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幕間 その6 僕の推理
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皆にギルドからの依頼に疑惑があることを伝えた。
おそらく、今回の件にギルドは一枚噛んでいる。
皆は驚愕した顔をしてこちらを見ている。
ビルドが質問してきた。
「おい、どういうことだ? ギルドが冒険者を陥れてるってことか?」
「ああ、多分そうだと思う」
カルディさんがこちらを見てきた。
「どういうことか説明してくれないかな?」
「今回のギルドからの依頼ですが、畑が襲われ農作物の収穫に影響があるから、そのモンスターの退治をしてくれ、という話でした。が、ここまで来ても一切畑が見えません」
ビルドが質問してきた。
「だけどさ、この先に畑があるかもしれないじゃん。さっきカルディさんがそう言ってたぞ。今は畑がないだけかもよ?」
「いや、それでもおかしい。この先に畑があるなら、ここまでの道がもっと舗装されていなければいけない。ここへ来るまでの道は狭く、木々が伸びていた。畑で作物を収穫したとして、運搬出来ないのでは意味が無い。
それに、普通に考えれば、畑までの道がある場所をギルドは教えてくれるはずだ。
畑に敵がいることは分かっている。冒険者の負担を減らすためにも、途中までは舗装された道を使って移動させ、畑に到着する直前で、畑を迂回して様子を見るように指示すればいい。しかし、今回はそうではない。だから、おそらくこの先に、畑はない」
そう言うと皆が考え込んでいる。
「じゃあ、ギルドが仕組んだって証拠は?」
「あの獣族の発言とここでのヒヒの発生具合だ。あの獣族は、荷物を置けと言った。それに〝今回のは割と面倒だ〟と。あいつらが恒常的にここを通る者を襲っていたのは間違いない。
ただ、ギルドに指定された通路を通ってここへ来ると、ここは綺麗に円形に舗装された場所だ。そして、その中へ入ると、周囲から僕達は敵に待ち伏せされているように襲われた。しかも、大多数の個体だった。偶然にしてはおかしい。
ここを通る人がたまたま襲われたというよりは、〝誰か〟に導かれてこの場所を訪れた〝者〟を襲っていた可能性が高いと思う。誰が来るか分からない場所で、ヒヒ百匹が常時武装しているなんてことはありえない。
それにギルドの依頼にあった〝絶対に周辺を傷つけるな。傷つけた場合は多額の賠償金があり得る〟というのは冒険者に力を発揮できないようにさせるのが目的だと思う。
あとは、ギルドが僕達にこの依頼を振ってきたのは、パーティの人数が少ないのと、僕達が街の地理を聞いたことで身元が不安定だと判断したのだろう。殺してしまっても捜索依頼が提出されない」
「犯人はギルドなのか? ギルドに嘘の依頼をしてこの場におびき寄せた者がいる可能性は? ギルド自体も騙されている可能性は?」
「その可能性もない。カルディさんの判断では地図は間違っているという事だ。
地元の人間、ましてギルドの従業員からすれば、僕達冒険者に渡す地図が正確かそうでないかくらいは判断が付くだろう。
犯人達からすると、もっと先に畑があるように思わせて油断させるために、嘘の地図をギルド経由で渡しているのだろう。もちろんギルドもグルのはずだ」
ビルドが言う。
「マサキの言うことは、確かにその通りなのかもしれない。しかし、仮にギルドとあの犯人が結託していたとしても、僕達にはそれを証明できない。犯人達のボスはすでに殺してしまっている。犯人に訊くことができないし、それに木も切っている。違約金が発生するかもしれない」
「ああ、僕もそう思う。だから、一人でこの先にある犯人のアジトへ行ってみようと思う」
そう言うと、また皆が驚いた。が、僕は続ける。
「あの犯人の一味はおそらくアジトに帰っているはずだ。それに今、ボスが殺されたとなると、拠点を変えようと焦るはず。なら、その隙を突いて、残りの犯人を取り押さえればいい。そして、その犯人にギルドと関係があると証言させる」
