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第20話 真意を問われて
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僕はダンジョンの11層に行くことになった。
カルディさんの誘いでファードスさんも含めて三人で11層へ下りていく。
カルディさんが三人を先導し、僕の後ろにはファードスさんが歩いている。
つまり、僕はカルディさんとファードスさんに挟まれている。
11層に到着すると、いきなりカルディさんは僕たちの周囲に結界を張った。
一辺が四十メートルの立方体の結界の中に、僕達は閉じ込められている。
そして、カルディさんは魔力を放出し始めた。ファードスさんも僕の背後で魔力を放出している。
カルディさんはいつも愛想笑いではあるのだろうが、表情はにこやかだ。
しかし今は違う。無表情で、限りなく殺意を撒いている感じだ。
「マサキ君、今から君に尋問を始める。嘘だと判断した段階で君を殺害する。偽証は不可能だ」
淡々とそう言った。
「君は一体何者だ? 先ほど君の戦いを見たが、明らかにただの魔族じゃない。君の魔力は大したこと無いように見えるが、ただ、握力、腕力、背筋、全ての膂力が尋常じゃない。それに魔核を食べただけで、魔力の絶対値を向上させることができるなんてあり得るのかい?」
カルディはそう言って、手を上げて魔法陣を起動させた。こちらへ攻撃するつもりだろう。
「私は羽翼種でありながら、グリフォンでもある。正直、羽翼種にそれほど思い入れがあるわけじゃないが、それでもこの地にはそれなりに永く住んでいる。気を許した友もいる。リーシャのお婆さんもそうだ。仮に、君がこの島に何か邪な目的があって侵入しているとするなら放置することはできない。君の目的を答えてくれ」
大体、こんなことを言われるのだろうと思って付いてきていた。
まぁ、予想通りだ。
というか、この人は尊大なイメージがあったが、それだけではないようだ。
ベゼルは何も言ってこない。多分、興味が無いのだと思う。
あの人の思考パターンも最近になって分かり始めた。
カルディさんを見る。
僕を脅しているつもりなのだろうが、僕の力を分かっていないと思った。
さっき食べた魔核のせいで、自分の基本性能が向上しているのが分かる。
ここで抜刀して、風魔法で斬り込めば、カルディさんが魔法を起動する前に首を取れるはずだ。
今の自分ならできるという直感がある。
ベゼルの言った通りだ。
ベゼルが、自分が高位種であるのは相手が魔法を起動する前に斬ってしまえばいいだけだから、と言っていたが、あれが事実なのが分かる。
魔法陣を展開して、起動までに数秒掛かるというのは、通常の敵ならそれでも十分なのだろうが、今の僕の様に、高速で移動できる相手には意味が無い。
大半の魔法は簡単に避けられるし、相手との距離をつめてしまえば、今の肉体なら、それこそ殴り合いでも勝てるだろう。魔力がどれだけ多かろうが、当たらなければ意味はない。
それに結界を張っているのが致命的だ。カルディさんもファードスさんも遠くまで逃げられない。
自分の首を絞めているだけだ。
が、別に二人を殺すつもりはない。ただ、完全な嘘は無理か。
「僕の目的というか、まぁ、信じてもらえるかは分かりませんが、最初からすべて話します」
そう言って、ベゼル以外のことを転生から全て話した。以前より説明した時より詳細に、だ。ベゼルにアドバイスをもらった箇所はうまく、ぼかした。
一通り、カルディさんは話を聞いていた。ジッとこちらを見ている。何かを考えているようだ。
しばらくして返事をしてきた。
「私の考えでは、君はまだ何かを隠している。しかし、それはおそらく羽翼種とは関係ないものと考えます。それにリーシャさんは、相当警戒心が強いはずです。私は彼女の祖母と知り合いですが、羽翼種の歴史をよく聞かせてあるはずです。あの彼女がいくらなんでもあなたに助けてもらった程度の話で、この国に入島させることはない気もします。問題が無いと彼女も判断しているのでしょう。分かりました。あなたへの疑義を撤回します。それに謝罪します。疑って申し訳ありませんでした」
