さえ吸っていれば、食事を摂る必要はない。
少し前には、龍族の間で不倫があって、その仲裁を自分がやらされたとかどうとかの愚痴メールを送ってきた。
俺にそんな話をしてどうする……。
全世界に向けて、メールの内容を公開してやろうかと思う。
魔道板を閉じた。
空を見上げる。
悪くない日々だ。
これからやらねばいけないことは多いが、ただ、あいつらが居てくれれば、成し遂げられるだろう。
簡単だ。
そう思って、青い空へ向かって飛んで行った。
********************
作者からになります。
今日から、この話の中に出てきていたベゼルを使った外伝を、別作品として投稿しています。
最終的にこちらの本編のキャラクター達と合流する予定なので、興味のある方はそちらもご覧ください。
〝異世界で刀を抜いて旅をする ~転生すると剣豪になっていたが、自分の中に変な奴がいた~ 〟
作者のページからいけると思います。宜しくお願いします。
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魔族の視点での展開は面白いですね。
恋愛要素が出てきたところから、月並みな話になってきたのが残念です。
恋愛モノなのかファンタジーなのか、どっちつかずといったところでしょうか。
無理に更新せず、じっくりと独自路線に進まれることを期待しています。
私自信、恋愛物自体があまり好きじゃないんですが、ネット小説だとそういう要素を入れた方がいいのかと思ったんですね。
今思うと、この作品では恋愛要素をなしでやった方が良かったとは思っています。
あとは、この二章に関しては〝人の弱さ〟みたいなものを表現したかったので、恋愛要素を絡めてそれを表現しているのはあります。
三章では純粋にシリアスだけにする予定だったんですが、正直、続けるかどうか迷ってるところですね。。。
後は、今日から本編に出てきたキャラで外伝を別作品で書き始めているので、そっちの方を興味があれば見てもらえると嬉しいですね。
61話タイトル中見→中身
ありがとうございます!
修正しました!
その譬えはなんとも言えない感じで、笑ってしまいましたw
この主人公は二万年近く生きている設定なんですが、仮にスマホの設定レベルで、生涯初めての怒りを感じるなら笑うところですねw