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第45話 男子会
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追跡族の街に滞在して、三週間ほど経った。
この三週間、皆はそれぞれに時間を楽しんでいたようだった。
何だかんだで、精神的に緊張していた状態から解放されたわけだ。
それに、新しい街で見たこともない技術に触れたのだから、皆面白かったのだと思う。
正直、僕から見て、カルディさんも含めて、皆堕落した生活をしていたように思う。
だらしない。
僕はそういう生活は嫌いだ。
今日も朝起きて、皆でご飯を食べた後、僕はビジネスホテルの一室でいつものようにベッドに寝転んでいた。
魔道板という名のタブレットを起動する。毎日ログインしないとゲームのガチャポイントが貰えないので、しょうがなく魔道板を起動した。
ガチャを回してみると、やっぱりハズレだ。
クソが。確率操作してんじゃねーの?
複数のゲームを掛け持ちでやっているので、それぞれのアプリを起動して、無料でガチャを引いていくが、一つも当たらない。
持ち金の大半をガチャに使いたいところだが、流石にそれをやると、リーシャ達の今後の食費に響くからやれない。どうしようかと考えていると、ドアがノックされた。
ベッドに寝転がったまま〝どうぞ〟と、ぶっきらぼうに言うとカルディさんが入って来た。
ちなみにこのビジネスホテルはオートロックじゃない。
てっきりリーシャだと思ったが、カルディさんだったので、慌ててベッドから起き上がった。
カルディさんが近くにあった椅子に座ってから話し始めた。
「この一週間、私が示したサイトは一通り確認してくれたかな?」
「……はい。大丈夫だと思います」
嘘を付いた。ゲームをしていて全く見ていなかった、とは言えない。
「じゃあ、それを前提に話を進めよう。たしかに君の云う通りだった。羽翼種の島で、この魔道板を使おうとすると、それなりの通信網を構築する必要がある。この通信網の基幹技術については人族の国へ行かないと手に入らないらしい。この都市も、人族からその技術を提供してもらったようだ。それに、この魔道板を作るにあたって、ドワーフ種の力を人族は借りているらしい。やはり私達も一度は人族の国へ行った方がいいだろう。君はどう思う?」
「……はい。確かに僕もそう思います」
「では出発日時についてはいつがいい? 君がいれば今後はリーシャさん達に危険が及ぶこともない。ただ、彼女達とビルド君は随分とこの街を楽しんでいるようだ。出発日時は君たちが決めてくれて構わない。私とファードスは、毎日午後は外で訓練をしている。私たちが見つからない時は都市外を魔力探査してくれ」
「……はい。カルディさん、すみませんでした」
カルディさんが怪訝そうな顔をした。
「どうしたんだい?」
「あ、いえ、なんでもありません。では出発日時が決まりましたら連絡します」
それを聞くと、カルディさんは不思議そうな顔をして部屋を出て行った。
僕はバカだ。
地球にいた頃も、ガチャにハマって、いざ現実に切羽詰まって我に返る経験をしたが、まさかこちらへ来て同じことを繰り返すとは思わなかった。アンポンタンだ。
魔道板で人族の国について、調べてみることにした。様々な情報を見る。
魔族の体だと情報処理能力も早いようだ。あっという間に情報を理解していく。
どうやら、ベゼルの云った通り、確かに今人族の国にはゼムドという強い魔族がいるらしい。それが数年前に人族の国に現れて、当時、人族の国を支配していたグリフォンから、人族を解放したようだ。そして、それを同時期として、世界を支配していた龍族とこのゼムドが手を組んで、人族の技術を各国へ輸出し、商業的・経済的な発展を世界全体にもたらそうとしているらしい。
ただ、僕はこの過程で羽翼種にとってマズイ事態に気づいた。
ゼムドは人族の国で飛行機を開発しているようだ。これが実現するとマズイ。
なぜなら、羽翼種は運搬を主な業務としている。
仮に飛行機が実現してしまうと、大型の輸送が可能になってしまう。羽翼種の仕事が減ってしまうだろう。現在、人族の国と羽翼種の国は離れている。飛行機が実現しても急に仕事が無くなるわけではないだろうが、これはまずいと思った。
