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幕間 その7 カルディの独白
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マサキがギルドの不正を暴いた。
多分、以前の自分ならすぐに気づいていた。
が、今回は最後まで分からなかった。
自分が変化しているのを感じる。
自分は羽翼種とグリフォンとの混血だ。
生まれた時から、自分は孤独だった。
が、寂しかったわけではない。自分に自信があったからだ。
周りの羽翼種に比べれば、何をやってもうまく物事をこなせる自信はあったし、事実そうだった。
また、その事に周囲の者も気付いていた。
私を疎ましく思っている連中がそれなりにいる事に、物心が付いた時には既に気づいていた。
しかし、当時の私は、それを撥ね退けるだけの力と頭脳を既に持っていた。
それに、今思うと私の周囲の羽翼種は、私を警戒せざるを得なかったのだろう。
私は通常のグリフォンより力も魔力も五倍以上ある。
周囲からすると私は危険人物であると同時に、面白くなかったはずだ。嫌がらせのような行為も度々受けた。
やがて、私の性格に傲慢さが芽生えた。いや、グリフォンの性質もあったのかもしれない。
周囲の者を見下すようになった。
何故優れたものが、劣る者に気を使わねばいけないのか、と思う時期が続いた。同時にダンジョンへ潜るようになる。運搬業務よりは、誰かと戦う方が自分にとっては面白かった。
ただ、ダンジョンへ潜ってもアイテムを持って帰る必要があった。
誰かがいないと、アイテムをドロップしても持ち帰れない。
その時だった。妻のヘレナに出会ったのは。
ヘレナは他の羽翼種と違って、私に優しく接してくれた。そして、一緒にダンジョンへ潜って、ドロップしたアイテムを拾ってくれた。
ヘレナの性格は、能天気と表現するのが相応しいだろう。
私といる時にも、ヘラヘラしているように見えて、最初は不愉快だった。
しかし、ダンジョンへ潜っても、誰かにアイテムを持って帰ってもらわねば意味が無い。
そういう意味ではヘレナは必要ではあった。そして、ある時、ダンジョンで私が敵と戦っている時に、ヘレナが別の敵に襲われそうになった。彼女の判断ミスだった。
私は、それまでに拾ったアイテムを全て捨てて、彼女を抱きかかえ、その場から逃げた。
彼女は窮地を脱した後、泣きながら私に謝った。
自分のせいでアイテムを捨てなければいけなくなったことを私に詫びた。
そして、それでもまた一緒にダンジョンに潜ってくれ、と泣いていた。
私はこの時、自分が彼女の事が好きだと気づいた。
そして、私たちは結婚することになった。
私は正直、羽翼種はつまらない種族だと思っていて、自分はグリフォンたる誇りを備えていると常日頃から考えていた。
が、この考えが変わる時が来る。
私の父が、グリフォンによって暗殺された。
上位種が中位種と交わると、生まれてくる子供は飛躍的に強い者が生まれる。
さらに子がその中位種と混ざれば、五代も経過すれば、元の上位種に匹敵するものが生まれる。
これは上位種にとって脅威だ。
上位種が下位種と混じろうとする場合は、上位種にとっては将来的に脅威となり得る。
そのため、父はグリフォンから命を狙われる立場にいた。
父は、いつか、その日が来ると覚悟していたようだった。
グリフォンは羽翼種よりも寿命が長い。
父は、一度目の羽翼種との結婚の後、その後は妻を娶らなかった。
いつか、自分が暗殺されるならば、その時に妻が犠牲になるのは嫌だったのだろう。
父は、その当時、極刑の罪で収監されていた羽翼種を監獄から出獄させ、自分の息子と偽って、しばらく一緒に自宅で住んでいた。すると、父はグリフォンの暗殺者に殺された。もちろん、息子と偽られた者も、だ。
グリフォンからすると、父だけでなくその息子も殺さなければいけない。
私も暗殺対象だった。
グリフォンからしても私は疎ましい者にしか過ぎなかった。
