上 下
52 / 63

幕間 その4 新技と海の危険

しおりを挟む
 

 料理を皆で食べた後、午後はいつものように砂の海へ遊びに出かけようとした瞬間だった。
 ベゼルが話し掛けてきた。

『おまえがウィンドスラッシュと呼んでいる技は、溜めている時間が短い。もっと長くすることを考えろ』

 あ、っと思った。
 そうか。
 確かにそうかもしれない。

 遊びに行くのを止めて、新技の開発に勤しむことにする。

 午後は誰もいない砂漠へ出掛けていくことにした。
 砂漠に到着する。
 迷惑が掛かるといけないので、周囲に誰もいないことを確認して、砂漠に一人立つ。

 そして、刀を鞘に納めたまま、鞘の中で風魔法を使う。しばらく刀に風魔法を纏わせるが、まだここで刀を鞘からは出さない。グッと腕力で抑え込んで、鞘内部でさらに風魔法を使って内部の圧力を高めていく。そして、もう十分限界というところで、一気に刀を抜いて正面に向かって、真横に空気を切り裂いた。

 物凄い風圧がして、刀を振り切った先に衝撃波が飛んで行った。
 ウィンドスラッシュの強化版だ。
 正直、これがあれば、先の守護者との戦いももっと楽だったかもしれない。

 射程圏は数百メートルあるかもしれない。
 が、タメる時間がかなり掛かりそうだ。10秒近く掛かるかもしれない。
 でも、今後実戦で、かなり使える気がする。

 カルディさん達に敵を食い止めてもらい、僕がその間にタメて、一撃を放てば、一気に敵を掃討できるかもしれない。
 技の名前は〝横一文字〟にしよう。分かりやすい。

 一人で実戦をやってみたくなったので、フラフラと砂漠に出ていくことにした。

 砂漠はかなりの高温だった。この体でなければとても耐えられないだろう。
 適当に魔力探査を繰り返して、砂漠を走っていく。
 ただ、帰る方向だけには気を付けなければいけない。

 すると、その時だった。こちらへ向かって、何かが地面を這ってくる来る気配がした。

 鞘から刀を抜いて、すぐに戦闘態勢を取った。
 すると、何か丸い物がこちらへ向かってくる。直径五メートルくらいの砂の塊だ。と思ったら、その砂の塊がこちらへ飛んできた。

 慌ててこれを避けて様子を見る。

 すると、何か分かった。フンコロガシだ。
 フンコロガシは直径が三メートル、高さは二メートルといったところだ。が、よく見るとフンコロガシが転がしている球の中には何か生物の死骸が含まれている。多分、捕まえたモンスターをこうやって運んでいるのだろう。負けたら、僕もああなるらしい。

 すぐに相手との距離をとりながら、ウィンドウスラッシュを放った。しかし、ガチンという音がして弾かれた。 すると、フンコロガシの表面が黄色に光った。雷魔法だろう。この魔法は発動に時間が掛かるが、今の僕だと、以前のファードスさんの様に、土魔法で避雷針を作ることは出来ない。ただ、時間が掛かるなら、早速新技を試せる。

 そう思って、フンコロガシに向かってダッシュをして、十メートルくらいまで近づき、そこでフンコロガシの上へ飛び上がる。そして、そこで、ガルレーンさんから教わった土魔法を使って、刀の重量を上げて、風魔法を使ってさらに加速する。フンコロガシにぶつかる瞬間目いっぱい刀を打ち下ろした。

 ――ドゴン――

 物凄い音がして、フンコロガシの頭部の外殻が破壊されて、その破片が周囲に飛んでいった。同時にフンコロガシが発動しようとした雷魔法の魔法陣が解除されていく。絶命したようだ。

 ガルレーンさんに教わったこの技はかなり使えるようだ。
 今までに比べると破壊力が上がっている。
 単純計算だと、刀の重さの倍数で破壊力が増していくことになる。

 技名は〝天翔土天〟にした。

 フンコロガシの魔核を取り出して食べていく。ここ最近、魔核を食べていないので魔力を補給しておかないといけない。

 一応、屋外にいるので警戒態勢をとっている。今は三分に一回魔力探査をしているが、ここで、僕の足元の地下に何かがいて、こちらへ向かってくるのを感じた。

 すぐにここを離れることにした。五十メートルほどダッシュで移動する。

 そして、しゃがんで様子を観察することにした。

 同時に刀を鞘に納めて、横一文字を使えるようにしておく。

 ――ボコン――

 凄い音がして、地面から〝何か〟が出てきてフンコロガシの死骸を一飲みにしてしまった。
 それを僕はゲームの世界でよく見たことが会った。
 〝サンドワーム〟だ。
 先端部分が四つに分かれて、フンコロガシを捕食していた。直径が五メートル、長さは見えているところで十メートル近くはあるか。見ていると、飲み込んだフンコロガシが蠕動運動と共に内部へ送り込まれていくのが分かる。
 
