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第4話 森を散策する
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変な世界に飛ばされて困っていたが、とりあえず話し相手がいることはいる。
歩きながらベゼルに話しかけてみることにする。
「あの、僕は今着物をきているのですが、これはどうしてでしょうか? 目が覚めた時はこんな着物を着ていなかったのですが」
『それは、おそらく俺の本来の姿の影響でそうなったのだろう。俺が目を覚まして、その影響が強く、お前の服は打ち消された』
意味がよく分からない。
「どういうことでしょうか? 僕の服は一体どこへ行ってしまったのでしょうか?」
『何を言っている? 服は自分の魔力で作るものだ。お前の服が変化して今の着物になっただけだ』
どうも自分の感覚とベゼルの感覚は相当異なっている。
が、ここで一つの仮説に気づいた。
多分、最初に目を覚ました時には、たしかにベゼルは目覚めていなかったのかもしれない。
異世界に自分は来てしまったようだが、おそらくその時点で自分の記憶に残っていた通りに衣服を魔力で作った。そして、ベゼルが覚醒した段階で、徐々にベゼルの影響を受けて着物に切り替わった。
となると、もう一つの事象も説明できることに気づいた。
「この刀も自分の魔力で作ったものでしょうか?」
『そうだ。ただ、その刀は俺本来の物に比べればはるかに劣る。だが、今のお前はそれにでも頼るしかない』
なるほど、なんとなく分かってきた。
あの場で魔族を殺した後に、急激に空腹感が襲ってきたが、おそらく、あの時点で着物と刀を構成し直したせいで、魔力切れを起こしかけたのだ。
正直、あの場で魔核を手に入れられたのはラッキーだったかもしれない。
あの時、自分では抑えられないような破壊衝動に囚われたのを思い出した。
多分、この体は魔力切れを起こすと、理性が無くなる気がした。
「もしかして、空腹になりすぎるとまずいですか?」
『まずいな。単に何かを殺して食べようとする本能だけになる。その前に定期的に魔力を補給しないとまずい』
「どうやって、それを判断できますか?」
『空腹感で判断するしかない。そうなったら、何かを食べるしかない。ただ、一旦空腹感が出てもそれが、即、危険というわけでもない。結局は魔力切れを起こすかどうかだ。本当に魔力切れを起こす時は、異常なくらい空腹感が続くときだからそれほど心配することはない』
あと、何か聞かなければいけない事があるだろうかと考えていると、ベゼルが話しかけてきた。
『おまえは、しばらく寝ておけ。当面はこの森を散策せざるを得ないが、今後は夜間と昼間の両方をそれなりに移動する。睡眠は昼と夜のそれぞれ三時間、合わせて一日に六時間の睡眠を取れ』
「どこで寝るんですか? まさかこの場で寝ろって、わけじゃないですよね?」
『木の上だ。適当に目の無い木を見つけて、それによじ登って寝ておけ。何かが近づけばおそらく自然に目が覚める。刀だけは抜いた状態にしておけ』
凄く眠れそうにないが、ベゼルが言うなら大丈夫なのだろう。
適当に木を見つけて、周囲の木にも目が無いことを確認してから木によじ登った。
やはり、身体能力が向上している。簡単に登ることができる。
木に登ってみると、地球にあった木と同じ感じがする。別に違和感はないな。
枝が太いところを見つけて、それに跨って幹を背にして寝ることにする。普通ならお尻が痛いところだろうが、ただ、この体のおかげで特に痛みなどは感じない。
便利だ。
少し目を閉じると、いきなり睡魔が襲ってきた。
普段寝る時でもこんなにも早く眠くなることはない。
あっという間に意識が無くなっていった……。
*************
しばらくして、目が覚めた。
周囲を見渡す。
特に何かあるわけでもなさそうだ。
ただ、さっきと違って、既に日が落ちかかっていた。
ベゼルに話しかけてみる。
「ベゼルさん、起きていますか?」
『起きている』
「そちらは眠れましたか?」
『寝ていた。どうやら、この体の時は俺も寝なければいけないようだ』
「……どういうことでしょうか?」
『魔族は上位種になると眠らなくなる。魔族は一般的に下位種、中位種、上位種の三つに区分されている。ただ、俺たちの仲間内では、上位種の中でも、さらに強いものを〝高位種〟と呼んでいる。俺は高位種の一体だ。
俺も本来は眠らない。眠るだけで不利だからな。寝ている間をなくすことも生き延びる上では重要だ』
「僕は下位種の真ん中くらいの強さという話ですよね?」
『そうだ。だから、お前はまだ眠らないとダメだ。厳密には体力を回復させるわけではなくて、脳を休ませる感じか。脳を休ませることで、起きていた時に戦った情報を無意識に脳内で整理して、また、次の戦闘で活かせるようになる。おまえがより強くなろうとするなら、一日数回、短時間の睡眠をとった方が、効率はいいだろう』