しかし、私は父によって、自分が生かされたことを知る。
それから、しばらくして、ヘレナが死んだ。
寿命だった。
羽翼種とグリフォンでは寿命の長さが違う。
私の外見は若いままだったが、ヘレナはそうではなかった。
彼女を埋葬してから、私は旅へ出ることにした。
子供は既に成人していたし、また、私と同様にグリフォンの血が入っているせいか、血気盛んな息子だった。そして、当人もダンジョンへ潜ってアイテムを探しつつ、敵と戦うようになる。放っておいてもいい年齢になっていた。
世界を旅してみて分かったことがあった。
世界における差別はひどかった。
差別が生じる最大の原因は〝自分と違う〟という点に尽きる。
集団において、自分達よりも優れた者、あるいは劣った者は排除されようとする力が働く。
これはある種の必然だと思うようになった。
この世界の種族は見た目が大きく違う。
しかし、本質的にはそれが問題なのではない。
自分と違う価値観、違う思考能力、違う思考速度、それらが織りなす理不尽を集団は排除しようとした。
私は羽翼種だけではなくて、どの世界にも受け入れてもらえなかった。
結局、私は百年ほど外の世界にいたが、羽翼種の島へ戻ることになる。
疲れていた。
そして、息子や孫と共に、ダンジョンへ時々潜る生活になった。
そんな時、マサキが羽翼種の島へ訪れた。
話を聞いて、魔族だとすぐに気づいた。
ただ、魔族の下位種が知能を持っているのに驚いた。
通常、魔族の下位種は知能を持っていない。見たものを誰かれ構わず襲うだけだ。
しかし、マサキはそうではなかった。
そして、その種族は人族の国を目指すと言っている。
私はこの時、羽翼種の島で優遇を受けるようになっていた。
羽翼種よりは寿命が長い知識者として、また、私の頭脳が羽翼種にとって有用になっていた。
また、私自身も以前に比べて、穏やかな性格になっていた。羽翼種のために行動するのがそれほど嫌ではなくなっていた。
――暇つぶしだけでなく、羽翼種のために人族の国を目指してもいい――
マサキが人族の国を目指すというのを聞いた時、無謀だと思った。
しかし、私とファードスが加わった三人が居ればそれも可能なはずだと思った。
以前、百年世界を旅した経験から、単独で世界を横断するのは難しいと思ったが、地上が危険な時は私たちが空を飛んでマサキを運び、上空が危険なときは三人で地上へ下りて戦いながら、先を目指せばいいと思った。
ダンジョンの地下でマサキを尋問した後、マサキからファードスの参加を求めてきた。
マサキは、私との会話からファードスも退屈しているのを推測したらしい。
彼としてもファードスがいた方が、人族の国を目指しやすいのは明白だったのだろう。
しかし、私としても、マサキのために私達二人が羽翼種の島を離れるなら、羽翼種にそれなりの貢献をしてもらわなけばいけないと思った。
正直、バリアシステムに関してはそれほど強化する必要は無かったかもしれない。
しかし、マサキの覚悟を見せてもらうために、マサキと共にダンジョンの核を集めて回った。マサキに羽翼種への対価をそれなりに払わせたつもりだ。
マサキはギルドの不正に気づいたようだが、私は分からなかった。
しかし、以前の自分なら、マサキよりもっと早い時点で気付けていただろう。
けれども、今回は気づけなかった。
自分に猜疑心が無くなっているのを感じる。
以前、外の世界へ出た時は、他人を常に下に見ていたが、ここ最近は少し違っている。
きっと、以前の自分ならガルレーンがパーティに入るのを拒否しただろう。
多分、今の自分は、マサキも含めた異種族で行動するのを面白いと感じ始めているようだ。
良いことなのか、悪いことなのかよく分からない――。
……。
私はこのパーティで一番の年長者だ。
人をあまり疑わないようになっているのはパーティとしてはマイナスだ。
私がミスをするのはみっともない。それに、私のプライドが許さない。
もっと事実だけを見て判断しなければいけないと思った。