産業革命後、急激に仕事を奪われて廃れた都市があったことを思い出す。
ただ、ゼムドがやろうとしていることを否定するわけではない。
世界全体の経済的な豊かさを実現しようとしている以上、そのせいで一部の種族が不利益をこうむるのはある種の競争原理に負けたわけであり、それを責めても仕方ないと思った。
今のうちに羽翼種も自分たちの産業構造を変革しないとダメだろう。
その辺のことをカルディさん達に伝えなければいけない。
そんなことを考えながら、ゼムドについて調べていると、魔族にしては、学者というか政治家というか、随分と変なことをしているようだ。
まぁ、一般的に見れば立派なことをしているとしか思えない。ベゼルは、同じ魔族でも微妙な人格だが、ゼムドはマシそうだ。確かに、僕の異変を治す方法を見つけてくれるかもしれない。ベゼルの云う通り、人族の国へ行くしかないだろう。
ただ、そこで、ゼムドについて書かれたある記事に気づいた。
その記事を見ると、ゼムドは〝女たらし〟らしい。
急にゼムドが悪人に思えてきた。
僕は片っ端から女性に手を出そうとするやつは嫌いだ
屑だと思う。
女を囲おうとするような人間は嫌いだ。
そんなことを考えていると、ベゼルが話しかけてきた。
『その記事は間違いだな。主はそういう人格ではない。それは人族が勘違いしているだけだな』
驚いた。ベゼルは、何があっても他人について評価したりすることはない。というか、基本的に僕の生命の危機に関する情報と、元に戻るための情報しか僕には与えてくれない。そのベゼルがこの記事を否定している。つまり、この記事は間違いという事になる。
「そうなの?」
『ああ、それは間違いだ。そういうことをする奴じゃない。お前と違う』
あれ? なんかベゼルは僕の事、勘違いしてないか? 僕はそんな奴じゃないぞ。
僕についての疑惑を晴らしたいと思うが、方法が思いつかない。
しょうがないので、魔道板の電源を切って、部屋を出ていくことにした。
廊下に出る。プライバシーの問題もあるからこういうところでは基本的に魔力探査をしないことにしている。ビルドの部屋へ行ってみることにした。
ドアをノックしてから、部屋に入った。ビルドも僕の部屋へ入る時は合図を確認せずに入ってくる。男同士だから、その辺は気にしていない。
部屋に入ると、ビルドもベッドに寝転がって魔道板を弄っている。
だらしない奴だ。
「ビルド、カルディさんが出発日時をいつにするか、だって」
ビルドが起き上がる
「え? もう行くの?」
「うん。まぁ、色々あって……」
ビルドは僕の表情を窺いつつ、返答してきた。
「俺としては、もうちょっとこの街で遊んでから、人族の国を目指したいけど、そんなこと言ってると、いつまでもこの街から出ないままになりそうだ。たしかに、そろそろこの国を出るか」
それは僕もそう思う。ただ、ここでふと思いついた。
「じゃあ、どうする? 皆でパーっと最後に遊ぶか?」
「ああ、いいね。じゃあ、女子二人にもそう伝えて来いよ」
「分かった。じゃあ、僕は今から二人のところに行ってくるわ」
そう言ってから、ビルドの部屋を出て行った。
リーシャの部屋に行くことにした。
リーシャのドアをノックする。しばらくして、部屋のドアが開いた。多分、誰か確認してからロックを外したのだろう。女の子としては当然の対応だ。
「どうしたんですか?」
「今、カルディさんやビルドと話していたんだけど、もうそろそろ人族の国を目指すことになった。リーシャ達はそろそろ出発しても問題ない?」
リーシャは少し考えこんでいる。そしてこう言ってきた。
「その、できれば、少し時間が欲しいのですが……」
「え? 何かあるの?」
「できれば、服とかを最後に買いたいと思って……」
「ああ、いいよ。じゃあ、僕がいつもみたいに付き合えばいいの?」
「あ、いえ、その出来ればそれはセリサと一緒に行きたいかと……」
そうか。それもそうだな。僕が付いていくのはおかしい。
「分かった。じゃあ、いつ頃出発にすればいい?」
「明日でもいいですよ。買いたいものは決まっているので」
僕はここである事に気がついた。
なんとなくだが、男同士でバカ遊びがしたい。
リーシャ達が女子会をするなら、僕たちは男子会をすればいいのではないだろうか?