「でも、一人で行くのは危険じゃないか?」
「いや、一人の方がいい。たくさんの人数で向かうと、返って相手に気付かれやすくなる。それに地上での移動速度は、このメンバーの中では僕が一番速い。仮に、何かあってもすぐに逃げることはできる。
それに、このままギルドへ帰ったとしても、今回の事件がギルドによって仕組まれているものなら、難癖を付けられて報酬が払われないかもしれない。場合によっては違約金を払わされる可能性もある。だから、犯人を捕まえて、ギルドの不正を証明したい」
ガルレーンさんが真剣な顔をして話し掛けてきた。
「なら、俺も一緒に行こう。俺がさっき倒した奴の相方はまだ生き延びている。あれを捕まえることが出来ればギルドの不正を暴けるかもしれない。それに兄ちゃんを一人で行かせるのは流石に危ないだろう。俺も地上でなら速く動ける。カルディとファードスは、羽翼種の三人を守った方がいいだろう。ここで待機だな」
僕はガルレーンさんに頷いてから、話し掛けた。
「確かに僕一人よりは、ガルレーンさんと一緒に行って犯人を捕まえた方が良さそうです。
リーシャ達に何かあった時のことを考えると、このまま犯人を全員で追うのは得策ではないと思っています。ガルレーンさんの仰る通り、カルディさん達にはここに残ってもらって彼女達を警護してもらうのがいいと思います」
ガルレーンさんが僕を見た。
「よし、じゃあ、追跡しよう。俺が先に行く。罠の類を確認しながら追いかけることになる。おそらくあの手の連中はアジトに近づくに連れて罠を仕掛けているはずだ。幸い、俺の種族は世界を回る種族だけあって、罠の探査・解除についてはそれなりの知識がある。兄ちゃんは俺の後に付いてきてくれ」
そう言って、ガルレーンさんはすぐに走り出した。僕もすぐについて行った。
ガルレーンさんのおかげで順調にアジトへたどり着くことが出来た。ガルレーンさんは何かの追跡魔法が使えるし、罠解除の魔法も使えるようだった。相手のアジトへたどり着くまで30個程の罠を解除していった。
ガルレーンさんが言う。
「もしかすると、俺達が罠を解除しているのは相手にバレているかもしれない。俺達の追跡を知られて、既に逃げられていたらその場合は仕方ないな」
僕もそれに無言で頷く。
相手の住んでいるアジトは地面の下だ。一見見ると何も無いように見える地面だが、ガルレーンさんからすると、そこがおかしいという事だった。
「どうします?」
「この先にいるはずだが、ここから先の魔力探査がうまく機能しない。多分、何かの魔道具で魔力探査できないようにしている。おそらく内部に罠はないだろう。あるかもしれないがここに来るまでのような数の罠があるとは思えない。毎回入る度に解除するのは面倒すぎる。だから、ここを開けたら、一気に中を走り抜ける。中にいる奴は殺してしまえ。犯人は一人捕まえられればそれでいい」
僕は頷いた。
そして、ガルレーンさんが地面を両剣で破壊して、内部に先陣を切って落下していく。
内部へ入ると、十メートルほど地面へ落ちていく。すると急に、ガルレーンさんが叫んだ。
「壁を蹴って飛べ」
そう言って、ガルレーンさんは壁を蹴って横へ飛んだ。僕も同じように壁を蹴った。
そして、着地してから下を見ると、鉄で出来た槍が何本もあった。剣山のようになっている。
あのまま普通に着地したら死んでいるかもしれない。
ガルレーンさんをジト目で見る。
「いやー、悪い、悪い。罠は無いと思ったんだよ」
そう言ってガハハと笑った。
二人で、そのまま横の通路を走って行く。地下通路内部は洞窟の様になっていて、通路の横には横穴がいくつもある。1つ1つの横穴がどこかへ通じているのかもしれない。
適当に二人で警戒しながら、様子を見ていくと、横穴はどこかへ通じているというよりは部屋の役割を果たしているようだった。
一つの部屋の前で二人の足が止まった。
そして、その部屋には大量の骨があった――。