以前の自分のような方がいいのだろうか。
……。
まぁ、なるようになるだろう。
多分、以前の自分ならすぐに気づいていた。
が、今回は最後まで分からなかった。
自分が変化しているのを感じる。
自分は羽翼種とグリフォンとの混血だ。
生まれた時から、自分は孤独だった。
が、寂しかったわけではない。自分に自信があったからだ。
周りの羽翼種に比べれば、何をやってもうまく物事をこなせる自信はあったし、事実そうだった。
また、その事に周囲の者も気付いていた。
私を疎ましく思っている連中がそれなりにいる事に、物心が付いた時には既に気づいていた。
しかし、当時の私は、それを撥ね退けるだけの力と頭脳を既に持っていた。
それに、今思うと私の周囲の羽翼種は、私を警戒せざるを得なかったのだろう。
私は通常のグリフォンより力も魔力も五倍以上ある。
周囲からすると私は危険人物であると同時に、面白くなかったはずだ。嫌がらせのような行為も度々受けた。
やがて、私の性格に傲慢さが芽生えた。いや、グリフォンの性質もあったのかもしれない。
周囲の者を見下すようになった。
何故優れたものが、劣る者に気を使わねばいけないのか、と思う時期が続いた。同時にダンジョンへ潜るようになる。運搬業務よりは、誰かと戦う方が自分にとっては面白かった。
ただ、ダンジョンへ潜ってもアイテムを持って帰る必要があった。
誰かがいないと、アイテムをドロップしても持ち帰れない。
その時だった。妻のヘレナに出会ったのは。
ヘレナは他の羽翼種と違って、私に優しく接してくれた。そして、一緒にダンジョンへ潜って、ドロップしたアイテムを拾ってくれた。
ヘレナの性格は、能天気と表現するのが相応しいだろう。
私といる時にも、ヘラヘラしているように見えて、最初は不愉快だった。
しかし、ダンジョンへ潜っても、誰かにアイテムを持って帰ってもらわねば意味が無い。
そういう意味ではヘレナは必要ではあった。そして、ある時、ダンジョンで私が敵と戦っている時に、ヘレナが別の敵に襲われそうになった。彼女の判断ミスだった。
私は、それまでに拾ったアイテムを全て捨てて、彼女を抱きかかえ、その場から逃げた。
彼女は窮地を脱した後、泣きながら私に謝った。
自分のせいでアイテムを捨てなければいけなくなったことを私に詫びた。
そして、それでもまた一緒にダンジョンに潜ってくれ、と泣いていた。
私はこの時、自分が彼女の事が好きだと気づいた。
そして、私たちは結婚することになった。
私は正直、羽翼種はつまらない種族だと思っていて、自分はグリフォンたる誇りを備えていると常日頃から考えていた。
が、この考えが変わる時が来る。
私の父が、グリフォンによって暗殺された。
上位種が中位種と交わると、生まれてくる子供は飛躍的に強い者が生まれる。
さらに子がその中位種と混ざれば、五代も経過すれば、元の上位種に匹敵するものが生まれる。
これは上位種にとって脅威だ。
上位種が下位種と混じろうとする場合は、上位種にとっては将来的に脅威となり得る。
そのため、父はグリフォンから命を狙われる立場にいた。
父は、いつか、その日が来ると覚悟していたようだった。
グリフォンは羽翼種よりも寿命が長い。
父は、一度目の羽翼種との結婚の後、その後は妻を娶らなかった。
いつか、自分が暗殺されるならば、その時に妻が犠牲になるのは嫌だったのだろう。
父は、その当時、極刑の罪で収監されていた羽翼種を監獄から出獄させ、自分の息子と偽って、しばらく一緒に自宅で住んでいた。すると、父はグリフォンの暗殺者に殺された。もちろん、息子と偽られた者も、だ。
グリフォンからすると、父だけでなくその息子も殺さなければいけない。
私も暗殺対象だった。
グリフォンからしても私は疎ましい者にしか過ぎなかった。
しかし、私は父によって、自分が生かされたことを知る。
それから、しばらくして、ヘレナが死んだ。
寿命だった。
羽翼種とグリフォンでは寿命の長さが違う。