「そうか。分かった。じゃあ、リーシャ達は女同士で楽しんでくれ。ただ、明日の出発には遅れないでね」
そう言って、その場を離れたのであった。
ビルドの部屋に戻って、リーシャ達は買い物に行くという話をして、僕たちは二人で遊ぼうという話になった。
そして、ビルドと二人で街に繰り出していった。
*****************
ビルドとどこへ行くか話し合ったが、結局ただのゲームセンターに行くことにした。
ゲームセンターに行って、後先考えずにガンガン、ゲームに金を使っていく。二人とも最後の日ということで、テンションが上がっているせいか、くだらないことで大はしゃぎしながら、金を使っていった。
そして、ここで気づいた。実は、僕は魔道板のゲームガチャで、課金をそれなりにしてしまっていた。
期間限定の50連ガチャとかが割引になっていると、つい金を使ってしまうタイプだった。
ただ、今になって思うと、そんなくだらないことに金を使わず、最初からビルドとこうしてゲームセンターで遊んだ方がずっと有意義だったと思う。バカなことをしてしまったと思う。
ゲームセンターで一通り騒いでから、コンビニへ行って、ビルドがジュースを買いに行った。すると、コンビニの前にはガシャポンがあった。そして、小学生低学年くらいの男の子たちが、それを引いていた。それをじっと見ていた。
ビルドがコンビニから出てきた。ジュースを飲みながら、僕に話しかけてきた。
「何を見ているんだ?」
「子供たちがガシャポンやってんだよ」
「あー、クジか。なるほどね。まぁ、子供の頃には金があるといいと思うわな」
「なぁ、やるか?」
「やりますか」
というわけで、ビルドと二人でガシャポンに有り金を片っ端から投入していった。
周囲で男の子たちが騒いでいる。獲れたガシャポンは全部子供たちにあげた。
子供たちは大声を上げて騒いでいる。
周囲の人達は何事かとこっちを見ているようだ。
アホなことをしているのは分かっていたが、面白かった。
しかし、二人で一通り、バカをやった後にビルドがニヤニヤし始めた。
なんだろうと思っていると、急にこう言い出した。
「なぁ、ちょっと女の子に声掛けてみないか?」
思わず呆れてしまった。
別にビルド一人で声を掛けるならいいと思う。
だけど、僕にはリーシャがいる。
それについてはビルドも知っていることだ。
そんな僕に対して、そんなことを言うのはおかしいし、まして僕にはリーシャがいるのに、他の女の子に声を掛けるような奴に思われているのが不愉快だった。
しかし、その時だった。誰かに声を掛けられた。
「あれー、この前の人じゃないですか?」
思わず振り返ると、初日に出会った追跡獣の女性だった。
「電話番号渡したのにどうして連絡くれなかったんですか?」
一瞬で、女性の上から下までチェックする。前回以上に僕好みだった。
「いやー、ごめん。実はあの日に、あの紙をどこかに落としちゃってさ。連絡したかったんだけど、出来なかったんだよ。でも、ここで再開できたのは運命だと思う。悪いけどもう一回教えてくれないかな?」
女性は嬉しそうにして、もう一度僕に番号を教えてくれた。
持っていたメモ帳に番号を記録した。
この街でスマホを買っても、この国でしか使えないので僕達はスマホを持っていない。
そして、僕は女性と立ち話をすることにした。
すると、ビルドに対して怒りが湧いてきた。
普通、女が一人に男が二人いるとして、そのうちの男女両名が仲良くしていれば、もう一人の男は身を引くべきじゃないのだろうか?
ビルドは邪魔だ。
もう、どこかへ行って欲しいと思う。
ビルドは頭の回転が速い。
それくらいのことには気がついて当然じゃないのか?
このまま、ビルドがここにいると、まるで、ビルドはこの女性と僕が喋るのを邪魔したいみたいじゃないか。
失礼な奴だ。
それに今は自分にとって千載一遇の機会かもしれない。
ここ最近、僕が外へ出る度にリーシャは付いてきた。
いや、僕を監視した。
そして、僕がちょっと他の女の子を見ただけで怒るのだ。
女の子の乳、尻、太ももを見ただけで、僕のほっぺたを引っ張るのだ。
決して、触ったわけじゃない。でも、触りたい。
しかし、今ならリーシャの監視が解かれている。これはチャンスだ。
すると、目の前の女性がバッグを漁り始めた。
「今日は二人なんだね。じゃあ、これも渡して置くね」
そう言って、名刺を渡された。
ビルドと一緒に名刺を見た。
「「……」」
女性は、笑顔のまま、こう言った。
「じゃあ、次はお店で待ってるから~!!」
女性が去っていく。
ビルドが寂しそうな顔をしてこちらを見た。
思わず、顔を逸らした。
名刺にはこう書いてあった。
〝女装パブ、アンジェリーナ〟
ビルドが一言言った。
「楽しい男子会だったな」
こちらも気力をふり絞って返答する。
「ああ、そうだったな」
……。
僕には、やはりリーシャしかいないと思った。
この三週間、皆はそれぞれに時間を楽しんでいたようだった。
何だかんだで、精神的に緊張していた状態から解放されたわけだ。
それに、新しい街で見たこともない技術に触れたのだから、皆面白かったのだと思う。
正直、僕から見て、カルディさんも含めて、皆堕落した生活をしていたように思う。
だらしない。
僕はそういう生活は嫌いだ。
今日も朝起きて、皆でご飯を食べた後、僕はビジネスホテルの一室でいつものようにベッドに寝転んでいた。
魔道板という名のタブレットを起動する。毎日ログインしないとゲームのガチャポイントが貰えないので、しょうがなく魔道板を起動した。
ガチャを回してみると、やっぱりハズレだ。
クソが。確率操作してんじゃねーの?