************
二人で見つけた部屋の1つに大量の骨がある。二人で近づいて、それらの骨をよく見ると、動物の骨ではなくて人骨のような気がしてきた。頭蓋骨の形状からすると、動物ではない気がした。
ガルレーンさんが近づいてそれを観察している。ふと、僕は、部屋の奥へさらに目を向けた。すると、大量のカバン等が空になった状態で散乱している。
ガルレーンさんもカバンに気づいたようだ。
「こりゃ、確定だな。多分、ギルドに仕組まれてあの場に誘い込まれた連中が殺されて、喰われた骨の残りカスがこれだ。それに奥に置いてあるカバンは中身を抜かれて捨てられているようだ。ヒヒ共が着ていた装備は、多分、冒険者の物だろう」
僕も同じ考えだった。だが、ガルレーンさんに判断を仰ぐことにした。
「どうします?」
「そりゃ、犯人を捕まえるしかないだろう。ただ、ここは敵陣だ。俺達も気を付けた方がいい。俺が先頭で、一応罠に警戒しながら進む。もし、万が一俺がやられるようなことがあれば、俺は置いていけ。兄ちゃんが逃げることを優先しろ」
そう言ってガルレーンさんは走って行く。
魔力探査をするが、いまいち気配が探れない。やはり、何かの魔道具が作動しているのだろう。ただ、逆に云えば、敵も気付いていないかもしれない。
三キロメートルほど走ると、ガルレーンさんが足を止めた。
一つの横穴から声が複数の話し声が聞こえてくる。
「お前ら急げ、もしかしたら追手がくるかもしれない。もうボスには頼れない。このアジトは捨てるしかない。早めに荷物を纏めてここを離れるぞ」
「やってますけど、急に出るったって無茶ですよ」
「それに来ますかね? ここまで来るには相当罠を解除しないといけませんよ」
「いや、ギルドの方に捜査が入って、あいつらが喋ったら、国が軍を送ってくるはずだ。そうなるとマズイ。早めにこの場を離れた方がいいだろう」
僕とガルレーンさんは顔を合わせた。そして、二人で内部に一気に斬り込んだ。
内部にいたのは七人だった。
一人は先ほど逃がした奴だった。ガルレーンさんは、荷物を纏めていた人をいきなり斬った。というか、叩き潰した。それを見て、周りの連中が慌てている。数人は武器すら持っていない。そして、ガルレーンさんは迷わず、武器を持っていない連中を叩き潰していった。すると、ここで、逃がした奴が命乞いをしてきた。
「待ってくれ。残り全員、投降する。命だけは助けてくれ」
が、ガルレーンさんはその命乞いした奴以外を無表情で潰していった。
そして、最後の一人だけになった。
僕は流石に止めた。
「ガルレーンさん、待って下さい」
「分かってる」
そう言うと、ガルレーンさんは無表情で剣の横腹で最後の一人を叩いていく。相手の腕と足の骨を折るつもりのようだ。そして、手足の骨を四本折って、さらに顎を外して、口の中で土魔法を使って口を動かせないようにした。
思わず僕は訊いてしまった
「ここまでする必要がありますかね? 他の犯人も殺す必要はなかったのでは?」
ガルレーンさんはこちらを真剣な表情で見ている。
「兄ちゃん、あんたとはここ最近一緒にいるが、少し甘いんじゃないのか? ここは敵地だぞ。それこそ罠が仕掛けてあるかもしれない。こいつが油断を誘っている可能性だってある」
確かにそうかもしれない。ガルレーンさんは続ける。
「それに、そもそもな、ギルドの不正なんて暴く必要が無いんだよ。俺達の目的は人族の国を目指すことだ。別にギルドが今回の件で違約金を求めて来るなら、逃げちまえばいい。そんで、この街には二度と近づかなければいいだけだ」
「……」
「兄ちゃんは、あの三人を護って欲しいという事で、俺に旅の同行を求めたわけだが、俺からすると、兄ちゃんの甘い判断は、三人を殺しちまうことがあるかもしれないぞ。どうも兄ちゃんは変だ」
そう言われて、以前ベゼルに忠告された時のことを思い出した。