そう言って、結界魔法を解いてカルディは頭を下げた。ファードスさんも魔力の放出をやめた。
「いえいえ、しょうがないと思いますよ。カルディさんからすれば、僕を警戒するのが正しいと思います。ただ、一つお願いがあります」
カルディさんが顔を上げた。
「僕はどうしても人族の国を目指さねばいけません。そして、その過程で、僕一人で人族の国を目指すのは困難です。可能なら、ファードスさんも含めて三人で人族の国を目指せないでしょうか?」
そう言って、ファードスさんの方を見た。
ファードスさんは無表情だった。カルディさんが話し始めた。
「私は、昨日も言いましたが、マサキ君と一緒に人族の国へ行くのは構いません。言葉通り〝暇〟だからです。ただ、私とファードスはこの羽翼種の中では戦闘能力が高いです。簡単に言えば、ある種の守護者の役割を果たしています。この一万年、この羽翼種の大地に外部からの侵入者が入り込んだことはありません。ただ、細かく侵入しようとする者はいます。これらを排除しているのは、あなたも見たように、島のバリアが部外者に対して機能しているからです。
ファードスも私と同じで暇を持て余していますが、ただ、万一を考えると、出来ればどちらかを残して置きたいのが本音ではあります」
うーん、困ったな。できればファードスさんにも来てもらいたい。
「ですが、マサキ君がいくつか協力してくれなら、ファードスと私も一緒に人族の国を目指しても構いません」
お! なんだろう?
「僕が何かに協力できるなら、是非喜んでそれを手伝いたいと思います。どうすればいいでしょうか?」
「島のバリア機能を強化します。そのためにダンジョンの核を一緒に集めてもらいたいのです。ダンジョンの核は強力な魔力を数万年に渡って蓄えています。その魔力を使って、島のバリアを強化します」
「ああ、なるほど。そういうことですか。いいですよ。僕としてももっと腕を上げてから人族の国を目指したいと思っていましたので、是非参加させてもらいたいですね。それにリーシャ達の今後を考えると心配ですし」
そういうと、カルディは笑った。カルディとファードスと握手をしてから、10層に戻ることにした。
男のテントへ戻ると、既にビルドは寝ていた。一応僕も寝た方が良いとは思う。カルディさん達はどれくらい眠るのだろう?
「僕は数時間寝ようと思います。カルディさん達はどうしますか?」
「私達も数時間寝ます。ビルド君たちほど寝る必要はありませんが、体を休める必要はあります」
そう言って、カルディさんもファードスさんも、座ったままで目を閉じてしまった。
ビルドは寝袋を準備してきているが、僕たちには、寝袋はいらない。
ある程度強い種族の場合、外気温による体内温度の変化は防げるようだ。
今までは、僕も寝る時は横になって寝ていたが、カルディさんやファードスさんの様に座ったまま寝る癖をつけた方がいいかもしれない。
ここはフロアボスの部屋だから、外敵が侵入するわけはないが、今後のことを考えて、僕も座って寝ることにした。岩山等ではテントなしで、座って寝る必要があるだろう。
**************
朝になって外が騒がしいので目が覚めた。
テントの外へ出てみると、リーシャとセリサがワイワイ騒いでいた。
昨日の亀の肉を燻製にしているようだ。土魔法で竈を作って、肉を燻しているようだ。
ただ、匂いが結構ヒドイ。
なんで朝から……。
「朝から燻製なの?」
「私達はあなた達と違って、お腹が減るんで~す!!」
セリサが嬉しそうに答えた。
リーシャも笑いながら答えてきた。
「私たちは飛ぶとそれなりにお腹が空きます。だから、何か食べる物がないと困ってしまいます。昨日は一日中飛んでいたので、実は結構お腹が空いていましたね」
「ああ、そうか。だから、燻製にして、持ち運びにできる食料を作っているのか」
うーん、僕は何か食べる物を取って来た方がいいのだろうか?