複数のゲームを掛け持ちでやっているので、それぞれのアプリを起動して、無料でガチャを引いていくが、一つも当たらない。
持ち金の大半をガチャに使いたいところだが、流石にそれをやると、リーシャ達の今後の食費に響くからやれない。どうしようかと考えていると、ドアがノックされた。
ベッドに寝転がったまま〝どうぞ〟と、ぶっきらぼうに言うとカルディさんが入って来た。
ちなみにこのビジネスホテルはオートロックじゃない。
てっきりリーシャだと思ったが、カルディさんだったので、慌ててベッドから起き上がった。
カルディさんが近くにあった椅子に座ってから話し始めた。
「この一週間、私が示したサイトは一通り確認してくれたかな?」
「……はい。大丈夫だと思います」
嘘を付いた。ゲームをしていて全く見ていなかった、とは言えない。
「じゃあ、それを前提に話を進めよう。たしかに君の云う通りだった。羽翼種の島で、この魔道板を使おうとすると、それなりの通信網を構築する必要がある。この通信網の基幹技術については人族の国へ行かないと手に入らないらしい。この都市も、人族からその技術を提供してもらったようだ。それに、この魔道板を作るにあたって、ドワーフ種の力を人族は借りているらしい。やはり私達も一度は人族の国へ行った方がいいだろう。君はどう思う?」
「……はい。確かに僕もそう思います」
「では出発日時についてはいつがいい? 君がいれば今後はリーシャさん達に危険が及ぶこともない。ただ、彼女達とビルド君は随分とこの街を楽しんでいるようだ。出発日時は君たちが決めてくれて構わない。私とファードスは、毎日午後は外で訓練をしている。私たちが見つからない時は都市外を魔力探査してくれ」
「……はい。カルディさん、すみませんでした」
カルディさんが怪訝そうな顔をした。
「どうしたんだい?」
「あ、いえ、なんでもありません。では出発日時が決まりましたら連絡します」
それを聞くと、カルディさんは不思議そうな顔をして部屋を出て行った。
僕はバカだ。
地球にいた頃も、ガチャにハマって、いざ現実に切羽詰まって我に返る経験をしたが、まさかこちらへ来て同じことを繰り返すとは思わなかった。アンポンタンだ。
魔道板で人族の国について、調べてみることにした。様々な情報を見る。
魔族の体だと情報処理能力も早いようだ。あっという間に情報を理解していく。
どうやら、ベゼルの云った通り、確かに今人族の国にはゼムドという強い魔族がいるらしい。それが数年前に人族の国に現れて、当時、人族の国を支配していたグリフォンから、人族を解放したようだ。そして、それを同時期として、世界を支配していた龍族とこのゼムドが手を組んで、人族の技術を各国へ輸出し、商業的・経済的な発展を世界全体にもたらそうとしているらしい。
ただ、僕はこの過程で羽翼種にとってマズイ事態に気づいた。
ゼムドは人族の国で飛行機を開発しているようだ。これが実現するとマズイ。
なぜなら、羽翼種は運搬を主な業務としている。
仮に飛行機が実現してしまうと、大型の輸送が可能になってしまう。羽翼種の仕事が減ってしまうだろう。現在、人族の国と羽翼種の国は離れている。飛行機が実現しても急に仕事が無くなるわけではないだろうが、これはまずいと思った。
産業革命後、急激に仕事を奪われて廃れた都市があったことを思い出す。
ただ、ゼムドがやろうとしていることを否定するわけではない。
世界全体の経済的な豊かさを実現しようとしている以上、そのせいで一部の種族が不利益をこうむるのはある種の競争原理に負けたわけであり、それを責めても仕方ないと思った。
今のうちに羽翼種も自分たちの産業構造を変革しないとダメだろう。
その辺のことをカルディさん達に伝えなければいけない。