まぁ、そうかもしれない。が、やはり地球にいた頃のことを思うとなかなか殺すという判断に躊躇いがある。リーシャ達も、他種族が殺されることに対しては、違和感がないようだ。多分、それは、この世界では生存競争が苛烈だからだろう。ただ、僕は以前の世界のことが頭をよぎってしまっていた。実際、目の前で言葉を話す者を殺すのはかなり抵抗がある。いくら、外見が人ではないといえども。
ガルレーンさんはここで、少し表情を和らげた。
「だが、まぁ、ここでこいつらを捕まえておけば、今後、殺される冒険者はいないだろう。そういう点ではやっておいた方がいいことではある」
ガルレーンさんはキョロキョロしている。
「やはり、魔力探査がうまくいかないな。すぐにここを出よう。犯人が他にいるかもしれないが、それは後回しだ。こいつが一人いれば、後はこいつを引き渡して尋問してもらえばいい。ここはすぐに出よう。罠等があると面倒だ」
そう言って、ガルレーンさんは捕まえた犯人の首を掴んで引きずっていく。
***********
犯人については、結局ギルドではなく、国へ引き渡すことにした。
犯人の会話からすると、ギルドと国が一緒に冒険者を陥れている可能性は少ないからだ。
犯人が国を警戒しているなら、その国へ犯人を引き渡した方がいい。
それから一週間ほど、街に滞在した。すると、国とギルドから事情を説明したいと言われていた。
そして、今日はギルドに呼び出されて僕達は説明を受けることになった。
ギルドの一室に僕達は集められていた。
ギルドからはギルドマスターとギルドの職員が一人同席している。
ギルドマスターが話し始めた。
「この度はご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした」
そう言って、ギルドマスターと職員が頭を下げた。
僕が訊くことにする。
「一連の経緯を説明してもらえないでしょうか?」
「はい。ご説明します。まず、元々の発端は、当ギルドの副マスターが、冒険者の一部からお金を巻き上げようとしたのが事の始まりの様です。最初から不可能な依頼をして、それの未達によって違約金を発生させ、それを受け取る、という感じでしょうか。そのために、あのゴロツキ連中を雇っていたようですね。ところが、ある時からあの連中に、副マスターが脅され始めたようです。バレたら大変なことになるぞ、と。それで、副マスターはそれに応じざるを得なくなっていったようです」
「じゃあ、犯人はギルド内の犯人はギルドの副マスターだけだったのでしょうか?」
「いえ、内部の人間が数人関わっているようですね。いずれもギルド内で不正経理等を働いていた者のようです。ギルドの副マスターがその弱みに付け込んでその者達と冒険者を罠に嵌めていたようです」
「犯人達の処遇はどうなりますか?」
「今後の裁判次第ですが、多分、極刑でしょう。犯人のアジトから見つかった冒険者の持ち物と骨からすると懲役刑はありえないでしょうね」
その後、僕らはギルドから迷惑料と盗賊の討伐報酬について説明を受けたが、これは受け取らなかった。被害者にその金を回してやって欲しいと伝えた。
皆でギルドを出た。
ビルドが言う。
「なんか後味悪い話だな」
「ああ、僕もそう思う」
「だけど、まさかギルドがそんなことしてるとは誰も思わないよなぁ。今後はギルドにも気を付けないといけないな……。そういえば、マサキはあの時、周囲の木を切ったけど、あの時点で、ギルドの依頼がおかしいとは思っていたんだよな?」
「ああ、そうだよ。ボスの言葉を聞いて、少し考えてギルドがおかしいと思った。それに、あのまま戦い続けていると、それなりにマズイ状況になっていたかもしれなかった。今後はああいう局面が来たら、ギルドの依頼を破棄してでも皆を護るのを優先しよう」
そういうと、カルディさん達も頷いている。
正直、僕達はパーティとしてはかなり強いと思っていた。その分、多少の足枷があっても何とかなると思ったが、今後はダメだ。考え方を変えるべきだろう。
中途半端に強いとかえって慢心を招くこともあるはずだ。
それについては、僕だけではなくて、皆もそう思ったはずだ。
ふう、と思って空を見上げる。今日は晴れている。