そんなことを考えていると、カルディさんとファードスさんも起きてきた。ビルドはまだ寝ているようだ。
カルディさんに訊いてみよう。
「カルディさん、リーシャ達が、お腹が減るみたいなんです。何か食料を調達した方が良くないですか? 僕たちは問題ありませんが」
「ああ、そうか。そうだったね。確かに彼女達は私達と違って食べなければいけないね。じゃあ、僕とファードスで持ち運びができる食料を探してくるよ」
そう言って、カルディさんとファードスさんは飛んで行ってしまった。
カルディさん達も魔核がメインの食事らしい。
リーシャとセリサは二人で楽しそうに燻製を作っている。
何が面白いんだろう?
ああ、そうだ。ベゼルから、朝稽古をするように言われていたんだった。
思い出した。
「ちょっと出かけて来るよ」
「どこへ行くんですか?」
「朝稽古だよ」
そう言って、11層に行ってみることにした。
折角だから、適当に何かと戦ってみるか。
ついでに、昨日食べた魔核の成果を把握したい。
少し、力を入れると、一瞬で加速する。やはり以前より速度が上がっている。
魔力探査もしてみるが、以前より広範囲に確認できる。
ソナーの様に自分を中心にして輪が広がっていくのを感じる。
目を瞑って気配を探っていくと、少し先に湖があるように感じる。
湖の畔に辿り着いてもう一度、水中を探査すると、中に何かの魚がいるようだ。
それほど強い魚じゃないけど、水の中で自分がどれくらい動けるチェックしよう。
そう思って、水の中に飛び込んだ。
魚がいる。二メートルくらいの魚か。
流石に水の中は動きづらいな。でも、試してみるか。
そう思って、刀を鞘に納めて、鞘の内部で氷魔法を使う。氷の刃を飛ばして魚を仕留めるつもりだ。
そして、魚を目めがけて思いっきり、刀を振り抜いた。刀を振った衝撃で視界が濁る。
が、自分の放った氷の刃は魚を捉えたようだ。
それに向かって泳いでいく。
その魚を捕まえて、岸まで引きずり上げようとした時だった、急に大きな気配を感じた。
急いで、その場から浮上した。魚は諦めた。
物凄い音を立てて、何かが魚を飲み込んだ。魔力探査で反応しなかった。
おそらく魔核を持っているモンスターだ。普段は魔力を隠しているのだろう。
戦ってみるか。
そう思って、わざと自分の魔力を抑えて、刀で近くの地面をコンコンと叩いてみる。
多分、おびき寄せられるはずだ。
と思ったら、すぐに水中から〝それ〟は姿を現した。
巨大なワニだ。体調は十五メートルといったところか。ただ、目が四つあって、尻尾は二本。あと、地球上のワニに比べてはるかに筋肉質という感じだ。腕の辺りの筋肉が盛り上がっている。
さて闘ってみるか、と思うが、少し試してみたいことを思いついた。
まあ、何とかなるだろうと思って、わざとワニの口の中に飛び込んでみる。
迷わずワニが口を閉じてきた。そりゃそうだ。鴨だよねぇ。
で、ここで、自分の両手と両足で思いきり、下あごと上あごを抑えてみた。
物凄い力がこちらに加わるのを感じる。だが、抑えきれないレベルじゃない。
ワニはここで異変に気付いたのだろう。口を左右に振り始めて僕ごと地面に叩きつけようとしている。というか、体全体を横たえてゴロゴロと回転し始めた。
ただ、こちらは既にワニの上あごを手が貫通しているので、しっかりと自分の体を支えらえる。しばらく、そんな感じで、ワニは暴れ続けたが、さすがに動きが鈍って来た。
もうここで、ワニから離れることにした。
刀を抜いて、一瞬でワニの頭上に移動して、刀を頭に突き刺した。突き刺すと同時に、刀を通して内部で火魔法を使う。ワニの脳ミソが沸騰しているはずだ。
すぐにワニは動かなくなってしまった。
魔力探査で、ワニ体内の魔核が何処にあるかはすぐ分かる。そこでワニをひっくり返して、ワニの魔核を取り出して食べる。
昨日のフライングタートルほどじゃないけど、それでもこれを食べるだけでもまた力が上昇するのを感じる。
それにしても、このワニをどうしよう……。