そんなことを考えながら、ゼムドについて調べていると、魔族にしては、学者というか政治家というか、随分と変なことをしているようだ。
まぁ、一般的に見れば立派なことをしているとしか思えない。ベゼルは、同じ魔族でも微妙な人格だが、ゼムドはマシそうだ。確かに、僕の異変を治す方法を見つけてくれるかもしれない。ベゼルの云う通り、人族の国へ行くしかないだろう。
ただ、そこで、ゼムドについて書かれたある記事に気づいた。
その記事を見ると、ゼムドは〝女たらし〟らしい。
急にゼムドが悪人に思えてきた。
僕は片っ端から女性に手を出そうとするやつは嫌いだ
屑だと思う。
女を囲おうとするような人間は嫌いだ。
そんなことを考えていると、ベゼルが話しかけてきた。
『その記事は間違いだな。主はそういう人格ではない。それは人族が勘違いしているだけだな』
驚いた。ベゼルは、何があっても他人について評価したりすることはない。というか、基本的に僕の生命の危機に関する情報と、元に戻るための情報しか僕には与えてくれない。そのベゼルがこの記事を否定している。つまり、この記事は間違いという事になる。
「そうなの?」
『ああ、それは間違いだ。そういうことをする奴じゃない。お前と違う』
あれ? なんかベゼルは僕の事、勘違いしてないか? 僕はそんな奴じゃないぞ。
僕についての疑惑を晴らしたいと思うが、方法が思いつかない。
しょうがないので、魔道板の電源を切って、部屋を出ていくことにした。
廊下に出る。プライバシーの問題もあるからこういうところでは基本的に魔力探査をしないことにしている。ビルドの部屋へ行ってみることにした。
ドアをノックしてから、部屋に入った。ビルドも僕の部屋へ入る時は合図を確認せずに入ってくる。男同士だから、その辺は気にしていない。
部屋に入ると、ビルドもベッドに寝転がって魔道板を弄っている。
だらしない奴だ。
「ビルド、カルディさんが出発日時をいつにするか、だって」
ビルドが起き上がる
「え? もう行くの?」
「うん。まぁ、色々あって……」
ビルドは僕の表情を窺いつつ、返答してきた。
「俺としては、もうちょっとこの街で遊んでから、人族の国を目指したいけど、そんなこと言ってると、いつまでもこの街から出ないままになりそうだ。たしかに、そろそろこの国を出るか」
それは僕もそう思う。ただ、ここでふと思いついた。
「じゃあ、どうする? 皆でパーっと最後に遊ぶか?」
「ああ、いいね。じゃあ、女子二人にもそう伝えて来いよ」
「分かった。じゃあ、僕は今から二人のところに行ってくるわ」
そう言ってから、ビルドの部屋を出て行った。
リーシャの部屋に行くことにした。
リーシャのドアをノックする。しばらくして、部屋のドアが開いた。多分、誰か確認してからロックを外したのだろう。女の子としては当然の対応だ。
「どうしたんですか?」
「今、カルディさんやビルドと話していたんだけど、もうそろそろ人族の国を目指すことになった。リーシャ達はそろそろ出発しても問題ない?」
リーシャは少し考えこんでいる。そしてこう言ってきた。
「その、できれば、少し時間が欲しいのですが……」
「え? 何かあるの?」
「できれば、服とかを最後に買いたいと思って……」
「ああ、いいよ。じゃあ、僕がいつもみたいに付き合えばいいの?」
「あ、いえ、その出来ればそれはセリサと一緒に行きたいかと……」
そうか。それもそうだな。僕が付いていくのはおかしい。
「分かった。じゃあ、いつ頃出発にすればいい?」
「明日でもいいですよ。買いたいものは決まっているので」
僕はここである事に気がついた。
なんとなくだが、男同士でバカ遊びがしたい。
リーシャ達が女子会をするなら、僕たちは男子会をすればいいのではないだろうか?