 サンドワームはフンコロガシを食べた後に、フンコロガシが転がしていた球に近づいて様子を見ている。これも食べるつもりのようだ。
 フンコロガシが球を飲み込もうとした瞬間に、横一文字の一閃を放った。

 僕が刀を振りぬくと同時に、三日月状の波動がサンドワームに向かっていく。

――シュパン――

 甲高い音がして、サンドワームの上部を切り落としていた。
 近づいて様子を見る。

 サンドワームの表皮はかなり硬い感じがした。砂漠の高温や夜間の低温に耐えられるように進化したのだろう。 サンドワームの魔核は頭部にあったので、切り裂いて魔核を取り出して捕食する。少し、自分の基礎能力が上がったかもしれない。

 暫くそこに立っていたが、また地中で何かが動いて、こちらへ来る気配がする。
 多分、サンドワームの別個体だろう。おそらく縄張りがあって、そこにいたはずのサンドワームが死んだので、その縄張りを奪うか、あるいはこの個体を捕食しようとしているのかもしれない。

 このまま倒し続けてもいいかが、もし、他のモンスターも出てくるとそれなりに面倒だ。
 午後は皆で遊ぶ約束もしている。とりあえず街へ戻ることにした。

*************

 翌日ファーラーン国の国境へ向かうことになったが、ここでビルドと最後の決着をつけることにした。以前の村でのカードゲームの敗北と、グレートバイソンの食肉の恨みを果たさねばならない。闘争心が湧き上がって来た。
 先に皆には水上バイクで先に国境付近へ行っていてもらい、僕とビルドが後から追いかけることになっていた。

「ビルド、お前とはここで決着をつけなければいけない。覚悟はいいな」

「いや、おまえ、何寒いこと言ってんだよ。早く始めるぞ」

 そう言って、ビルドは水上バイクにまたがった。空気の読めない奴だ。
 勝負に際しては、魔力の使用は禁止だ。純粋に水上バイクの腕だけで勝負することになる。時間は約三時間の勝負になる。それなりに長丁場だ。

 その辺にいた若い兄ちゃんに、スタートダッシュの掛け声をお願いした。

「レディゴー」

 言われて、一気にバイクのアクセルを吹かす。
 ここ最近乗りまくっていたので、どう走ればいいかは体が覚えている。遠くを見ながら、大きな波が近づくようなら、やや速度を落とす。そして、波で弾き飛ばされないように注意しながら波でジャンプする。また、大きすぎる波の場合は波が押し寄せてくる横をバイクで走り抜けて、波の力が弱ったところで向きを変える。サーフィンで大きな波に乗っている感じで水上バイクを走らせねばならない。

 ビルドと二時間近く走り続けたが、互角だった。

 僕とビルドはそれぞれの体重はそれほど変わらない。僕は戦闘状態に入っている時は、多分重量が増加しているのだろうが、通常時はビルドと体重は同じだろう。そのため、水上バイクでの速さ差は純粋な技術だけになる。

 ブオオオという水上バイクの心地いい音に合わせて、波に乗って行く。
 それからさらに三十分ほどした時だろうか、僕は砂の砂漠の中に何かいるのに気付いた。

 ――ヤバイ。何か巨大な生物がいる――

 この地帯はギルド管轄で安全地帯のはずだった。が、何かの拍子に海洋生物がこのルートに侵入したのだろう。ビルドに水上バイクで近づきながら、大声を掛ける。が、ビルドは気づいていない。楽しそうに前を見ている。

 ビルドは気づいていないが、もう目前まで海洋生物が足元へ迫っていた。
 水上バイクは捨てることにした。
 水上バイクを思い切り蹴って、自分に風魔法を使って、ビルドの所へ飛ぶ。
 ビルドの水上バイクの後部、二人乗り用の場所に着地した。
 ビルドは驚いてこちらを見ている。が、僕はすぐにビルドに結界魔法を重ねていく。
 同時にビルドを水上バイクから引き剥がした。
 が、この時、海洋生物が地上へ姿を現した。物凄い砂の波がこちらへ押し寄せてきた。ビルドを掴んで僕は砂の中へ飲まれて行った――

**********

 ビルドと水上バイクで競争していると、何かの海洋生物が通りかかった。
 その海洋生物はかなりの巨体だった。そして、それが、地上に向かって浮上したようだった。物凄い風圧と共に、砂漠の海がその形を変えて、波となって僕達の方へ押し寄せてきた。僕はビルドに結界魔法を重ね掛けしながら、その巨大生物を横目で見ていた。