――そうだ!! もしかすると、ワニ革としての需要があるかもしれない。
ビルドが喜びそうだ。
そう思って、急いでビルドのいる10層のフロアボスの部屋へ急ぐのだった。
カルディさんの誘いでファードスさんも含めて三人で11層へ下りていく。
カルディさんが三人を先導し、僕の後ろにはファードスさんが歩いている。
つまり、僕はカルディさんとファードスさんに挟まれている。
11層に到着すると、いきなりカルディさんは僕たちの周囲に結界を張った。
一辺が四十メートルの立方体の結界の中に、僕達は閉じ込められている。
そして、カルディさんは魔力を放出し始めた。ファードスさんも僕の背後で魔力を放出している。
カルディさんはいつも愛想笑いではあるのだろうが、表情はにこやかだ。
しかし今は違う。無表情で、限りなく殺意を撒いている感じだ。
「マサキ君、今から君に尋問を始める。嘘だと判断した段階で君を殺害する。偽証は不可能だ」
淡々とそう言った。
「君は一体何者だ? 先ほど君の戦いを見たが、明らかにただの魔族じゃない。君の魔力は大したこと無いように見えるが、ただ、握力、腕力、背筋、全ての膂力が尋常じゃない。それに魔核を食べただけで、魔力の絶対値を向上させることができるなんてあり得るのかい?」
カルディはそう言って、手を上げて魔法陣を起動させた。こちらへ攻撃するつもりだろう。
「私は羽翼種でありながら、グリフォンでもある。正直、羽翼種にそれほど思い入れがあるわけじゃないが、それでもこの地にはそれなりに永く住んでいる。気を許した友もいる。リーシャのお婆さんもそうだ。仮に、君がこの島に何か邪な目的があって侵入しているとするなら放置することはできない。君の目的を答えてくれ」
大体、こんなことを言われるのだろうと思って付いてきていた。
まぁ、予想通りだ。
というか、この人は尊大なイメージがあったが、それだけではないようだ。
ベゼルは何も言ってこない。多分、興味が無いのだと思う。
あの人の思考パターンも最近になって分かり始めた。
カルディさんを見る。
僕を脅しているつもりなのだろうが、僕の力を分かっていないと思った。
さっき食べた魔核のせいで、自分の基本性能が向上しているのが分かる。
ここで抜刀して、風魔法で斬り込めば、カルディさんが魔法を起動する前に首を取れるはずだ。
今の自分ならできるという直感がある。
ベゼルの言った通りだ。
ベゼルが、自分が高位種であるのは相手が魔法を起動する前に斬ってしまえばいいだけだから、と言っていたが、あれが事実なのが分かる。
魔法陣を展開して、起動までに数秒掛かるというのは、通常の敵ならそれでも十分なのだろうが、今の僕の様に、高速で移動できる相手には意味が無い。
大半の魔法は簡単に避けられるし、相手との距離をつめてしまえば、今の肉体なら、それこそ殴り合いでも勝てるだろう。魔力がどれだけ多かろうが、当たらなければ意味はない。
それに結界を張っているのが致命的だ。カルディさんもファードスさんも遠くまで逃げられない。
自分の首を絞めているだけだ。
が、別に二人を殺すつもりはない。ただ、完全な嘘は無理か。
「僕の目的というか、まぁ、信じてもらえるかは分かりませんが、最初からすべて話します」
そう言って、ベゼル以外のことを転生から全て話した。以前より説明した時より詳細に、だ。ベゼルにアドバイスをもらった箇所はうまく、ぼかした。
一通り、カルディさんは話を聞いていた。ジッとこちらを見ている。何かを考えているようだ。
しばらくして返事をしてきた。
「私の考えでは、君はまだ何かを隠している。しかし、それはおそらく羽翼種とは関係ないものと考えます。それにリーシャさんは、相当警戒心が強いはずです。私は彼女の祖母と知り合いですが、羽翼種の歴史をよく聞かせてあるはずです。あの彼女がいくらなんでもあなたに助けてもらった程度の話で、この国に入島させることはない気もします。問題が無いと彼女も判断しているのでしょう。分かりました。あなたへの疑義を撤回します。それに謝罪します。疑って申し訳ありませんでした」