「そうか。分かった。じゃあ、リーシャ達は女同士で楽しんでくれ。ただ、明日の出発には遅れないでね」
そう言って、その場を離れたのであった。
ビルドの部屋に戻って、リーシャ達は買い物に行くという話をして、僕たちは二人で遊ぼうという話になった。
そして、ビルドと二人で街に繰り出していった。
*****************
ビルドとどこへ行くか話し合ったが、結局ただのゲームセンターに行くことにした。
ゲームセンターに行って、後先考えずにガンガン、ゲームに金を使っていく。二人とも最後の日ということで、テンションが上がっているせいか、くだらないことで大はしゃぎしながら、金を使っていった。
そして、ここで気づいた。実は、僕は魔道板のゲームガチャで、課金をそれなりにしてしまっていた。
期間限定の50連ガチャとかが割引になっていると、つい金を使ってしまうタイプだった。
ただ、今になって思うと、そんなくだらないことに金を使わず、最初からビルドとこうしてゲームセンターで遊んだ方がずっと有意義だったと思う。バカなことをしてしまったと思う。
ゲームセンターで一通り騒いでから、コンビニへ行って、ビルドがジュースを買いに行った。すると、コンビニの前にはガシャポンがあった。そして、小学生低学年くらいの男の子たちが、それを引いていた。それをじっと見ていた。
ビルドがコンビニから出てきた。ジュースを飲みながら、僕に話しかけてきた。
「何を見ているんだ?」
「子供たちがガシャポンやってんだよ」
「あー、クジか。なるほどね。まぁ、子供の頃には金があるといいと思うわな」
「なぁ、やるか?」
「やりますか」
というわけで、ビルドと二人でガシャポンに有り金を片っ端から投入していった。
周囲で男の子たちが騒いでいる。獲れたガシャポンは全部子供たちにあげた。
子供たちは大声を上げて騒いでいる。
周囲の人達は何事かとこっちを見ているようだ。
アホなことをしているのは分かっていたが、面白かった。
しかし、二人で一通り、バカをやった後にビルドがニヤニヤし始めた。
なんだろうと思っていると、急にこう言い出した。
「なぁ、ちょっと女の子に声掛けてみないか?」
思わず呆れてしまった。
別にビルド一人で声を掛けるならいいと思う。
だけど、僕にはリーシャがいる。
それについてはビルドも知っていることだ。
そんな僕に対して、そんなことを言うのはおかしいし、まして僕にはリーシャがいるのに、他の女の子に声を掛けるような奴に思われているのが不愉快だった。
しかし、その時だった。誰かに声を掛けられた。
「あれー、この前の人じゃないですか?」
思わず振り返ると、初日に出会った追跡獣の女性だった。
「電話番号渡したのにどうして連絡くれなかったんですか?」
一瞬で、女性の上から下までチェックする。前回以上に僕好みだった。
「いやー、ごめん。実はあの日に、あの紙をどこかに落としちゃってさ。連絡したかったんだけど、出来なかったんだよ。でも、ここで再開できたのは運命だと思う。悪いけどもう一回教えてくれないかな?」
女性は嬉しそうにして、もう一度僕に番号を教えてくれた。
持っていたメモ帳に番号を記録した。
この街でスマホを買っても、この国でしか使えないので僕達はスマホを持っていない。
そして、僕は女性と立ち話をすることにした。
すると、ビルドに対して怒りが湧いてきた。
普通、女が一人に男が二人いるとして、そのうちの男女両名が仲良くしていれば、もう一人の男は身を引くべきじゃないのだろうか?
ビルドは邪魔だ。
もう、どこかへ行って欲しいと思う。
ビルドは頭の回転が速い。
それくらいのことには気がついて当然じゃないのか?
このまま、ビルドがここにいると、まるで、ビルドはこの女性と僕が喋るのを邪魔したいみたいじゃないか。
失礼な奴だ。
それに今は自分にとって千載一遇の機会かもしれない。
ここ最近、僕が外へ出る度にリーシャは付いてきた。
いや、僕を監視した。
そして、僕がちょっと他の女の子を見ただけで怒るのだ。
女の子の乳、尻、太ももを見ただけで、僕のほっぺたを引っ張るのだ。
決して、触ったわけじゃない。でも、触りたい。
しかし、今ならリーシャの監視が解かれている。これはチャンスだ。
すると、目の前の女性がバッグを漁り始めた。
「今日は二人なんだね。じゃあ、これも渡して置くね」
そう言って、名刺を渡された。
ビルドと一緒に名刺を見た。
「「……」」
女性は、笑顔のまま、こう言った。
「じゃあ、次はお店で待ってるから~!!」
女性が去っていく。
ビルドが寂しそうな顔をしてこちらを見た。
思わず、顔を逸らした。
名刺にはこう書いてあった。
〝女装パブ、アンジェリーナ〟
ビルドが一言言った。
「楽しい男子会だったな」
こちらも気力をふり絞って返答する。
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