 〝サウンドリバイアサン〟だ。

 厳密にはサウンドリバイアサンの子供だろう。
 水上バスで僕達が見た個体に比べて遥かに小さく、また、顔立ちやその鱗も脆弱だった。
 が、今の僕達からすると、信じられないくらいの巨躯だった。

 飲み込まれたら死ぬだろう。だが、もうこの場ではどうすることもできない。ビルドが仮に風魔法を使って飛んだとしても僕達を餌と認識すれば飲み込もうとするだろう。それはギルドでも言われていたことだった。だから、上空を飛ばない移動手段として、水上バイクが貸し出されているわけだ。
 しかし、その水上バイクの航路にサウンドリバイアサンが現れてしまった。

 最後に、サウンドリバイアサンの姿を見ながら、僕達は砂中へ引き釣りずり込まれていく。
 体に物凄い圧力が掛かっていくのが分かる。この砂の砂漠の砂は粒子がかなり細かい。

 また、魔素が粒子の中で動いており、流動性が高い。だから、海の様に砂が動くわけだが、それでも海に比べれば圧力は高いだろう。また、深いところまで引きずり込まれたら動くのは困難だ。それにこの砂漠にはサウンドリバイアサン以外のモンスターもいるはずだ。どうしても砂中奥深くまでは引きずり込まれるわけにはいかない。

 魔力探査をすると、サウンドリバイアサンの子供の気配がする。ここから、1キロメートルは離れたところにいる。ただ、幸い僕達の付近にはモンスターはいないようだ。
 
 けれども、ビルドが心配だ。僕の体はこの程度の圧力なら損傷はない。ビルドも獣族の中位種だ。多少の圧力ならダメージはないはずだが、羽だけは弱い。
 羽が損傷すると今後の旅に影響が出る。そう思って、ビルドの羽に、重点的に結界魔法を張っておいた。

 ビルドの様子を窺いたいが、砂の中では様子が分からない。
 それにビルドは砂を飲み込んでいるかもしれない。僕と違って、ビルド達は肺呼吸の重要性が高い。口から酸素を取り込まねばいけない。僕は、とにかく地上へ向かって風魔法を発動していく。自分の残りの力を振り絞って、砂上を目指した。

 ――ボン――

 ビルドを抱えたまま砂上に出ることが出来た。

 ビルドの顔を見る。
 表情はあるが、目が虚ろだ。

 ビルドは砂上へ出たのを確認すると、呼吸をしている。ただ、多少の脳震盪があるのかもしれない。
 しばらく、そこでビルドに呼吸をさせてやった。

 そして、ビルドの呼吸が落ち着いてから、僕はビルドを抱えたままその場から泳ぎ出した。
 風魔法を使って砂上の上を加速しながら泳いでいく。
 この地帯は一応安全地帯だ。上空を飛ばなければ、砂上を多少は荒らしても他の海洋生物に襲われることはないと判断して、国境を目指す。

 それから一時間以上経って、カルディさんとファードスさんが水上バイクで様子を見に来てくれた。
 ビルドをファードスさんに預けて、僕はカルディさんの水上バイクに乗って、国境を目指した。
 国境付近い到着して、ビルドを下ろす。リーシャ達も心配そうに見ている。

「何があったんですか?」

 リーシャにそう言われた。

「サウンドリバイアサンの子供に遭遇した。偶然だろうけど、水上バイクの航路に侵入したみたいだ。僕とビルドは間一髪だった。もう少しズレていたらかなり大変なことになっていたかもしれない」

 皆が困惑した表情をした。

 カルディさん達は僕達があまりに遅いから、心配して様子を見に来たようだ。僕達なら三時間以内に到着しているはずなのに、それがない。おかしいと思ってくれたらしい。

 ビルドの様子が心配だったが、ビルドは幸いあの海に飲まれる瞬間、大きく空気を吸って、その後、息を止めていたようだ。良い判断だ。

 ビルドは、珍しく殊勝な顔をして僕にお礼を言ってきた。死ぬかの瀬戸際を体験したので、冗談を言いたい気分ではないようだ。それはこちらも同じだが……。

 この後、ビルドを僕は病院へ連れて行った。一応精密検査を受けさせた。万が一の事があるからだ。しかし、結果としては問題が無いようだ。まぁ、流石に中位種だけはあるか。

 カルディさんがギルドに事情を説明しに行ったが、ギルドから謝られたそうだ。
 あの海域には、過去にサウンドリバイアサンが来たことはないらしい。また、あの海域にはそれなりの結界魔法が張ってあるとのことだった。しかし、今回のサウンドリバイアサンの子供はそれを突破していたことになる。今後はギルドから国へ申し出てもっと強い結界を張るつもりという事だ。

 まぁ、ここから先は僕達の関わる話ではないだろう。

 結局国境付近の街で一泊してから、翌日出国手続きをすることになってしまったのだった。
しおりを挟む

処理中です...