そう言って、結界魔法を解いてカルディは頭を下げた。ファードスさんも魔力の放出をやめた。
「いえいえ、しょうがないと思いますよ。カルディさんからすれば、僕を警戒するのが正しいと思います。ただ、一つお願いがあります」
カルディさんが顔を上げた。
「僕はどうしても人族の国を目指さねばいけません。そして、その過程で、僕一人で人族の国を目指すのは困難です。可能なら、ファードスさんも含めて三人で人族の国を目指せないでしょうか?」
そう言って、ファードスさんの方を見た。
ファードスさんは無表情だった。カルディさんが話し始めた。
「私は、昨日も言いましたが、マサキ君と一緒に人族の国へ行くのは構いません。言葉通り〝暇〟だからです。ただ、私とファードスはこの羽翼種の中では戦闘能力が高いです。簡単に言えば、ある種の守護者の役割を果たしています。この一万年、この羽翼種の大地に外部からの侵入者が入り込んだことはありません。ただ、細かく侵入しようとする者はいます。これらを排除しているのは、あなたも見たように、島のバリアが部外者に対して機能しているからです。
ファードスも私と同じで暇を持て余していますが、ただ、万一を考えると、出来ればどちらかを残して置きたいのが本音ではあります」
うーん、困ったな。できればファードスさんにも来てもらいたい。
「ですが、マサキ君がいくつか協力してくれなら、ファードスと私も一緒に人族の国を目指しても構いません」
お! なんだろう?
「僕が何かに協力できるなら、是非喜んでそれを手伝いたいと思います。どうすればいいでしょうか?」
「島のバリア機能を強化します。そのためにダンジョンの核を一緒に集めてもらいたいのです。ダンジョンの核は強力な魔力を数万年に渡って蓄えています。その魔力を使って、島のバリアを強化します」
「ああ、なるほど。そういうことですか。いいですよ。僕としてももっと腕を上げてから人族の国を目指したいと思っていましたので、是非参加させてもらいたいですね。それにリーシャ達の今後を考えると心配ですし」
そういうと、カルディは笑った。カルディとファードスと握手をしてから、10層に戻ることにした。
男のテントへ戻ると、既にビルドは寝ていた。一応僕も寝た方が良いとは思う。カルディさん達はどれくらい眠るのだろう?
「僕は数時間寝ようと思います。カルディさん達はどうしますか?」
「私達も数時間寝ます。ビルド君たちほど寝る必要はありませんが、体を休める必要はあります」
そう言って、カルディさんもファードスさんも、座ったままで目を閉じてしまった。
ビルドは寝袋を準備してきているが、僕たちには、寝袋はいらない。
ある程度強い種族の場合、外気温による体内温度の変化は防げるようだ。
今までは、僕も寝る時は横になって寝ていたが、カルディさんやファードスさんの様に座ったまま寝る癖をつけた方がいいかもしれない。
ここはフロアボスの部屋だから、外敵が侵入するわけはないが、今後のことを考えて、僕も座って寝ることにした。岩山等ではテントなしで、座って寝る必要があるだろう。
**************
朝になって外が騒がしいので目が覚めた。
テントの外へ出てみると、リーシャとセリサがワイワイ騒いでいた。
昨日の亀の肉を燻製にしているようだ。土魔法で竈を作って、肉を燻しているようだ。
ただ、匂いが結構ヒドイ。
なんで朝から……。
「朝から燻製なの?」
「私達はあなた達と違って、お腹が減るんで~す!!」
セリサが嬉しそうに答えた。
リーシャも笑いながら答えてきた。
「私たちは飛ぶとそれなりにお腹が空きます。だから、何か食べる物がないと困ってしまいます。昨日は一日中飛んでいたので、実は結構お腹が空いていましたね」
「ああ、そうか。だから、燻製にして、持ち運びにできる食料を作っているのか」
うーん、僕は何か食べる物を取って来た方がいいのだろうか?