まぁ、明日もきっと晴れるのだろう。
そう思って、ギルドを後にしたのだった。
おそらく、今回の件にギルドは一枚噛んでいる。
皆は驚愕した顔をしてこちらを見ている。
ビルドが質問してきた。
「おい、どういうことだ? ギルドが冒険者を陥れてるってことか?」
「ああ、多分そうだと思う」
カルディさんがこちらを見てきた。
「どういうことか説明してくれないかな?」
「今回のギルドからの依頼ですが、畑が襲われ農作物の収穫に影響があるから、そのモンスターの退治をしてくれ、という話でした。が、ここまで来ても一切畑が見えません」
ビルドが質問してきた。
「だけどさ、この先に畑があるかもしれないじゃん。さっきカルディさんがそう言ってたぞ。今は畑がないだけかもよ?」
「いや、それでもおかしい。この先に畑があるなら、ここまでの道がもっと舗装されていなければいけない。ここへ来るまでの道は狭く、木々が伸びていた。畑で作物を収穫したとして、運搬出来ないのでは意味が無い。
それに、普通に考えれば、畑までの道がある場所をギルドは教えてくれるはずだ。
畑に敵がいることは分かっている。冒険者の負担を減らすためにも、途中までは舗装された道を使って移動させ、畑に到着する直前で、畑を迂回して様子を見るように指示すればいい。しかし、今回はそうではない。だから、おそらくこの先に、畑はない」
そう言うと皆が考え込んでいる。
「じゃあ、ギルドが仕組んだって証拠は?」
「あの獣族の発言とここでのヒヒの発生具合だ。あの獣族は、荷物を置けと言った。それに〝今回のは割と面倒だ〟と。あいつらが恒常的にここを通る者を襲っていたのは間違いない。
ただ、ギルドに指定された通路を通ってここへ来ると、ここは綺麗に円形に舗装された場所だ。そして、その中へ入ると、周囲から僕達は敵に待ち伏せされているように襲われた。しかも、大多数の個体だった。偶然にしてはおかしい。
ここを通る人がたまたま襲われたというよりは、〝誰か〟に導かれてこの場所を訪れた〝者〟を襲っていた可能性が高いと思う。誰が来るか分からない場所で、ヒヒ百匹が常時武装しているなんてことはありえない。
それにギルドの依頼にあった〝絶対に周辺を傷つけるな。傷つけた場合は多額の賠償金があり得る〟というのは冒険者に力を発揮できないようにさせるのが目的だと思う。
あとは、ギルドが僕達にこの依頼を振ってきたのは、パーティの人数が少ないのと、僕達が街の地理を聞いたことで身元が不安定だと判断したのだろう。殺してしまっても捜索依頼が提出されない」
「犯人はギルドなのか? ギルドに嘘の依頼をしてこの場におびき寄せた者がいる可能性は? ギルド自体も騙されている可能性は?」
「その可能性もない。カルディさんの判断では地図は間違っているという事だ。
地元の人間、ましてギルドの従業員からすれば、僕達冒険者に渡す地図が正確かそうでないかくらいは判断が付くだろう。
犯人達からすると、もっと先に畑があるように思わせて油断させるために、嘘の地図をギルド経由で渡しているのだろう。もちろんギルドもグルのはずだ」
ビルドが言う。
「マサキの言うことは、確かにその通りなのかもしれない。しかし、仮にギルドとあの犯人が結託していたとしても、僕達にはそれを証明できない。犯人達のボスはすでに殺してしまっている。犯人に訊くことができないし、それに木も切っている。違約金が発生するかもしれない」
「ああ、僕もそう思う。だから、一人でこの先にある犯人のアジトへ行ってみようと思う」
そう言うと、また皆が驚いた。が、僕は続ける。
「あの犯人の一味はおそらくアジトに帰っているはずだ。それに今、ボスが殺されたとなると、拠点を変えようと焦るはず。なら、その隙を突いて、残りの犯人を取り押さえればいい。そして、その犯人にギルドと関係があると証言させる」
「でも、一人で行くのは危険じゃないか?」
「いや、一人の方がいい。たくさんの人数で向かうと、返って相手に気付かれやすくなる。それに地上での移動速度は、このメンバーの中では僕が一番速い。仮に、何かあってもすぐに逃げることはできる。