そういうことか。当面は戦闘を繰り返してレベル上げのようなことをした方がいいかもしれない。
木から降りることにする。
ただ、もちろん周囲を警戒してからだ。
周りを見渡すが、少し暗くなっている。
「ベゼルさん、暗くなっているんですけど、これってまずくないですか? 敵が近づいてきても目視出来ない気がするんですが?」
『そうだな。ただ、夜はそれほど警戒する必要は無い。先ほどのボアの様なモンスターは眠りにつく。このレベルの森なら、夜間は音にだけ警戒して走り続け、何か異変があれば立ち止まって相手を確認すればいい。夜間は戦闘ではなく、移動を目的に時間を使え。夜の内に移動できるだけ移動して、この森を抜けたい」
『分かりました。そうします』
そう言って、周囲を確認した後、木から降りた。
着地すると同時にやや小走りで走ることにした。
もう日が暮れる。話からすると、モンスターは出てこないはずだ。
走っていくが、この体はやはり体力はあるようだ。
息が切れたりすることはない。
普段に比べるともちろん呼吸が早くなっているが、それでも人に比べれば全くと言ってもいいほど息が切れない。
三十分ほど走っていると、辺りは完全に暗くなってしまった。日が完全に落ちたようだ。
さて困った。これだけ暗いとどちらへ向かって歩いたらいいのか分からない。
暗い森の中なので、当然方向は分からない。
昼間の移動では、ベゼルが進むべき方角について太陽の角度から判断して、助言してくれた。
北に向かって進んでいるか分かるとのことだった。
北へ進んだ理由を聞くと、ベゼルは〝適当だ〟と答えた。まぁ、従うしかないだろう。
しかし、今みたいな暗い森の中を道が分からない中、闇雲に走ってもダメだろう。
ただ、ここで自分の変化に気づいた。
思ったより遠くまで見える。どうもこの体は夜目も効くようだ。
ならば、と思った。
近くにあった木に少しずつ刀で傷をつける。
そして、適当にその木より十メートルほど移動したところで、また木に傷をつけた。
それを繰り返していく。
今の自分は夜目が効くだけでなく、視力も上がっているようだ。
複数の木に傷をつければ、それぞれの木を遠くから確認することで、自分が直線に進んでいるかを確認できると思った。
多少方角がズレていても、構わないだろう。
走るのに比べれば、移動速度は落ちるが、ただ、それでも直線方向に進む事が大事だと判断して、それを繰り返していった。
歩きながらベゼルに話しかけてみることにする。
「あの、僕は今着物をきているのですが、これはどうしてでしょうか? 目が覚めた時はこんな着物を着ていなかったのですが」
『それは、おそらく俺の本来の姿の影響でそうなったのだろう。俺が目を覚まして、その影響が強く、お前の服は打ち消された』
意味がよく分からない。
「どういうことでしょうか? 僕の服は一体どこへ行ってしまったのでしょうか?」
『何を言っている? 服は自分の魔力で作るものだ。お前の服が変化して今の着物になっただけだ』
どうも自分の感覚とベゼルの感覚は相当異なっている。
が、ここで一つの仮説に気づいた。
多分、最初に目を覚ました時には、たしかにベゼルは目覚めていなかったのかもしれない。
異世界に自分は来てしまったようだが、おそらくその時点で自分の記憶に残っていた通りに衣服を魔力で作った。そして、ベゼルが覚醒した段階で、徐々にベゼルの影響を受けて着物に切り替わった。
となると、もう一つの事象も説明できることに気づいた。
「この刀も自分の魔力で作ったものでしょうか?」
『そうだ。ただ、その刀は俺本来の物に比べればはるかに劣る。だが、今のお前はそれにでも頼るしかない』
なるほど、なんとなく分かってきた。
あの場で魔族を殺した後に、急激に空腹感が襲ってきたが、おそらく、あの時点で着物と刀を構成し直したせいで、魔力切れを起こしかけたのだ。
正直、あの場で魔核を手に入れられたのはラッキーだったかもしれない。
あの時、自分では抑えられないような破壊衝動に囚われたのを思い出した。
多分、この体は魔力切れを起こすと、理性が無くなる気がした。
「もしかして、空腹になりすぎるとまずいですか?」
『まずいな。単に何かを殺して食べようとする本能だけになる。その前に定期的に魔力を補給しないとまずい』
「どうやって、それを判断できますか?」
『空腹感で判断するしかない。そうなったら、何かを食べるしかない。ただ、一旦空腹感が出てもそれが、即、危険というわけでもない。結局は魔力切れを起こすかどうかだ。本当に魔力切れを起こす時は、異常なくらい空腹感が続くときだからそれほど心配することはない』
あと、何か聞かなければいけない事があるだろうかと考えていると、ベゼルが話しかけてきた。