私の外見は若いままだったが、ヘレナはそうではなかった。
彼女を埋葬してから、私は旅へ出ることにした。
子供は既に成人していたし、また、私と同様にグリフォンの血が入っているせいか、血気盛んな息子だった。そして、当人もダンジョンへ潜ってアイテムを探しつつ、敵と戦うようになる。放っておいてもいい年齢になっていた。
世界を旅してみて分かったことがあった。
世界における差別はひどかった。
差別が生じる最大の原因は〝自分と違う〟という点に尽きる。
集団において、自分達よりも優れた者、あるいは劣った者は排除されようとする力が働く。
これはある種の必然だと思うようになった。
この世界の種族は見た目が大きく違う。
しかし、本質的にはそれが問題なのではない。
自分と違う価値観、違う思考能力、違う思考速度、それらが織りなす理不尽を集団は排除しようとした。
私は羽翼種だけではなくて、どの世界にも受け入れてもらえなかった。
結局、私は百年ほど外の世界にいたが、羽翼種の島へ戻ることになる。
疲れていた。
そして、息子や孫と共に、ダンジョンへ時々潜る生活になった。
そんな時、マサキが羽翼種の島へ訪れた。
話を聞いて、魔族だとすぐに気づいた。
ただ、魔族の下位種が知能を持っているのに驚いた。
通常、魔族の下位種は知能を持っていない。見たものを誰かれ構わず襲うだけだ。
しかし、マサキはそうではなかった。
そして、その種族は人族の国を目指すと言っている。
私はこの時、羽翼種の島で優遇を受けるようになっていた。
羽翼種よりは寿命が長い知識者として、また、私の頭脳が羽翼種にとって有用になっていた。
また、私自身も以前に比べて、穏やかな性格になっていた。羽翼種のために行動するのがそれほど嫌ではなくなっていた。
――暇つぶしだけでなく、羽翼種のために人族の国を目指してもいい――
マサキが人族の国を目指すというのを聞いた時、無謀だと思った。
しかし、私とファードスが加わった三人が居ればそれも可能なはずだと思った。
以前、百年世界を旅した経験から、単独で世界を横断するのは難しいと思ったが、地上が危険な時は私たちが空を飛んでマサキを運び、上空が危険なときは三人で地上へ下りて戦いながら、先を目指せばいいと思った。
ダンジョンの地下でマサキを尋問した後、マサキからファードスの参加を求めてきた。
マサキは、私との会話からファードスも退屈しているのを推測したらしい。
彼としてもファードスがいた方が、人族の国を目指しやすいのは明白だったのだろう。
しかし、私としても、マサキのために私達二人が羽翼種の島を離れるなら、羽翼種にそれなりの貢献をしてもらわなけばいけないと思った。
正直、バリアシステムに関してはそれほど強化する必要は無かったかもしれない。
しかし、マサキの覚悟を見せてもらうために、マサキと共にダンジョンの核を集めて回った。マサキに羽翼種への対価をそれなりに払わせたつもりだ。
マサキはギルドの不正に気づいたようだが、私は分からなかった。
しかし、以前の自分なら、マサキよりもっと早い時点で気付けていただろう。
けれども、今回は気づけなかった。
自分に猜疑心が無くなっているのを感じる。
以前、外の世界へ出た時は、他人を常に下に見ていたが、ここ最近は少し違っている。
きっと、以前の自分ならガルレーンがパーティに入るのを拒否しただろう。
多分、今の自分は、マサキも含めた異種族で行動するのを面白いと感じ始めているようだ。
良いことなのか、悪いことなのかよく分からない――。
……。
私はこのパーティで一番の年長者だ。
人をあまり疑わないようになっているのはパーティとしてはマイナスだ。
私がミスをするのはみっともない。それに、私のプライドが許さない。
もっと事実だけを見て判断しなければいけないと思った。
以前の自分のような方がいいのだろうか。
……。
まぁ、なるようになるだろう。
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