それに、このままギルドへ帰ったとしても、今回の事件がギルドによって仕組まれているものなら、難癖を付けられて報酬が払われないかもしれない。場合によっては違約金を払わされる可能性もある。だから、犯人を捕まえて、ギルドの不正を証明したい」
ガルレーンさんが真剣な顔をして話し掛けてきた。
「なら、俺も一緒に行こう。俺がさっき倒した奴の相方はまだ生き延びている。あれを捕まえることが出来ればギルドの不正を暴けるかもしれない。それに兄ちゃんを一人で行かせるのは流石に危ないだろう。俺も地上でなら速く動ける。カルディとファードスは、羽翼種の三人を守った方がいいだろう。ここで待機だな」
僕はガルレーンさんに頷いてから、話し掛けた。
「確かに僕一人よりは、ガルレーンさんと一緒に行って犯人を捕まえた方が良さそうです。
リーシャ達に何かあった時のことを考えると、このまま犯人を全員で追うのは得策ではないと思っています。ガルレーンさんの仰る通り、カルディさん達にはここに残ってもらって彼女達を警護してもらうのがいいと思います」
ガルレーンさんが僕を見た。
「よし、じゃあ、追跡しよう。俺が先に行く。罠の類を確認しながら追いかけることになる。おそらくあの手の連中はアジトに近づくに連れて罠を仕掛けているはずだ。幸い、俺の種族は世界を回る種族だけあって、罠の探査・解除についてはそれなりの知識がある。兄ちゃんは俺の後に付いてきてくれ」
そう言って、ガルレーンさんはすぐに走り出した。僕もすぐについて行った。
ガルレーンさんのおかげで順調にアジトへたどり着くことが出来た。ガルレーンさんは何かの追跡魔法が使えるし、罠解除の魔法も使えるようだった。相手のアジトへたどり着くまで30個程の罠を解除していった。
ガルレーンさんが言う。
「もしかすると、俺達が罠を解除しているのは相手にバレているかもしれない。俺達の追跡を知られて、既に逃げられていたらその場合は仕方ないな」
僕もそれに無言で頷く。
相手の住んでいるアジトは地面の下だ。一見見ると何も無いように見える地面だが、ガルレーンさんからすると、そこがおかしいという事だった。
「どうします?」
「この先にいるはずだが、ここから先の魔力探査がうまく機能しない。多分、何かの魔道具で魔力探査できないようにしている。おそらく内部に罠はないだろう。あるかもしれないがここに来るまでのような数の罠があるとは思えない。毎回入る度に解除するのは面倒すぎる。だから、ここを開けたら、一気に中を走り抜ける。中にいる奴は殺してしまえ。犯人は一人捕まえられればそれでいい」
僕は頷いた。
そして、ガルレーンさんが地面を両剣で破壊して、内部に先陣を切って落下していく。
内部へ入ると、十メートルほど地面へ落ちていく。すると急に、ガルレーンさんが叫んだ。
「壁を蹴って飛べ」
そう言って、ガルレーンさんは壁を蹴って横へ飛んだ。僕も同じように壁を蹴った。
そして、着地してから下を見ると、鉄で出来た槍が何本もあった。剣山のようになっている。
あのまま普通に着地したら死んでいるかもしれない。
ガルレーンさんをジト目で見る。
「いやー、悪い、悪い。罠は無いと思ったんだよ」
そう言ってガハハと笑った。
二人で、そのまま横の通路を走って行く。地下通路内部は洞窟の様になっていて、通路の横には横穴がいくつもある。1つ1つの横穴がどこかへ通じているのかもしれない。
適当に二人で警戒しながら、様子を見ていくと、横穴はどこかへ通じているというよりは部屋の役割を果たしているようだった。
一つの部屋の前で二人の足が止まった。
そして、その部屋には大量の骨があった――。
************
二人で見つけた部屋の1つに大量の骨がある。二人で近づいて、それらの骨をよく見ると、動物の骨ではなくて人骨のような気がしてきた。頭蓋骨の形状からすると、動物ではない気がした。