そんなことを考えていると、カルディさんとファードスさんも起きてきた。ビルドはまだ寝ているようだ。
カルディさんに訊いてみよう。
「カルディさん、リーシャ達が、お腹が減るみたいなんです。何か食料を調達した方が良くないですか? 僕たちは問題ありませんが」
「ああ、そうか。そうだったね。確かに彼女達は私達と違って食べなければいけないね。じゃあ、僕とファードスで持ち運びができる食料を探してくるよ」
そう言って、カルディさんとファードスさんは飛んで行ってしまった。
カルディさん達も魔核がメインの食事らしい。
リーシャとセリサは二人で楽しそうに燻製を作っている。
何が面白いんだろう?
ああ、そうだ。ベゼルから、朝稽古をするように言われていたんだった。
思い出した。
「ちょっと出かけて来るよ」
「どこへ行くんですか?」
「朝稽古だよ」
そう言って、11層に行ってみることにした。
折角だから、適当に何かと戦ってみるか。
ついでに、昨日食べた魔核の成果を把握したい。
少し、力を入れると、一瞬で加速する。やはり以前より速度が上がっている。
魔力探査もしてみるが、以前より広範囲に確認できる。
ソナーの様に自分を中心にして輪が広がっていくのを感じる。
目を瞑って気配を探っていくと、少し先に湖があるように感じる。
湖の畔に辿り着いてもう一度、水中を探査すると、中に何かの魚がいるようだ。
それほど強い魚じゃないけど、水の中で自分がどれくらい動けるチェックしよう。
そう思って、水の中に飛び込んだ。
魚がいる。二メートルくらいの魚か。
流石に水の中は動きづらいな。でも、試してみるか。
そう思って、刀を鞘に納めて、鞘の内部で氷魔法を使う。氷の刃を飛ばして魚を仕留めるつもりだ。
そして、魚を目めがけて思いっきり、刀を振り抜いた。刀を振った衝撃で視界が濁る。
が、自分の放った氷の刃は魚を捉えたようだ。
それに向かって泳いでいく。
その魚を捕まえて、岸まで引きずり上げようとした時だった、急に大きな気配を感じた。
急いで、その場から浮上した。魚は諦めた。
物凄い音を立てて、何かが魚を飲み込んだ。魔力探査で反応しなかった。
おそらく魔核を持っているモンスターだ。普段は魔力を隠しているのだろう。
戦ってみるか。
そう思って、わざと自分の魔力を抑えて、刀で近くの地面をコンコンと叩いてみる。
多分、おびき寄せられるはずだ。
と思ったら、すぐに水中から〝それ〟は姿を現した。
巨大なワニだ。体調は十五メートルといったところか。ただ、目が四つあって、尻尾は二本。あと、地球上のワニに比べてはるかに筋肉質という感じだ。腕の辺りの筋肉が盛り上がっている。
さて闘ってみるか、と思うが、少し試してみたいことを思いついた。
まあ、何とかなるだろうと思って、わざとワニの口の中に飛び込んでみる。
迷わずワニが口を閉じてきた。そりゃそうだ。鴨だよねぇ。
で、ここで、自分の両手と両足で思いきり、下あごと上あごを抑えてみた。
物凄い力がこちらに加わるのを感じる。だが、抑えきれないレベルじゃない。
ワニはここで異変に気付いたのだろう。口を左右に振り始めて僕ごと地面に叩きつけようとしている。というか、体全体を横たえてゴロゴロと回転し始めた。
ただ、こちらは既にワニの上あごを手が貫通しているので、しっかりと自分の体を支えらえる。しばらく、そんな感じで、ワニは暴れ続けたが、さすがに動きが鈍って来た。
もうここで、ワニから離れることにした。
刀を抜いて、一瞬でワニの頭上に移動して、刀を頭に突き刺した。突き刺すと同時に、刀を通して内部で火魔法を使う。ワニの脳ミソが沸騰しているはずだ。
すぐにワニは動かなくなってしまった。
魔力探査で、ワニ体内の魔核が何処にあるかはすぐ分かる。そこでワニをひっくり返して、ワニの魔核を取り出して食べる。
昨日のフライングタートルほどじゃないけど、それでもこれを食べるだけでもまた力が上昇するのを感じる。
それにしても、このワニをどうしよう……。
――そうだ!! もしかすると、ワニ革としての需要があるかもしれない。
ビルドが喜びそうだ。
そう思って、急いでビルドのいる10層のフロアボスの部屋へ急ぐのだった。
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