『おまえは、しばらく寝ておけ。当面はこの森を散策せざるを得ないが、今後は夜間と昼間の両方をそれなりに移動する。睡眠は昼と夜のそれぞれ三時間、合わせて一日に六時間の睡眠を取れ』
「どこで寝るんですか? まさかこの場で寝ろって、わけじゃないですよね?」
『木の上だ。適当に目の無い木を見つけて、それによじ登って寝ておけ。何かが近づけばおそらく自然に目が覚める。刀だけは抜いた状態にしておけ』
凄く眠れそうにないが、ベゼルが言うなら大丈夫なのだろう。
適当に木を見つけて、周囲の木にも目が無いことを確認してから木によじ登った。
やはり、身体能力が向上している。簡単に登ることができる。
木に登ってみると、地球にあった木と同じ感じがする。別に違和感はないな。
枝が太いところを見つけて、それに跨って幹を背にして寝ることにする。普通ならお尻が痛いところだろうが、ただ、この体のおかげで特に痛みなどは感じない。
便利だ。
少し目を閉じると、いきなり睡魔が襲ってきた。
普段寝る時でもこんなにも早く眠くなることはない。
あっという間に意識が無くなっていった……。
*************
しばらくして、目が覚めた。
周囲を見渡す。
特に何かあるわけでもなさそうだ。
ただ、さっきと違って、既に日が落ちかかっていた。
ベゼルに話しかけてみる。
「ベゼルさん、起きていますか?」
『起きている』
「そちらは眠れましたか?」
『寝ていた。どうやら、この体の時は俺も寝なければいけないようだ』
「……どういうことでしょうか?」
『魔族は上位種になると眠らなくなる。魔族は一般的に下位種、中位種、上位種の三つに区分されている。ただ、俺たちの仲間内では、上位種の中でも、さらに強いものを〝高位種〟と呼んでいる。俺は高位種の一体だ。
俺も本来は眠らない。眠るだけで不利だからな。寝ている間をなくすことも生き延びる上では重要だ』
「僕は下位種の真ん中くらいの強さという話ですよね?」
『そうだ。だから、お前はまだ眠らないとダメだ。厳密には体力を回復させるわけではなくて、脳を休ませる感じか。脳を休ませることで、起きていた時に戦った情報を無意識に脳内で整理して、また、次の戦闘で活かせるようになる。おまえがより強くなろうとするなら、一日数回、短時間の睡眠をとった方が、効率はいいだろう』
そういうことか。当面は戦闘を繰り返してレベル上げのようなことをした方がいいかもしれない。
木から降りることにする。
ただ、もちろん周囲を警戒してからだ。
周りを見渡すが、少し暗くなっている。
「ベゼルさん、暗くなっているんですけど、これってまずくないですか? 敵が近づいてきても目視出来ない気がするんですが?」
『そうだな。ただ、夜はそれほど警戒する必要は無い。先ほどのボアの様なモンスターは眠りにつく。このレベルの森なら、夜間は音にだけ警戒して走り続け、何か異変があれば立ち止まって相手を確認すればいい。夜間は戦闘ではなく、移動を目的に時間を使え。夜の内に移動できるだけ移動して、この森を抜けたい」
『分かりました。そうします』
そう言って、周囲を確認した後、木から降りた。
着地すると同時にやや小走りで走ることにした。
もう日が暮れる。話からすると、モンスターは出てこないはずだ。
走っていくが、この体はやはり体力はあるようだ。
息が切れたりすることはない。
普段に比べるともちろん呼吸が早くなっているが、それでも人に比べれば全くと言ってもいいほど息が切れない。
三十分ほど走っていると、辺りは完全に暗くなってしまった。日が完全に落ちたようだ。
さて困った。これだけ暗いとどちらへ向かって歩いたらいいのか分からない。
暗い森の中なので、当然方向は分からない。
昼間の移動では、ベゼルが進むべき方角について太陽の角度から判断して、助言してくれた。
北に向かって進んでいるか分かるとのことだった。
北へ進んだ理由を聞くと、ベゼルは〝適当だ〟と答えた。まぁ、従うしかないだろう。
しかし、今みたいな暗い森の中を道が分からない中、闇雲に走ってもダメだろう。
ただ、ここで自分の変化に気づいた。
思ったより遠くまで見える。どうもこの体は夜目も効くようだ。
ならば、と思った。
近くにあった木に少しずつ刀で傷をつける。
そして、適当にその木より十メートルほど移動したところで、また木に傷をつけた。
それを繰り返していく。
今の自分は夜目が効くだけでなく、視力も上がっているようだ。
複数の木に傷をつければ、それぞれの木を遠くから確認することで、自分が直線に進んでいるかを確認できると思った。
多少方角がズレていても、構わないだろう。
走るのに比べれば、移動速度は落ちるが、ただ、それでも直線方向に進む事が大事だと判断して、それを繰り返していった。
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