ガルレーンさんが近づいてそれを観察している。ふと、僕は、部屋の奥へさらに目を向けた。すると、大量のカバン等が空になった状態で散乱している。
ガルレーンさんもカバンに気づいたようだ。
「こりゃ、確定だな。多分、ギルドに仕組まれてあの場に誘い込まれた連中が殺されて、喰われた骨の残りカスがこれだ。それに奥に置いてあるカバンは中身を抜かれて捨てられているようだ。ヒヒ共が着ていた装備は、多分、冒険者の物だろう」
僕も同じ考えだった。だが、ガルレーンさんに判断を仰ぐことにした。
「どうします?」
「そりゃ、犯人を捕まえるしかないだろう。ただ、ここは敵陣だ。俺達も気を付けた方がいい。俺が先頭で、一応罠に警戒しながら進む。もし、万が一俺がやられるようなことがあれば、俺は置いていけ。兄ちゃんが逃げることを優先しろ」
そう言ってガルレーンさんは走って行く。
魔力探査をするが、いまいち気配が探れない。やはり、何かの魔道具が作動しているのだろう。ただ、逆に云えば、敵も気付いていないかもしれない。
三キロメートルほど走ると、ガルレーンさんが足を止めた。
一つの横穴から声が複数の話し声が聞こえてくる。
「お前ら急げ、もしかしたら追手がくるかもしれない。もうボスには頼れない。このアジトは捨てるしかない。早めに荷物を纏めてここを離れるぞ」
「やってますけど、急に出るったって無茶ですよ」
「それに来ますかね? ここまで来るには相当罠を解除しないといけませんよ」
「いや、ギルドの方に捜査が入って、あいつらが喋ったら、国が軍を送ってくるはずだ。そうなるとマズイ。早めにこの場を離れた方がいいだろう」
僕とガルレーンさんは顔を合わせた。そして、二人で内部に一気に斬り込んだ。
内部にいたのは七人だった。
一人は先ほど逃がした奴だった。ガルレーンさんは、荷物を纏めていた人をいきなり斬った。というか、叩き潰した。それを見て、周りの連中が慌てている。数人は武器すら持っていない。そして、ガルレーンさんは迷わず、武器を持っていない連中を叩き潰していった。すると、ここで、逃がした奴が命乞いをしてきた。
「待ってくれ。残り全員、投降する。命だけは助けてくれ」
が、ガルレーンさんはその命乞いした奴以外を無表情で潰していった。
そして、最後の一人だけになった。
僕は流石に止めた。
「ガルレーンさん、待って下さい」
「分かってる」
そう言うと、ガルレーンさんは無表情で剣の横腹で最後の一人を叩いていく。相手の腕と足の骨を折るつもりのようだ。そして、手足の骨を四本折って、さらに顎を外して、口の中で土魔法を使って口を動かせないようにした。
思わず僕は訊いてしまった
「ここまでする必要がありますかね? 他の犯人も殺す必要はなかったのでは?」
ガルレーンさんはこちらを真剣な表情で見ている。
「兄ちゃん、あんたとはここ最近一緒にいるが、少し甘いんじゃないのか? ここは敵地だぞ。それこそ罠が仕掛けてあるかもしれない。こいつが油断を誘っている可能性だってある」
確かにそうかもしれない。ガルレーンさんは続ける。
「それに、そもそもな、ギルドの不正なんて暴く必要が無いんだよ。俺達の目的は人族の国を目指すことだ。別にギルドが今回の件で違約金を求めて来るなら、逃げちまえばいい。そんで、この街には二度と近づかなければいいだけだ」
「……」
「兄ちゃんは、あの三人を護って欲しいという事で、俺に旅の同行を求めたわけだが、俺からすると、兄ちゃんの甘い判断は、三人を殺しちまうことがあるかもしれないぞ。どうも兄ちゃんは変だ」
そう言われて、以前ベゼルに忠告された時のことを思い出した。
まぁ、そうかもしれない。が、やはり地球にいた頃のことを思うとなかなか殺すという判断に躊躇いがある。リーシャ達も、他種族が殺されることに対しては、違和感がないようだ。多分、それは、この世界では生存競争が苛烈だからだろう。ただ、僕は以前の世界のことが頭をよぎってしまっていた。実際、目の前で言葉を話す者を殺すのはかなり抵抗がある。いくら、外見が人ではないといえども。
ガルレーンさんはここで、少し表情を和らげた。
「だが、まぁ、ここでこいつらを捕まえておけば、今後、殺される冒険者はいないだろう。そういう点ではやっておいた方がいいことではある」
ガルレーンさんはキョロキョロしている。
「やはり、魔力探査がうまくいかないな。すぐにここを出よう。犯人が他にいるかもしれないが、それは後回しだ。こいつが一人いれば、後はこいつを引き渡して尋問してもらえばいい。ここはすぐに出よう。罠等があると面倒だ」
そう言って、ガルレーンさんは捕まえた犯人の首を掴んで引きずっていく。
***********
犯人については、結局ギルドではなく、国へ引き渡すことにした。
犯人の会話からすると、ギルドと国が一緒に冒険者を陥れている可能性は少ないからだ。
犯人が国を警戒しているなら、その国へ犯人を引き渡した方がいい。
それから一週間ほど、街に滞在した。すると、国とギルドから事情を説明したいと言われていた。
そして、今日はギルドに呼び出されて僕達は説明を受けることになった。
ギルドの一室に僕達は集められていた。
ギルドからはギルドマスターとギルドの職員が一人同席している。
ギルドマスターが話し始めた。
「この度はご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした」
そう言って、ギルドマスターと職員が頭を下げた。
僕が訊くことにする。
「一連の経緯を説明してもらえないでしょうか?」
「はい。ご説明します。まず、元々の発端は、当ギルドの副マスターが、冒険者の一部からお金を巻き上げようとしたのが事の始まりの様です。最初から不可能な依頼をして、それの未達によって違約金を発生させ、それを受け取る、という感じでしょうか。そのために、あのゴロツキ連中を雇っていたようですね。ところが、ある時からあの連中に、副マスターが脅され始めたようです。バレたら大変なことになるぞ、と。それで、副マスターはそれに応じざるを得なくなっていったようです」
「じゃあ、犯人はギルド内の犯人はギルドの副マスターだけだったのでしょうか?」
「いえ、内部の人間が数人関わっているようですね。いずれもギルド内で不正経理等を働いていた者のようです。ギルドの副マスターがその弱みに付け込んでその者達と冒険者を罠に嵌めていたようです」
「犯人達の処遇はどうなりますか?」
「今後の裁判次第ですが、多分、極刑でしょう。犯人のアジトから見つかった冒険者の持ち物と骨からすると懲役刑はありえないでしょうね」
その後、僕らはギルドから迷惑料と盗賊の討伐報酬について説明を受けたが、これは受け取らなかった。被害者にその金を回してやって欲しいと伝えた。
皆でギルドを出た。
ビルドが言う。
「なんか後味悪い話だな」
「ああ、僕もそう思う」
「だけど、まさかギルドがそんなことしてるとは誰も思わないよなぁ。今後はギルドにも気を付けないといけないな……。そういえば、マサキはあの時、周囲の木を切ったけど、あの時点で、ギルドの依頼がおかしいとは思っていたんだよな?」
「ああ、そうだよ。ボスの言葉を聞いて、少し考えてギルドがおかしいと思った。それに、あのまま戦い続けていると、それなりにマズイ状況になっていたかもしれなかった。今後はああいう局面が来たら、ギルドの依頼を破棄してでも皆を護るのを優先しよう」
そういうと、カルディさん達も頷いている。
正直、僕達はパーティとしてはかなり強いと思っていた。その分、多少の足枷があっても何とかなると思ったが、今後はダメだ。考え方を変えるべきだろう。
中途半端に強いとかえって慢心を招くこともあるはずだ。
それについては、僕だけではなくて、皆もそう思ったはずだ。
ふう、と思って空を見上げる。今日は晴れている。
まぁ、明日もきっと晴れるのだろう。
そう思って、ギルドを後にしたのだった。
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